(オーストラリアのモリソン首相は投稿について「恥を知るべきだ」と述べた【11月30日 BBC】)
【フェイク画像にモリソン首相「恥を知るべきだ」 中国「豪州政府とツイッター社の間の問題だ」】
悪化する中国とオーストラリアの関係については、これまでも取り上げてきたところです。
5月23日ブログ“中国・オーストラリア関係 米中対立が飛び火した形で中国による報復的な輸入制限措置へ”
6月26日ブログ“オーストラリア 相次ぐ問題で豪中関係は悪化の一途 親中派議員の家宅捜索も”
9月20日ブログ“オーストラリア・中国の関係は政治的には「どん底」 関係改善はすぐには期待できず”
9月20日ブログでは「どん底」という表現を使用しましたが、これは間違っていました。まだまだ落ちる余地があったようです。
****豪「恥ずべき振る舞い」と中国非難=兵士中傷画像投稿で****
オーストラリアのモリソン首相は30日記者会見し、中国外務省が子供の喉元にナイフを突き付けている豪州兵の画像をツイッター上に投稿したことについて、画像は偽物とした上で「恥ずべき振る舞いだ」と非難し、中国側に謝罪と即時削除を要求した。これに対し中国は一歩も譲らず、両国の緊張関係が一段と高まった。
豪州は最近、アフガニスタンに派兵された特殊部隊の隊員らが民間人や捕虜39人を違法に殺害したとする調査報告書を公表した。これを受け、中国外務省の趙立堅副報道局長は豪州兵の画像と共に「こうした行為を強く批判し、責任を取らせるよう求める」と投稿した。
モリソン氏は「(画像は)全く遺憾であり、どんな理由であれ正当化できない」と指摘。「国防軍に対するひどい中傷だ」と訴えた。同時に、両国間の関係改善に向けて閣僚や首脳間の対話の再開を呼び掛けた。
これに対し、中国外務省の華春瑩報道局長は30日の記者会見で、「豪州政府は深刻に反省し、アフガン人民に正式に謝罪すべきだ。彼らの軍人がアフガンの罪のない民衆を惨殺したことを恥ずべきではないのか」と反論、モリソン氏の謝罪要求に反発した。
問題の画像については「インターネット上に流れているもので、誰の作品かはっきりしない」と出所不明のまま利用したことを認めながらも、削除要求は「豪州政府とツイッター社の間の問題だ」とかわした。【11月30日 時事】
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話を整理すると、アフガニスタンに派兵された特殊部隊隊員の民間人・捕虜殺害自体はオーストラリア政府自身が認め、その対応にあたっている案件です。
****豪政府、軍兵士がアフガンで民間人ら39人殺害と報告 特別捜査官事務所を設置****
アフガニスタンに派遣されたオーストラリア軍兵士が現地の民間人らを違法に殺害していた問題で、モリソン政権は豪軍から独立した特別捜査官事務所を設置し、兵士を起訴するかどうか判断する。
豪軍兵士の残虐行為は豪公共放送ABCが2017年に「疑惑」として報じたことで広く知られるようになり、実態解明が懸案となっていた。豪軍の戦闘部隊がアフガンから撤収して7年近く経過し、ようやく事態が動き出した。
制服組トップのキャンベル司令官が19日、調査報告書を発表し、残虐行為があったことを公に認めた。モリソン首相は報告書が公表される前の12日に特別捜査官事務所を設置すると発表し、厳格な姿勢で臨むことを表明した。
政府としては、報告書などの証拠に基づいて中立機関が判断することで、豪軍に対する国内外の信頼回復につなげたい考えだ。特別捜査官は刑法に詳しい弁護士か元裁判官が指名される予定で、判断の期限は未定。政府は監視委員会も設け、豪軍の綱紀粛正に向けた取り組みを確認する体制を整えた。
モリソン氏は残虐行為に関する報告を受けた後、地元メディアのインタビューで「真摯(しんし)に受け止め、法の支配の下で対処する。これはアフガン政府にも約束してきたことだ」と強調した。アフガン政府に哀悼の意を伝えたという。
報告書は500ページ以上にのぼり、個別事案については固有名詞などの詳細を黒塗りにして公開された。
報告書によると、豪軍兵士に殺害されたアフガンの民間人や非戦闘員は39人にのぼった。目撃者からの聞き取りや膨大な量の文書や画像から、主に陸軍特殊空挺(くうてい)連隊の兵士ら25人が関与していたことが判明した。
「下級兵は捕虜の殺害を推奨されていた」とされ、組織的な行為もあったとみられる。兵士が非武装のアフガン人を殺害後、戦闘員だったと見せかけるため、武器などが写り込んだ偽装写真を撮っていたケースもあった。
01年9月の米同時多発テロ後、豪州は同盟国の米国に協力して同10月にアフガンに派兵。国際治安支援部隊にも参加し、13年末に戦闘部隊を引き揚げた。
世論は当初、派兵に理解を示したが、混乱が泥沼化して40人近い戦死者が出たことや、長期化による財政負担の増加などから反対意見が強まった。報告書によると撤収直前の12〜13年に残虐行為が多発したという。
