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(スコット姉妹 左が姉のジェイミー、右が妹のグラディス “flickr”より By 4WardEver UK
http://www.flickr.com/photos/4wardever/3605470030/ )
【伝説の「ビリー・ザ・キッド」は死後恩赦認められず】
昨年末、アメリカでの裁判をめぐるふたつの話題が報じられました。
ひとつは、関係者には申し訳ないですが、「なんで今頃こんなことが問題になるのか・・・?」と訝しく思われるもので、伝説の無法者“ビリー・ザ・キッド”の死後恩赦に関するものです。
年末31日に、ニューメキシコ州のリチャードソン知事が、約130年ぶりに「死後恩赦」を認めるかどうかを発表するということで注目されました。
****伝説の無法者ビリー・ザ・キッドに恩赦認めず、米州知事*****
2011年01月01日 13:17 発信地:サンタフェ/米国
米国、西部開拓時代の伝説の無法者「ビリー・ザ・キッド」が生前、当時の知事から恩赦を約束されていながら殺害されたとされる歴史のミステリーについて、12月31日で退任する米ニューメキシコ州知事のビル・リチャードソン氏は同日、調査の結果、ビリー・ザ・キッドに死後恩赦を与えないことに決めたと発表した。
リチャードソン氏は州知事就任以後ずっと、ビリー・ザ・キッド(本名:ウィリアム・H・ボニー)の事件について調査していたという。しかし、知事の最後の日となった12月31日、証拠が不十分だったため、ビリー・ザ・キッドの恩赦を認めない決定を下した。
「ビリー・ザ・キッドに恩赦を与えないことに決めた。決定的なものが不足している。ウォレス知事が恩赦の約束を破った理由もあいまいだ」と、リチャードソン氏は米ABCテレビで語った。
ビリー・ザ・キッドの死後恩赦を求める人びとによると、当時のルー・ウォレス州知事は、別の殺人事件について証言を行うのと引き換えに、ビリー・ザ・キッドに恩赦を約束していたという。しかし、ウォレス知事が恩赦を与えることなく、ビリー・ザ・キッドは1881年7月14日、パット・ギャレット保安官に射殺された。
ビリー・ザ・キッドは少なくとも4人を殺害したとされる。21人を殺害したとの説もあるが、それは「伝説」の域を越えないかもしれない。【1月1日 AFP】
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リチャードソン知事の元には、死後恩赦を求める請願が殺到し、一方、保安官の子孫は恩赦に反対して論争が過熱。知事は任期満了で退任する2010年末までに結論を出すとしていたそうですが・・・。
【11ドル強奪関与で終身刑】
もうひとつの裁判の方は、より深刻な問題をはらんでいます。
アメリカ社会では1964年に公民権法が制定され、法律の上での人種差別はなくなりました。
しかし、当然ながら人種間の不信感は根深く存在しており、陪審員制度のもと、公平であるとされる裁判において白人よりも黒人に重刑を科すことが多い・・・とも言われています。
そうしたアメリカ司法の黒人への不当量刑の象徴となっていた“スコット姉妹”の事件の話題です。
事件は1993年、ミシシッピ州で起きました。
93年のクリスマスイブに、黒人のスコット姉妹(当時、姉のジェイミーが21歳、妹のグラディスは19歳)は2人の男性に、彼女らをナイトクラブまで車で送るように頼みました。
ドライブの間にジェイミーは気分が悪くなったと訴え、ドライバーに道路わきに停まるように頼みます。
そこには、姉妹の知人でもある車に乗った10代の少年3人(14歳から18歳)が待ち構えており(1人はショットガンを持って)、彼女らの車が止まると少年らは男性を銃で脅し11ドルを強奪、ジェイミーとグラディスは少年らとともに車に飛び乗って逃げ去った・・・という事件です。負傷者はいませんでした。
この事件で逮捕されたスコット姉妹は無罪を主張していますが、11ドルの強盗事件の共犯として、2回分の終身刑を言い渡されました。
彼女らには子供がおり、前科もありませんでした。
強盗を実行した少年たちは8年の刑を宣告されましたが、2年で出所しています。
少年たちのうち2人は、自分たちの量刑を軽くすることへの取引として、彼女らに不利な証言をしています。
その証言を引き出すため警察は少年(14歳)に対して、「姉妹が関係していたと証言しないと、お前を(悪名高い)Parchman刑務所に送って、お前が同性愛であるとばらしてやるぞ」といった、刑務所でレイプされることを意味する圧力をかけたそうです。
