春浅い日に、妻の実家の義兄を亡くした。あれから49日、義姉を元気付けるため納骨の法要に信州を訪ねた。
前日は、あづみの公園にオオルリシジミの撮影を計画していたが、生憎の雨降りで予定を変更した。
【 上信越自動車道 妙高Pで 】 【 長野道 姨捨P 善光寺平 】
前から一度行って見たかった青木村の信州昆虫資料館を訪ねた。
田沢温泉から約3.5㎞の山奥、以前、春の雪の中をなんとか訪ねたときは、途中の看板で休館日を知り断念した。
近道は落石のため通行止め
その日も梅雨を思わせる雨、鬱蒼とした霧の立ちこめる細い山道を恐る恐る進み、ようやく立派な建物にたどり着いた。
「こんにちは!」フロントで大声を出すも誰も出てこない。勝手に入ると、ロビーには昆虫標本がずらりと並んでいた。
何度か大声を出すと、ようやく事務室から館長の野原さんが・・・、入館料を払い、来館者に記名した。
館長さんに立て続けに質問を投げかけると、名刺交換で昆虫老人と知り、気さくに館内を案内して下さった。
数々の標本を前にしているうちに、我が少年、青年時代の懐かしい情景が浮かんできた。
タイムスリップしたような不思議な感覚だった。
「チョウと森の仲間たち展」の部屋には、未だお会いしたことのない上田のHさんご夫婦の写真も展示されていた。
閉館間際の来館者にもかかわらず、丁寧に各展示部屋を案内して下さり、はからずも事務室に案内され、Suさん、Ookaさんたち、同好の士との昆虫談義となった。
初対面にもかかわらず、今心砕いている共通の話題「ヒメシロチョウの保護」についての意見交換の場となった。
本来、昆虫少年で、標本も一通り作製してきたが、今は保護運動に心血注ぐ身、虫の命を絶つ標本の意義についてはいろいろ悩んでいた。
そして、この施設がどういう理念の資料館なのか、心の整理が必要だった。
たまたま、代議士鳩山邦夫氏の追悼展開催中だった。 従来、彼が単なる虫屋との懐疑心を抱いていたが、少し理解できたようだ。
昆虫採集の意義は、子どもたちに自然への慧眼のための入り口の一つとして、その意義は認める。
ただ、ここに展示の美しいギフチョウが、ゼフィルスが、あのオオルリシジミが、それぞれ標本箱に数十頭も並ぶ光景はどうなのだろう。
学術的な意義はどれだけあるのだろうか。 美しいチョウたちを前にした現実を肯うことはできなかった。
虫たちの自然界での生き生き活動する姿を思うとき、屍とかした標本に感動はあるはずもない。
この小さな美しいチョウやトンボの命を絶つことの本当の意義は、これらの標本に隠れている。
それらは今後の自然環境保全へのアプローチであってほしいとおもっている。
館長さんから館報 No.14、名誉館長の小川原辰雄氏の「信州昆虫資料館;懐古と展望」に、恩師小山長雄教授の名前を見つけた。
ひととき、先生の懐かしい顔が浮かんできた。
この資料館の意義も、始めに危惧していた標本展示館ではなく、自然環境保護・保全のための学習、啓蒙、さらには研究の施設だった。
資料館の年間の活動スケジュールを見ると、そうした理念を具現する企画であるようで安心した。 (2017.5.26)