孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

チュニジア  与党排除を求めるデモで混乱続く 周辺国・欧米の警戒感

2011-01-19 21:04:04 | 国際情勢

(反RCDデモを催涙弾で鎮圧する治安警察 18日首都チュニス “flickr”より By Nasser Nouri
http://www.flickr.com/photos/nassernouri/5367629917/

首をすげかえただけの「挙国一致内閣」】
ベンアリ大統領亡命後も混乱が続く北アフリカのチュニジア。
国花にちなんだ「ジャスミン革命」といった優雅な呼び名もありますが、今後が懸念されます。

ガンヌーシ首相は、野党勢力や拘束されていた有名ブロガーを取り込んだ「挙国一致内閣」を組閣し、政治犯の釈放やメディア活動自由化を打ち出しました。
しかし、首相以下主要閣僚を与党・立憲民主連合(RCD)が独占しており、単に首をすげかえただけの「見せかけだけの連立」との国民批判から、これまで弾圧・強権支配を行ってきたRCDの政治家全員の退陣を求める反RCDのデモが行われており、治安部隊との衝突が起きています。
また、非合法イスラム主義政党の今後の動向も注目されます。

****チュニジア新政権 野党指導者ら起用…主要ポスト留任で労組系閣僚辞退****
■「変化」強調も深まる混迷
 【カイロ=大内清】民衆の抗議行動で政権が転覆したチュニジアのガンヌーシ首相は17日夜に発表した新内閣で、複数の野党指導者やベンアリ前政権下で拘束されていた著名ブロガーを起用し「変化」をアピールした。しかし、18日には有力労働組合が、与党・立憲民主連合(RCD)主導の新政権を拒否。労組出身の閣僚が政権入りを辞退するなど、チュニジア政局は混迷の度を深めている。
18日は首都チュニスなどで数千人規模の反RCDデモが行われ、前日に引き続き治安部隊が催涙ガスなどでデモ隊を鎮圧する事態となった。
ガンヌーシ首相は17日、国内の情報統制を担ってきた情報省を廃止しメディア活動を完全に自由化することや、すべての政治犯を釈放することを約束。当初は2カ月以内に行うとしていた大統領選についても、「準備期間が必要だ」との野党側の声に配慮し、議会選とともに6カ月以内に実施するとした。
◆ネット情報原動力
組閣ではベンアリ前政権と対立してきた民主進歩党のアハマド・シェビ氏ら野党指導者をはじめ、前政権を崩壊に追い込んだデモで動員力を発揮した労組系の人物を多数、大臣・次官級に登用するなどして融和姿勢を示した。
また、ベンアリ前大統領への痛烈な批判で知られ、政府機関のウェブサイトをハッキングしたとしてベンアリ氏亡命の直前まで拘束されていたブロガー、スリム・アマモウ氏を青少年・スポーツ相次官に任命。ネットからの情報を共有し、今回の政変の「原動力」のひとつとなった若者の支持の取り込みを狙った。
しかし、中東の衛星テレビ局アルジャジーラなどによると、外務や防衛など主要閣僚ポストをRCDが維持していることに反発する数千人規模のデモが起き、18日には反RCD労組と関係の深い一部閣僚や次官らが相次いで辞退を表明した。
◆RCD主導を批判
一方、今回の組閣から排除された非合法のイスラム主義政党「ナフダ」指導者で欧州亡命中のラシド・ガンヌーシ氏は18日、RCD主導の新政権を強く批判。他のアラブ諸国に比べ世俗化が進むチュニジアではイスラム主義勢力の影響力は強くないとされるが、ナフダは政治プロセス参加に意欲を示しており、今後の火種となる恐れもある。チュニジア政府によると、昨年12月から続くデモや暴動の死者は計78人に達した。略奪などによる経済損失は約30億チュニジア・ディナール(約1730億円)に上るという。【1月19日 産経】
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国民からの批判に対し、ムバッザア暫定大統領とガンヌーシ首相が18日、与党・立憲民主連合(RCD)からの離党を表明、事態の鎮静化を目指しています。
****チュニジアの暫定大統領と首相、前政権与党を離党****
ベンアリ政権が崩壊したチュニジアで、ムバッザア暫定大統領とガンヌーシ首相が18日、与党・立憲民主連合(RCD)からの離党を表明した。野党と連立する形で暫定政権を発足させたが、主要ポストをRCDが占めたため、「前政権の支配が続いている」との強い批判を浴びている。離党で事態の沈静化を図ろうとしているものとみられる。
暫定政権首相に任命されたガンヌーシ氏が17日に連立内閣の閣僚を発表したが、首相をはじめ外相、内相、財務相らはベンアリ前政権を支えたRCDに所属。これに抗議し、保健相に任命されたジャーファル氏ら野党系の正副大臣4人が18日、辞任を表明した。19日には初閣議が開かれる予定だが、暫定政権の行方には早くも暗雲が垂れ込めている。【1月19日 朝日】
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首相以下主要閣僚を残留させたRCD指導層と、ベンアリ独裁政権を支えたRCD排除を求める国民の間には、大きな認識の差があるようです。

