孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

台湾  香港での抵抗運動を受けて、中国が主張する「一国二制度」への批判が鮮明化

2014-10-14 22:31:48 | 東アジア

(台湾 4月10日 「ひまわり運動」に参加した女性 “flickr”より By 黃毛 a.k.a. YELLOW https://www.flickr.com/photos/yellowmo/14282941489/in/photolist-nL8NTT-mkeMQx-mkfuHT-mhe4AQ-mhe4dA-mWjk2b-9pYreQ-mx86KH-mG57Zs-mJsxcu-mzMzQv-msS2Ln-msLDnf-mhd6fH-mAjPhR-meS9gp-moayda-mTQ5Lr-mWfK47-mhcZix-mCsbJT-mCtFzA-mhd5Fr-mhd5uK-mhe96m-mwjMhT-mwjUQ6-mwmvf8-mkgQDd-mqQiDa-mqPKrg-muoDdQ-nhw55z-mkAXQD-mqwjdT-mqvKKt-mCtHBG-mqxAfG-6t7VxD-mwnKmb-mx89Fc-msLEjq-mKgUGP-mCtEG3-mA7t3W-mNbjWW-mvJbt2-mSEfGc-mCtJHu-mj3K98)

厳しい香港の情勢
香港の行政長官選挙制度の民主化を求める学生・市民らの抵抗運動(通称「雨傘革命」)については、主権が中国に存在すること、及び経済的にも、特に2003年のSARSによる経済危機以降、中国本土経済への依存を強めていることを考慮すると、政治的に香港独自の立場を実現するというのは非常に難しく、結果が期待できない運動を大衆運動として長期に継続することもまた難しいように思われます。

“香港について言うと、民主主義を求める戦いが遅すぎた。中国は今、香港を支配下に置いている。香港の学生たちは2017年の行政長官選挙での完全な民主主義を要求しているが、彼らに変革の力はほとんどない。
加えて習主席には、(台湾の民主主義を確立した)蒋経国のような政治的改革者として歴史に残ろうという意思がない。”【10月10日 WSJ】

【馬総統「(香港の学生デモについて)完全に理解し支持できる」】
一方、台湾に関しては、9月27日ブログ「台湾・馬政権の苛立ち 香港で問われる「一国二制度」の実態」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20140927)でも取り上げたように、台湾側の学生の立法院議場占拠という実力行使(通称「ひまわり運動」)によって、中台間の医療や金融などサービス分野の市場を相互に開放する内容の「中台サービス貿易協定」交渉が停滞していることに、中国・習近平国家主席及び台湾・馬英九総統ともに苛立ちを隠せません。

そのような状況で、習近平主席は9月26日、改めて「一国二制度」を表に持ち出しました。

「一国二制度」による中台統一は中国側の基本方針ではありますが、習氏は今年2月、台湾の連戦・元副総統と会談した際には「両岸は一家の情」などと強調し、数百年前に中国から台湾に渡った人たちなどにも触れるなど親しみやすさをアピールするなど、台湾側に抵抗感が強い「一国二制度」の表現は最近は敢えて避けていました。

今回発言は、台湾の野党「新党」の郁慕明主席ら中国との統一を求める団体の代表団との会談の席での発言ということで、「中台サービス貿易協定」交渉停滞への不満及び台湾の“統一”を求める勢力へのエールと同時に、志を同じくする仲間内の気安さもあったかとも推察されます。

****中台統一へ妥協ない」 習主席、強硬姿勢へ変化****
中国の習近平(シーチンピン)国家主席は26日、台湾の統一派訪問団と北京で会見した。「国家統一という重大問題では我々の立場は堅く、一切の妥協や動揺はない」と述べ、中台統一への強い思いを示した。発言全体のトーンはこれまでの台湾関連発言に比べて強硬で、台湾政策が調整された可能性がある。

中国の新華社通信によると、習氏は、香港やマカオで行われている「一国二制度」による平和的な統一が「中台統一の最も良い方式だ」と言及した。

一国二制度での統一は中国の以前からの方針だが、台湾の聯合晩報によると、習氏が提起したのは2012年の共産党総書記就任後初めて。

同制度は香港行政長官の選出方法をめぐって限界が指摘されており、もともと受け入れを拒んできた台湾の総統府は「全く受け入れられない」と改めて反論。反発が広がる可能性がある。