この件を巡っては、疑惑として報じたABCが、19年に連邦警察の捜査対象になった。警察は報道の基になった機密情報の入手経路を問題視し、記者の取材資料などを押収したが、結局は起訴を見送った。豪メディアは「報道の自由を脅かす」と激しく反発していた。【11月24日 毎日】
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「下級兵は捕虜の殺害を推奨されていた」というのは、“「初の殺害」を経験させる目的で捕虜を射殺させた例や非武装の民間人を殺害した例などが確認された。”【11月19日 読売】という、一人前の兵士になる「通過儀礼」として捕虜を殺害させるといった、相当におぞましいものだったようです。
こうした「戦場の狂気」はしばしば明らかにされる・・・と言うか、戦争というのは、不可避的にこうした非人間的狂気を伴うものだと言うべきで、これはこれで真摯にオーストラリア政府・軍が向き合うべき問題です。
オーストラリアのモリソン首相が怒っているのは、中国・趙立堅副報道局長が流した画像が「真実」ではない、故意にオーストラリアに汚名をきせようとする偽物だという点です。
****オーストラリア、「不快な」フェイク写真めぐり中国に謝罪要求****
オーストラリアの兵士がアフガニスタンの子どもを殺しているように見えるフェイクの写真を、中国の政府高官が30日、ツイッターに投稿した。オーストラリアは同日、謝罪を求めた。
同国のスコット・モリソン首相はテレビ演説で、「不快な」写真をソーシャルメディアで共有したことについて、中国政府は「恥を知るべきだ」と述べた。(中略)
中国外交部の趙立堅報道官は30日、オーストラリア兵が血の付いた刃物を子どもに突きつけている合成写真をツイートした。この子どもはさらに、子羊を抱えている。
同国の公共放送オーストラリア放送協会(ABC)はこの画像について、オーストラリアのエリート兵がアフガニスタンで10代の子ども2人をナイフで殺害したという、立証されていないうわさに関連したものだと報じている。
ADF(オーストラリア国防軍)の調査の結果、このうわさを裏付ける証拠は見つかっていない。
しかし報告書では、違法な殺人が行われた「信用できる証拠」や特殊部隊に存在する「戦士文化」について指摘。下位の兵士らが「最初の殺し」として、非武装の民間人の殺害を強いられた例などが挙げられている。
趙報道官はツイートの中で、「オーストラリア兵によるアフガニスタンでの市民や捕虜殺害の事実にショックを受けている。こうした行為を強く非難し、責任を取るよう求めていく」と語っている。
オーストラリアは、この投稿は「偽情報」だとして、ツイッターに削除要請を出している。
モリソン首相は、ツイートは「本当に不快で、非常に攻撃的で、全く憤慨している」と語った。
「中国政府はこの投稿に関して恥を知るべきだ。国際社会における中国の権威を低めるものだ」
「これは偽の画像であり、オーストラリア軍に対するひどい中傷だ」
首相は両国間の緊張関係についても言及し、「だが、こういうやり方ではだめだ」と指摘。他国がオーストラリアと中国の関係を注視していると警告した。
緊張関係はどうなる
中国はオーストラリアにとって最大の貿易相手国。モリソン首相の発言は、同国政府が行った中国批判としては最も語調の強いものとなった。
両国の関係は、オーストラリアが新型コロナウイルスの起源について中国に調査を要求したことから悪化。さらに、中国がオーストラリアの内政に干渉しているという疑惑も持たれている。
こうした批判に対し中国は、貿易停止やオーストラリア製品への追加関税など、経済的な打撃を加えることで対抗している。
在豪中国大使館は今月初め、オーストラリアが中国との関係を悪化させようとしているとされる政策14項目を、地元メディア向けに発表。これには中国の投資計画の阻止や、華為技術(ファーウェイ)の第5世代移動通信システム(5G)の禁止、「新疆や香港、台湾の諸問題をめぐる、絶え間ない理不尽な介入」などが含まれていた。
オーストラリアはこれに対し、政策的な立場は変えないとした上で、中国の貿易政策は「経済的な威圧行為だ」と指摘している。【11月30日 BBC】
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このモリソン首相の「フェイク画像」批判への中国の回答が、冒頭【時事】にある、オーストラリアは自分の行為を反省すべき、画像はネットに流れているものを使っただけだとの華春瑩報道局長の対応です。
ちなみに、趙立堅副報道局長は、これまでも過激な発言などで「戦狼外交官」の先駆けとして知られる人物です。
もちろんモリソン首相の怒りはわかりますが、「それなら、さんざんフェイク情報を垂れ流しているトランプ大統領はどうなのよ?」って感も。
