
(TV討論会では、対中強硬策を主張するロムニー氏に対しオバマ大統領は、ロムニー氏が中国への投資を行っていると、その姿勢を批判していますが・・・・ “flickr”より By multimediaimpre http://www.flickr.com/photos/79137904@N07/8095766687/)
【食料備蓄を増やすイランを支える米輸出】
イランの核開発問題で、アメリカが主導して対イラン経済制裁を行っていることは周知のところです。
“米国は1995年から米企業によるイランとの取引を禁止し、翌年にはイラン向け石油・ガス開発投資を行った外国企業に対し制裁を課す対イラン・リビア制裁法(ILSA)を成立させた。加えて02年には、現在に至るまで欧米諸国とイラン最大の摩擦となっている未申告の核開発が発覚。米国はイラン銀行と取引を行う外国の銀行を制裁対象にするなど、順次制裁を強化していった。11年12月にはイラン中央銀行と金融取引を行った外国金融機関に対し、米国での銀行間決済を禁止する規定を含む米国防授権法が成立。今年に入り欧米はイラン産原油の輸入を実質的に削減もしくは禁止するなど、締め付けを一段と強化していた”【10月4日 EMeye】
アメリカは自国企業だけでなく、日本を含めた関係国に対イラン取引制限を要求しています。
経済制裁によって、イラン通貨リアルが暴落するという“効果”が現れていることもあって、アメリカに同調するEUは、天然ガス禁輸などを含む制裁強化で合意しています。
****イラン:EUが新たな制裁策で合意 天然ガス禁輸など****
欧州連合(EU)は11日、天然ガス禁輸を含む新たなイランへの制裁策で合意した。今年7月に完全実施した原油禁輸制裁が功を奏したと判断し、さらに通商、金融、エネルギー、交通の4分野で総合的な制裁をまとめた。15日に開かれる外相会合で正式に合意し、できるだけ早い時期の実施を目指す。
イランは世界第5位の天然ガス生産国。EU加盟国はイランから直接ガスを輸入していないが、イランのガス輸出の9割はトルコ向けで、トルコからガスを輸入しているEU加盟国もある。
このため今回の制裁は、トルコなどにも圧力をかけることになりそうだ。
EUは、イランが核開発を巡る国連安保理常任理事国やドイツとの交渉を停滞させる一方、核兵器開発に容易に結びつきかねない20%のウラン濃縮を継続していることを懸念。イスラエルによるイランへの攻撃を避けるため、20%濃縮の停止を求めている。
新たな制裁は「原油禁輸が効果をあげており、政治解決のためには強化の必要がある」(ウェスターウェレ独外相)との判断から、英独仏が中心となって提案していた。【10月12日 毎日】
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そうしたなかで、アメリカからイランへの輸出が急増しているという、一見不思議なニュースがありました。
****米国:対イラン輸出急増…食料備蓄強化が後押し****
米欧諸国による対イラン経済制裁が強まる中で、米国がイランへの輸出を伸ばしている。今年は8月までの輸出額が1億9950万ドル(約160億円)で、昨年同期比で32%増加した。制裁の主導役である米国が各国にイラン貿易の抑制を呼びかける一方で、自国の輸出を伸ばして利益を得ている格好だ。
ロイター通信によると、伸びが大きいのは小麦など穀物類で8920万ドル(昨年同期比324%増)。ほかにも乳製品2030万ドル(同160%増)、医療関連品800万ドル(同70%増)などが急増している。
イランの核開発問題を受けて米国は、国連安保理決議に基づく制裁を主導してきたほか、国内法を通じて制裁を順次強化してきた。各国に対しては、イランとの取引を減らすよう促す。
しかし、食料や医薬品などの取引は制裁の対象外とされており、輸出を伸ばしている。また、一連の制裁の影響で、イラン国内では物価高が深刻化。イラン政府は輸入を強化し食料備蓄に力を入れており、米国の輸出増を後押ししている。
イランでは現地通貨リヤルが暴落し、鶏肉や野菜、果物など食料品の物価が上昇、市場が一時パニック状態になった。
こうした事態を受け、イラン政府は7月末、鶏肉や小麦、砂糖などの基本食料の輸入を進め、3カ月分を備蓄するように大統領令を発令。食料備蓄を含め、輸入増強のため240億ドル(約1兆9000億円)を予算化している。
