(成長する中国の象徴・上海は、世界トップクラスの少子高齢化が進んだ都市でもあり、「白髪都市」とも呼ばれて問題視されています。
“flickr”より By Kurt van Aert http://www.flickr.com/photos/kurtvanaert/2562179970/ )
【国家と個人】
中国の上海・南京路や北京・王府井であれ、雲南や新疆の田舎町であれ、旅行者として街をぶらつく限り、日本社会との大きな違いを感じることは殆んどありません。
しかし、中国は共産党による事実上の一党支配国家であり、党・国家と個人の関係は、日本のそれとは大きく異なる社会であることも事実です。
最近は中国指導部もネット世論などに随分気を使っている側面もあるようですが、日本的な常識・価値観からすれば、党・国家・当局の意思が個人の権利を大きく制約、あるいは無視しているように思える現実も多々あります。
よく紙面を賑わす、当局による一方的土地収用に対する住民の暴動などは、そうした個人の権利がないがしろにされていることに対する不満の表れのひとつでしょう。
【「高齢者と別居している扶養者は日常的に高齢者を訪れなければならない」】
ところで、中国も日本同様に「少子高齢化」の問題を抱えています。特に、中国の場合、「一人っ子」政策によって人口構成がいびつになっていることが問題を加速・深刻化させています。
驚異的な経済成長を続ける中国の一番の問題は、この人口問題にあるとの指摘もあります。
当然、中国当局も何らかの対策を講じなければ・・・と考えている訳で、下記の記事などもそのひとつです。
****中国:進む高齢化…日常的に親元訪問、義務化へ 我が子を提訴も可能****
「一人っ子」政策によって急速な高齢化が進む中国で、高齢の親と別居する子供に対して、日常的に親元を訪問することが法律で義務付けられる見込みになった。5日付の中国各紙が、所管する民政省幹部の話として伝えた。
中国では96年に施行された「高齢者権益保障法」の改正作業が進められており、民政省がまとめた改正案が近く全国人民代表大会(国会)に提案される見通し。
改正案では、高齢者の「精神慰謝」という1章が追加され、そこに「高齢者と別居している扶養者は日常的に高齢者を訪れなければならない」と規定されている。「日常的」の定義や頻度などは実施細則で定める方向だ。
義務化する背景には、1人暮らしなどで孤立する高齢者の急増がある。中国で同法の対象となる60歳以上人口は約1億6700万人。うち半数以上が子供と別居している。
親孝行は中国で最も尊重される道徳の一つ。だが、双方の親4人を扶養する「一人っ子」夫婦にとっては、遠い親元を頻繁に訪れることが難しいという事情もある。しかし、法律改正が実現した場合、違反した子供たちを親が訴えることも可能になるという。【1月8日 毎日】
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日本でも“直系血族及び兄弟姉妹は,互いに扶養をする義務がある”【民法 第877条】という法律規定はありますが、今回の中国の改正案では「高齢者と別居している扶養者は日常的に高齢者を訪れなければならない」と具体的です。
これが単に精神的な規定にとどまるのか、何らか実効性を持つものにする意図があるのかはわかりません。
いずれにせよ、“親元を訪れるべし”というような個人生活に関わることをバサッと法律で規定してしまうという発想は、なかなか日本では出てこないものです。
そこまで国家が個人生活に介入してくることについては拒否感があります。
万一、中国でこれをもとに何らかの具体策がとられたとしたら、茶番劇的な騒動もおこるでしょう。
そもそも問題の背景にある「一人っ子」政策自体が、国家と個人の関係で大きな問題をはらんでいます。
ただ、この記事を見て、あまり揶揄したり批判したりする気にもなれませんでした。
それは、同じく「少子高齢化」の問題を抱える日本を顧みると、最重要課題であるとの認識はあるものの、ここ数年の政治状況は政争・足の引っ張り合いに終始し、こうした重要課題の議論、実効性ある対策の実施がなされてきていないように思えるからです。
【緑の茶番劇】
中国の「少子高齢化」対策の記事を見て思い出したのは、同じく重要課題である温暖化対策にかんする中国の取組を伝える記事です。
****中国河北省で病院・学校への電力供給カット=国営メディア*****
中国河北省安平県で、政府の省エネ目標を達成するため、信号、病院、学校、住民への電力供給が約10日間にわたって順次カットされる事態が発生し、中央の機関からは行き過ぎだとの批判の声が出ている。
国営放送の中央人民広播電台が報じた。
中国では電力供給が需要に追いつかずたびたび停電が発生するが、今回の騒動は、中央政府の進める省エネ対策を地方政府がいかに歪めて解釈し得るかを浮き彫りにしたと言える。
安平県政府は、住民からの不満が相次いだことを受け、学校、病院、廃水処理施設、街灯、信号への安定した電力供給を約束したという。
地元政府関係者によると、安平県では上半期の電力消費が0.9%しか減らず、今年の目標である電力消費6.6%減を達成するため、一連の電力供給カットを余儀なくされたという。
