孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ロシア  モスクワ劇場占拠事件から10年 強権姿勢を強めるプーチン政権

2012-10-25 22:13:46 | ロシア

(「モスクワ劇場占拠事件」で犠牲となった人質  “2011年12月21日 The Voice of Russia”より Photo: RIA Novosti)

最終的に人質129名が窒息死
今から10年前の2002年10月23日から10月26日にかけて、ロシア・モスクワで「モスクワ劇場占拠事件」と呼ばれる、チェチェン共和国の独立派武装勢力が起こしたテロ事件がありました。

“42名の武装勢力は、モスクワ中央部にある劇場ドブロフカ・ミュージアムで観客922名を人質に取り、第二次チェチェン紛争により進駐してきたロシア軍のチェチェン共和国からの撤退を要求した。これが受け入れられない場合は人質を殺害、自分達も爆弾を使って劇場ごと自爆すると警告。これに対し、ロシア当局は強硬な態度を示し、武装勢力の要求を事実上拒否して武装勢力は追い詰められた。

その後武装勢力は、10月26日朝までに自分達の要求が受け入れられなければ人質を殺害するという最後通告を行ったため、緊張が高まった。政府はこれに対し交渉を行うとの声明を出したが、実際は突入への準備が行われていたといわれる。26日の午前6時20分頃に特殊部隊が突入。スペツナズと呼ばれる、軍の精鋭部隊である。その際、特殊部隊は犯人を無力化するためにKOLOKOL-1と呼ばれる非致死性ガスを使用した。直後に異変に気付いた武装グループと特殊部隊との間で銃撃戦が発生したが、武装勢力側は全員死亡した。なお、突入の直前に犯行グループ側が人質を殺害したとの報道も流されたが、詳細は不明である。

ガスの使用については周囲に一切知らされておらず、解毒薬も特殊部隊の一部にしか与えられていなかったため、人質の救出と治療に問題が起き、最終的に人質129名が窒息死した。ロシア政府は当初、このガスの成分を一切公表しなかったが、後日ロシア保健相が麻酔薬であるフェンタニルを主成分にしたものであるとの発表を行った。しかし、詳細な成分については今なお不明である”【ウィキペディア】

プーチン氏が首相就任直後に起き、チェチェン侵攻のきっかけとなり、その強硬姿勢が国民に支持されプーチン氏を大統領押し上げることにもなった1999年のロシア高層アパート連続爆破事件について、ロシア連邦保安庁(FSB)の自作自演説があるように、モスクワ劇場占拠事件にもロシア情報機関の関与を疑う声もあります。

真偽のほどはわかりませんが、そうした疑惑がもたれるところが、ロシア、そしてプーチン政権の体質を物語っているとも言えます。
「9.11」にも陰謀説がありますから、気にかけるほどの話ではないのかもしれませんが。

使用された“KOLOKOL-1”は、曝露後1〜3秒以内に効果を発揮して2〜6時間意識不明にすると言われている合成オピオイド(アヘン類似物質)だそうですが、大勢の人質がいるなかで解毒剤を用意せず使用するというのは、なかなか信じ難いものがあります。

“人質129名が窒息死”ということになれば、当然に当局の責任問題となりそうですが、そうならずに、むしろテロ鎮圧の断固たる姿勢がアピールされるところが、これまたプーチン政権らしいところです。
プーチン大統領は翌2003年9月に、「犠牲者はガスのために亡くなったのではなく、脱水症状、持病、心理的ストレスなどの複合的要因で死亡した」と記者団に語っています。

【「人質はテロリストの手でなく、当局の過失によって死傷した」】
ただ、さすがに犠牲者遺族のなかには納得していない者も少なくないようで、ロシア当局側対応について欧州人権裁判所に提訴もされています。

****モスクワ劇場占拠事件 欧州人権裁判所 判決下す****
欧州人権裁判所は、モスクワ中心部ドゥブロフカの劇場で発生したテロの被害者および犠牲者の親族たちからの申し立てを聞き入れた。裁判所の判決では、ロシア連邦保安庁(FSB)が何らかのガスを使用した後、テロの犠牲者には必要な医療支援が施されなかったと指摘されている。その結果、テロリストだけでなく大勢の人質も命を落とした。欧州人権裁判所はロシアに対し、総額125万4000ユーロの支払いを命じた。

