孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ナイジェリア  大統領選挙後の暴動 南北対立を背景に、死者200人超の報道も

2011-04-21 21:45:37 | 世相

(投票に際して登録するジョナサン大統領 “flickr”より By urbancn http://www.flickr.com/photos/urbancn/5635402708/

地域の安定と民主主義定着の試金石
16日に、西アフリカのナイジェリアで大統領選挙が行われ、現職のグッドラック・ジョナサン氏が当選しました。
ナイジェリアは石油や天然ガスの産出国で、アフリカ有数の軍事力を有する地域大国ですが、北部イスラム教徒と南部キリスト教徒の間の宗教対立、油田が存在する南部デルタ地帯での武装組織のゲリラ活動など、政治的・社会的に問題が多く、また、巨額の石油収入にもかかわらず8割近い国民が1日2ドル以下の貧困生活に苦しんでいる国でもあります。

西アフリカでは、コートジボワール大統領選を巡る混乱があったばかりで、地域大国ナイジェリアの大統領選の成否は、地域の安定と民主主義定着の試金石として注目されていました。
結果は、冒頭にも書いたように、軍事政権から民政移管した1999年以来、政権を握る与党・国民民主党のグッドラック・ジョナサン大統領(53)が、戦前の予想どおり勝利しました。

****ナイジェリア大統領選、現職のジョナサン氏当選*****
ナイジェリアの選挙管理委員会は18日、16日に行われた大統領選で現職のグッドラック・ジョナサン氏が当選したと発表した。
選管によると、ジョナサン氏は2250万票を獲得して得票率は57%、北部出身で最有力対抗馬のムハンマド・ブハリ元最高軍事評議会議長は1220万票で得票率は31%だった。

ジョナサン氏は、初の南部の産油地域ニジェールデルタ出身の大統領。一方、ブハリ陣営は選挙結果を認めておらず、北部では選挙結果に抗議する暴動が起こっている。【4月19日 AFP】
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【「なたで斬りつけられた」「こん棒で殴られた」】
選挙自体は、EUなどの選挙監視団が、過去数十年で最も公正な選挙が実施されたと評価しているように、比較的公正に行われたようですが、選挙結果発表直後から、対立候補ブハリ陣営の地盤である北部において、結果を認めない暴動が発生し、多数の死傷者が出ています。

****ナイジェリア北部の暴動激化で死者多数、避難民2万5000人****
16日に行われた大統領選の結果をめぐり、ナイジェリア北部では暴動が激化しており、多数の死者が出ているもようだ。死体が井戸に投げ捨てられているとの目撃談もある。

18日に当選が確定したグッドラック・ジョナサン大統領は翌19日、政治および宗教の指導者らに対し、暴力を非難する声明を出すよう要請。さらに、暴動に参加しているのは主に「失業中の若者たち」だとして、「そうした若者たちが民衆の道具にならないよう」新政府は雇用対策などに力を入れると明言した。

北部出身で最有力対抗馬とされたムハンマド・ブハリ元最高軍事評議会議長を支持する住民らが、票が操作されたとして起こした暴動は、18日までに14州に拡大した。政府は暴動により多数が死亡したと発表しているが、正確な死者数は公表していない。
ナイジェリア赤十字社は19日、暴動による避難民は2万5000人に達したとの推定を明らかにした。関係者はAFPに対し、「状況は比較的落ち着いてきているが、昨夜はカドゥナ州、カツィナ州、ザンファラ州などで暴動が発生した」と話した。
なお警察は、暴動に関連してこれまでに数十人を逮捕したと発表している。

■ブハリ氏、暴動を非難する短い声明
南部の産油地域ニジェールデルタ出身のジョナサン氏の当選は、イスラム教徒が多数を占める北部とキリスト教徒が多数を占める南部間の緊張を露呈させ、暴動へと発展させた。
選挙結果を拒絶し、暴動については沈黙を守ってきたブハリ陣営は19日、BBCハウサ語放送を通じて、暴動を非難する短いコメントを出した。【4月20日 AFP】
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今回の暴動について、ロイター通信は20日、主要都市だけで少なくとも80人が死亡したと伝えています。
地元赤十字によると、約400人が負傷し、7州で4万人が避難民とされています。
また、ナイジェリアの有力な人権団体「Civil Rights Congress(人権会議)」は、暴動により死者は200人以上に達したもようだと20日明らかにしています。
“病院で手当てを受けている負傷者らは、「なたで斬りつけられた」「こん棒で殴られた」など、被害の状況を語っている。”【4月21日 AFP】

民主的政治手続きであるはずの選挙がきっかけとなって、結果認めない側が暴力行為に至る事例は、残念なことにごく一般的に見られることですが、“死者は200人以上”とか“4万人が避難民”というのはいかにも桁違いに多すぎる数字です。“混乱”とか“衝突”というものではなく、“住民虐殺”です。

南北対立
こうした背景には、従来からの南北間の宗教対立があり、すでに選挙前から多数の死者を出す混乱が続いていました。
****ナイジェリア北部・中部で衝突再燃、6週間で死者300人*****
欧州連合(EU)は10日、ナイジェリア北部と中部で宗教・民族対立などを背景とした衝突が再燃し、死者が6週間で少なくとも300人にのぼったとして、暴力を非難する声明を出した。

