(選挙期間中、支持者の歓迎を受けるケイコ・フジモリ氏 “flickr”より By keiko.fujimori http://www.flickr.com/photos/keikofujimori/5507460444/ )
【「最も拒否感の強い2候補」】
服役中のペルーの元大統領フジモリ氏の長女、ケイコ・フジモリ氏の大統領選出馬については、1月7日ブログ「ペルー フジモリ元大統領長女ケイコ氏、大統領選挙への正式出馬」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20110107)で取り上げましたが、報道のように10日の投票を2位で勝ち抜き、決選投票に進むことなりました。
なお、フジモリ元大統領は、軍による民間人殺害への関与など2件の人権侵害と汚職5件の計7件の罪状で公判中で、一審ではすべて有罪となり、軍による民間人殺害への関与では最高裁での実刑判決も確定しています。
****ウマラ氏とケイコ氏、決選投票へ ペルー大統領選******
10日に投票があったペルー大統領選は11日、開票が進み、左派で元軍人のウマラ氏と、フジモリ元大統領の長女で国会議員のケイコ・フジモリ氏が、上位2人による6月の決選投票に進む見通しになった。
中央選管によると、開票率86.47%でウマラ氏が31.36%、ケイコ氏が23.22%、元首相のクチンスキー氏は19.22%、前大統領のトレド氏が15.27%。3位のクチンスキー氏は「決選投票に進むのはウマラ氏とケイコ氏だろう」と述べ、事実上の敗北宣言をした。【4月12日 朝日】
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上位2氏のおおよそについては、下記のように報じられています。
****ペルー:ウマラ氏とケイコ氏 大統領選決選投票へ*****
・・・・3月末から支持が伸びたウマラ氏は政治腐敗の一掃、教育の無料化、憲法改正、メディア規制を主張する左派。産業界には投資や市場に対する規制が強まる、との観測がある。10日夜、ウマラ氏は支持者に「富の再配分をして経済成長は少数のためだけではないことを示す」と語った。
ウマラ氏は前回大統領選でベネズエラのチャベス大統領の応援を受けて敗北。今回はブラジルのルラ前大統領の選挙アドバイザー2人がペルー入りした。
一方、ケイコ氏は人権侵害罪で収監されている父フジモリ元大統領(90~00年在任)の市場開放路線と支持基盤を引き継ぐ中道右派。ケイコ氏は、貧困層への社会福祉の充実を公約し、人権侵害と腐敗というフジモリ政権の負のイメージの払拭(ふっしょく)を目指してきた。
昨年のペルーの国内総生産(GDP)伸び率は8.78%で、経済規模は10年間で約3倍になった。だが、都市部と農村部の経済格差が拡大し、不満が高まっている。
政治アナリストのルイス・ベナベンテ氏は「(ウマラ氏とケイコ氏の)2人は支持基盤が同じ貧困層。決選投票に進めばイデオロギー論争、ネガティブキャンペーンなど激戦となる」と予測した。【11月14日 毎日】
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ケイコ氏は、支持者を前に「もう決選投票だ。経済発展から見捨てられた人々のもとに道路を作り、水道を通そう」と演説しましたが、貧困層を支持基盤とする両氏ともにかなり特異・個性的で、“一部の国民にとっては「最も拒否感の強い2候補」”【下記 時事】とも。
【「大統領就任」へ追い風】
ただ、左派の過激主義者とも見られるウマラ氏に対し、イデオロギー的には穏健な中道右派と評されるケイコ氏の方が広く支持を集められる可能性があり、決選投票はケイコ氏有利とも報じられています。
****フジモリ氏長女、悲願へ追い風=決選投票有利か―ペルー大統領選****
ペルー大統領選で、フジモリ元大統領(72)=殺人罪で服役中=の長女ケイコ・フジモリ氏(35)の決選投票進出が確実になった。フジモリ派を束ねる支柱として、父を熱烈に支持する強固な基盤を引き継いだケイコ氏にとって、悲願の「大統領就任」へ追い風が吹き始めている。
