
(インドネシア・ジャカルタでの「華為技術」新製品発表会 “flickr”より By HuaweiDevice http://www.flickr.com/photos/huaweidevice/5752711619/)
【軍のサイバー攻撃・スパイ部隊に特別のネットワークサービスを秘密裏に提供?】
アメリカ下院情報特別委員会が8日、中国の大手通信機器企業2社について、対米スパイ工作にかかわるなどアメリカの国家安全保障への脅威になるとする調査報告書を発表し、両社の製品を排除するようアメリカ政府に求める報告書を発表したことが話題になっています。
****「対米スパイ工作関与」 米下院委、中国通信大手名指し****
米下院情報特別委員会は8日、中国の大手通信機器企業の活動が米国の国家安全保障への脅威になるとする調査報告書を発表、これら企業は中国共産党や人民解放軍と密接につながり、対米スパイ工作にまでかかわるなどと指摘した。
問題視された中国企業は、米市場でも製品などが広く流通している「華為技術」と「中興通訊(ZTE)」。報告書ではまず、両社の中国の党、政府、軍との特別な関係を挙げ、それぞれ社内に共産党委員会が存在し、企業全体が同党の意思で動くとしている。
そのうえで報告書は、華為技術が軍のサイバー攻撃・スパイ部隊に特別のネットワークサービスを秘密裏に提供していることを示す書類を、複数の元社員から入手したとしている。
報告書は、中国によるサイバー作戦の技術面で華為技術やZTEが枢要の役割を果たすとの見解を提示。これら企業の製品を米側の軍や政府、民間の電力、金融などのコンピューターシステムに組み込むと、中国側の操作により、同システムに破壊や混乱を起こすことが可能になるとしている。この種の情報の詳細は報告書の非公開部分に記されているという。
報告書はまた、華為技術の創業者の任正非総裁が人民解放軍の出身で軍との間に特殊な絆があり、孫亜芳会長が公安部門とつながっている疑いが強いとした。
その結果、両社の米国に対する活動は商業的とされても米国の国家安全保障への脅威になるとして、米企業の両社との取引自粛や、とくに政府や軍関連機関への調達禁止を勧告した。
下院情報特別委は、両社に知的所有権侵害や汚職、入国管理法違反など法律違反の行為が多いとして、米捜査当局にも刑事事件捜査の開始を要請したという。【10月10日 産経】
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「華為技術」と「中興通訊(ZTE)」は共に広東省深圳に本社を置く世界的通信機器メーカーで、特に「華為技術」は世界第2位の通信機器メーカーでもあります。両社ともに日本でも通信各社と事業を展開しており、「華為技術」は2011年2月に中国企業として初めて経団連への加入を果たしています。
今回下院調査は、2011年にアメリカ政府の外国投資委員会が、やはり華為技術と中国人民解放軍との不透明な関係を理由に、華為技術による3Leaf Systemsの買収を却下しましたが、このとき華為技術の副会長兼華為技術USA会長のケン・フー氏がアメリカ政府に宛てて出した「政府による徹底的な調査の実施によって、華為技術が一般的な民間会社であり、それ以外の何物でもないことが証明されることを確信している」という公開書簡がきっかけとなっています。
また、今回の「黒」判定報告は、アメリカ側の疑惑に対し、両社が明確に否定する内部文書等の証拠を提示しなかったことによるものです。
【「委員会は結論ありきだった」「危険な政治的干渉だ」】
中国側は、アメリカの“偏見”“政治的干渉”“自信の欠如”“競争を恐れる保護主義”として反発しています。
****通信大手にスパイ疑惑 中国猛反発「根拠ない」****
米下院情報特別委員会がスパイ行為の危険性を理由に、中国の通信機器大手「華為技術」、「中興通訊(ZTE)」との取引自粛などを勧告したことに対し、中国側が猛反発している。
