(ブルカ禁止法施行の4月11日、パリで拘束されたケンザ・ドリデルさん(ニカブ着用の写真中央女性) ただし、拘束理由はニカブ着用ではなく、無許可の抗議行動だったそうです。 “flickr”より By siobh.ie http://www.flickr.com/photos/siobhansilke/5609101315/ )
【「人道危機に手をこまぬかないリーダー」演出】
リビア空爆で国際世論をリードし、コートジボワールでも軍事介入を行うなど、フランスの“市民保護”を目的とした積極的な軍事行動が目立っていますが、背景には人気が低迷するサルコジ大統領の再選を狙う思惑があるとも指摘されています。
****仏、際立つ軍事介入 対リビア・コートジボワール****
大統領選へ強い指導者演出
対リビア軍事作戦に続き、内戦状態のコートジボワールに軍を投入しバグボ前大統領の拘束に協力するなど、フランス政府の介入外交が際立っている。「人道危機に手をこまぬかないリーダー」を強調し、再選に向けて支持率回復をねらうサルコジ大統領の思惑が透けて見える。
「軍事介入によってしか虐殺が止められない時がある」。ジュペ仏外相は、コートジボワールに介入を始めた2日後の今月6日、国民議会(下院)でこう説明した。
コートジボワール問題で仏政府は、国連安全保障理事会に外交攻勢をかけ、3月末、バグボ氏らに対する制裁決議を全会一致での採択に持ち込んだ。対リビア介入の時と同様、「市民の保護」を理由に軍事介入できる環境が整った。国連やアフリカの近隣諸国などから人進上の要請を受け、それを満たすために武力を行使するという理屈だ。
仏政府の積極姿勢は、サルコジ氏自身の指示によるものだ。来年4月の大統領選で再選を目指す同氏にとっては、低迷する支持率の回復が急務。国内の最大の関心事は経済だが、国民に不人気の財政の引き締めを進めるしかない。
そこで、サルコジ氏が力を入れるのが外交だ。過去に「成功体験」があるからだ。ロシアとグルジアが武力衝突を起こした2008年、欧州連合(EU)議長国の首脳として停戦を仲介し、人道介入を評価する仏国民の支持率は一気に11ポイント跳ね上がった。
主要8力国(G8)と20力国・地域(G20)の議長国を務める今年、サルコジ氏は外交を再選戦略の要に位置づけた。ただ今回、世論は必ずしも思惑通りに反応していない。
仏ルモンド紙が13日付で報じた対リビア軍事介入に関する米英仏伊4カ国世論調査では、介入支持はフランスが63%で最も高く、国民に受け入れられていることを示した。しかし、別の最新の世論調査によると、サルコジ氏の支持率は前月比1ポイント減の30%と07年の当選以来で最低を更新した。
リビアの戦況は一進一退が続き、膠着状態に陥っている。コートジボワールもバグボ氏拘束後も治安は回復されていない。
仏外務省顧問のフランソワ・エースブー氏は朝日新聞に対し、「今回の介入でフランスの政治的、軍事的存在感は増したかもしれないが、アフリカの問題ある指導者を支えた時代の記憶を呼び起こしかねない」と反仏感情が高まる懸念を示した。(パリ=稲田信司)【4月14日 朝日】
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【極右政党に任せなくてもいい・・・】
積極的な軍事介入による“強い指導者”のイメージづくりと並んで、サルコジ大統領が再選対策として推し進めるのが、増加する移民、浸透するイスラム文化への国民の不安感を背景にした、イスラム教徒の女性が全身を覆う衣服、ブルカやニカブの着用の禁止する、いわゆる“ブルカ禁止法”です。
躍進する極右政党・国民戦線(FN)のマリーヌ・ルペン氏の追い上げをかわす狙いも感じられます。
****フランス、ブルカ禁止法を施行*****
欧州で国内のイスラム教徒人口が最も多いフランスで11日、イスラムの女性が顔をすべて覆うベールを禁止する法律が施行された。
欧州では同様の動きが広がっているが、実際に禁止法を施行したのはフランスが初めて。ベルギーでは同様の法律が議会を通過しているがまだ施行されていない。オランダでは極右組織などの指導者らがやはりブルカの禁止法を提案している。イタリアでは右派の北部同盟が今回のフランスの法律をモデルにロビー活動を行っている。
(中略)
顔全体を覆うベールの着用は中東および南アジアでみられるイスラムの慣習だが、フランス当局は同国に居住するイスラム教徒400~600万人のうち、このベールを実際に着用している女性は2000人程度と推計している。
