都月満夫の絵手紙ひろば💖一語一絵💖
都月満夫の短編小説集
「出雲の神様の縁結び」
「ケンちゃんが惚れた女」
「惚れた女が死んだ夜」
「羆撃ち(くまうち)・私の爺さんの話」
「郭公の家」
「クラスメイト」
「白い女」
「逢縁機縁」
「人殺し」
「春の大雪」
「人魚を食った女」
「叫夢 -SCREAM-」
「ヤメ検弁護士」
「十八年目の恋」
「特別失踪者殺人事件」(退屈刑事2)
「ママは外国人」
「タクシーで…」(ドーナツ屋3)
「寿司屋で…」(ドーナツ屋2)
「退屈刑事(たいくつでか)」
「愛が牙を剥く」
「恋愛詐欺師」
「ドーナツ屋で…」>
「桜の木」
「潤子のパンツ」
「出産請負会社」
「闇の中」
「桜・咲爛(さくら・さくらん)」
「しあわせと云う名の猫」
「蜃気楼の時計」
「鰯雲が流れる午後」
「イヴが微笑んだ日」
「桜の花が咲いた夜」
「紅葉のように燃えた夜」
「草原の対決」【児童】
「おとうさんのただいま」【児童】
「七夕・隣の客」(第一部)
「七夕・隣の客」(第二部)
「桜の花が散った夜」
青ひげ(Barbe-Bleue:バルブ・ブルー[仏語])は、フランスのシャルル・ペローの『がちょうおばさんの話』(1697年)に収められている童話、およびその主人公の呼び名です。グリム童話の初版にも収録されていたが、二版以降では削除されたそうです。
むかしむかし、町と田舎に、大きな屋敷をかまえて、金の盆(ぼん)と銀のお皿(さら)をも って、きれいなお飾りと縫箔(ぬいはく)※のある、椅子、机と、それに、総金ぬりの馬車までも持っている男がありました。
※ 縫箔(ぬいはく):刺繍(ししゅう)と摺箔(すりはく)を併用して布地に模様を表すこと
こんな恵まれた身分でしたけれど、ただひとつの欠点は、恐ろしい青ひげをはやしていることでした。それはどこの奥さんでも、娘さんでも、この男の顔を見て、あっといって、逃げ出さないものはありませんでした。
さて、この男の屋敷近くに、身分のいい奥さんがいて、二人の美しい娘さんをもっていました。この男は、この娘さんのうちどちらでもいいから、一人、お嫁さんにもらいたいといって、度々、この奥さんを困らせました。けれど、二人が二人とも、娘たちは、この男を、とても嫌っていて、逃げまわってばかりいました。
なにしろ青ひげをはやした男なんか、考えただけでも、ぞっとするくらいです。それに、気持ちが悪いほど嫌なことには、この男は、前からも、幾人か奥さまをもっていて、しかもそれが一人残らず、どこへどう行ってしまったか、行方が分からなくなっているのでした。
そこで、青ひげは、これは、この娘さん親子のご機嫌をとって、自分が好きになるように仕向けることが、なによりの近道だと考えました。そこで、あるとき、親子と、そのほか近所で知りあいの若い人たちを大勢、田舎の屋敷に招いて、一週間あまりも泊めて、ありったけの持て成し振りを見せました。
それは、毎日、毎日、野遊びに出る、狩に行く、釣をする、ダンスの会だの、夜会(やかい)だの、お茶の会だのと、目の回るようなせわしさでした。夜になっても、誰も寝床に入ろうとするものもありません。宵(よい)が過ぎても、夜中が過ぎても、皆そこでもここでも、おしゃべりをして、笑いさざめいて、ふざけっこしたり、歌をうたいあったり、それは、それは賑やかなことでした。
何もかも、とんとん拍子にうまく運んで、末の娘のほうがまず、この屋敷の主人のひげを、もうそんなに青くは思わないようになり、おまけに、りっぱな、礼儀ただしい紳士だとまで思うようになりました。
そして、家へ帰ると間もなく、末の娘は男と結婚しました。
それから、ひと月ばかり経った後のことでした。
青ひげは、ある日、奥方に向かって、これから、ある大切な用むきで、どうしても六週間、田舎へ旅をしてこなければならない。そのかわり、留守の間の気晴らしに、お友だちや知りあいの人たちを、屋敷に呼んで、里の家にいた頃と同じように、面白おかしく遊んで、暮らしてもかまわないから、と言いました。