習氏はまた、「国家の統一は中華民族が偉大な復興に進む歴史の必然」と主張。「台湾同胞も、大陸の13億人の同胞の受け止めや気持ちをもっと理解すべきだ」と求めた。

さらに、「台湾独立の分裂勢力は両岸の敵意と対立をあおっている。関係の平和的発展における最大かつ現実的な脅威だ」と強く警戒。「いかなる国家分裂の行為も絶対に容認しない」と牽制(けんせい)した。(後略)【9月27日 朝日】
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“もともと受け入れを拒んできた台湾の総統府は「全く受け入れられない」と改めて反論”というのは想定されたところでしょうが、習氏の「一国二制度」発言の直後にあたる9月28日から、「一国二制度」の実際モデルである香港で中国側の「反中国の人物の立候補は事実上不可能」とする“普通選挙”方式に対する学生らの抗議運動が急速に拡大したことで、台湾側・馬政権の「一国二制度」への反発も一段と強固で現実を踏まえたものとなっています。

****台湾の馬総統、香港デモ支持 「一国二制度」形骸化に警戒感****
台湾の馬英九総統は29日、香港で続く行政長官選挙の制度改革をめぐる学生のデモについて、「完全に理解し支持できる」と述べた。

また、中国政府に対し「香港の民衆の声を聞き、平和的で慎重な態度で処理する」よう呼びかけ、警官隊による強制排除を批判した。

中国の習近平国家主席が最近、台湾への「一国二制度」の適用に言及したこともあり、台湾では同制度の下にある香港で中国側が統制を強めていることへの警戒感が広がっている。
                  ◇
(中略)1996年に総統直接選挙を導入した台湾では、香港の民主化運動への同情心が根強い。
加えて、習氏が26日、一国二制度による中台統一を提起したことが、香港への関心をより高める結果になっている。

総統府は26日夕、一国二制度について「中華民国(台湾)は主権国家であり、政府、人民ともに受け入れられない」とする報道官談話を発表。その中で、「台湾と香港は全く異なる。台湾は民主国家であり、自らの総統、国会を選出している」とする馬氏の過去の発言を紹介した。

29日付の聯合報は、習氏が一国二制度を台湾に適用する際に「台湾の現実の状況を十分、考慮する」と述べたことを挙げ、香港の現状も「十分、考慮すべきだ」と批判した。

台湾の学生運動の参加者らは28日夜の記者会見で、香港市民への支持を表明。天安門事件の学生指導者で、台湾の大学で教える王丹氏は「香港は前哨戦にすぎず、次の一歩は台湾だ」と警戒を呼びかけた。

学生らは29日、香港当局の対台湾窓口機関が入る台北市内のビルに侵入を試み、警官隊ともみ合いになった。【9月30日 産経】
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馬総統は10月10日の辛亥革命を記念する「双十節」式典でも、改めて香港で続く大規模デモに「確固たる支持」を表明し、「今こそ中国大陸が民主憲政に踏み出すのに最も適した時機だ」と述べ、中国に民主化を促しています。

****香港デモに「確固たる支持」 台湾・馬総統****
台湾の馬英九総統は10日、中華民国の誕生につながった辛亥革命を記念する「双十節」の式典で演説し、香港で続く大規模デモに「確固たる支持」を表明した。また、「今こそ中国大陸が民主憲政に踏み出すのに最も適した時機だ」と述べ、中国に民主化を促した。

馬氏が双十節の演説で中国に民主化を呼びかけるのは、辛亥革命100年の2011年以来、3年ぶり。天安門事件が起きた6月4日に出す毎年の談話では言及するが、双十節で詳しく触れるのは異例だ。

馬氏は、香港の現状について、トウ小平の「先富論」を挙げ、「今日の香港で『一部の人が先に民主化する』ことがなぜできないのか」と民主派の要求に応じない中国政府を揶揄(やゆ)。

香港と中国の民主化の進展は「指導者が改革に臨む際の智恵と度量にかかっている」と、習近平指導部に譲歩を促した。

その上で、1997年の香港返還時に中国が確約した行政長官の普通選挙などを実現することが、中国と香港双方の利益になり、中台関係の発展にも資すると訴えた。

馬氏は9月29日にも、香港のデモに支持を表明している。【10月11日 産経】
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中国側は、この馬総統発言については直接の批判は避け、静観の構えです。

