まさか、阪神ファンが自ら自分のチームを負けに導くとは…。
皮肉な結末となってしまった。
最終回。得点は3-1。2点差。マウンド上には、おさえの切り札、藤川球児が上がった。
これで、今日の負けはない。
そう確信したのは、甲子園球場に詰めかけた満員の阪神ファンだった。
ところが、この日のシチュエーションは、きわめて特別だった。
ホームである阪神甲子園球場での今季最終戦であった。
そして、長年阪神を支えてきた捕手の矢野耀大選手が今日の試合を最後に、現役を引退する。
試合後には、引退セレモニーが予定されていた。
マウンドには、ストッパー藤川球児がいる。
こともあろうに、登場のテーマ曲は、いつもの藤川のテーマ曲ではなかった。
なんと、矢野捕手のテーマ曲で登場したのである。
あの、懐かしい藤川-矢野のバッテリーをもう一度見たい。
球場のファンの心理は、そちらに傾いた。
「矢―野、矢―野。矢―野。」
銀傘に、矢野コールが響き渡った。
「矢野を出せ。」
「矢野のプレーする姿を最後に見せろ。」
そんな雰囲気が球場いっぱいに広がった。
まずいぞ。
と、私は思った。
今は、優勝争いのさなかにいる。
この試合は、捨て試合ではない。
勝たなくてはいけないのだ。
まして、優勝に向けて、もう1敗もできない状況にあるのだ。
マジック7とはいえ、要するに残り7試合、全試合勝たなくては優勝にはたどりつけないのだ。
だいたい、マジックが灯って、8連勝が優勝の絶対条件。
しかし、今季の阪神には5連勝すら、ない。
でも、阪神ファンは皆、奇跡を信じて応援していたはずだった。
まずい。
矢野コールを聞いて、藤川球児が動揺しない訳がない。
彼の胸の内に、様々な複雑な感情が湧き起って来るに違いない。
過去、常に苦しい状況の中、勝利のために力を合わせて戦ってきたバッテリー。
その相方が引退する日というのだから、尋常な気分でいられはしない。
そこへ、感情をかき乱すこのコールである。
案の定、藤川は、最終回の先頭打者に四球を与えてしまった。
力関係からして、いつもなら、簡単に打ち取れるはずのバッターである。
しかし、矢野のことで雑念が入った藤川の手元が狂い出す。
四球。次の打者も四球。
そして、バッターボックスには、今日本塁打を打っている4番打者村田を迎える。
まずい。
なんとかしなくては。
そう思った彼は、ストライクを入れることに気持ちが向いた。
いつもなら、
「打てるものなら、打ってみろ!」
とばかりに剛球を投げ込む彼だったのだが。
自ら招いた危機を乗り切ることを考える彼の投球は、威力を欠いた。
2ストライクを取り、追い込んだというのに、力のない棒球が高めに行った。
長距離打者の村田は、その球を軽くパチンとミートしただけに見えた。
しかし、そこはホームラン・バッター。
打球は、ぐんぐん飛んで、レフトスタンドに飛び込んだ。
4-3。逆転スリーラン。
日頃集中して気持ちの込めた球で勝負しているからこそ、プロの剛球投手の球は威力があり、なかなか打てない。
しかし、雑念が入ったボールは、威力が半減する。
それを見逃さないで打つのが、やはりプロの世界。
プロ同士の世界では、一瞬の油断が命取りとなる。
勝負の世界に身を置いていないファンは、そこがわからない。
だから、人情として矢野コールをしてしまった。
それが、応援する自チームの選手の集中をそぎ、逆転ホームランを打たれる方向に導いてしまった。
さすがに、阪神の選手も、ギリギリのところで神経を集中させて戦っている、プロたちである。
最終回2死を取られながら、次の2人が安打を続け、2死一、三塁という一打同点または逆転という局面にまで盛り返した。
しかし、一度離れた勝利の神は、もう一度戻って来てくれはしなかった。
あの「矢野コール」が、すべてを変えた。
阪神ファンが、自チームを負けに導いてしまった。
自力Vの消滅。