イランの半国営ファルス通信は15日、「制裁下にもかかわらず、イランの魅力的な市場が米国の生産者に輸出を促している」と伝えた。【10月18日 毎日】
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“食料や医薬品などの取引は制裁の対象外”というのは初めて知りましたが、原油禁輸でぎりぎり締め上げ、関係国にも協調を半ば強制している一方で、イランの食糧備蓄を支える形でアメリカの対イラン輸出が急増しているというのは、なんともすっきりしない現実です。
オバマ・ロムニー両候補のTV討論において、対中政策でロムニー氏が「中国を締め上げ、為替操作国に認定する」と強硬姿勢を打ち出したのに対し、オバマ大統領はロムニー氏が中国への投資を通じて「雇用を中国に流出させた」と強調、対中強硬姿勢を取るのに最もふさわしくない人物だとこき下ろしたとのことですが、アメリカの対イラン食糧輸出も似たような話にも見えます。
【最近の日本は中国よりも遥かに米国債の購入に積極的】
一方、大統領選挙でも財政支出増大がひとつの論点となっているように、アメリカは大きな財政赤字を抱えています。
****米財政赤字、前年度比16%減 4年連続1兆ドル超****
米財務省は12日、2012年会計年度(11年10月~12年9月)の財政赤字が約1兆1000億ドル(約86兆円)になったと発表した。赤字幅は前年度比16%減と大幅に縮小したものの、4年連続で1兆ドル超となった。
2012年度の財政赤字は、9月に計上した約750億ドル(約5兆900億円)の黒字に支えられ、前年度比で約2070億ドル(約16兆円)縮小した。バラク・オバマ(Barack Obama)政権は赤字幅の縮小を、歳出削減と新規歳入増加に成功した結果だとしている。しかし赤字幅は依然として非常に大きく、来月の大統領選で政権奪回を目指す共和党陣営にとって格好の非難材料となった。
歳入は前年度比6.4%増の約2兆4500億ドル(約192兆円)。法人税収入などが伸びた。
歳出は同1.7%減の約3兆5400億ドル(約277兆円)。財務省は歳出減の要因として、米軍のイラク撤退とアフガニスタン駐留部隊の縮小に伴う支出削減と、景気刺激策関連支出の減少を挙げている。しかし防衛費削減分の大部分は、社会保障関連支出の増加により相殺された。
2012年度の財政赤字は国内総生産(GDP)の7.0%に相当し、前年度の8.7%からは減少したものの、エコノミストらは長期的に持続不可能なまでに高いままであると指摘している。【10月13日 AFP】
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そうした財政状況の悪いアメリカの国債を大量に引き受けているのが日本と中国ですが、一時トップに立った中国が手を引き始めているため、日本が再び最大の対米政権国になる勢いだとか。
****米最大の債権国の座は中国から再び日本に****
中国が米国債から手を引いて、日本がトップに再浮上。再び影響力を取り戻せるか
日本が中国に代わって世界最大の対米債権国の地位に返り咲きそうだ。
ブルームバーグ・ニュースは今週、「金融危機のピーク以降初めて、中国がアメリカの最大の債権国の地位を失う見込み」と報じた。アメリカが財政を中国に依存し過ぎている、という共和党の大統領候補ロムニーのオバマ批判も説得力が弱まりそうだ。
米財務省の統計では、今年8月時点で中国が保有する対米債権額は1兆1540億ドル。同時期の日本の債権額は1兆1220億ドルだが、ブルームバーグによれば来年1月までに中国を追い越す見通しだという。
アメリカのオンライン紙「サイバーキャスト・ニュース・サービス」は今年5月の記事で、最近の日本は中国よりも遥かに米国債の購入に積極的だと報じている。「過去3年で中国がほぼ完全に米国債の購入から手を引いたのと対照的に、日本は米国債の購入を増やしている」
この日中交代劇は、来月6日に投票を控える米大統領選にも影響を及ぼすだろう。対日外交の重要性が今より上位になる可能性もある。【10月18日 Newsweek】
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中国が米国債から手を引き始めた背景、米国債を買い進める日本の思惑・・・そのあたりの事情は知りませんが、米国債が値崩れしたら日本も大損害を被ります。
もっとも、米国債を云々する以前に、やはり大きな財政赤字を抱える日本国債の動向の方が問題かも。