なお、馬総統・台湾国民党側の「ひとつの中国」に関する認識は、「一国二制度」ではなく、中国側が台湾と同じような民主化を行えばよいというものです。

“馬英九総統も、「われわれは一国二制度を受け入れないと表明してきた」と指摘。自らの言葉として「よい制度なら、1国に制度は1つでよいはずだ」と、「一国二制度」との考え方にはそもそもおかしな点があると論じた。馬総統は具体的には論じなかったが、国民党には「中国大陸はいずれ、国民党の党是である『三民主義』の社会になる」との考え方があり、中国はむしろ、台湾側に体制を合わせるようになるとの考えと言ってよい。”【9月30日 Searchina】

中国 国民党への不信感 北京APECでの首脳会談拒否
こうした中台関係の状況下で、北京で11月に行われるAPECにおける中台首脳会談も見送られています。

****中台首脳会談、中国が拒否 馬総統出席認めず 北京APEC****
台湾の馬英九(マーインチウ)総統は8日、11月に北京で開かれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議に、台湾代表として蕭万長(シャオワンチャン)・前副総統を派遣すると決めた。

台湾は馬氏のAPEC出席と、中国の習近平(シーチンピン)国家主席との初の中台首脳会談実現を目指していたが、中国が受け入れなかった。

馬氏は2008年の就任以来、中台関係の改善に取り組み、首脳会談の実現に意欲を見せていた。ただ、中台はお互いの政権を認めていないため、台湾総統や中国国家主席としての会談は難しい。
このため、台湾側は各国・地域の首脳が「経済体の代表」として集まるAPECが会談に最適と位置づけていた。

中国側は「両岸(中台)の間の話であり、国際会議の場を借りる必要はない」などと、一貫してAPECでの会談を否定してきた。

台湾総統はこれまでAPEC出席を認められておらず、出席の「前例」をつくることを避けたとの見方がある。馬氏がオバマ米大統領や安倍晋三首相らと会談した場合、「中台は別々」との印象を深めかねないとの懸念もあった。

中台交渉に携わった台湾高官が秘密を漏らした疑いで更迭される事件もあり、中国側には、こうした状況下で会談すればかえって台湾社会の反発を招く、との判断もあったと見られる。【10月9日 朝日】
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馬総統出席・首脳会談実現については、もともとは中国側の希望が先行していたとも言われています。
その後、馬総統側も乗り気になったのですが、結局は中国側が拒否したという形になっています。

背景には、最近の中台関係もありますが、中国側の馬政権に対する不信感などもあるように思われます。

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中国の習近平国家主席は、台湾側と結ぼうとしていたサービス貿易協定が台湾の学生などによる猛反発により挫折したことなどで、「国民党は(台湾の世論について)事実とは異なるシグナルを送ってきていた」ともらしたという。

調査によっても異なるが、台湾では馬英九政権への支持率が10%に満たない状況が続いている。

大陸側にとって、サービス貿易協定の挫折は「馬英九の大失態」だった。

中国共産党は台湾の政情を踏まえ、「支持率が低く政策の実現も出ない台湾の指導者との親密さを示したのでは、台湾における中国大陸側への反発が増す。得策ではない」と判断したと考えられる。【10月9日 Searchina】
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香港は今や「悪い前例」 遠のく台湾再統一
いずれにしても、香港の抵抗運動による混乱は、改めて中台間の溝を認識させるところとなっており、「一つの中国」実現という習近平主席の「中国の夢」を更に遠ざけることにもなっています。

****しぼむ「一つの中国」の夢―香港の混乱で****
現代中国の指導者たちにとって、「一つの中国」の夢の実現以上に愛国的な重要性を持つ任務は他にない。

小平は、香港が台湾の人たちの心を取り戻すチャンスだと考えていた。台湾は夢の実現を一番難しくしている場所だからだ。自由に行動できる香港は、「一国二制度」のモデルが機能し得ることを示せる機会となるはずだった。

そしてこの考え方によれば、中国が香港を編入し、既存の資本主義制度や生活様式を保持できれば、台湾の「同胞たち」に対し、共産党支配下であっても彼らの未来も安泰であることを示せるはずだった。

だが、習近平国家主席は今、台湾が中国の一部に戻るという夢が限りなく遠い未来に遠ざかりつつある様子をじっと見つめている。香港で民主化を求めるデモによって一部地域が機能不全に陥っているからだ。

中国政府のレトリック(言い回し)には明白な形で表れていないが、ここ数週間の香港の抗議運動の結末で最も重要なことの1つは、中国が台湾とその市民2300万人の再統一を実現できるというわずかな望みが一層小さくなっているということだ。(中略)