なんとも皮肉な、今季の結末であった。
皮肉な結末となってしまった。
最終回。得点は3-1。2点差。マウンド上には、おさえの切り札、藤川球児が上がった。
これで、今日の負けはない。
そう確信したのは、甲子園球場に詰めかけた満員の阪神ファンだった。
ところが、この日のシチュエーションは、きわめて特別だった。
ホームである阪神甲子園球場での今季最終戦であった。
そして、長年阪神を支えてきた捕手の矢野耀大選手が今日の試合を最後に、現役を引退する。
試合後には、引退セレモニーが予定されていた。
マウンドには、ストッパー藤川球児がいる。
こともあろうに、登場のテーマ曲は、いつもの藤川のテーマ曲ではなかった。
なんと、矢野捕手のテーマ曲で登場したのである。
あの、懐かしい藤川-矢野のバッテリーをもう一度見たい。
球場のファンの心理は、そちらに傾いた。
「矢―野、矢―野。矢―野。」
銀傘に、矢野コールが響き渡った。
「矢野を出せ。」
「矢野のプレーする姿を最後に見せろ。」
そんな雰囲気が球場いっぱいに広がった。
まずいぞ。
と、私は思った。
今は、優勝争いのさなかにいる。
この試合は、捨て試合ではない。
勝たなくてはいけないのだ。
まして、優勝に向けて、もう1敗もできない状況にあるのだ。
マジック7とはいえ、要するに残り7試合、全試合勝たなくては優勝にはたどりつけないのだ。
だいたい、マジックが灯って、8連勝が優勝の絶対条件。
しかし、今季の阪神には5連勝すら、ない。
でも、阪神ファンは皆、奇跡を信じて応援していたはずだった。
まずい。
矢野コールを聞いて、藤川球児が動揺しない訳がない。
彼の胸の内に、様々な複雑な感情が湧き起って来るに違いない。
過去、常に苦しい状況の中、勝利のために力を合わせて戦ってきたバッテリー。
その相方が引退する日というのだから、尋常な気分でいられはしない。
そこへ、感情をかき乱すこのコールである。
案の定、藤川は、最終回の先頭打者に四球を与えてしまった。
力関係からして、いつもなら、簡単に打ち取れるはずのバッターである。
しかし、矢野のことで雑念が入った藤川の手元が狂い出す。
四球。次の打者も四球。
そして、バッターボックスには、今日本塁打を打っている4番打者村田を迎える。
まずい。
なんとかしなくては。
そう思った彼は、ストライクを入れることに気持ちが向いた。
いつもなら、
「打てるものなら、打ってみろ!」
とばかりに剛球を投げ込む彼だったのだが。
自ら招いた危機を乗り切ることを考える彼の投球は、威力を欠いた。
2ストライクを取り、追い込んだというのに、力のない棒球が高めに行った。
長距離打者の村田は、その球を軽くパチンとミートしただけに見えた。
しかし、そこはホームラン・バッター。
打球は、ぐんぐん飛んで、レフトスタンドに飛び込んだ。
4-3。逆転スリーラン。
日頃集中して気持ちの込めた球で勝負しているからこそ、プロの剛球投手の球は威力があり、なかなか打てない。
しかし、雑念が入ったボールは、威力が半減する。
それを見逃さないで打つのが、やはりプロの世界。
プロ同士の世界では、一瞬の油断が命取りとなる。
勝負の世界に身を置いていないファンは、そこがわからない。
だから、人情として矢野コールをしてしまった。
それが、応援する自チームの選手の集中をそぎ、逆転ホームランを打たれる方向に導いてしまった。
さすがに、阪神の選手も、ギリギリのところで神経を集中させて戦っている、プロたちである。
最終回2死を取られながら、次の2人が安打を続け、2死一、三塁という一打同点または逆転という局面にまで盛り返した。
しかし、一度離れた勝利の神は、もう一度戻って来てくれはしなかった。
あの「矢野コール」が、すべてを変えた。
阪神ファンが、自チームを負けに導いてしまった。
自力Vの消滅。
なんとも皮肉な、今季の結末であった。