ドゥブロフカでの悲劇は、2002年秋に起こった。人気のミュージカル「ノルド・オスト」が上演されていた劇場へ、約40人の武装集団が侵入し、女性と子供を含む912人を人質に取った。それから約3日後、特殊部隊が突入し、テロリストのほぼ全員が殺害された。テロの結果、約130人の人質が死亡した。

欧州人権裁判所は、64人からなるグループが提出した訴えを8年7ヶ月にわたって審理し、精神的苦痛に対して、それぞれに8000-6万6000ユーロの損害賠償を命じる判決を下した。(中略)

特殊作戦の組織者は、ガス攻撃に関する情報が医師らに伝えられなかったことに対しても非難を受けている。医師らは、銃撃などで負傷した人々を治療するする心構えだった。
劇場周辺で「救急車」に乗って待機していた医師たちは、毒物学の医師ではなく外科医たちだった。彼らは使用されたガスについて、またそのガスの除毒方法について知らなかった。だが、状況を別の面から見たならば、特殊作戦は秘密裏に実行されるものだ。
ロシア法務省のマチュシキン次官は、今後3ヶ月の間に文書が調査され、裁判所の判決に異議を申し立てるか否かについて判断が下されると伝えた。【2011年12月21日 The Voice of Russia】
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この判決後の当局側対応については知りませんが、基本的には、過失を認めるとか、そういうことは行っていません。

*****モスクワ劇場占拠から10年=130人死亡、真相解明遠く****
2002年10月、ロシア・モスクワの劇場がチェチェン独立派武装勢力に占拠された事件の発生から23日で丸10年が経過した。事件では4日目に突入した特殊部隊が劇場内にまいた無力化ガスにより、人質130人が窒息死。ガスの成分など詳細はいまだ非公表で、元人質や遺族らが真相解明を求めている。

テロリスト壊滅を優先する「人質救出作戦」は、04年に北オセチア・ベスランの学校占拠時に銃撃戦で330人以上が死亡した事件と合わせ、プーチン政権の「暗部」として国民に不信感がある。被害者の心の傷も癒えない。

元人質らの弁護士は「人質はテロリストの手でなく、当局の過失によって死傷した」と指摘。今年に入っても関係者の処罰を含めて捜査を求めたが、捜査当局は取り合わなかった。一方、反プーチン政権デモで勢いづいた野党勢力は、人質が犠牲となった26日に劇場で追悼集会を催す意向だ。【10月24日 時事】
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KGB出身のプーチン氏が率いる政権の強権体質
さて、プーチン大統領は、その体質によるところなのか、このところ強権的な姿勢を強め、メドベージェフ首相を排して権限を一元化する動きも見られています。

****反プーチン指導者を拘束=「政治捜査」と批判も―ロシア****
ロシア捜査当局は17日、5月の大統領就任式前日に行われた大規模な反プーチン政権デモに絡み、野党勢力「左派戦線」の指導者セルゲイ・ウダリツォフ氏を拘束した。妻のアナスタシアさんがラジオ局「モスクワのこだま」に明らかにした。

政府系テレビ局NTVは今月、ウダリツォフ氏の盗撮映像を基に「グルジアやチェチェンの勢力と結託して政権転覆を企てている」と特番で放送。その直後に捜査が開始されたことから「政治的な捜査だ」(反政権ブロガーのナバリヌイ氏)と批判されている。【10月17日 時事】
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****プーチン氏、閣僚更迭 指導部の派閥対立激化も****
ロシアのプーチン大統領は17日、叱責を受けて職務不能の状態に陥っていたゴボルン地域発展相を更迭した。
後任にはスリュニャエフ・コストロマ州前知事を任命した。5月のプーチン大統領就任後に閣僚が更迭されるのは初めて。内閣を率いるメドベージェフ首相の権威失墜と指導部内の派閥対立に拍車がかかる可能性がある。