中国商務省の沈丹陽報道官は9日、談話を発表して「根拠がない」などと反論。外務省の洪磊報道官も8日の記者会見で、「米議会が偏見を捨て、事実を尊重するよう望む」とコメントした。華為技術側も「委員会は結論ありきだった」「危険な政治的干渉だ」などと訴える声明を出した。
委員会は両社の背後にちらつく中国の“悪意”を示唆したが、両社は以前から政府や軍との密接な関係が疑われてきた。2010年にはインド政府が両社の製造部品に盗聴機能があるとして安全検査を厳格化。欧州連合(EU)も中国政府からの不当な補助金などに疑念を深めている。
華為技術は「報告書の目的は中国企業の米国市場参入の妨害だ」と主張した。中国メディアも「米政府は中国企業が米国に競争を持ち込むことを恐れている。自信の欠如は驚くほどだ。恐怖のあまり中国に過敏になっている」と米国の保護主義を批判。「中国は以前のように寛大ではいられない」と対抗措置を促した。
広東省深セン市に本社を置く両社は、ともに1980年代に創業。安価な労働力を武器に、通信設備や携帯端末、情報システムなどの開発・生産・販売で業績を伸ばした。
アジアやアフリカを足掛かりに欧米進出も果たし、販路は世界140カ国以上に拡大、海外での売り上げが全体の5割以上を占めるまでに成長した。
洪報道官は8日の会見で「中国の通信機器企業は、市場経済の原則に従ってグローバル経営を展開している」と述べたが、“スパイ疑惑”など進出先での摩擦も少なくないのが現状だ。【10月10日 産経】
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なお、オーストラリア政府は、華為技術と中国人民解放軍によるサイバー攻撃との関係は否めないと認定し、全国ブロードバンド・ネットワークへの入札参加を却下しています。【ウィキペディア】
インド政府も、盗聴機器などが組み込まれているとして事実上の締め出し措置をとっています。
イギリスでは華為技術製品に対する事前評価を行っているそうです。
また、カナダ政府も9日、政府の通信ネットワーク構築において、安全保障上の懸念から中国の華為技術を発注先候補から排除する可能性を強く示唆しています。【10月9日 ロイター】
真相はわかりませんが、国際的影響力で競合する立場にもある米中政治関係の政治的「人質」にとられているといった、華為技術などに同情的な見方もあります。
****華為技術はアメリカの政治的「人質」か****
米議会に「安全保障上の脅威」と決めつけられた世界第2位の通信機器メーカー、華為の苦しい立場
中国通信大手の華為技術(ファーウェイ・テクノロジーズ)にとって、アメリカ人の信用を勝ち取ることは至上命題だ。「人民解放軍と癒着している」「中国政府から過度の口出しを受けている」といった批判が出るたびに、世界第2位の通信機器メーカーに躍進した同社は必死に反論してきた。
それでも、事態は悪い方向に向かう一方だ。米下院情報特別委員会は10月8日、華為とライバル社の中興通訊(ZTE)の通信インフラビジネスをアメリカの安全保障にとって脅威と認定、両社の製品を排除するよう米政府に求める報告書を発表した。
真実はどうであれ、華為にとっては深刻な打撃だ。中国軍部の手先でないことを決定的な形で証明するのは困難な話。報告書では、製品に罠が仕掛けてあるという噂話や、同社が中国軍にサイバー戦争対応の部品を提供しているという政治家の主張が挙げられているが、それを裏付ける証拠はあまり示されていない。
それでも、一度付いた汚名は簡単には消えない。携帯端末から基地局なども手掛ける華為は、各国の政府というより消費者や企業に支持されて急成長を遂げてきた。だが企業幹部や愛国的なアメリカ人消費者は今後、「国家安全保障の脅威」とされた同社との取引を躊躇するだろう。
問題の元凶は華為ではなく、中国政府と、その国家資本主義モデルにある。1979年の国交樹立以来、米中の信頼関係は浮き沈みを繰り返してきた。
2001年には、中国が米ボーイング社から購入した江沢民(チアン・ツォーミン)国家主席の専用機に盗聴器が仕掛けられていた疑惑が浮上。両国関係は最悪の状態に陥った。中国政府がボーイングから旅客機200機を総額190億ドルで購入し、この件で和解するには10年を要した。
