
(焼き払われるロヒンギャの村 “flickr”より By Rahamat ullah Rahamat https://www.flickr.com/photos/127994454@N04/15302877555/in/photolist-pjgfmt-pjgfm8-oXXu75-p8MFRr-pw5YdB-pnDk99-pjgfoH-pjgfox-pjgfnk-pkiq1R-oWwbWZ-pCeuMZ-pnyzqG-pArrmA-pAccqX-pAtkgD-oPtMVD-pAtkoc-piYEzf-pAtkjK-piXnGv-piYEio-piYEsb-piYnzq-piZ3Xa-pcAQ7j-pug682-piY2QX-pLw9Nz-p2KSgq-pjkgCT-oLazP5-pgtYeL-pdrvv6-pPTXDP-oJCx4b)
【「世界で最も迫害を受けている少数民族」】
民主化・経済成長において顕著な前進を見せるミャンマーですが、西部ラカイン州のロヒンギャや国内各地のイスラム教徒と多数派仏教徒の対立・衝突、少数民族との停戦交渉が大きな課題として存在することは、これまでもたびたび取り上げてきました。
少数民族反政府武装組織との停戦交渉については、10月24日ブログ“ミャンマー 「アジア最後のフロンティア」 経済成長を実現するための課題”(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20141024)など
ロヒンギャ・イスラム教徒問題については、8月31日ブログ“ミャンマー 31年ぶりの国勢調査 ロヒンギャ問題・宗教対立に波紋も”(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20140831)など
西部ラカイン州に暮らすロヒンギャの多くが数世代前にバングラディッシュなどの近隣国からミャンマーへ来ており、そのほとんどがミャンマー国籍を与えられていません。人数は100万人を超すと見られています。
「彼らは外国からの不法移民であり、ミャンマー人ではない」として、また、イスラム教徒ということもあって、仏教徒や地方政府当局によって暴行を受けたり、家を焼き払われるなど、場合によっては殺害されるなどの迫害が続いています。
ロヒンギャはミャンマーから他国へ脱出したとしても、その行き先で同様の迫害を受けており、国連のキンタナ特別報告者は「世界で最も迫害を受けている少数民族」と報告、ミャンマー政府に改善を求めています。
しかし、国連や国際的人権活動NGOなどのこうした批判がある一方で、国内の多数派仏教徒にはロヒンギャへの嫌悪感・拒否感が強く、民主化を求める野党指導者スー・チー氏もこうした国民感情を背景に、ロヒンギャ問題については多くを語っていません。
なお、2012年11月には、テイン・セイン大統領は国連の潘基文事務総長に書簡を送り、ロヒンギャに対し、市民権を付与するなど社会的地位の向上に努める考えを表明しましたが、その後の改善は明らかにされていません。
前回8月31日ブログでは、30年ぶりに行われた国勢調査において、仏教徒側のボイコット運動の結果、政府が「(終身民族の調査項目について)ロヒンギャ族との回答は認めない」と約束したこと、「国連や国際NGOは少数派のロヒンギャ族寄りだ」との仏教徒側の不満を背景に、ラカイン州の国際機関事務所が仏教徒によって襲撃を受けたことなどを取り上げました。
【急増する脱出】
ロヒンギャに関しては、その後あまり国際ニュースで目にすることはありませんでしたが、今日、気になる記事がありました。
****ロヒンギャ族「大量脱出」か=当局の迫害恐れ―ミャンマー****
ミャンマー西部ラカイン州から船で脱出した少数民族イスラム教徒ロヒンギャ族の数が、過去2週間で1万人近くに上っていることが分かった。
ロヒンギャ族の人権問題を調査しているNGO「アラカン・プロジェクト」の責任者クリス・レワ氏が29日までに取材に明らかにした。「前例のない」大量脱出という。
レワ氏によると、ラカイン州では過去2、3カ月、当局によるロヒンギャ族の恣意(しい)的な逮捕が増加しており、うち3人が拷問を受けて死亡した。
また、ミャンマー政府が市民権取得の要件に適合しないロヒンギャ族を拘束する計画を立案したとされ、ロヒンギャ族の間にパニックが広がっているという。【10月29日 時事】
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先述のように他国へ脱出しようにも、近隣のタイ、バングラデシュ、インドネシアなどはロヒンギャの正規受け入れを拒否しており、難民船を沖に曳航して置き去りにするなどの扱いをうけているロヒンギャですが、“過去2週間で1万人近くに上る”船による脱出者が一体どこへ行って、どのような対応を受けているのか懸念されます。
船が着いた場所で強制送還に直面したり、人身売買の犠牲になることもあります。
10月11日にタイに船で密入国したヒンギャ族とみられる男女51人がゴム園で逮捕されたことも報じられています。【10月14日 newsclipより】
彼らはマレーシアに向かうところだったとみられています。マレーシアはタイなどに比べればロヒンギャに寛容な対応をとっています。
