
(アテネ、10月9日 ドイツ・メルケル首相のギリシャ訪問に、“ギリシャに緊縮策を押し付ける張本人”と抗議する人々 EUのノーベル平和賞受賞も彼らには“悪い冗談”です。 ギリシャ政府はアテネ市中心部でのデモを禁止しましたが、主要労組や野党などは緊縮策に抗議してデモを実施。一部は暴徒化し、7千人以上が動員された警察への投石を繰り返しました。 “flickr”より By Consider These - Τα υπ' όψιν http://www.flickr.com/photos/taypopsin/8071215296/)
【「危機からの出口は近い」】
経済危機で揺れる欧州で、ようやく明るい展望が示されるようになりました。
フランス・オランド大統領は、「危機からの出口は近い」という認識を示しています。
背景には、懸案のギリシャ財政再建について、EU・IMFとギリシャの間で支援融資をめぐる基本合意がようやくまとまりそうな状況になったこと、動向が注目されていたスペインに関しては、大手格付け会社がスペイン国債の格下げを見送ったことを好感した市場で、国債利回りが半年ぶりの低水準まで低下(価格は上昇)していること、更にはEUのノーベル平和賞受賞といったこともあるかと思われます。
****仏大統領“危機からの出口近い”*****
18日に始まるEU=ヨーロッパ連合の首脳会議を前に、フランスのオランド大統領は、信用不安問題について、「危機からの出口は近い」という認識を示したうえで、年内にギリシャの財政再建や域内の銀行を共同で監督する「銀行同盟」の実現にめどをつけたいという考えを示しました。
オランド大統領は、EUの首脳会議を前に、フランスやドイツなどヨーロッパの主要な新聞6紙の共同インタビューに応じました。
この中でオランド大統領は、信用不安を抑えるため、これまでにユーロ圏はさまざまな対策を決めたとしたうえで、「危機からの出口は近い」と述べました。
そのうえで、今後は決定したことを実行に移していく必要があるとして、年内にギリシャの財政再建や域内の銀行に対する監督や救済を共同で行う「銀行同盟」の実現にめどをつけたいと強調しました。
また、EUがノーベル平和賞に選ばれたことについて、オランド大統領は「過去に対する称賛と未来に対する呼びかけだ」と述べ、信用不安が続くEUに奮起を促したものだという認識を示しました。
フランスと共にEUを引っ張るドイツとの2国間関係については、オランド大統領は、排他的なものではないとしたうえで、フランスの責任はヨーロッパの結束を確かなものにすることだと強調しました。【10月18日 NHK】
********************
【今後数日で基本合意を目指す】
そのギリシャですが、上述のように支援融資をめぐる基本合意がまとまりそうだと報じられています。
****「今後数日」で合意目指す=ギリシャ融資協議―EUとIMF****
財政危機に陥ったギリシャへの支援融資をめぐる協議で、欧州連合(EU)と国際通貨基金(IMF)などの合同調査団は17日、今後数日で同国との基本合意を目指す方針を発表した。
調査団は、融資の前提としてギリシャが取り組む緊縮策や構造改革の大部分で同国と合意に達したが、幾つかの課題は未解決だと指摘。労働市場改革などを引き続き協議するとみられる。【10月18日 時事】
********************
【政府はIMF、EU、ECBの『トロイカ』と一体となって、国民を愚弄している」】
しかし、緊縮財政に対する国民の抵抗は強く、2大労組のゼネストもあって、サマラス首相が目指したEU首脳会議前の緊縮策策定は実現しませんでした。
****ギリシャ緊縮策、2大労組ゼネストで策定できず****
ギリシャの2大労組は18日、同国が欧州連合(EU)などから支援を受けるために追加的な財政緊縮策を導入することに抗議し、24時間ゼネストを行った。
同日からEU首脳会議が始まるのに合わせた。アテネなどで大規模デモが行われる。
国民の反発と、緊縮路線強化を求めるEU側との板挟みに遭い、連立与党内の足並みは乱れ、サマラス首相が目指したEU首脳会議前の緊縮策策定は実現しなかった。
公務員賃金や年金削減などが盛り込まれる緊縮策は「ほぼ合意できた」(EU側調査団)が、EU側が今週に入り、民間労働者の解雇補償の半減や公務員数削減などを求め、連立与党内の左派系政党が猛反発して調整が行き詰まった。【10月18日 読売】
********************
ギリシャ国内では、生活難への不安や移民への排斥的な風潮など、社会不安が広がっています。
****ギリシャ:「緊縮策反対」ゼネスト 広がる社会不安****
財政再建下のギリシャ全土で18日、さらなる財政緊縮策の実施に抗議するゼネストと大規模デモが繰り広げられた。ギリシャ政府は国際通貨基金(IMF)、欧州連合(EU)などとの間で、支援条件である追加緊縮策について大詰めの協議に入っているが、生活難に直面する国民には不満が根強く、社会不安が広がっている。