ケイコ氏が決選投票で戦う左派オジャンタ・ウマラ元陸軍中佐(48)は、憲法改正や富の平等な配分などを掲げる。決選で敗れた前回大統領選を教訓に、急進的な主張を和らげてはいるものの、経済成長をおう歌するペルー国民の多くが警戒感を隠さない。世論調査では、両者の一騎打ちならケイコ氏勝利との予測が大勢だ。
ケイコ氏とウマラ氏は、貧困層が中心の支持者を持つ点で共通する。このため、決選での勝敗を分けるのは、都市部の若者や富裕層の票だ。地元メディアによれば、10日の投票で3位に終わり、都市部で人気が高いクチンスキ元首相(72)は「ウマラ候補には決選で投票しない」と発言。クチンスキ支持票がケイコ氏に流れ込むようなら、親子2代にわたる日系人大統領誕生が現実味を帯びることになる。
強権政治を敷いた元大統領の娘、急進左派的な元軍人という背景から、ケイコ氏とウマラ氏は「われわれは過去の圧政に戻るか、空白に飛び込む自殺行為に身を委ねるか」(トレド前大統領)と批判の的にされることも多かった。ただ、熱狂的とも言える支持基盤を共に固めた結果、一部の国民にとっては「最も拒否感の強い2候補」(地元政治評論家)が勝ち残る形となり、有権者は6月5日の決選投票まで難しい選択を迫られる。【4月12日 時事】
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【それでもなおペルー国民の多くはフジモリ政権を懐かしく思いだす】
ケイコ氏は06年に首都リマの選挙区から国会(一院制)議員選挙に出馬し、全国最多得票で初当選を果たしていますが、これは同氏自身の実力よりも父親の知名度のおかげだといえます。
ペルー国民にはフジモリ政権を懐かしむ気持ちが残っているようです。
2年前の下記記事は、すでにケイコ氏有利を報じていました。
****ペルー次期大統領 ケイコ・フジモリ氏有力 広い支持層、父の恩赦実現か****
・・・・フジモリ元大統領の人気が根強く残る理由には、大きく2つが挙げられる。
1つ目は、同氏の政権が1980年代のインフレをうまく収束させ、90年代の新たな成長への道筋を開いたこと。
2つ目は、7万人の死者を出した反政府勢力「センデロ・ルミノソ(輝く道)」との戦いを終結したことだ。
同氏は政権1期目の93年に憲法を改正して自身の再選を可能にし、続投を決めた95年の選挙では、有効投票数の64.4%を獲得した。しかし3期目の政権末期には、その名声も色あせる。独裁主義的な性格が強まり、政権維持のための汚職が横行した。それでもなおペルー国民の多くはフジモリ政権を懐かしく思いだすのだ。
フジモリ元大統領がペルーに戻ってからは、裁判の記事が連日のように新聞に載り、国民の記憶からフジモリ元大統領が消えることはない。国民の多数は同氏が有罪だと考えているが、「罪は責められるべきだとしても、よい大統領だった」という思いは変わらないようだ。
ケイコ氏が所属する「未来同盟」は、フジモリ派の希望を担い、小グループながら議会で大きな影響力を持つ。正式には与党勢力に属していないが、重要政策に関して与党アプラ党と緊密に連携してきた。(中略)
ケイコ氏は父親のようにカリスマ性のある指導者ではないが、選挙を戦うにふさわしい支持基盤は持っている。
まず、ペルーの経済界はリベラルな経済政策の推進を求めているが、これはフジモリ元大統領が最重要課題に位置付けた。経済界は、その継承者としてケイコ氏を支持している。さらに同氏は、元大統領に好意的な人々、とくに女性や貧困層からの支持も受け継いでいる。(後略)【09年5月22日 Oxford Analytica】
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“父親のようにカリスマ性のある指導者ではない”との評ですが、元大統領の長女で親しみやすい性格ということでブームを起こす魅力はあります。経済界も左派ウマラ氏よりはケイコ氏を推すでしょう。となると、大統領の椅子も手の届くところに・・・という感があります。
問題は、大統領になったとき、父親フジモリ氏の公判をどうするかということですが、まだそれを論じるのは気が早いかも。ケイコ氏は「立候補にあたっては、貧困対策が最優先事項だ」と、“父親のための出馬”を否定しています。