株式を公開しても解決にはならない
華為に巻き返しの手段はあるのか。噂されているIPO(新規株式公開)が実現しても、表面的な影響しかないだろう。同社はすでに財務内容を公開しているし、既に株式を公開しているZTEも今回の批判をかわせなかった。
むしろ、古参の役員ばかりで占められている取締役会を変革したほうがいいかもしれない。収入の3分の2を国外で稼いでいるのだから、国際経験の豊富な人材を取締役会に加えるのは当然ではないか。
とはいえ、一企業の力ではどうしようもないこともある。中国経済はあらゆる面で国家に細かく統制されており、中国企業が政府主導の経済から距離を置くことは不可能だ。中国の政治家に「中国代表」と評される華為が国外のビジネスを切り離すのは不可能だろう。
米中の政治的関係が改善する日まで、華為とZTEは政治的な「人質」という立場から逃れられそうにない。【10月9日 ジョン・フォーリー Newsweek】
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【米国市場を勝ち取ることを切望する中国企業という怪物】
アメリカの対応には、異質な中国の台頭に対する“脅威論”が背景にあるように思われます。
かつて日本が高度成長し、アメリカ市場で大きなウェイトを占めるようになったときも“黄禍論”がありました。
ただ、こうしたアメリカの対応にもかかわらず、現実問題としては、中国企業のアメリカ市場での存在はすでに大きなものとなっている点の指摘もあります。アメリカ人が大好きな「iPhone」も中国製品なしには成り立ちません。
****米国への参入を図る中国巨大企業****
急激な成長を遂げた強力な中国の通信企業は、米下院特別委員会が指摘する安全保障上の問題が真実であろうとなかろうと、米国市場にとって脅威的存在だ。
米国議会と、中国のネットワーク大手である華為技術(Huawei:ファーウェイ)との間の応酬においては、同社の製品が米国内の通信に、中国のスパイが不法にアクセスするためのバックドアを提供するかどうかということが大きな問題になっている。
しかし、大統領選挙を控える現在、政治家たちにとってはさらに恐ろしいものがありそうだ。米国市場を勝ち取ることを切望する中国企業という怪物だ。
華為技術は、1987年に香港の電話機器を輸入する小さな企業として設立されたが、2011年には売り上げ320億ドルの巨大通信ネットワーク企業にまで成長した。同社の成功は、研究開発に対する巨額の投資、新興市場を追及する企業戦略、常に競合他社よりも安く販売できる能力によるものだ。
華為技術の「Android」搭載スマートフォンは、米国以外の市場ですでに大きなシェアを獲得しているが、米国でも最近、低価格のスマートフォンメーカーとして急激にシェアを増やしている。(中略)
活況が続く米国のモバイルインフラ市場は、現在仏アルカテル・ルーセントとスウェーデンのエリクソンの2社が支配している。華為技術がそこに入り込むためには、低価格だけではなくシニアレヴェルの従業員やサーヴィスが必要になってくると(調査会社ガートナーのアナリストで、通信機器メーカーを担当する)ハックラー氏は指摘する。
華為技術にはその意思があるように見えるし、米国の通信分野を中国製品で溢れさせる方法もすぐに見つけるだろう。これは、(米下院特別委員会の主張が真実であるかどうかにかかわらず、)この秋の大統領選の候補者にとって政治的に思わしくない見通しだ。(華為技術側は、米国の政治家たちは保護主義を推進させるために今回の調査報告を行ったと主張している。)
それでも、今回の件に関わる政治家たちが、サイバーセキュリティーの名のもとに不当な貿易障壁を築こうとしていると見ることは、米国経済における最も単純な真実のひとつを見ないことでもある。それは、中国製の電子機器はかなり以前から、米国中を埋め尽くしているということだ。米国議会が実際に中国に続く門を閉じようとした場合、全国の有権者の手から「iPhone」をもぎ取らなければならなくなるだろう。アップル票を失うことは、まさに政治的自殺行為だ。【10月10日 WIRED】