ストは官民2大労組などの呼びかけ。フェリーや地下鉄・バスの労働者、空港管制官、タクシー運転手らも参加し、ビジネスマンや観光客の足に乱れが出た。遺跡や公立博物館などが閉鎖され、医師、薬剤師、銀行員らもストに同調した。
IMF、EU、欧州中央銀行(ECB)は、ギリシャ政府が315億ユーロ(約3兆2700億円)の支援を受ける条件として、135億ユーロ規模の追加緊縮策の実施を求めている。17日までの交渉で緊縮策の大半は合意されたが、解雇労働者に支払う退職金の減額や、公務員1万5000人の人員整理を巡り、双方で意見の対立が残っている。
デモに参加した鉄鋼労組のミハリス・バクゼヴァニスさん(40)は「我々が欲しいのはカネではなくて、仕事だ。政府はIMF、EU、ECBの『トロイカ』と一体となって、国民を愚弄(ぐろう)している」と怒りをぶちまけた。
25%に上る高失業率や、給与カットなどに伴う国民消費の冷え込みで民間企業の売り上げも落ちている。靴の輸入・小売業を営むディミトリス・ハリトスさん(58)は「ここ4、5年で店舗数は半減した。このままではやっていけない」と嘆く。
移民への風当たりも強い。アテネ中心部の北部にある移民地区で兄の雑貨店を手伝うバングラデシュ出身のシャリフさん(28)は「いとこが極右グループに殴られて歯を折られた。客足も減っている」と浮かぬ顔で語った。【10月18日 毎日】
***********************
【“内向き”“外向き”】
そうしたギリシャにあって、観光業は好調のようです。その中心になっているのはロシア、イスラエル、中国からの観光客だそうです。
****ギリシャ:債務危機克服へ 豊かな観光資源に期待****
債務危機で財政再建に取り組むギリシャで観光産業が独り気を吐いている。ロシアや中国などからの旅行者の増加で、来年には観光客数が上向く見通しだ。緊縮財政と社会安定の両立を迫られているギリシャ政府は、豊かな観光資源を経済回復に結びつけ、起死回生の活路を見いだそうとしている。
ギリシャの首都アテネにある古代ギリシャの都市遺跡アクロポリス。10月中旬とはいえ気温29度を超す残暑の中、観光客がパルテノン神殿の建つ丘を登っていく。「訪問者は年間700万〜800万人。経済危機の影響はほとんどない」。警備のヨルゴス・カラジシさん(49)が語る。
昨年、ギリシャを訪れた観光客は人口(約1130万人)を上回る約1650万人。今年もほぼ同水準になるとみられ、来年には6%の増加が見込まれている。観光産業は現在、国内総生産(GDP)の約16%を占め、推定約76万人の雇用を生み出している。
ギリシャ観光省のヤニス・ピルヨティス観光インフラ投資局長は毎日新聞の取材に「観光産業は危機によく耐え、経済の原動力になっている」と強調する。これまではドイツ、英国などの欧州からの来訪者が多かったが、最近ではロシア、イスラエル、中国からの観光客が増えているという。
中国人カップルの竺迦倫(じく・かりん)さん(29)と唐瑩哲(とう・えいてつ)さん(29)はエーゲ海に浮かぶギリシャ・サントリーニ島で結婚式を挙げた。挙式後、アテネ観光を楽しむ2人は「ギリシャは歴史と建築で知られ、美しい国だ。ハネムーンにはとても良い」と話す。
財政緊縮策で行政のスリム化を迫られているギリシャ政府だが、これまで文化省の傘下にあった観光省を単独省庁として独立させるなど、観光は特別扱いの状態だ。政府は今後、観光サービスの向上や地中海クルーズの強化に力を入れる。
シンクタンク「ギリシャ欧州外交政策財団」のディミトリス・ソティロプロス研究員は「観光客がカネを落とす経済面の効果だけでなく、ギリシャが内向きにならず、今後も欧州統合を進めていく観点からも他国民(観光客)との接触は大事だ」と指摘する。【10月18日 毎日】
**********************
確かに、顔を外に向けた姿勢が重要な観光産業というのは、“ギリシャが内向きにならず、今後も欧州統合を進めていく観点”からも意味があるように思われます。
中国からの観光客増大については、先週まで旅行していたアメリカでも強く感じました。ラスベガスで、有名なショーが終わって劇場から出てくる客の3~4割が中国人観光客ではないかという状況に驚きました。
街をあるいていても、有名ブランド店の袋を提げた中国人観光客をいたるところで見かけます。
以前はアジア系観光客といえば、圧倒的に日本人だったのですが。
日本の若い人は、あまり海外に遊びでも仕事でも出たがらないという傾向も最近ききます。日本という国が“内向き”になっているのでしょうか。政治的傾向にもそんな影響があるようにも思えます。