(1月11日 アフガニスタンを訪問したバイデン米副大統領(左) バイデン氏は、汚職への対応をめぐりカルザイ政権に批判的な立場を取ることで知られていますが、この時は“和解”を演出。 また、「アフガン国民が望むなら、米国は2014年には撤収しない」とも発言しています。
“flickr”より By U.S Embassy Kabul Afghanistan
http://www.flickr.com/photos/kabulpublicdiplomacy/5345659839/ )
【迷走するカルザイ大統領】
アフガニスタン混迷の原因は、汚職・腐敗体質のカルザイ政権の統治能力の欠如と、タリバンの軍事的攻勢の2点にあると言えます。
カルザイ政権については、議会開催を巡って、ますますその権威が揺らぐ状況となっています。
昨年9月に総選挙が実施されましたが、多くの不正選挙疑惑があり(カルザイ大統領が選出された大統領選挙も不正の疑惑がありましたが・・・)、議会が開催されない状態が続いていました。
大統領派の議員が多く落選した選挙結果に不満を抱くカルザイ大統領は、一旦は今月23日に議会を招集すると発表しましたが、選挙の不正を審査する特別法廷が行った議会招集を1カ月延期すようにとの要請を受け入れ、召集延期を発表しました。
特別法廷は大統領令で最高裁に設置した機関で、その実情は落選議員らを“復活”させるための機関であり、召集延期はそのための時間稼ぎとも見られています。
しかし、これに反発する議員側の圧力によって、結局26日召集が決まっています。
****アフガン:新議会発足へ 不在4カ月、大統領権威ゆらぐ****
アフガニスタンのカルザイ大統領は22日、昨年9月18日実施の選挙で改選された下院(定数249)を26日に招集し、新議会を発足させることを決めた。最終結果発表が12月にもつれ込み、不正投票などに関する不服審査の継続もあり、議会が発足できていなかったが、しびれを切らした当選議員らが「独自に議会を招集する」と圧力をかけ、政治危機に至る恐れが出たため、大統領が妥協した。
議会不在の異常事態は4カ月で収束することになったが、選挙結果に不満を持つ落選候補らは大規模な抗議行動や、「議会への攻撃」を含む議事妨害を予告しており、混乱は続きそうだ。
内外から「汚職体質」や「統治能力不足」を指摘されてきたカルザイ大統領にとって、昨年の下院選挙は民主主義の定着ぶりを示す絶好の機会だった。だが、混乱を露呈し、大統領の権威は大きく揺らいでいる。
カルザイ大統領は一旦、今月23日に議会を招集すると発表していた。だが、不正選挙疑惑を調べるため大統領令で昨年12月に設置された特別法廷が21日、「審査継続」を理由に1カ月延期を要請し、大統領が受け入れていた。選挙ではカルザイ氏を支えるパシュトゥン人の候補者が多数落選したため、カルザイ氏は、不正疑惑の徹底解明を望んでいるといわれている。
「延期」発表に反発した当選議員らは、「大統領が臨席せずとも予定通り23日に議会を発足させる」と宣言した。アフガン議会は大統領が招集しなければならず、議員側が独自に議会を発足させれば、憲法違反となり、政治危機に陥ってしまう。事態打開のためカルザイ大統領は22日に当選議員約140人を大統領府に招き、数時間にわたる協議の末、26日の招集を決めた。
ロイター通信によると、大統領は、不正選挙疑惑を調べる特別法廷の廃止にも同意したという。同法廷は、選挙管理委員会の権威をないがしろにしかねず、内外から「違憲」との指摘が出ていた。
大統領の「1カ月延期」発表に対して、国連や米国などが「深い懸念」を表明するなど、欧米諸国も大統領に早期議会招集を働きかけていた。
国民の多くは、カルザイ氏がこうした圧力に屈する形で議会招集問題を決着させたと受け止めている。アフガニスタンでは米国が今年7月から徐々に駐留軍を撤退させ、2014年までに治安権限をアフガン側へ移譲する計画だが、大統領の迷走ぶりが続けば今後、政治不安からアフガン復興に重大な支障をきたす可能性もある。【1月23日 毎日】
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カルザイ大統領と同じパシュトゥン人の獲得議席は選挙前の140から95に減少したとのことで、タリバンなど武装勢力との和平に道筋をつけることを最大の目標とするカルザイ大統領にとって大統領派の議員が少ない状態は和平取り組みへの支障となりかねない・・・との危機感があるようです。
