2015年の中国への強制送還時、トルコ・アンカラのタイ領事館の前で抗議するデモ隊【2015年7月10日 WSJ】)
【ウイグル人43人を10年間拘束 中国への強制送還検討】
中国が新疆ウイグル自治区でウイグル族などの弾圧をおこなっているとの国際批判をうけているのは周知のところですが、中国との関係を重視するタイはウイグル人難民43人を中国に強制送還しようとしているとも報じられています。
****タイで拘束中のウイグル人43人、中国に強制送還の危機 「手遅れになる前に助けを」****
タイ・バンコクの移民収容センターに拘禁されている中国・新疆ウイグル自治区出身のウイグル人ら43人が中国への強制送還の危機に直面している。米AP通信やドイツの国際公共放送ドイチェ・ヴェレ(DW)などが15日までに報じた。
ウイグル人らは書簡で「投獄され、命を失う恐れがある。手遅れになる前に悲惨な運命から救い出してほしい」などと国際社会の介入を訴えている。
DWなどによれば、タイ政府筋などの情報として中国への強制送還はタイ政府内で議論されているが、現在、結論は出ていないという。タイ政府は今年、中国との国交正常化50年を迎える上、米国政府は政権移行期にあるため強制送還したとしても強く反応しないだろうの見方も報じている。
タイの移民官は今月8日、拘束されているウイグル人に対し、中国に強制送還を希望する書類への署名を求めた。過去10年に送還されたウイグル人も同様の署名をしていたといい、「ウイグル人らは恐怖を覚え拒否した」と報じられる。
タイ政府を巡っては2014年にマレーシアとの国境付近で300人以上のウイグル人を拘束し、15年に109人を中国で迫害を受ける恐れがあるにも関わらず送還し、国際社会の批判を浴びた経緯がある。
当時、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は「国際法の明確な違反」とし、米国や国際人権団体などが非難していた。トルコ・イスタンブールのタイ領事館はデモ隊に襲撃される事態に至った。【1月15日 産経】
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上記記事でははっきりとは書かれてはいませんが、今回強制送還が検討されているのは“2014年にマレーシアとの国境付近で300人以上のウイグル人を拘束”という人々の一部です。
ということはすでに10年拘束が続いているということでもあり、それ自体が重大な人権侵害とも思えます。なかには拘束中に死亡した者も。(日本でも入管施設での長期拘留が問題視されています)
****ウイグル族48人を10年間拘束 子供含む5人死亡、早期解放求める声―タイ****
タイで、中国・新疆ウイグル自治区を脱出し不法入国したウイグル族の男性48人が、10年にわたり拘束されている。
タイ政府は国際社会からの批判を招いた中国への強制送還を停止しているが、第三国への出国も認めておらず、中国に配慮したとの見方が出ている。
拘束下で子供を含む5人が死亡しており、人権団体は早期の解放を訴えている。
タイ南部ソンクラー県などで2014年、トルコへの亡命を目指すウイグル族300人以上が不法入国で拘束された。
タイ政府は15年、170人余りをトルコに移送する一方、109人を中国へ強制送還。「(迫害を受ける恐れのある国への送還を禁止した)ノン・ルフールマン原則に違反している」と国際的に批判を浴びた。
拘束直後の14年には新生児と3歳の子供が結核などで命を落とし、18年と23年にも20~40代の計3人が病死した。現在は43人がバンコクの入管施設に収容中で、脱走を図った5人は刑務所に収監されている。
人権団体「ピープルズエンパワーメント財団」のチャリダー理事長は「入管施設の医療体制は不十分だ。早急に対応していれば救えた命もあった」と強調。処遇改善と早期解放を求めた。
国連の恣意(しい)的拘禁に関する作業部会などは今年2月、ウイグル族拘束への懸念を記した書簡をタイ政府に送付。バーンプリー副首相兼外相(当時)は3月、報道陣に「不法な移民は法律に従って対処するが、いつ手続きが終わるかは分からない」と述べた。