注目される軍の動向
TVニュースでは、市内の治安維持にあたる兵士に喜びいっぱいに抱きつく市民の様子なども流されています。
“中年の男性が近づいて行き、警備に立つ兵士にコーヒーを振る舞った。「軍の兵士は市民の味方だ」。ベンアリ前大統領は大規模なデモが発生すると、突然14日に国外脱出した。「軍がベンアリ氏を見限ったからだ」。そんな見方を多くの市民が口にした。”【1月18日 朝日】

確かに、唐突な感すら受けたベンアリ前大統領の亡命の背後には、権力層内部や軍の意向が影響していたようにも思われます。
“共同通信によると、ベンアリ氏に引導を渡したのは、陸軍のラシド・アンマル参謀長だった。高失業率などに抗議する若者のデモ拡大に不満を募らせたベンアリ氏から鎮圧を命じられたが、これを拒否し、「お前は終わっている」と国外脱出を促したという”【1月19日 毎日】
ただ、RCD排除を求める国民の声がどこまで生かされるかは、軍の動向にもかかっているでしょう。
軍の銃口がデモを行う市民に向けられ流血の惨事になるのか・・・。

カダフィ大佐:「なぜ(国民は)待てなかったのか」】
チュニジアの政変の“飛び火”を、やはり強権支配国家が多い周辺国が警戒していることも、報じられています。
****アラブで抗議行動拡大 エジプトなど焼身自殺相次ぐ*****
アラブ諸国で、チュニジアの政変に触発されたとみられる抗議行動やデモが広がっている。
エジプトの首都カイロでは17日朝、議会前で、東部イスマイリーヤのレストラン経営の男性(49)が自身に火をつけ重傷を負った。男性は当局から配給のパンを受け取れず生活に窮していたという。一部の地元紙は、治安当局者が男性の火を消し止める様子をとらえた動画をウェブサイト上で公開、それを見た市民に衝撃を与えている。

チュニジアでは昨年12月、大学卒業後に物売りをしていた男性(26)が警察に抗議して焼身自殺を図り、後に死亡。インターネットなどを通じて若者の怒りを呼び、大規模なデモに発展した経緯がある。
フランス通信(AFP)によると、ブーテフリカ大統領が1999年から政権を握るアルジェリアでも16日、市長に失業問題を訴えようとして面会を拒否され、自らに火をつけた無職男性(37)が死亡した。アルジェリアでは過去1週間で4人が同様の方法で自殺を図っている。また、モーリタニアでも17日、男性(42)が政府に不満があるとして、首都ヌアクショットの議会前で焼身自殺を図ったという。
イスラム教では自殺を禁じており、イスラム教徒がほとんどを占めるアラブ諸国での焼身自殺は異例だ。
一方、20年以上の強権支配が続くイエメンの首都サヌアでは16日、学生約1千人が「政権打倒」を呼びかけ行進。王制のヨルダンでも同日、リファイ首相退陣を求める3千人規模のデモが行われた。【1月18日 産経】
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今朝のTVは、エジプトですでに3件の焼身自殺が実行されているとも報じていました。

周辺アラブ国指導者も自国への波及を恐れて、対策を急いでいます。
“多くのアラブ諸国は、価格高騰への怒りの声を受け、食料品などへの助成金支給を段階的に打ち切る計画を延期あるいは中止する可能性がある。・・・・ヨルダンやリビヤなど一部のアラブ諸国は、アナリストがチュニジア型の暴動が起こる可能性を指摘していたが、すでに物価上昇を食い止める措置を講じている。エジプトは助成金縮小計画を見直す可能性がある。”【1月17日 ロイター】

