著者の酒井高徳はサッカー選手。
新潟県出身の彼の父は日本人、母はドイツ人である。
彼のような人に対し、世間は簡単に「ハーフ」という言葉を投げつける。
「ハーフ」という言葉があるが、その言い方は私も好きではない。
まるで人間としての存在が半分しかないように感じる。
まして、彼はそう言われる当事者であった。
それゆえに、幼少期から、彼は人とは違うというコンプレックスを抱えて生きてきた。
その彼が、サッカーを通してそのコンプレックスを克服することができた、と言う。
現在は、半々のハーフではなく、日本人としてひとつ、ドイツ人としてひとつの「W」(ダブル)であると自認し、自信をもって生きている。
ここに至るまでの彼の足跡が本書には書かれている。
幼少時から、地元新潟の「アルビレックス新潟」時代、そしてドイツに渡っても、日本代表となっても、ずっとコンプレックスはつきまとっていた。
しかし、ドイツ・ブンデスリーガのチームに所属するようになって、苦しい日々を送りながらも、自分が日本人であることを支えにして人間的に大きく成長していく。
さらに、ドイツを理解しようと言葉を覚え、文化を知り、ドイツ人のメンタリティを体得し、そのことが認められてもいく。
日本では日本人として、ドイツではドイツ人として、認められた。
だから、古豪ハンブルガーSVのキャプテンを務めることまでできるようになった。
その経験を通して、彼は自分のことを言う。
今の酒井高徳は、ハーフではなく、一人と一人が合わさったいわゆる「ダブル」だ。
どれも、半分ではない。ひとつ。
そして、様々なことについても、一つ一つの経験を振り返って、「ダブル」だと言う。
大事なのは、やり続けることだ。決して成功している人と同じことをやる必要はない。自分には自分の強みがある。自分らしさを武器にして戦えばいい。
失敗したから成功の道がないわけじゃない。
成功したから失敗の道がないわけじゃない。
どちらもひとつとひとつ。やっぱりダブルだ。どちらも同じくらい、大事な意味を持っている。
こういう彼の現在の考え方は好きだ。
一人一人にある、自分の強み。
そして、弱みを生かしての「ダブル」。
本書が発行された2019年3月にはまだハンブルクに所属していたが、現在彼は、日本に帰って、J1ヴィッセル神戸でプレーしている。
新潟県出身選手として、さらなる活躍をと祈らずにはいられない。
現役の最後は、アルビレックス新潟の力になって終わりたい、という想いがある。
…本書には、そのような記述もある。
すぐにアルビレックス新潟には戻って来ないだろうが、いつか彼のその想いが現実になる日が来ることも期待したくなる。