【断崖式に落ち込む中豪関係】
経済的には深い関係にある中豪関係が急速に悪化したきっかけは、新型コロナに関して、モリソン首相が4月、新型コロナの武漢発生を前提に、独立した国際調査を呼び掛けたことが中国側の怒りを買ったこととされています。
そのことが引き金となった背景には、それ以前の、中国側が政治献金などでオーストラリア政治に干渉しようとしていたことへのオーストラリア側の警戒感、オーストラリアが他国に先駆けてファーウェイを5G通信網構築から排除したことへの中国側の反感などがありました。
****中国とオーストラリアの関係はなぜ断崖式に下落したのか―米メディア****
米ボイス・オブ・アメリカの中国語版サイトは26日、「中国とオーストラリアの関係はなぜ断崖式に下落したのか」とする記事を掲載した。
記事はまず、「中国湖北省武漢市で新型コロナウイルスが発生したことを受け、オーストラリアが独立した国際調査を呼び掛けたことが、北京の怒りを買った」とし、「ここから今年の中豪関係の断崖式下落が始まった」とした。
そして中国がオーストラリアの肉製品や大麦について輸入停止や関税上乗せの措置をとったこと、また最近では、モリソン豪首相が、同国の人権外交やメディアの独立、投資政策などに対し中国が示した不満について、受け入れない考えを明らかにしたことなどを取り上げた。
さらに、「豪中間の不信感は長年にわたって高まっている。北京が『戦狼外交』を頻繁に使用し、経済的および外交的手段を使ってキャンベラを威嚇し内政干渉するにつれて、両国関係は谷底へと向かっている」とした。
記事は、「両国関係の転換点となったのは2017年だ」とし、「オーストラリアの安全情報機関は、中国がますます大胆にキャンベラの政策決定に影響を及ぼそうとしていると警告した。中国人ビジネスマンによる政治献金も明るみに出た。オーストラリアは同年末、外国の干渉を抑制することを目的とした法律を成立させた。それに対し、北京は外交訪問の停止で応えた」とした。
さらに、2018年にはオーストラリアが「国家安全保障を理由に、中国通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)を5G通信網構築から排除した最初の国となった」とした。
記事はまた、「オーストラリア人の中国に対する見方も大幅に悪化している」とし、米世論調査会社ピュー・リサーチ・センターの調査で、中国に対して否定的な見方をしている人の割合が、2017年の32%から2019年は57%に、そして2020年は81%へと増加していることも取り上げた。
そして、「中国とオーストラリアの関係がどこまで悪化するか」については、「経済的な結び付きが強いことから、緊迫した政治関係のバランスを取りながら不安定な形で前進する」との分析がある一方で、「両国間の争いはイデオロギーの違いにも関連している。大国として台頭しようとする中国はますます気勢激しく人に迫るようになり、他国に対して中国のルールに従って行動することを迫るようになるだろう」との見方もあると伝えている。【11月30日 レコードチャイナ】
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国民感情レベルの関係悪化を示す一例としては、以下のような「場外乱闘」的な騒動も。
****武則天がゴキブリ食べる…豪ABC、中国人「醜化」番組放送し炎上―中国メディア****
中国共産党機関紙、人民日報系の環球時報(電子版)の23日付報道によると、オーストラリアの公共放送ABCの子ども向けチャンネルがこのほど、中国人を醜く描いた内容の番組を放送したとして、中国系市民などから批判を浴びているという。
記事によると、問題の番組は、英BBCの子ども向けチャンネルCBBCが2015年に放送した「Horrible Histories」シーズン6の第2話。中国史上唯一の女帝である「武則天」に扮した白人女性が、ゴキブリやタケネズミを食べるシーンが含まれている。
番組放送後、SNS上では中国系市民などから「吐き気がする番組だ」「人種差別甚だしい」などの声が上がっている。中国系市民のコミュニティーはABC側に、謝罪と説明を求めているという。【11月23日 レコードチャイナ】
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中国側は優位な経済的立場を利用して、オーストラリア側からすれば「いじめ」「いやがらせ」ともとれるような圧力をかけ続けています。オーストラリア産大麦・木材や牛肉の一部について輸入を停止しているほか、最近では・・・。
****中国、輸入石炭が環境基準満たさずと指摘 豪石炭足止め報道で****
中国は25日、輸入石炭が環境基準を満たさなかったことを明らかにした。多くのオーストラリア産石炭が中国の港で足止めされているとの報道について回答した。