チャリダー氏は「ウイグル族が求めるトルコへの移送が実現しないのは、政府が中国に配慮しているからだ」と指摘。同氏が国会で政府の対応を批判したところ、安全保障の担当者は「中国とは良好な関係を維持する必要がある」と弁明したという。
元国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)職員で野党・公正党のガンナウィー下院議員は「中国から逃れたウイグル族は難民で、尊厳が守られるべきだ」と主張。「タイにはミャンマーからも含めて15万人以上の難民がいるが、受け入れに関する法律がなく、制定を急ぐ必要がある」と訴えた。【2024年9月24日 時事】
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日本ウイグル協会の声明によれば、“タイ政府は2015年、命の危険に晒されることを知りながら国際法に違反し109人のウイグル人難民を中国へ強制送還したが、その後の彼らの一切の消息が不明となっている。”とのこと。
中国によるウイグル人らへの弾圧に関しては、“これまでに、アメリカ政府、欧州議会、イギリス議会、フランス議会、カナダ議会等11の議会が、ウイグルジェノサイド(或いはその深刻なリスク)を認める決議を採択している。2022年8月、OHCHRも「人道に対する罪を含む、国際犯罪の遂行」に当たる可能性があると公式に認めました。”【日本ウイグル協会の声明】とも。
【中国との関係を重視するトルコ】
「ウイグル族が求めるトルコへの移送が実現しないのは、政府が中国に配慮しているからだ」との指摘については、もちろん、タイ政府が中国との関係を考慮しているのは間違いないですが、トルコも中国との関係を考えると受入れに消極的になっているのでは・・・というのは私の個人的想像です。
トルコ世論は同じイスラム教徒ウイグル人の境遇に同情的ですが、トルコ・エルドアン政権としては中国との関係改善を重視しており、波風を立てたくないというのが本音ではないでしょうか。
****トルコ大統領、中国との関係改善継続望む 習主席と会談****
トルコのエルドアン大統領は4日、カザフスタンの首都アスタナで開幕した地域協力組織「上海協力機構(SCO)」の首脳会議に合わせ、中国の習近平国家主席と会談し、あらゆる分野での両国の関係改善に向けた取り組み継続を望み、これが双方に恩恵をもたらすと習氏に伝えた。(後略)【2024年7月5日 ロイター】
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下記は政府ではなくメディア関係者についてのものですが、多分に自国政府の立場を反映したものでしょう。
****中央アジアとトルコのメディア関係者、中国新疆の発展を称賛****
カザフスタン、キルギス、タジキスタン、ウズベキスタン、トルコのメディア関係者がこのほど、設立70周年を迎えた中国新疆ウイグル自治区イリ・カザフ自治州を4日間の日程で訪問し、イリの社会と経済の発展、人々の生活の改善、生態系の保護、文化の継承、対外開放などの状況について理解を深めた。
現地で開かれた中国メディアと海外メディアの交流座談会では、カザフスタン紙「シルクロード・トゥデイ」のフセイン・ダウロフ社長が、今回の訪問を通じて、新疆の多民族地域に住む全ての人々、全ての民族を気に配慮し、その文化と伝統を守ろうとする中国政府の姿勢を目にしたと振り返った。
また、中国とカザフスタンは友好的な隣国、戦略的パートナーとして、「一帯一路」共同建設の枠組み内で、両国の企業による協力プロジェクトを数千件実施しており、これは両国の人々に進歩と繁栄をもたらすとの見方を示した。
キルギスのロシア語日刊紙「イブニング・ビシュケク(The Evening Bishkek)」のバクト・バサルベク編集長は「訪問中、中国政府が地方の発展を重視していることが見て取れた。中国の国家的貧困者扶助計画が地元の村でどのように実施されているかを目の当たりにした。また、中国政府が少数民族の文化や言語を保護するために手を尽くしているのもうれしい驚きだった」と述べた。