彼女らの弁護士もやる気はなく、目撃者を喚問することもなく、後に別件事件で「努力の欠如」のため弁護士資格をはく奪されたような人物でした。
【姉に妹が腎臓を提供することを条件に釈放】
姉妹は無罪を主張していますが、すでに収監されて16年になり、2014年までは保釈もないとされていました。
しかし、姉のジェイミーが腎臓を患って透析を受けていることもあって、今回姉に妹が臓器提供することを条件に刑期を短縮され、釈放されました。
****米姉妹受刑者を釈放、黒人不当量刑の象徴*****
10代の少年3人が1993年に銃で人を脅し11ドル(約900円)を奪った強盗事件の共犯として2回分の終身刑を言い渡され、16年間服役していた米ミシシッピ州の黒人姉妹が7日、妹から姉への腎臓提供を条件に釈放された。
姉妹の服役は、白人よりも黒人に重刑を科すことが多いという米国司法の黒人への不当量刑の象徴となっていた。
姉のジェイミー・スコット受刑者はこぼれる涙をふきながら、「塀の中の日々があまりに辛くて、塀の外に出られる日が来るとは思ってもいなかった。これでちゃんとした治療が受けられる。感謝しています。とても感謝しています」と語った。
腎疾患のある姉のジェイミー受刑者に、妹のグラディス・スコット受刑者が腎臓を提供するという条件のもとで、同州のハーレー・バーバー知事は前月、両受刑者の釈放を決定していた。
2人の間の腎臓移植が可能なのかはまだわかっておらず、これから検査が行われる。仮に妹の腎臓が合わなければ、新たにドナーを探すことになる。
地元メディアによると、スコット姉妹は、フロリダ州で母親と子どもたちと一緒に暮らす計画を立てている。【1月9日 AFP】
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釈放の決定は、ミシシッピ州のハーレー・バーバー知事によって12月29日に発表されました。
声明で同知事は「スコット姉妹の拘束は、治安面からも更生の観点からも、もはや必要ない。さらにジェイミー・スコットの健康状態は、ミシシッピ州の財政に大きな負担を与えている。姉に腎臓を提供することを条件に、グラディス・スコットを釈放する。手術日は至急、決定する」と述べています。
全米黒人地位向上協会(NAACP)は30日、バーバー知事の判断は「偏見に侵されたわが国の刑事司法制度を象徴する」事件における「公正で勇気ある決定だ」と歓迎する声明を発表しています。【12月31日 AFPより】
【臓器売買に当たるとの見解も】
州知事は恩赦ではなく、ジェーミー元受刑者の人工透析に要する医療費が財政上の負担を州に課してしることを理由に刑の執行を停止したものですが、臓器移植をその条件にしたことに関しては批判もあります。
****アメリカ:強盗で終身刑の姉妹 「腎臓提供」条件に釈放*****
米ミシシッピ州で93年に起きた武装強盗事件で終身刑を言い渡されていた黒人姉妹が7日、仮釈放された。腎臓病を患う姉へ妹が腎臓を提供し移植手術を行うことを条件に、州知事が刑の執行を停止した。
臓器提供を釈放の条件としたことに米移植学会は「臓器の提供は真に無私の行為で、強制力や金銭など物質的利益を条件とすることから完全に自由でなければならない」と批判する声明を出した。臓器売買に当たるとの見解も出されている。
姉妹はジェーミー・スコット(38)、グレーディス・スコット(36)の両元受刑者で、94年に終身刑を言い渡され服役していた。事件の被害額は多くても2万円弱で、2人は無罪を主張していた。
黒人の人権団体が「刑が重すぎる」と恩赦を求めていたが、州知事は恩赦ではなく、ジェーミー元受刑者の人工透析に要する医療費が年間20万ドル(約1700万円)に上る財政上の負担を理由に刑の執行を停止した。妹のグレーディス元受刑者については「1年以内に姉に腎臓を提供する」と条件を付け、刑の執行を停止した。【1月8日 毎日】
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黒人への不当量刑の問題、犯罪行為の内容(被害金額や負傷者の有無)と量刑の関係、更には、臓器移植を条件とすることの妥当性など、いろいろ問題をはらんだ今回処置です。
しかし、前科なし、負傷者なし、被害金額11ドルで終身刑・・・公民権法制定以前ならともかく、1993年のアメリカでこんな判決がどうして出たのか、不思議な事件です。
なお、事件概要については下記サイトを参考にしました。
http://www.nytimes.com/2010/10/12/opinion/12herbert.html?_r=3&src=tptw
http://www.truecrimereport.com/2010/09/jamie_gladys_scott_got_life_fo.php