「これはふたつとも、私の一番大事な道具の入っている大戸棚の鍵だ。これは普段使わない金銀の皿を入れた戸棚の鍵だ。これは金貨と銀貨をいっぱい入れた金庫の鍵だ。これは宝石箱の鍵だ。これは部屋全部の合鍵だ。さて、ここにもうひとつ、小さな鍵があるが、これは地下室の大廊下の、いちばん奥にある、小部屋を開ける鍵だ。戸棚という戸棚、部屋という部屋は、どれを開けてみることも、中に入ってみることも、おまえの勝手だが、ただひとつ、この小部屋だけは、けっして開けてみることも、まして、入ってみることはならないぞ。これはかたく止めておく。万一にもそれにそむけば、おれは怒って、なにをするか分からないぞ。」
奥方は、お言いつけの通り、必ず守りますと、約束しました。やがて青ひげは、奥方に優しく接吻して、四輪馬車に乗って旅だって行きました。
すると、奥方の知りあいや、お友だちは、お使を待つ間も、もどかしがって、われさきに集まって来ました。お嫁入り先の、立派な住まいの様子が、どんなものなのか、どのくらい立派なのか、みんなは見たがっていたでしょう。ただ主人が家にいるときは、あの青ひげが恐くて、誰も寄りつけなかったのです。
皆は、居間、客間、大広間から、小部屋、衣裳部屋と、片っ端から見てあるきましたが、いよいよ奥深く見て行くほど、だんだん立派にも、綺麗にもなっていくようでした。
とうとう最後に、いっぱい家具のつまった、大きな部屋に来ました。そのなかの道具や洋服は、この屋敷のうちでも、一番立派なものでした。壁掛けでも、寝台でも、長椅子でも、タンスでも、机や、椅子でも、頭のてっぺんから、足の爪さきまで写る姿見でも、それはむやみに沢山あって、むやみにぴかぴか光って、綺麗なので、誰も彼も、ただもう、感心して、ため息をつくばかりでした。
姿見のなかには、水晶の縁のついたものもありました。金銀めっきの縁のついたものもありました。何もかも、この上もなく立派なものばかりでした。
お客たちは、まさかこれほどまでとも思わなかった、お友だちの運のよさに、いまさら感心したり、羨ましがったり、羨望の眼差しは消えることがありませんでした。
しかし、ご主人の奥方は、いくら立派なお部屋や、飾りつけを見てあるいても、じれったいばかりで、いっこうに面白くも楽しくもありませんでした。それというのが、夫が出がけに厳しく言い付けて置いていった、地下室の秘密の小部屋というのが、始終、どうも気になって気になって、ならなかったのです。
いけないというものは、とかく見たいのが、人間の癖ですから、そのうちとうとう、我慢がしきれなくなってきた奥がたは、もうお客に対して、失礼のなんのということを、思ってはいられなくなって、ひとりそっと裏梯子を降りていきました。二度も三度も、首の骨が折れたかと思うほど、激しく、柱や梁(はり)にぶつかりながら、夢中で駆けだして行きました。
でも、いよいよ小部屋の戸の前に立ってみると、さすがに夫の厳しい言いつけを、はっと思い出しました。それにそむいたら、どんな不幸せな目にあうかしれない、そう思って、しばらくためらいました。でも、誘いの手が、ぐんぐん強くひっぱるので、それを払いきることは、できませんでした。そこで、小さい鍵を手にとって、ぶるぶる、震えながら、小部屋の戸を開けました。
窓が閉まっているので、始めはなんにも見えませんでした。そのうち、だんだん、暗闇に目がなれてきました。すると、その床いっぱいに、血のかたまりがこびりついていました。血のかたまりには五、六人の女の死骸を、並べて壁に立てかけたのが、写って見えていました。これは、みんな青ひげが、ひとりひとり、結婚したあとで殺してしまった女たちの死骸違いありません。
これを見たとたん、奥方は、あっと言ったなり、息がとまって、身体がすくんで動けなくなりました。そうして、戸の鍵穴から抜いて、手に持っていた鍵が、いつか、すべり落ちたのも知らずにいたくらいです。
しばらくして、やっとわれにかえると、奥がたは慌てて、鍵を拾いあげて、戸を閉めて、急いで二階の居間に駆けて帰ると、ほっと息をつきました。でも、いつまでも胸がどきどきして、正気がつかないようでした。
