文人悪食 嵐山光三郎著から
内田百の福神漬の缶詰の話がある。内田によると缶詰は文明開化の味がするという。少年の頃、海水浴に連れて行かれたとき浜辺で開けた福神漬の缶詰の味が忘れられないといっていた。夏目漱石の門下生であった内田は師の小説に出てくる福神漬の印象もあったかもしれない。
夏目漱石の英国留学の必需品リストに漬物中で福神漬缶詰(東北大学所蔵品手帳より)があった。『三四郎』にも福神漬缶詰が出てくる。漱石の比喩は福神漬の漬物として意味より、西洋文明の食に於ける象徴として『缶詰』があり、その中に日本の漬物が入った意味があったと思われる。西洋文明をたくみに日本化した象徴が福神漬缶詰だった。