また船による脱出だけでなく、インド、ネパール、バングラディシュへ向け、陸路を移動しているロヒンギャもいます。しかし、どこへ行っても状況は悲惨です。
****ミャンマーのイスラム教徒難民、インドで劣悪な生活****
プレスTVによりますと、ミャンマーでの暴力行為を受けて住む家を捨てた、数万人のロヒンギャ族のイスラム教徒は、インドの首都ニューデリーの難民キャンプで、基本的な便宜のない中で苦しい生活を送っています。
これらのイスラム教徒の多くは仕事がないため、基本的な生活費や毎日の食費を慈善団体から受け取っています。(後略)【8月27日 Iran Japanese Radio】
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【差別的かつ人権侵害的な政策を拡大・強化する「ラカイン州行動計画」】
今回の騒動の背景には、ミャンマー政府が進めているロヒンギャの扱いに関する「ラカイン州行動計画」があるようです。
****ビルマ:政府がロヒンギャ民族の隔離を計画****
強制移住と国籍差別により生じる危険
ヒンギャ民族ムスリムに国籍を認めない差別的な政策を固定化し、すでに住む場所を追われた13万人以上を閉鎖型のキャンプに強制移住させるものだと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日述べた。
ビルマの国際ドナー、国連、その他影響力のあるアクターは、ビルマ政府に対し「ラカイン州行動計画」の大幅な変更あるいは撤回を強く求めるべきだ。
本計画は2013年4月のラカイン調査委員会の勧告に従うものだ。委員会はテインセイン大統領により、同州で2012年に起きたロヒンギャ民族への広範な殺害と暴力行為を受けて設置された。
ヒューマン・ライツ・ウォッチはこの「行動計画」の写しを入手した。
文書は「ロヒンギャ」という呼称を認めず、一貫して「ベンガリ(ベンガル人)」と記している。これはビルマ当局や民族主義的な仏教徒が広く用いる不正確で軽蔑的な呼び名だ。ムスリムへの言及は宗教学校に関する部分だけになっている。
「ようやく発表された『ラカイン州行動計画』だが、過去数十年のロヒンギャ民族への迫害を根拠づける、ビルマ政府の差別的かつ人権侵害的な政策を拡大・強化するものだ」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア局長代理フィル・ロバートソンは述べた。
「この計画はロヒンギャ民族から希望を奪い、自国からの出国を迫ることをおそらく目的とした、これらの人びとの恒久的隔離と無国籍化の詳細な設計図にほかならない。」
この計画は、同州の開発と紛争後の再建策を全体として定めたものとなる予定だ。草案は6セクションに分かれ、細かく箇条書きされている。
セクションのタイトルは「治安・安定・法の統治、復旧と再建、恒久的移住、ベンガル人の国籍資格評価、社会経済開発、平和的共存」だ。
「恒久的移住」セクションでは、既存の避難民キャンプで暮らす133,023人を移動させ、同州内のキャンプに住まわせる手順が示されている。キャンプは州都シットウェー周辺と州内の複数の郡に存在する。移動先の場所は、はっきり特定されていない。
この計画は、2012年の暴力事件で住む場所を奪われたロヒンギャ民族について、元の場所への帰還が認められるかどうかに触れていない。仏教徒も住む元の地域への再統合が認められるという、ロヒンギャ民族側の期待を否定するものだ。
計画では2015年4月から5月にかけて、ロヒンギャ民族の避難民全員が移住することとされているが、この時期はモンスーンの季節の直前だ。なお準備として、住居、学校、地域住民用施設、必要な道路、および電気・水道・衛生関係のインフラが来年4月までに整備される。
2012年6月に勃発し、10月に再発した宗派間暴力により、ロヒンギャ民族を主とする推定約14万人がアラカン州一帯のキャンプで今も暮らしている。生活を全面的に支えるのは、国際的な人道支援だ。
このほかにも4万人がキャンプの外で暮らすが、外部からの支援はほとんどない。
政府はロヒンギャ民族への暴力事件に責任のある者、とくに2012年10月のロヒンギャ民族への「民族浄化」を組織した者を逮捕または訴追していない。ヒューマン・ライツ・ウォッチによれば、10月の事件は人道に対する罪に該当するほど深刻なものだ。
ロヒンギャ民族は実質的にビルマ国籍が認められておらず、2014年3月~4月の国勢調査からも除外された。また移動の自由、雇用、生計手段の確保、医療へのアクセス、信教の自由を厳しく規制されている。
避難民キャンプの環境はきわめて劣悪だ。ロヒンギャ民族はキャンプ敷地外に出ることが許されず、長期的な監禁状態に置かれている。
行動計画草案が想定する恒久再定住地の設定は、ロヒンギャ民族の孤立化と周辺化を加速し、また移動の自由など諸権利を侵害すると、ヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。
「ビルマ政府の計画は、過激派が主張する隔離措置の提案だ」と、前出のロバートソン局長代理は述べた。「ロヒンギャ民族を、都市部から人里離れた地方のキャンプに移動させることは、基本的権利の侵害にあたる。これらの人びとを外部の支援なしでは生活できない状態に置くとともに、所有地の接収を正式なものとすることになる。」(後略)【10月03日 ヒューマン・ライツ・ウォッチ】
