孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

タイ  「赤」と「黄」の対立、再度表面化 「黄」も現政権批判

2011-01-26 21:44:30 | 国際情勢

(1月23日のタクシン派UDDによる反政府集会 男性はUDD指導者のJatuporn Prompan氏, “flickr”より By Ratchaprasong 2  http://www.flickr.com/photos/ratchaprasong2/5385992651/

アピシット首相:「(総選挙は)年の前半が望ましい」】
これまでも何回も取り上げてきたように、タイでは東北部・北部の農民層や都市貧困層を支持基盤とするタクシン元首相を支持する勢力と、南部・バンコクの中間層を支持基盤とし、既存の支配層からも支持を受ける反タクシン元首相勢力との対立・街頭行動、それに伴う政権崩壊が08年5月頃から繰り返されています。
タクシン元首相は地方農民層や貧困層を救済する施策を行ったのは事実ですが、一方で、バラマキ人気取り政策との批判、金権体質・強権支配といった政治姿勢に対する批判もあります。

反タクシン派の現在の民主党・アピシット政権は、昨年12月12日に行われた下院補欠選挙で、現有議席を守る形で4勝1敗と勝ち越し、経済も好調なこともあって、政権運営・早期の解散総選挙にも自信を深めているとも言われていました。(従来は、選挙になると反タクシン派が有利との見方があって、国内を二分する対立が続く中で、早期の解散・総選挙には及び腰でした。)

また、タクシン元首相派の「反独裁民主統一戦線(UDD)」(赤シャツ隊)の抗議活動を取り締まるため、昨年4月7日にバンコクに発令していた非常事態宣言を12月22日には解除しました。

****タイ首相:今年前半の総選挙に意欲 好調経済で自信*****
タイのアピシット首相は、今年前半の国会下院解散、総選挙実施に意欲を示している。総選挙でタクシン元首相派と反タクシン派の対立に一応の決着はつくが、どちらが勝利しても国民分断の修復は難しい。根本的な国内対立をどう解消に向かわせるのか、タイは正念場の年を迎えた。

タイ下院は今年12月に任期切れを迎え、年内には総選挙がある。首相は3日付英字紙バンコク・ポストのインタビューで「(総選挙は)年の前半が望ましい」と改めて述べ、任期切れを待たずに踏み切る意向を示した。
首相はこれまで「総選挙は治安回復後」と繰り返し、早期の実施に消極的だった。しかし昨年のバンコク騒乱後の下院補欠選などで政権与党が相次いで圧勝。「早期に実施しても(反タクシンの)政権与党が有利」と自信を深めつつある。

好調な経済も追い風だ。騒乱で外国投資の減少が懸念されたが、日本の大手自動車メーカーなどを中心に生産拡大の動きが続き、政府は昨年11月、今年の国内総生産(GDP)の伸び率見通しを7.9%に上方修正した。

しかし、農民や労働者層など政治的弱者が中心のタクシン派と、旧来の支配層中心の反タクシン派という対立の構図は何も解消されていない。
タクシン派は、司法や治安当局が反タクシン派寄りで「二重基準」だと非難する。騒乱でテロ容疑で逮捕されたタクシン派幹部は裁判も始まらないまま拘束され続けているが、08年のバンコク国際空港占拠を指導した反タクシン派幹部は身柄も拘束されないままだ。
アピシット首相は今年の元日、騒乱時に約束した国民和解策として、低所得者支援や司法制度改革、汚職追放などの「国家改革プラン」を公表したが、財源の裏付けや司法改革の具体策などは示さなかった。

対立の根源には、旧来の支配層の中心である軍や王室側近の枢密院が、タクシン派に「王室中心の国のあり方を転覆させかねない」と危惧していることがある。
首相はバンコク・ポスト紙に「軍はどのような政権にも仕える義務がある」と述べたが、総選挙でタクシン派が勝てば、その後のタクシン派政権と軍や枢密院の対立が再び強まるのは必至だ。
一方、反タクシン派の現政権が勝利すれば情勢は一時的には安定化する。しかし支配層が自身の権益を削って「持つ者」と「持たざる者」の不公平是正に取り組まなければ、潜在的な対立の根はさらに深まるだろう。【1月5日 毎日】
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タクシン元首相は、旧支配層としての王室側近枢密院とは対決姿勢を明確にしていますが、「王室中心の国のあり方を転覆させかねない」云々の意図はどうでしょうか?王室への敬愛が強いタイ国民のタクシン批判を強めるための主張のようにも見えます。

