孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ミャンマー  「アジア最後のフロンティア」 経済成長を実現するための課題

2014-10-24 23:03:14 | ミャンマー

(ヤンゴンの通りを覆う電線 “flickr”より By Petri  https://www.flickr.com/photos/petharti/13563702073/in/photolist-i6SPtX-mHVFf4-dMMuDm-mEzw5i-mFKTPg-6Jmsuj-deupN5-drdN5j-dHkCV5-cmSRvs-cmSPnW-5EGUUM-5EMcQL-5EMd3W-od7iyt/

インフラ整備の遅れ 不動産価格の高騰など新たな問題も
ミャンマーは20年以上続いた軍事政権による“鎖国状態”から、民主化を進めるテイン・セイン政権のもとで開放路線へと転じ、急激な変容を見せています。

「アジア最後のフロンティア」とも称され、日本企業もバスに乗り遅れないように進出を図っていますが、他の途上国同様に道路・電力供給といったインフラ、経済活動を支える法整備など、問題は山積しています。

電気について言えば、12年前のミャンマー旅行のときは、停電で明かりが消えた街なみ、暗いレストランでの食事・・・そういうものに旅情を感じたものです。

7年前に中部マンダレーを旅行した際は、電気が使える時間帯より、計画停電による停電時間の方が長いといった状態で、「次に電気が使えるのは明後日だね」という感じでした。

今年正月に最大都市ヤンゴンを旅行した際には、あまり停電の影響は感じませんでしたが、当然ホテルは自家発電で対応しています。

このときの旅行で痛感したのはホテル料金の高騰でした。“トイレ・バス共同・窓なし・テレビなし”という、以前だったら1泊2000円もしないような安宿でも3400円と、いい値段になっていました。

****市場開放進むミャンマー=商業都市ヤンゴン急発展―地価高騰、インフラに課題****
ミャンマーが同国最大の商業都市ヤンゴンを中心に急速に経済発展している。

2011年3月に軍政から民政への移管が実現して以降、同国では着実に民主化が進展。

外国投資法など各種法制度が整備される中、外国企業が地元企業との合弁や提携などを通じて一段と進出しており、同市では外国人向け分譲マンションやオフィスビル、ショッピングセンターなどの建設ラッシュが相次いでいる。

ただ、あまりに開発が急ピッチであるため、ヤンゴン市内では電力不足や交通渋滞などインフラ整備の遅れが際立っているほか、不動産価格の高騰など新たな問題も浮上しており、行政当局は対応に苦慮している。

ミャンマー電力省などによれば、実際に稼働できる発電量は水力を中心に約150万キロワットで、電力ピーク需要の75%程度しか賄えておらず、停電も多い。

しかも、ピーク需要は今後も年15%のペースで増加する見通しで、「電力不足が最重要課題」(政府筋)となっている。【10年12月 時事】 
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これもミャンマーだけでなく他の途上国でも同様ですが、蜘蛛の巣状態というか、鳥の巣状態というか、もつれた糸のような引き込み電線には、「漏電火災とか起きないのろうか?電力会社がきちんと管理・把握しているのだろうか?それとも勝手に盗電しているのだろうか?」と驚かされます。

****ヤンゴンの感電死、年間100人超 電線老朽化、切れて直撃も****
ミャンマーの最大都市ヤンゴンとその近郊では、切れた電線に触れるなどして年間100人超が感電死している――。ヤンゴン管区警察が11日、2011年の民政移管後に初めて開いた定例会見でそんなデータを明らかにした。

警察によると、昨年は109人、今年はこれまで102人が犠牲になった。地元紙によると、6月にはヤンゴン市内の市場近くの電線が切れて路面に落ち、路上で野菜を売っていた女性ら2人が感電死するなど、事故が相次いでいる。

頻発する感電死は、電線など配電設備の更新が軍政下で十分になされず、40~50年前の設備も残っていることや、電線が絶縁体を巻いていない「裸電線」であることが原因という。

昨年まで停電が頻発したヤンゴンでは、電力供給は改善しつつあるが、感電死については地元メディアが批判を強め、電力省も対策に力を入れ始めた。【10月12日 朝日】
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道路に洪水のようにあふれる車、ところどころ敷石がはがれ、深い穴があいている歩道・・・更に、電線にも気をつけないといけないとなると、ヤンゴンの街歩きは結構大変です。

ミャンマーはタイのようになる前に、まずバングラデシュのようにならなければならない
インフラや社会環境・法整備も不十分なところへ、最先端技術が一気に流れ込んでいるミャンマー・ヤンゴンは、今後の成長に熱い期待が寄せられる“沸騰都市”のひとつともなっていますが、最先端のものに飛びつくだけでは社会構造がいびつなものになってしまう危険もあります。

成長の基本は、国民の半数近くが従事する農業の生産力を上げることで、国民全体の所得・購買力の底上げをはかり、教育の拡充で労働力の質を高め、豊富な労働力を生かした軽工業の育成を図る・・・・という地道なところにあるのではないでしょうか。