ウズベキスタン紙「ザラフシャン(Zarafshon)」のファルモン・トシェフ編集長は「私はここの観光センターや街路がとても好きだ。伊寧(グルジャ)県の天山花海風景区で見たイリのエコツーリズムの発展も素晴らしかった。風景区の平坦で、清潔で、緑豊かな街路はとても良かった。風景区の節水技術も称賛に値する」とイリの観光業を絶賛した。
トルコ「アイドゥンルク(AYDINLIK)」紙対外連絡部のオズグル・オトバス部長は訪問中、「新疆に来たのもイリに来たのも初めてだ。ここで多くの民族が平和に暮らし、互いの言語や文化を尊重し、互いに融合し、交流しているところを見た。これこそが本当の新疆だ。トルコに戻ったら、今回見聞きしたことを記事やドキュメンタリーにしてより多くの人に伝えたい」と語った。【2024年9月19日 新華社】
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“ここで多くの民族が平和に暮らし、互いの言語や文化を尊重し、互いに融合し、交流しているところを見た”と言ってる国が、中国に強制送還すると命の危険があるから自国で受け入れる・・・とはならないでしょう。
西側諸国はトランプ氏に気を使い、トルコ・中央アジアの国々は中国の意向を忖度する・・・というのが国際社会の現実です。
【2015年のバンコク爆発事件】
なお、タイでは2015年のウイグル人109人の強制送還の直後に、ウイグル人によるとされる爆弾テロが起きています。
****バンコク爆発事件のウイグル人被告、「私は人間」と法廷で訴え****
昨年(2015年)8月、タイの首都バンコクで20人が死亡した爆発事件で、爆発物を仕掛けたとして起訴された中国少数民族ウイグル人の被告が17日、収監中に不当な扱いを受けていると主張し、出廷する途上で「私は人間だ」と繰り返し叫んだ。
バンコク中心部の「エラワン廟(びょう)」で起きた爆発事件では、中国人観光客を中心に20人が死亡した。
爆発の直前にエラワン廟に荷物を置くところを監視カメラに捉えられた黄色いシャツの男として、中国国籍でウイグル人のビラル・モハメド被告(31)が起訴されたが、共犯とされる同じウイグル人のユスフ・ミエライリ被告(26)ともども爆破事件の犯行を否認している。
この日、丸刈りの頭で出廷したモハメド被告は苦しそうな表情を見せながら、報道陣にウイグル語と英語で不満を叫び始めた。法廷内でのドラマは続き、モホメド被告はウイグル語の通訳を介しながら「食べることもできないし、私が祈ると笑われる」と述べるとともに、タイ人の看守に殴打されたり、イスラム教の戒律に則ったハラルフードを与えられなかったりすると訴えた。
モハメド被告の弁護人はこれまでに、タイの警察が被告に自白を強要していると非難しており、被告による当初の自白は後に撤回されている。一方、警察側は拷問疑惑はばかげていると一蹴している。
事件に関連する容疑者はいまだ多くが逃走中で、主犯格も含め大半は国外にいると考えられている。動機に関する確証はまだないが、事件の約1か月前にウイグル人移民109人がタイから中国へ強制送還されたこととの関連を疑う声が根強い。しかしタイ当局はこの説を否定し、人身売買組織に対する取り締まりへの報復とみている。【2016年5月17日 AFP】
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【タイ深南部で繰り返されるテロ】
ついでに言えば、日本ではあまり報じられていませんが、マレーシア国境が近く住民の多くがイスラム教徒であるタイ深南部と呼ばれるパタニー、ヤラー、ナラーティワートの3県と隣接するソンクラー県3郡では、以前からタイ人警官や教師・仏教僧侶などへのテロが続いていいます。その背景等については今回は立ち入りません。
2022年末の記事で、“2004年以降、これまでに7400人以上が死亡している”とのことです。
今年に入っても
“タイ深南部パッタニー県でバイク爆弾が爆発、警察官6名とマレーシア人1名が負傷”【1月13日 タイランド ハイパーリンクス】
“タイ深南部テロで警官親子が死亡 国境警備警察学校の校長と教師”【1月14日 newsclip.be】
そうした事情もあって、タイではイスラム教徒に対する警察の対応も厳しくなりがちなのかも・・・。