一方、国際テロ組織アルカイダの指導者、ウサマ・ビンラディン容疑者などイスラム原理主義者たちはこの禁止法はフランスがイスラムに戦いを挑んでいるあらわれだとして、フランスへの攻撃を呼び掛けている。【4月11日 AFP】
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ブルカ禁止法が施行された11日に「ニカブ」を着用した女性2人が警察に一時拘束されたとの報道もありましたが、この件はニカブ着用が理由ではなく、無許可の抗議行動への参加を理由とした拘束だったようです。
****ブルカ禁止法施行後、初の拘束 フランス*****
顔全体を覆うベールの着用を禁止する法律が11日に施行されたフランスで同日、首都パリでの抗議行動中、体をすっぽりと覆い目だけを出す「ニカブ」を着用した女性2人が警察に一時拘束された。
ただし女性たちはベールの着用ではなく、ノートルダム寺院前で発生したデモに参加したことが、無許可の抗議行動への参加とされ拘束された。しかし、同法の施行後であるため法律上では、公共の場で顔を見せることを拒否するイスラム女性に当局は罰金を科すことができる。
拘束された1人、ケンザ・ドリデルさん(32)は「わたしたちについてどうするか検察官が決めるまでの間、警察署に3時間半、拘束された。その後『いいでしょう。行っていい』と言われた」と語った。
■拘束されるも罰金科されず
ドリデルさんとは別に、実業家で活動家のラシド・ネッカ氏も、ニカブをかぶった女性の友人と一緒にいて、大統領府前で警察に拘束されたと語った。ネッカ氏はAFPの取材に「わたしたちはニカブをかぶっていたことで罰金を科されたかったが、警察のほうが罰金を科したがらなかった」と語った。
ネッカ氏は今回の禁止法に反対しており、ベールをかぶっていて罰金を科された人の肩代わりするために、200万ユーロ(約2億4000万円)相当の自己資産を競売にかけ、基金を設立すると宣言している。
一方、フランス警察は、同法に違反した人がいても強制的にベールをはがす権限は与えられておらず、さらにすでに緊張関係にある移民居住区で抵抗に遭う恐れもあり、施行はされたものの、同法の執行には困難があると懸念している。【4月12日 AFP】
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学校など公共の建物のほか、道路や交通機関など社会のほぼ全場所でのブルカ・ニカブの着用を禁止する“ブルカ禁止法”には、人権団体や約600万人の仏イスラム社会から「人権侵害」との批判も強く、今後、ブルカ禁止法と宗教の自由をめぐる論争が激しくなることが予想されます。
ただ、そうしたこともあって、同禁止法の実施はかなり慎重に行われてもいるようです。
****意外と腰砕けなサルコジのベール禁止****
・・・・ベールは女性抑圧の象徴であり、顔を隠すことはフランス社会とは相いれないとして政府が送付した禁止法案を、議会が昨年可決していた。「イスラムを悪者にすることは選挙対策として有効。極右政党に任せなくてもいいのだと国民に感じさせられる」と、歴史家のフランソワ・デュールペールはグローバルポストに語った。
だが施行直前の通達を見ると、強硬姿勢とは程遠い実態が見えてくる。先週の報道内容によると、ゲアン内相は取り締まりのガイドラインで、その場でベールを取るよう強制するなと指示。身元確認のために顔を見せるよう頼み、拒否された場合は「最後の手段として」警察への同行を求める。その場合も勾留や4時間以上の拘束は禁じている。腰の引けた法律が選挙でどれはどの効果を生むかは未知数だ。【4月20日号 Newsweek】
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“腰砕け”“腰の引けた”ととるか、“慎重”ととるかは、立場の違いにもよります。
サルコジ大統領の思惑は別にして、個人的に言えば、やはり社会には固有の慣習・文化があり、極端にその慣習・文化と相いれないものを禁止するのは理解できます。
インドネシア・マレーシア、バングラデシュ、エジプトなどイスラム教国を旅行しても、完全に顔を覆うブルカ・ニカブはそう多くはなく、そうしたイスラム社会においてさえ異様な感じがします。
単に異様だけでなく、コミュニケーションを拒否するような雰囲気があり、自由な意思表示・互いのコミュニケーションを前提にした欧米的市民社会の理念にそぐわない服装のようにも思えます。