プーチン氏は先月19日、大統領令で命じた施策が次期予算案に反映されていないと激怒し、ゴボルン氏ら3閣僚を懲戒処分にした。報道によると、同氏はこれを受けて職務続行の意思をなくし、「発病」を理由に登庁していなかった。
問題の大統領令は、プーチン氏が3月の大統領選で約束した“バラマキ公約”の実現を命じる内容。【10月18日 産経】
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****露、国家反逆罪を拡大…民主化連携の遮断狙う****
ロシア下院(定数450)は23日、国の安全を脅かす重大な犯罪を摘発する「国家反逆罪」の適用対象を大幅に拡大することを柱とする刑法改正案を可決した。
プーチン政権は、この法改正で、外国政府と国内の民主化勢力の連携を断ち切ろうとしている。

この法案を提出したのは、ソ連時代に反体制派を弾圧し、諜報活動を担った国家保安委員会(KGB)が前身の連邦保安局(FSB)。採決では、与党・統一ロシアなどの賛成375に対し、反対は2にとどまった。政権寄りの中道左派・公正ロシアは棄権した。上院の承認とプーチン大統領の署名を経て近く成立する。

プーチン政権は5月の発足以降、民主派勢力への圧力を強めてきた。今回の法案は、KGB出身のプーチン氏が率いる政権の強権体質と、欧米への不信感が投影されているとの見方が広がっている。【10月24日 読売】
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組織的な反プーチン運動を進めるための新組織「調整評議会」】
ロシア国内では、プーチン大統領への信頼はまだ根強いものがあります。
先日の8年ぶりの知事選挙でも、与党「統一ロシア」が勝利しています。
下記記事にもあるような制度的制約や「不正」の話もありますが、プーチン支持基盤の底堅さを示すものでもあります。

****ロシア地方選、与党勝利 行政当局の「不正」指摘も****
ロシアで14日、プーチン大統領の5月の就任以降、初めての統一地方選が行われ、5つの知事選など主要選挙で与党「統一ロシア」が勝利した。ロシアで知事の直接選挙が行われるのは約8年ぶり。

モスクワなど大都市部の反政権機運が地方には波及していないことに加え、行政当局側によるさまざまな“不正”も指摘されている。与党候補は5つの知事選で64~78%を得票したほか、6つの地方議会選でも統一ロシアが第一党となっている。

2004年に廃止された知事など連邦構成体首長の直接選挙は、昨年末にモスクワで反政権デモが相次いだのを受けて復活された。ただ、候補者は地方議員の5~10%の署名を集めねばならないなど制約がある。

選挙監視団体「ゴロス」は今回の地方選について、「さまざまな口実による候補者の排除やメディアを使った(不正な)選挙運動など、与党側には『行政手段』の乱用が見られた」と指摘。1人が複数回投票する「回転木馬投票」を含め約850件の不正情報が寄せられたとしている。

極東ウラジオストク市議選の投票率が13%にとどまるなど、有権者には政治への倦怠(けんたい)感もみられる。【10月16日 産経】
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ロシア国内での政権批判は、強権的姿勢とか人権弾圧といった側面への批判というよりは、政権・社会の汚職・腐敗体質への批判が強いと言われています。
反プーチン勢力は組織的な活動を行うために、電子投票で指導層を選出する試みを行っています。

****反プーチン民主化組織、汚職追及ブロガーら結集****
ロシアで、「反プーチン政権」を掲げて民主化要求を行う勢力を束ねて組織的な運動を進めるための新組織「調整評議会」のメンバー45人の顔ぶれが決まった。

メンバーは、8万人以上が参加して20~22日に行われた電子投票で選出された。投票では、汚職追及で知られるブロガーのアレクセイ・ナワリヌイ氏が4万3000票以上を獲得し1位となった。チェスの元世界王者ガリ・カスパロフ氏や、政権批判で知られるジャーナリストらも評議会入りした。

プーチン政権は、反対派への締め付けを強化している。大統領直属の捜査委員会は、今年5月に行われた政権への抗議デモの呼びかけ人の一人であるセルゲイ・ウダリツォフ氏に対し、外国から援助を受け騒乱を画策した容疑での捜査を10月中旬に始めた。【10月24日 読売】
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セルゲイ・ウダリツォフ氏に関しては、前出【10月17日 時事】にあるように、「グルジアやチェチェンの勢力と結託して政権転覆を企てている」との嫌疑がかけられています。
強権姿勢を強めるプーチン政権のもとで、こうした反プーチン民主化組織がどれほど活動できるのか・・・やや不安でもあります。

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