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【中国系企業進出への警戒】
アメリカでは、9月にも中国系企業の事業が大統領からの中止命令受ける出来事がありました。
****中国系企業に事業中止命令=安全保障上の理由―米大統領****
オバマ米大統領は28日、中国系の電力開発企業ラルズ・コーポレーションに対して、同社が行っているオレゴン州での風力発電開発プロジェクトを中止するよう命じた。発電所の敷地の一部が隣接する海軍施設の規制空域と重なることを理由としている。
財務省が発表した。外交問題評議会(CFR)によれば、大統領が安全保障を理由に外国投資の中止命令を出すのは20年以上ぶり。外国投資が米国の安全保障を損なう場合、大統領には中止を命じる権限が付与されている。
米メディアによれば、ラルズ・コーポレーションは今年3月、オレゴン州の風力発電プロジェクトに参入。外国投資委員会(CFIUS)が7月に入って、一部事業の中止を求めていた。財務省によれば、ラルズ・コーポレーションは中国籍を持つ人物に所有されており、中国の建設機器企業とも関連がある。今回の決定を受け、同社は2週間以内に敷地内の全ての設備の撤収を求められる。【9月29日 時事】
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こうした中国企業進出への警戒感はアメリカだけではありません。カナダでも中国の国有企業によるカナダ石油大手の買収計画が問題となっています。
****「中国の買収」に批判噴出 カナダ石油大手 議会や自治体が危機感、計画白紙も****
中国の国有企業によるカナダ石油大手の買収計画が宙に浮きかけている。新興国へ資源権益を売り込むハーパー政権に対し、議会や自治体から批判が噴出。中国企業の北米資源への食い込みを警戒する米国でも慎重論が高まる中、買収計画の頓挫や見直しにつながる可能性も出てきた。
論議を呼んでいるのは、中国海洋石油が7月に発表したカナダ企業ネクセンの買収計画。買収総額は151億ドル(約1兆1900億円)で、中国企業で過去最大のM&A(企業の合併・買収)としても話題を集めた。
しかし、ハーパー首相は4日、「この案件は難しい政策上の問題を提起した」とした上で、「われわれは一般に外国投資を歓迎してきたが、拒否したこともある。カナダにとって純粋に利益になるかどうかで判断する」と述べ、ネクセンの身売りが白紙に戻る可能性に言及した。ネクセンのレインハート最高経営責任者(CEO)も「国益の観点から議論を尽くすことは健全だ」としている。
ハーパー政権は、米国に依存してきたカナダ産石油の売却先を新興国にも広げる政策を推進。ネクセンの身売り計画もその一環だが、野党新民主党は「中国がカナダの天然資源を買い占めるのを容認するのか」と政府を批判し、ハーパー首相に買収計画への拒否権発動を要請した。
同党のマーティン下院議員は、衣料品やハイテクで中国に雇用が奪われているとも指摘し、買収を承認すれば「国家への反逆だ」と語気を強める。首相の属する保守党にも同調する声が上がり始めた。(中略)
一方、中国側は雲行きの怪しさに危機感を抱き、「カナダ当局が公平で客観的な判断を下すよう望む」(陳徳銘商務相)と牽制(けんせい)を強めている。カナダのオリバー天然資源相は8日、審査を10月半ばに終える方針を示したが、先送りの可能性も示唆した。騒動の大きさに難しい判断を迫られそうだ。【10月11日 産経】
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国家・政治と企業との繋がりは別に中国企業に限った話ではないでしょうが、中国社会の異質性、中国の行動様式から、一定に警戒されるのはやむを得ないところでしょう。
華為技術の急成長の背景には、先発企業の技術・ソフトの盗用、輸出相手国へ中国政府が信用供与して買わせるといった国家との一体構造が存在するという指摘もあるようです。