中国社会科学院の研究員は中央人民広播電台に対し「利用目的にかかわらず、電力を一律に制限するのはばかげている。中央政府の意図は効率化だ」とコメントした。
中国政府は、単位国内総生産(GDP)当たりのエネルギー消費を2005年の水準から5年間で20%減らす目標を掲げている。同エネルギー消費は過去4年間減少を続けたものの、今年第1・四半期は前年比で3.2%増加しており、目標達成が危ぶまれている。【10年9月6日 ロイター】
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さすがに学校・病院や信号の停電はまずい・・・ということになったようですが、工場への電力供給カットは企業へ大きな影響を与えたようです。
****中国地方政府、省エネ達成へ強制停電 生活・企業を直撃****
中国で停電が続出している。年末に期限がくる国の省エネ目標を達成しようと、地方政府が電力の供給を制限しているからだ。突然の停電で人々の生活や日系企業の工場にも影響が出ている。
「電力の供給は毎日午後6時から10時まで」――。河北省のある村が10月、「無差別停電」を始めたところ、抗議が殺到。村は22日、「エネルギー効率の悪い企業は淘汰(とうた)するが、学校や病院への送電は保障する」と通知を出し、停電は「電線の修理のため」と弁解した。同省のほかの村でも9月、ろうそくが値上がりしたり、ポンプが止まって野菜の水やりが滞ったりした。
中国政府は2010年までの5カ年計画で、国内総生産(GDP)単位あたりのエネルギー消費量を05年より20%減らす目標を掲げる。だが、金融危機もあって省エネへの取り組みが後回しになり、今年上半期は微増。残り半年で約5%を減らさなければならなくなり、生産活動のもとになる電力を制限したようだ。
中国共産党・政府は人事評価に近年、省エネ・環境への対応を加えており、温家宝(ウェン・チアパオ)首相は「(割り当てた)目標を達成できなければ責任を追及する」と明言。地方政府の幹部はしゃにむに動いている。中国は過去、設備の老朽化や消費の伸びに発電が追いつかずに停電を迫られたことはあったが、意図的な停電は初めてという。
工場向けに停電に踏み切る都市も多い。8月末以降、江蘇、浙江、山東省などで日系企業にも影響が出ている。突然の通知で5日連続の停電を命じられたり、送電量を2割減らされたり。増産を見こんで新しい設備を導入したとたんに停電され、資金繰り難に陥った企業もある。1カ月、操業停止になった中国の製鉄会社もある。
日本貿易振興機構上海センターは「突然の変更は企業の生産計画に大きな影響を及ぼす。そもそもエネルギー効率を上げる目標であり、全体の量を減らすのは不合理」として、改善を申し入れている。
中国国家統計局によると、9月の発電量の伸びは8.1%で、今年1~8月の17.2%から半減した。電力の消費量が大きい粗鋼の生産はマイナス5.9%。工業全体の生産も鈍っている。同局も「エネルギー消費や二酸化炭素の排出量の削減に力を入れているからだ」(報道官)と説明した。来年以降の5カ年計画でも省エネ目標は導入される見通し。その実現に向けた手法に注目が集まっている。【10年10月23日 朝日】
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地方政府が環境対策として電力供給を制限した結果、企業は軽油を燃料とする自家用発電機を使用するようになり、中国各地のガソリンスタンドが深刻な軽油不足に陥っている・・・【10年11月8日 産経より】ということにもなっているようです。
“地方政府が省エネ目標を達成するために、自家発電で環境にさらに重い負担をかけているのが実態だ。”【同上】という次第で、中国メディアも批判しており、英字紙シャンハイデイリーは削減目標を大慌てで達成しようという政府の動きを「緑の茶番劇」と呼んでいます。
【具体策が何も出ない日本】
この騒動は、中国の“上意下達”的政治体質、目的のためなら手段を選ばぬ滑稽さ・非合理性を揶揄する形で報じられましたが、このときも親元訪問義務化法案の話題で感じた、茶番劇と嗤えないためらいを感じました。
温暖化対策という問題について言えば、COPなどの議論では消極的とされる中国ですが、この騒動はそれなりに数字を出そうとしている“努力”の表れでもあります。
一方で、京都議定書で削減義務を負い、鳩山前首相が高い目標を掲げた日本はこの間何をやってきたのか・・・・。
より大きな枠組みでとらえると、温家宝首相・党首脳の意向が「茶番劇」的な騒動となったりはするものの、広く徹底される中国に対し、“民主的”議会で時間をかけても何も出てこない日本。
別に中国的な社会がいいとも、住みたいとも思いませんが、また、民主主義はときに非効率とさえ思えるような時間がかかることも承知していますが、結果何も決まらないというのでは困ります。
「なまじ民主的な国家より、叡智ある慈悲深い独裁者の支配する国家のほうがいいのかも・・・」なんて危ない考えがよぎったりもします。
もちろん、“叡智ある慈悲深い独裁者”など存在しませんので、非効率でも民主的議論をつくしていくしかありません。
それにしても日本政治の機能不全は何とかしないと。