“しかし、当選議員や国際社会の反発を受けて延期の方針を撤回。度重なる方針転換がカルザイ氏の求心力をさらに低下させることは必至だ。”【1月24日 産経】
なお、特別法廷については、【1月23日 毎日】では“大統領は、不正選挙疑惑を調べる特別法廷の廃止にも同意したという”とありますが、【1月24日 産経】では“招集日前倒しの条件として、特別法廷の審査結果を尊重することを議会側に求めた”とあり、これに一部議員が反発、“26日の招集にこぎつけるかどうかは予断を許さない状況”とも報じられています。
現在のアフガニスタンの状況を考えると、1日も早い議会開催が当然と思われますが、議会が開催されて何が決まるのかと問われると、返答に窮するところもあります。
【消息が知れない最高指導者オマル師】
タリバンとの戦闘については、アメリカを中心とする海外勢力はタリバンの攻勢に苦しんでいる・・・というのが一般的見方ですが、昨年からのタリバン拠点の南部ヘルマンド州とカンダハル州における米軍の大規模作戦、人員・物資の補給地であるパキスタンの国境エリアに対する無人機攻撃激化によって、タリバン側にも大きな犠牲が出ているとの見方もあります。
****タリバン指導部の人事にパキスタンの影*****
アフガニスタンの反政府勢カタリバンのナンバー2とされるアブドル・ガニ・バラダル。彼がCIAとパキスタン軍統合情報局(ISI)の合同作戦で拘束されたのは約1年前だ。
ここにきてタリバンの最高評議会はようやく、軍事部門トップのアブドル・カユム・ザキールと後方部隊担当のアクタル・ムハマド・マンスールを後継者に指名した。
いまタリバンは苦境に直面している。重要拠点である南部ヘルマンド州とカンダハル州では米軍が攻勢を強めており、大きな犠牲を強いられている。タリバン指導部は兵の士気を鼓舞し、反撃ムードを高めるため、タイプの違う2人を後継指名。これは最高指導者ムハマド・オマル師の同意を得たものだと訪う。
だが指導部の主張を信じる者は少ない。オマル師の消息は01年11月のカンダハル脱出以来、途絶えているからだ。
マンスールは陰でISIとつながっているとの噂もある。後継人事の背後にISIがいて「われわれの弱体化を図っている」と疑う元タリバン高官もいる。絶対的な指導者不在のまま、有力者の熾烈な派閥争いが起きることをタリバンは恐れている。【1月26日号 Newsweek】
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いつも言われる“タリバンとパキスタン軍統合情報局(ISI)とのつながり”云々は別にして、タリバン側の最大の問題は、最高指導者オマル師の消息が知れないことです。
オマル師潜伏先については、生死を含めていろんな情報が飛び交っていますが、パキスタンで軍によって保護されている・・・という説もよく目にします。
****オマル師、パキスタンで手術か=軍が支援?―タリバンは否定****
アフガニスタンの反政府勢力タリバンの最高指導者オマル師が今月、パキスタン南部のカラチで軍の支援により心臓手術を受けたと米紙ワシントン・ポスト(電子版)が23日までに報じた。事実なら、同師のパキスタン潜伏説を裏付ける有力な手掛かりになる。
同紙は、米中央情報局(CIA)元幹部らでつくる民間情報会社がカラチの医師から聞いた話として報じた。オマル師は7日に心臓発作に襲われ、パキスタン軍の情報機関、3軍統合情報局(ISI)によって病院に搬送されて手術。術後は脳に後遺症が残り、発話に障害が出たという。
この報道に対し、タリバン報道官は「オマル師の健康に問題はない。敵が流布したうわさだ」と一蹴。ISIも「でっち上げ」と反発した。【1月23日 時事】
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昨年9月には、オマル師のものとされる「我々の勝利は近い」「アフガンでの米軍の戦略は、完全な失敗以外の何物でもない」といった声明がウェブサイト上に公開されましたが、真偽のほどはわかりません。
タリバンにとって最高指導者オマル師の姿が見えないことが、組織を維持していくうえで大きな障害となっています。万一、死亡などが確認されれば、タリバン組織は激震に見舞われます。
【米軍撤退で“ゲーム”幕開け】
それにしても、パキスタン軍の情報機関ISIというのは、何を目論んでいるのか・・・
米軍撤退をにらんだ、パキスタン及びISIを含めた周辺国・関係国の思惑については、次のような指摘もあります。