EU諸国の駐ナイジェリア大使らによると、同国では、前年のクリスマスイブにプラトー州の州都ジョスなどで相次いで爆弾攻撃が発生して以来、プラトー州、バウチ州、ボルノ州で衝突が激化しており、この6週間で少なくとも300人の犠牲者が出ている。
4月の州知事選が迫っていることもあり、大使らは声明で、すべての関係者に対し、平和で不正のない選挙を実施すること、選挙期間中のヘイトスピーチ(憎悪に基づいた発言)と暴力を阻止することを求めた。

関係当局によると、2009年に暴動を起こしたイスラム過激派「ボコ・ハラム(Boko Haram)」(西洋の教育は罪)が、北部で、これまでに治安部隊や地域社会の重要人物、政治指導者を標的とした銃撃事件を数十件起こした。犠牲者の中には州知事選の候補者も含まれている。
なお、イスラム教徒が多い北部とキリスト教徒が多い南部のちょうど中間地点にあたるプラトー州では近年、宗教間衝突が多発しているが、州知事選を前にここ最近衝突が急増しているという。【2月11日 AFP】
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昨年末から年明けにかけて爆弾テロも相次ぎました。
今回大統領選挙の混乱には、南北出身者が2期ごとに交代するという大統領に関する慣行も絡んでいることが指摘されています。

****ナイジェリアで相次ぐテロ、97人死亡 大統領選関係か*****
ナイジェリアで昨年末から、爆弾テロや武装勢力による攻撃が相次ぎ、2日までに少なくとも97人が死亡した。イスラム武装勢力の仕業とされる一方、4月に予定されている大統領選との関係も指摘され、情勢悪化が懸念されている。

中部の都市ジョスでは12月24日、爆弾が爆発、80人が死亡。同日と29日には別の中部の都市でも、キリスト教会が放火されるなどして、計13人が犠牲になった。さらに、31日夜、首都アブジャの市場で爆発があり、4人が死亡、26人が負傷した。ジョスの事件では、イスラム武装勢力ボコ・ハラムが犯行を認めた。

ナイジェリアはアフリカ随一の産油国だが、恩恵が国民に行き渡らないことへの不満が強く、イスラム過激派暗躍の背景になっているとされる。
同国では大統領は南北出身者が2期ごとに交代するしきたり。ところが、北部系の前大統領ヤラドゥア氏が昨年、1期目途中で病死し、南部系のジョナサン氏が後を継いだ。このため北部ではジョナサン氏続投への警戒感が高まっている。【1月3日 朝日】
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ソーシャルメディアを武器に選挙の不正と闘う若者も
ため息のでるような記事ばかりですが、明るい話題も。
****ナイジェリアの選挙がツイッターで変わる*****
ナイジェリアの若者たちがツイッターやフェースブックなどのソーシャルメディアを武器に選挙の不正と闘っている。独立以来、約50年も繰り返されてきた不正選挙と軍事クーデターの連鎖に終止符を打つためだ。

ナイジェリアでは4月9日に連邦議会選挙、16日に大統領選が行われた(17日時点で現職のジョナサン大統領が優勢)。26日には州知事・州議会の選挙が実施される予定だ。
情報技術の専門家でもある活動家グベンガ・セサン(33)はスマートフォン向けアプリケーション「レボダ」を開発。有権者から直接、選挙の不正に関する情報を受け取れるようにした。選挙用資材の配送が遅れたとか、有権者が投票所で脅されたといった報告があると、その内容を1日分まとめてナイジェリア当局と欧米の選挙監視団に伝達。ウェブサイトにも掲載する。
セサンは9日の議会選挙の際、各地の投票所から有権者が送信してくる画像をフェースブックやYouTubeに投稿した。
「見るからに酔っぱらった警官が市民を脅す映像もある」とセサンは言う。「裁判で証拠に使えるだろう」
ツイッター活動家と呼ばれる市民も増えてきた。彼らは選挙関連施設の爆破のもくろみや不正行為に常に目を光らせている。活動家のアマラ・ンワンクパによると、北部の選挙管理事務所を狙った攻撃に関する情報の伝達にツイッターは大いに貢献したという。

石油と天然ガスのアフリカにおける主要産出国であるナイジェリアのエリート層は、政治的影響力を利用して蓄財に励んできた。ほんの少数の者が国家の富を握り、国民の8割は1日2ドル以ドで生活する貧困層だ。
今回の一連の選挙は99年の軍政終結以来、最も信頼性が高いものになるとみられている。有権者の問にも公正な選挙を望む機運が高まっている。
現時点では、スマートフォンやインターネットを利用できるほど経済的に豊かな国民はまだ少ない。それでも、人口1億5000万人の70%が30歳未満なので、今後ツイッターなどソーシャルメディアの普及はさらに進みそうだ。
「多くの情報を集めて直ちに公開できるのはなぜかと、不思議に思っている政治家も多いが」とセサンは語る。「僕に言わせれば、若者の多い国なんだから当然のことだ」 シャマンサ・アソカン(グローバルポスト・ラゴス特派員)【4月27日号 Newsweek】
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ソーシャルメディアを武器に選挙の不正と闘っている若者もいれば、なたや棍棒を手に住民を襲う若者もいます。
前者が多くなってくれればいいのですが。

コメント
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