中国自身のもくろみによると、香港は台湾再統一のためのカギとなる存在だった。

香港返還は比較的単純だった。英国が統治していた香港主要部の租借期間が1997年に終了したために、中国の支配下に戻された。一方、自治の島である台湾は、強力な前例がなければ納得しないだろう。

しばらくの間はうまくいくように見えたが、多くの台湾人にとって、香港は今や「悪い前例」になっている。それは、中国が真の民主主義を容認せず、自治の約束を守るとは思えず、洗練された住民たちとその政治的な願望に対応するために必要な柔軟性に欠けることを示す証しだ。(後略)【10月10日 WSJ】
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台湾の若い世代は、中国については「血は水よりも濃い」とは感じていない
“今や習主席は、台湾と香港の2カ所の学生団体と同時に対決しているといえる。”【同上】
「一国二制度」にせよ、台湾国民党側の考えにせよ、「ひとつの中国」に対する考え方には世代間の認識ギャップが大きくなっています。

****中国に対する台湾の 「世代間認識ギャップ*****
台湾国立政治大学中国研究センター長の王振寰が、9月3日付タイペイ・タイムズ紙掲載の論説で、ひまわり運動を契機として、台湾では両岸関係についての世代間の認識ギャップが顕在化しており、中台両政府は、新たな思考を必要としている、と述べています。

すなわち、現在、中台関係に最も大きな影響を与えているのは、世代間の認識ギャップである。
ひまわり運動の後、台湾政府は、若い世代が中国との交流のさらなる強化に賛成していないことに気づいた。

他方、中国は、台湾に対する経済的、政治的働きかけがあまり奏功していない理由は、中国の台湾社会への理解不足だけでなく、台湾の若者のアイデンティティをコントロールできない点にもあることに気づいた。

中台間で、「社会的ギャップ」が拡大、深化していることは明白である。
中台関係にかかわるあらゆる政策が、台湾の若者の疑念、抵抗に遭っており、台湾の社会に浸透していない。

経済的統合への抵抗は、次のような、深い構造的要因の結果である。

第一に、40歳以下の若者は、台湾の民主化プロセスの真っ只中、台湾しか知らない世界で成長しており、中国への心情的な愛着やアイデンティティは皆無であるが、40歳以上の人々は、国民党の「偉大な中国」教育を受けて育ち、中国人であるとはどういうことかについて、一定の理解がある。

第二に、多くの若者が台湾は経済を発展させるために中国を利用する必要があると認識し、中国で働く用意もある、との研究結果があるが、これは、若者たちが、経済的統合が政治的統一に至るべきであると考えていることを意味しない。

若い世代は、民主主義と自由に、自信とアイデンティティを持っている。それが、彼らが中国の強権的政府に強い不信感を抱いている理由であり、中国が現在の政治体制のまま台湾の若者の心を捉えることは、困難になっている。

第三に、台湾の若者の中国への信頼の欠如は、中国のパワー増大に益々不信感が高まっていることを反映している。彼らは、「アジアの虎」としての経済的奇跡の頂点、緩やかな停滞、給与水準の低下、雇用機会の緩やかな喪失を経験してきた。

対照的に、中国は、貧困を脱して強い経済を手に入れ、上海や北京などの大都市はグローバルなメガロポリスになり、そうした都市では給与が台北を上回っている。

こうしたことは、台湾の若者に、搾取されていると感じさせ、国民党への不満を増大させ、中国の強権的制度を拒否する原因になっている。

中台関係における「社会的ギャップ」に取り組むには、中台政府は、思考を新たにせねばならない。

国民党は、台湾の若者を、経済的グローバリゼーションという言葉で説得しようとすることは最早できない。中台関係の「逆行」を解決するには、彼らの不満、懸念、対中不信を真正面から受け止め、世代間の公正に資する、社会・経済政策を採用しなければならない。

中国政府は、ひまわり運動を受け、台湾の社会により目を向けるようになったが、台湾の若者とその考え方への対応には、なお忍耐が必要である。台湾の若い世代は、中国については「血は水よりも濃い」とは感じていない、と論じています。【10月10日 WEDGE】
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また、習近平主席は5月、「国民党は事実と異なるメッセージを送ってきていた」と述べたとされていますが、その根底には、“政治を決めるのは一部の政治指導者の考えではなく、ひとりひとりの国民の意思である”という民主主義の基本理念を習主席が十分に認識できていないこともあるのではないでしょうか。

香港にせよ、台湾にせよ、中国・習主席は民主主義を当然のことと考え、「血は水よりも濃い」とは感じていない若い世代に直面しています。
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