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国籍付与問題については、「ベンガル人」という侮辱的な呼称を拒否するロヒンギャ民族は国籍取得の権利を否定されており、また、「ベンガル人」の呼称を受け入れ、ミャンマー政府の法律に従う者については国籍資格審査が2015年1月から2016年10月のあいだに行われます。
“国籍取得要件に該当しないロヒンギャ民族について、当局は「登録を拒まれた者および十分な書類を持たない者を、必要な人数だけ収容する一時的なキャンプを設置」し、こうした人びとを外界から隔離されたキャンプに閉じ込める予定だ。これは送還可能性のある恣意的で無期限な拘禁にあたる。”【同上】
要するに、住んでいた土地への帰還は認めず劣悪なキャンプに隔離し、国籍付与も厳しく制限し、「この計画はロヒンギャ民族から希望を奪い、自国からの出国を迫ることをおそらく目的とした、これらの人びとの恒久的隔離と無国籍化の詳細な設計図にほかならない。」ということのようです。
****ロヒンギャの問題解決がミャンマー民主化への最重要課題****
改善されないロヒンギャを取り巻く環境
AP通信が接触したロヒンギャによると、当局によるミャンマー国籍の確認作業を妨害したとして、数週間村に閉じ込められたり暴力を受けたりしている人がいるようだ。
加えて、武装過激派ロヒンギャ連帯組織との関係に疑惑を持たれた数十人が拘留され、少なくとも1人が尋問中に死亡したとのこと。しかしライカン州は、何も起こっていないし、逮捕などの事実もないと全面的に否定している。
これらの事例は氷山の一角に過ぎず、表に出てこない事例もたくさんあることが推察できる。ロヒンギャを取り巻く環境は、改善されているどころか悪化の道をたどっているといえるだろう。
“国家としての新しい観念”の構築が必要
国際危機グループ(International Crisis Group:ICG)は10月22日、ロヒンギャの法的地位を明確にし、また、文化・民族・宗教の多様性を受け入れる“国家としての新しい観念”を構築するための方法を見出すレポートを添えて、ミャンマー政府に改善を促した。(後略)【10月27日 Myanmar News】
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【「働きたいけど働けないのだ」】
難民キャンプでのロヒンギャの生活については、下記のようにレポートされれています。
****「働きたい」という根源的な欲求 ミャンマー西部、ロヒンギャ避難民キャンプより****
・・・・避難民キャンプで出会った男性は言った。「私達は生きている。生きているから働きたいのだ」
ミャンマーの西部、ラカイン州には、ロヒンギャと呼ばれるイスラム系の少数民族が、多数派の仏教徒から迫害されて暮らしている。彼らは移動の自由を奪われ、周辺の街を訪ねることができない。9万人近いロヒンギャが避難民キャンプとその周りに暮らしている。
キャンプに避難しているロヒンギャの中には、もともと街で暮らしていた者も多い。商店を開いていた人、交易に関わっていた人、大学に通っていた人、多くのロヒンギャが以前は街に住んでいた。
2012年に少数派のロヒンギャと多数派の仏教徒との間で大規模な紛争が起き、それ以来、彼らは避難民キャンプで生活している。
仏教徒の暴徒は、市街地にあるロヒンギャの家を燃やしてしまった。市場にあったロヒンギャの店も、今ではすべて閉まっている。ロヒンギャは土地や財産を奪われ、移動の自由までも制限されている。
政府は彼らを保護するという名目で、避難民キャンプからの出入りを禁止し、多くのロヒンギャは自分の家に帰ることができない。
街で商店を営んでいた男性は言った。「仏教徒の暴徒が襲ってきたから、私達家族は着の身着のまま家を飛び出したんだ。自分の家が今どうなっているかわからない。噂では、私が住んでいた地域はすべて燃やされてしまったと聞いた」
彼はいま仕事がなく、国際機関からの支援に頼って暮らしている。仕事のできない多くのロヒンギャを代表して、彼は言う。「働きたいけど働けないのだ。財産を失ったのに政府からの保証はない。商売をしたくても避難民キャンプから出ることができない」
「それでも」彼は続けた。「私は、何かしたいのだ。だからこうして、お前としゃべっている。私は英語ができるから、お前みたいな外国人にロヒンギャの現状を伝える仕事をしているんだ」
避難民キャンプには、国際機関からの支援に頼って暮らしながらも、懸命に働こうとするロヒンギャが多くいた。支援物資を使った喫茶店を開く人、物資の配給を手伝う人、どこからか手に入れた三輪自転車で、自転車タクシーをする人。
お金にならなくても、何かのために働こうとする人たち。彼らの中に、人間の持つ「働きたい」という根源的な欲求を見た気がした。
彼は笑いながら言った。「まあしかし、この仕事は一銭にもならないんだけどな」【10月24日 須田 英太郎氏 http://www.nikkeibp.co.jp/article/miraigaku/20141024/421337/】
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