見ると、鍵に血がついているので、二、三度、それを拭いてとろうとしましたが、どうしても血がとれません。水につけて洗ってみても、石鹸と磨き砂をつけて、砥石(といし)で、ごしごし、擦ってみても、いっこうに印(しるし)が見えません。血の着いた跡は、いよいよ、濃くなるばかりでした。それもそのはず、この鍵は魔法の鍵だったのです。
ですから、表側のほうの血を落したかとおもうと、それは裏側に、いつか、よけい濃く、滲み出していました。
すると、その日の夕方、青ひげが、ひょっこり、家へ帰って来ました。それは、まだ向こうまで行かないうち、途中で、用むきが、都合よく片づいた、という知らせを聞いたからだと、青ひげは話しました。出し抜けに帰ってこられたとき、奥方は、ぎょっとしましたが、一生懸命、嬉しそうな顔をして見せていました。
さて、そのあくる朝、青ひげは、さっそく、奥方に、預けた鍵をお出しと言いました。そういわれて、奥方が鍵を出したとき、その手の震えようといったらありませんでしたから、青ひげは、すぐと感づいてしまいました。
「おや。」と、青ひげは言いました。
「小部屋の鍵がひとつないぞ。」
「じゃあ、きっと、あちらの机の上に置き忘れたのでしょう。」と、奥方は答えました。
「すぐ持ってこい。」と、青ひげは、怒った声を出しました。
五、六度、あちらへ行ったり、こちらへ行ったり、まごまごした後で、奥方は、しぶしぶ鍵を出しました。青ひげは、鍵を受けとると、恐い目をして、じっと眺めていましたが、
「このかぎの血はどうしたのだ。」と言いました。
「知りません。」と、泣くような声でこたえた奥方の顔は、死人よりも青ざめていました。
「なに、知りませんだと。」
と、青ひげは言いました。
「おれはよく知っているよ。おまえはよくも思い切って、小部屋の中に入ったな。えらい度胸だ。よし、そんなに入りたければ、あそこへ入れ、入れてやる。そこにいる妻たちの仲間になれ。」
こういわれると、奥方は、いきなり夫の足もとに突っ伏して、いかにも真心から、悔い改めた様子で、もうけっして、お言いつけには背きませんから、と言って、詫びました。
このうえもなく美しい人の、このうえもなく悲しい姿を見ては、岩でもとろけ出したでしょう。けれど、この青ひげの心は、岩よりも、鉄よりも固かったのです。
「妻よ、おまえをもう生かしておくわけにはいかない。今すぐに死んでもらう。」
と、青ひげはいいました。
「わたくし、どうしても死ななければならないのでしたら。」
と、奥方は答えて、目にいっぱい涙をうかべて、夫の顔を見ました。
「せめて暫く、お祈りをする間だけ、待ってくださいませんか。」
「しかたがない、七分半だけ待ってやる。だがそれから、一秒も遅れることはならないぞ。」と、青ひげは言いました。
ひとりになると、奥方は、お姉さまの名を呼びました。
「アンヌお姉さま。アンヌお姉さま、後生です、塔のてっぺんまで上がって、お兄さまたちが、まだおいでにならないか見てください。お兄さまたちは、今日、訪ねて下さる約束になっているのです。見えたら、大急ぎで来るように、合図をしてください。」
アンヌお姉さまは、すぐ塔のてっぺんまで上がって行きました。半分気が狂ったようになった奥方は、可哀想に、始終怯えて叫び続けていました。
「アンヌお姉さま、アンヌお姉さま、まだ何も来ないの。」
すると、アンヌお姉さまは言いました。
「日が照って、埃が立っているだけですよ。草が青く光っているだけですよ。」
そのうちに青ひげが、大きな剣を抜いて手に持って、ありったけの割れ鐘声(濁った太い大声)を出して、怒鳴りたてました。
「すぐ降りて来い。降りて来ないと、おれのほうから上がって行くぞ。」
「もうちょっと待ってください、後生ですから。」
と、奥方は言いました。そうして、極低い声で、
「アンヌお姉さま、アンヌお姉さま、まだ何も見えないの。」
と、叫びました。
アンヌお姉さまは答えました。
「日が照って、埃が立っているだけですよ。草が青く光っているだけですよ。」
「早く降りて来い。」
と、青ひげは叫びました。
「降りて来ないと、上がって行くぞ。」
「今まいります。」
と、奥がたは答えました。