****新グレート・ゲームへ…対テロ戦10年目のアフガニスタン*****
「アフガニスタンで新たなグレート・ゲームが繰り広げられそうだ」
元インド外務次官のカンワル・シバルは展望する。
グレート・ゲーム-。19世紀の大英帝国と帝政ロシアによるアフガンをめぐる勢力争いを、主にさす。アフガンは第二次大戦後の東西冷戦時代にも、米国とソ連によるグレート・ゲームの舞台となる。大国が衝突する度にアフガンは「緩衝地帯」として、またどちらかの「保護国」として扱われ、徐々に独立国としての基盤を失っていった。
「新たなグレート・ゲーム」の幕開けは、米軍がアフガン治安部隊に全土の治安権限を移譲する2014年末。すでにプレーヤーたちがうごめき始めている。
「周辺国は不干渉、不介入の原則を順守する必要がある。新たなグレート・ゲームの余地はない」
今月中旬、パキスタン外務省報道官のバシットは、周辺国のアフガンへの関与を強く牽制(けんせい)した。だが、自国の論理で、1980年代からアフガンへの干渉・介入を続けてきたのは、ほかならぬパキスタン自身だ。パキスタン、特に軍にとってのアフガンの重要性は、パキスタンが宿敵とするインドとの関係にある。その論理はこうだ。
インドとアフガンに挟まれたパキスタンが、インドと戦争になった場合、後背地であるアフガンの政権が親パキスタンであれば、支援が得られ持ちこたえられる-。「戦略的な深み」(strategic depth)という、同国軍特有のこの論理は、対アフガン戦略を支配する。軍部がイスラム原理主義勢力タリバンを支援するのも、アフガンに友好的な政権を打ち立てるためだ。
タリバンへの支援は、印パが領有権を主張するカシミール問題とも関連する。
パキスタン人ジャーナリスト、アフマド・ラシードによると、90年代半ば、パキスタン軍情報機関の三軍統合情報本部(ISI)はカシミール地方のイスラム過激派によるテロ沈静化の傾向を危惧。そこで、支援の軸足をカシミール過激派から、より過激なイスラム教スンニ派系のデオバンディ派に属する勢力に移す。この流れで、ISIは同派の影響を受けたタリバンを支援するようになったという。
「ISIはタリバンに隠れ家、武器、人材を供給してきた最大の支援組織。パキスタンなしにタリバンは生き残れなかった」
ラシードはこう語る。国連筋によると、ISIは、白塗りにUN(国連)と書いた偽装の国連バスを仕立て、パキスタン北西部の部族地域からアフガンにタリバン兵を送り込んでいるという。
こうしたタリバン支援は、駐留外国部隊によるタリバン掃討作戦の大きな障害にもなっている。
イスラム教スンニ派が多数を占めるパキスタンの影響を警戒するのが、シーア派のイランだ。
イランはタリバンと対立関係にあり、アフガン国内のシーア派のハザラ人など少数民族を支援してきた。
だが、最近はアフガン西部の治安当局者から、イランがタリバン兵を訓練しているとの証言が出るなど、タリバンへの支援もささやかれる。同時に、カルザイ政権に多額の資金を提供しているのも周知の事実だ。
影響力の維持を狙った「二重ゲーム」ともいえる。カンワル・シバルは「タリバンが手ごわい存在になれば、イランは手のひらを返すだろう」と推測する。
「中国こそ、14年以降のアフガンで存在感が間違いなく大きくなる」と指摘するのは、カブール大教授のサイフディン・サイフンだ。「中国はますますアフガンの資源が必要になリ、アフガンも中国の安価なモノが必要になる」と言う。
中国の存在感はすでに経済面で際だっている。首都カブールの中心街には、中国が2500万ドルを投じ建設した病院がそびえる。商店には中国製のモノがあふれている。
カブール近郊のアイナク銅鉱山の採掘権は、過去最大の投資額とされる40億ドルで中国の手に渡った。中国は、アジア最大ともいわれる中部パルワン、ワルダック、バーミヤン3州にまたがるハジガック鉄鉱山にも、関心を示す。
中国の経済活動は復興支援の一環として、国際社会は表面上歓迎している。だが、中国と緊張関係にあるインドは「喜んでいられない状況がやがて来る」(元インド軍関係者)と、苦々しい思いで中国の浸透をみている。
「アフガン周辺国の情勢は悪化する一方だ」と、ラシードは懸念を強めている。
パキスタンは国内のテロや経済破綻で危機的状況に直面し、イランは欧米と緊張関係にある。中央アジアにはタリバンや国際テロ組織アルカーイダが浸透する。ラシードは「アフガンの安定はむしろ、周辺地域の情勢を安定させる要因なのだ」と訴える。【1月24日 産経】
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