こうした周辺国の反応のなかで、ひときわ目をひいたのは隣国リビアのカダフィ大佐の発言でした。
“隣国リビアの最高指導者、カダフィ大佐は「ベンアリ氏は14年の大統領選不出馬を約束していた。なぜ(国民は)待てなかったのか」と不快感を表明”【1月18日 毎日】
そういう問題ではなかろう・・・とは思うのですが、強権指導者の認識というのはこういうものなのでしょう。

欧米:ベンアリ政権によるイスラム主義者への弾圧を事実上黙認
一方、欧米諸国には、過激なイスラム主義がチュニジアに復活することへの警戒感があります。
****チュニジア:「過激主義が復活」…イスラム台頭に欧米警戒*****
チュニジアで世俗主義のベンアリ独裁政権が崩壊したことで、欧米には過激なイスラム主義がチュニジアに復活することへの警戒感が広がっている。国外追放中の非合法イスラム主義政党の指導者が早期の帰国を表明し、メバザア暫定大統領も新政権への「全国民の意向の反映」を約束した。隣国アルジェリアではイスラム主義者の政治的台頭から内戦状態に陥った経緯もあり、チュニジアがイスラムにどう対応するかが焦点になっている。
(中略)
ベンアリ政権はチュニジアでのイスラム主義台頭を警戒して徹底した弾圧を行い、多数のイスラム指導者が国外追放された。民主化を求める欧米諸国も、イスラム主義の台頭を懸念し、ベンアリ政権によるイスラム主義者への弾圧を事実上、黙認してきた。
今回の政権崩壊をもたらした全国規模の抗議デモにイスラム主義者の積極的関与は薄いと見られている。デモ参加者も「若者の怒りが原動力」(25歳の男子大学生)だ。しかし、英フィナンシャル・タイムズ紙は16日、「西側諸国がチュニジアでのイスラム主義者復帰を恐れている」と報道した。

チュニジア政治に詳しい地元国際政治誌のカマル・ビニューナス編集長は「チュニジアのイスラム主義者の多くは穏健派で、過激主義とは距離を置いている」と指摘する。既存政治勢力は、「弾圧は過激化を生む」と受け入れを認める陣営と、政教分離原則を主張する陣営に分かれているという。
モハメド・ガンヌーシ首相は帰国予定のイスラム主義指導者とも対話の方針を打ち出しており、ビニューナス氏は「護憲や暴力放棄を条件に政治参加を認めるのではないか」と見ている。【1月17日 毎日】
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アメリア後押しによる民主的な選挙がイスラム主義台頭につながった事例としては、パレスチナでハマスが政権掌握に至った選挙や、エジプトの前々回選挙でムスリム同胞団が躍進した事例などがあります。
民主化でイスラム過激派が台頭するぐらいなら、強権支配政治の方が・・・というのがアメリカなどの本音ではないでしょうか。

1.5トンの金塊
今回のチュニジア政変で印象的だったニュース。
****ベンアリ氏、1.5トンの金塊持ち出しか*****
17日付の仏ルモンド紙(電子版)は、チュニジアのベンアリ前大統領一家が出国、逃亡した際、1.5トンの金塊(約4500万ユーロ相当=48億6000万円)を持ち出したと仏当局が推察していると報じた。夫人が政権崩壊当日、チュニジア銀行に金塊の引き出しを要請したが銀行の総裁は当初、拒否したという。【1月18日 産経】
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実際のところ50億円弱の金塊がどうなったのかはよくわかりません。
それにしても、1.5トンもの金塊をどうやって運ぶのでしょうか・・・。まあ、そんなことは余計なお世話ですが、ベンアリ前大統領の専制支配を印象づけるニュースです。
もちろん、政治家がその権力を利用して賄賂などを蓄財するのは、日本を含めて古今東西で見られる話ですが、隠れてこっそりやるのと、権力者として当然のこどく半ば公然と行うのでは、やはり民主主義に対する認識の差がそこにはあります。
前大統領一族の豪邸に関するニュースなど見るにつけ、どうしてそんな国民の犠牲の上で私腹を肥やすようなことができるのだろうかと、不思議な感じがします。民主主義云々以前に、政治というものに対する基本的な認識の差があるようにも思えます。
コメント (1)
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