外務省の趙立堅報道官が定例会見で「中国の税関はここ数年、輸入石炭の安全性と品質についてリスク監視評価を行っており、多くの輸入が環境基準を満たさなかった」と述べた。
中国は10月以降、非公式にオーストラリア産石炭の輸入を禁じている。両国関係の悪化が背景。中国は代わりにモンゴルとロシアからの輸入を増やしている。【11月25日 ロイター】
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****中国、豪ワインに反ダンピング措置 保証金徴収へ****
中国商務省は27日、オーストラリア産ワインの輸入に反ダンピング措置を適用し、28日から107.1〜212.1%の保証金を徴収すると発表した。豪中の緊張がいっそう高まりそうだ。
商務省は、「国内ワイン産業への実質的な損害」を受けての暫定措置だと説明している。
中国はオーストラリアの最大の貿易相手国だが、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)をめぐって豪政府が調査を求めたことから経済的報復をちらつかせ、既に豪州産の木材と牛肉の一部について輸入を停止している。(後略)【11月27日 AFP】
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ロブスターでも・・・“中国、豪産ロブスターに新たな通関検査 豪は出荷停止”【11月3日 ロイター】
更には、オーストラリアへの不満をまとめたリスト配布も。
****「圧力には屈しない」 豪首相、中国の抗議リストを一蹴****
中国がオーストラリアに対する苦情をまとめたリストを豪メディアに配布したことをめぐり、スコット・モリソン豪首相は19日、中国の圧力には屈しないと強調した。
ある中国政府当局者が18日、14の抗議項目が列挙された文書を豪メディアに配布。主要3メディアに対し「中国を敵だとするならば、中国は(オーストラリアの)敵となる」と言ったと報じられている。
抗議項目には、オーストラリアの厳格な外国による干渉を防止する法律や、中国の通信機器大手「華為技術(ファーウェイ)」の第5世代移動通信システムからの排除、「国家安全保障を理由に」中国の投資計画を阻止する決定などが含まれる。
モリソン氏は、この「非公式文書」は駐豪中国大使館が配布したものであり、これによりオーストラリアが「国益に沿って法律や規則」を制定することをやめるつもりはないと主張。チャンネルナインに対し「外資規制や5G通信網の構築、内政干渉を防ぐ制度の運用方法などを、われわれ自身が決定するということについて譲歩はしない」と述べた。
さらに抗議項目には、豪政府が中国の内政に「絶え間ない理不尽な干渉」を行ってきたという主張も含まれている。一方で中国は、豪政府が新型コロナウイルスの発生源について独立機関による調査を求めたことについて、オーストラリアが米国の反中国キャンペーンに加担し、偽情報を拡散したと非難している。
モリソン氏は17日、菅義偉首相と会談し、防衛協力強化を大枠で合意した。これは、アジア・太平洋地域で海洋進出を強める中国を念頭に置いているとみられている。 【11月19日 AFP】
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【米中対立に揺れる立場への苦悩も】
オーストラリアが新型コロナや中国包囲網でアメリカに加担している・・・との中国の批判に対しては、モリソン首相は「豪は米の言いなりではない」と反論しつつ、米中対立のあおりを受ける立場への苦悩も。
****「豪は米の言いなりではない」 モリソン首相、いたずらな対中関係悪化を非難****
(中略)モリソン氏は、英ロンドンで行われた英シンクタンク「ポリシー・エクスチェンジ」の討論会にオンライン出席。中国からの圧力の高まりを非難する一方、オーストラリアが米国の「言いなり」だというイメージは間違っており、豪中関係を「いたずらに悪化させるものだ」と非難した。
さらに、オーストラリアは干渉を受けることなく自国の利益を追求する権利を保持しつつ、米中両国との「互恵的な」関係を求めていると訴えた。(中略)
モリソン氏によると、いずれ欧州諸国を含む世界の国々が中国の強制外交にさらされる見込みで、オーストラリアはその苦難の一端を前もって味わっているにすぎないという。
一方でモリソン氏は、米大統領選で勝利を確実にしたジョー・バイデン氏の次期政権を念頭に、オーストラリアのような国々は、覇権を争う米中のどちら側に付くかを迫られるべきではないと主張。「世界トップクラスの大国には、パートナー国や同盟国それぞれの国益に配慮できるだけの度量の大きさが求められる」と訴えた。 【11月24日 AFP】
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