また、タクシン派の主張する司法・治安当局の「二重基準」批判については、タクシン派政党が法令違反で解党処分を受けたのに対し、アピシット首相率いる与党・民主党が政党交付金を不正流用したなどとして公職選挙法違反に問われた裁判で、タイの憲法裁判所が「提訴手続きに違法がある」として門前払いにしたことなども、その事例のように思われます。

タクシン派:総選挙を前に再び反政府行動を強める
いずれにしても、上記記事にもあるように、農民や労働者層など政治的弱者が中心のタクシン派と、旧来の支配層の支持を受ける反タクシン派という対立の構図は何も解消されていないため、両勢力の対立は再び表面化しており、情勢は変化しつつあります。
タクシン派は総選挙をにらんで、反政府行動を強めつつあります。

****タイ:タクシン派が集会 総選挙にらみ3万人*****
タイのタクシン元首相派は23日、バンコクで3万人規模の反政府集会を開いた。同派は昨年末から毎月2回、定期的に大規模集会を続けており、今年前半にも予想される総選挙を前に再び反政府行動を強めつつある。
都心部の繁華街を占拠して日曜日に開かれる同派の集会には、地元商業施設関係者が反発。同派は23日、初めて主会場を繁華街から市内西部に移した。(後略)【1月23日 毎日】
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反タクシン派:対カンボジア弱腰で政府批判
一方のアピシット現政権を支える立場にあった反タクシン元首相派「民主市民連合」(PAD)(黄シャツ隊)も、隣国カンボジアに対する政府の弱腰外交を批判する形で大規模行動を行っています。

****タイ:反タクシン派が大規模集会 対カンボジア弱腰に抗議*****
タイの反タクシン元首相派組織「民主市民連合」(PAD)は25日、バンコクで政府の「カンボジアに対する弱腰」に抗議する大規模集会を開いた。国民に根強い反カンボジア感情をあおり、自派への支持拡大を狙う。同じ反タクシン派のアピシット政権は対応に苦慮している。

バンコク中心部の首相府周辺で開かれた集会にはPADの支持者数千人が参加。PADとしては08年にバンコク国際空港を占拠した時以来の規模となった。政府がカンボジアと結んだ国境問題に関する覚書の破棄や、昨年12月、カンボジアに不法侵入したとして逮捕、起訴されたPAD幹部の即時釈放などを求めた。
事件では与党議員も含め7人がカンボジア側に拘束されたが、PAD幹部が与党議員を道連れに意図的に越境した可能性が強い。タクシン氏は「王制変革を狙っている」と非難されており、国粋主義のPADはカンボジアとの緊張を生み出して国民の愛国心を高め、タクシン氏への支持をそぐ思惑がある。

一方、カンボジアとの関係悪化を恐れるアピシット政権は、不法侵入事件では事実上タイ側に非があったことを認め低姿勢で対応。また今年の総選挙の平穏な実施のため、国内の対立激化を招くPADの活動を抑えたいのが本音とみられる。(後略)【1月25日 毎日】
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首相府前の道路を封鎖したPADの抗議行動に対し、“アピシット首相は23日夜、テレビ演説で「PADの主張に従うことはできない」「彼らの目的は政権の打倒だ」と対決姿勢を鮮明にした。一方、PAD最高幹部のチャムロン元バンコク都知事は「デモをいつまで続けるかはわからない。政府の対応次第だ」と話した”【1月25日 朝日】ということで、共闘関係にあった反タクシン派PADと民主党・アピシット政権の関係が微妙になっています。

軍:「平和と秩序を維持するために我々は必要とされている」】
「赤」と「黄」の対立で事態が混乱すると、再び軍の動向も気になります。
昨年9月にアヌポン陸軍司令官の後任に、アピシット政権と関係が極めて良好とされるプラユット副司令官が就任しました。
プラユット氏は、タクシン元首相派の群衆を強制排除して多数の死傷者が出たタイ騒乱で、強硬策に慎重だったアヌポン司令官とは対照的に積極派だったといわれています。また、タクシン元首相が、自身を駆逐した06年のクーデターの「黒幕」と批判するプレム枢密院議長にも近いとされています。
就任に向けてプラユット氏は「軍を政治から遠ざけ、通常任務に専念するよう努める」と述べる一方で、「現状では、平和と秩序を維持するために我々は必要とされている」とも話しています。【10年9月2日 朝日より】

冒頭【1月5日 毎日】記事にもあるように、総選挙結果のいかんを問わず、対立・混乱は尾を引きそうですが、先ずは総選挙で民意を問う必要があります。


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