そうして、その後で、
「アンヌお姉さま、まだなにも見えないの。」と、叫びました。
「ああ。でも、大きな砂煙が、こちらのほうに向かって、立っていますよ。」
と、アンヌお姉さまは答えました。
「それはきっと、お兄さまたちでしょう。」
「おやおや、そうではない。羊の群ですよ。」
「こら、さっさと降りてこないか。」
と、青ひげは叫びました。
「今すぐに。」
と、奥方は言いました。そうして、そのあとで、
「アンヌお姉さま、アンヌお姉さま、まだ、誰も来なくって・・・。」
「ああ、二人馬に乗った人がやって来るわ。けれど、まだずいぶん遠いのよ。」
「ああ、ありがたい。」
と、奥方は、嬉しそうに言いました。
「それこそ、お兄さまたちですよ。わたし、お兄さまたちに、急いで来るように合図しましょう。」
そのとき、青ひげは、家ごと震えるほどの大声で怒鳴りました。奥方は、しぶしぶ、下へ降りて行きました。涙をいっぱい目にためて、髪の毛を肩にたらして、夫の足もとに突っ伏しました。
「今さらそのようなことをしても、どうなるものか。」
と、青ひげはあざ笑いました。
「はやく死ね。」
こういって、片手に、奥方の髪の毛を掴みながら、片手で、剣を振り上げて、首をはねようとしました。奥方は、夫のほうを振り向いて、今にもたえ入りそうな目つきで、ほんのしばらく、身づくろいする間、待ってくださいと、頼みました。
青ひげはこう言って、剣を振り上げました。
「ならん、ならん。神さまにまかせてしまえ。」
そのとたん、表の戸に、ドンと、激しくぶつかる音がしたので、青ひげはおもわず、ぎょっとして手をとめました。とたんに、戸が開いたとおもうと、すぐ騎兵が二人入って来て、いきなり、青ひげに向かって来ました。これは奥方の兄弟で、ひとりは竜騎兵(りゅうきへい:騎兵の一種でドラゴンという名の小銃で武装していた)、ひとりは近衛騎兵(このえきへい:君主を警衛する君主直属の軍人)だということを、青ひげはすぐに知りました。そこで、慌てて逃げ出そうとしましたが、兄弟はもう、後から追いついて、青ひげが、くつぬぎの石に足を掛けようとするところを、胴中(どうなか)を一突き刺して、殺してしまいました。
でもそのときには、もう奥方も気が遠くなって、死んだようになっていましたから、とても立ちあがって、兄弟たちを迎える気力はありませんでした。
さて、青ひげには、跡継ぎの子がありませんでしたから、その財産は残らず、奥方のものになりました。奥方はそれを、姉さまやお兄さまたちに分けてあげました。
物珍しがり、それはいつでも心をひく、軽い楽しみですが、いちど、それが満たされると、もうすぐ後悔が、代ってやってきて、そのため高い代価を払わなくてはなりません。
当時ヨーロッパに広く知られていた妻殺しを題材にした民謡からヒントを得て、ペローが御伽話にしたものと考えられている。現在では口伝えの昔話として、各地で記録されている。
私は「青ひげ」の中に死体愛好(したいあいこう)の臭いを感じるのです。
なぜなら、青ひげは娘のどちらでもいいといっています。結婚する相手をどちらでもいいとは不自然です。それに、死体を飾ってあるかのような状態は、尋常ではありません。
死体愛好とは死体に欲情する性的嗜好をも指し、これはまた、屍体性愛(したいせいあい)や、ネクロフィリア(necrophilia)とも呼ばれるものである。性的倒錯の一つでもある。屍を姦するので「屍姦」といわれるものです。
これは、エジプトのミイラまで遡ります。死体はミイラ職人に屍姦されないよう数日間たった後、渡したといいます。屍姦の歴史はとても古いということです。
18世紀フランスでは、屍姦プレーを提供する売春宿が人気だったようです。もちろん、売春婦は死体のふりをするだけですが。
しかし、いくら殺人者だからといっても、殺して全財産を得るというのは、如何なものでしょうか。私には略奪としか思えないのですが。
民話の類型としては禁室型(きんしつがた)、開けるなのタブー、鶴の恩返し等の話に分類されます。
また、一説にはヘンリー八世と6人の妃たちの死を題材にしたともいわれています。
したっけ。