****ミャンマーの未来:百万の工場を立ち上げよ****
ミャンマーはタイのようになる前に、まずバングラデシュのようにならなければならない。

ミャンマーのティラワ経済特別区(SEZ)の開発第1期には、400ヘクタール近い土地の整備と近くの港へ至る道路の建設が含まれていた。工業団地は来年半ばにオープンする予定で、入居を予定する企業22社の一部が今月末までに工場の建設に着手する。(中略)

準備が進むティラワとあと2つの経済特区の入居企業はミャンマーの未来に対する賭けだ。

3つの特区の中で最も開発が進んでいるティラワは、全面開業した時には7万人の労働者を雇い、国内向けの食料品、消費財、建設資材のほか、靴、自動車部品、衣料品などの輸出志向の商品を生産する。

テイン・セイン大統領は2011年に、ミャンマーを再び世界経済とつなげることを約束して政権の座を獲得した。以来、楽観的な向きはあらゆる通りにスーパーマーケットとファストフード店が並び、モバイル技術のおかげで同国が発展段階をいくつも「飛び越え」、タイ、あるいはシンガポールにさえ肩を並べることを夢見てきた。

だが、ミャンマーの経済的な未来は、未熟練労働者が輸出向けの労働集約財を大量生産することにかかっている。タイの水準の産業開発を切望する前に、西側の隣国であるバングラデシュのように低コスト製造の拠点になることを目指すべきなのだ。(中略)

何度か出だしでつまずいた後、政府は新しいビジネスが繁栄できるような市場経済を創造することに尽力しているようだ。

ミャンマーがほぼ20年ぶりの総選挙を実施した2010年から2013年にかけて、外国直接投資(FDI)はほぼ3倍に膨らみ、9億100万ドルから26億ドルに増加した。外国銀行数行が限られた規模で事業を行うことを許可された。だが、大掛かりな金融自由化の準備が進められている。

経済は今年と来年、7.8%成長すると予想されている。コモディティー(商品)輸出は増加しており、石油とガスの生産も増えている。

中央銀行は今、財務省から正式に独立しており、スタッフを増員し、金融政策を実行する能力を高めている。

やるべきことは、まだたくさんある。ビジネスのしやすさを測った世界銀行の年次報告書の最新版は、ミャンマーを189カ国・地域中182位にランク付けしていた。

規制の不確実性は大きな問題だが、旧態依然とした法律にようやく目が向けられるようになった。企業活動の規則を定めたミャンマーの企業法は、1914年に英国によって制定され、手つかずのまま放置されていたが、今年、アジア開発銀行が政府に手を貸して法改正に着手した。(中略)

訓練された労働力を生み出すまでの長い道のり
極めて活発な規制の刷新と改革された中央銀行でさえ、よく訓練された労働力を生み出すことはできない。それには何年もかけて教育に莫大な投資を行う必要がある。

平均的なミャンマー人は4年間しか学校に通わない。教師と生徒の比率は、マレーシアの1対13に対し、ミャンマーは1対30だ。

他のアジア諸国の労働力人口が生産性と多様性を高める一方で、ミャンマーの労働力人口は反対方向に向かった。1965年から2010年にかけて、大陸の大半の国で農業従事者の割合が低下したにもかかわらず、ミャンマーでは35%から44%に上昇した。

だが、この巨大な農業労働人口は有効活用できる。ミャンマーには1230万ヘクタールの農地がある。タイよりほんのわずかに少ないだけだ。

ミャンマーはかつてアジア最大のコメ輸出国だったが、農業セクターは依然として、嘆かわしいほど非生産的だ。
大半の農家は、多くの場合は機械や肥料を使わず、小さな稲田を耕している。(中略)

近代的な農法を少し導入しただけでも、農家とミャンマーの労働生産性全体に大きな影響をもたらすだろう。(後略)【英エコノミスト誌 2014年10月18日号】
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経済環境の整備のひとつとして、外国銀行の営業も先日許可されました。

営業許可申請した12カ国・地域の25行のうち、6カ国9行が許可されましたが、日本は免許申請した三菱東京UFJ銀行、三井住友銀行、みずほ銀行の3メガバンクがそろって許可され、日本銀行への厚遇が目立つ結果ともなりました。

邦銀の自助努力はもちろんですが、“日本政府は、「アジアのラストフロンティア(最後の未開拓地)」とされるミャンマーとの関係を築こうと、延滞債務の解消や多額の円借款供与の方針を表明している。最大都市ヤンゴン近郊では、官民で工業団地も造成。安倍晋三首相も親書を送った。邦銀にはこうした追い風があったようだ。”【10月22日 産経ニュース】と、「官民一体のトップセールスが功を奏した」(麻生財務相)ということのようです。

年内の「全国停戦協定」は難しい状況も
経済成長を可能とするためには社会の安定が不可欠ですが、ミャンマーが抱える大きな問題は、これまでも何回も取り上げたように、少数民族及び宗教的少数派イスラム教徒との融和にあります。

少数民族問題に関しては、政府は少数民族武装勢力16組織との「全国停戦協定」をめぐる交渉を行ってきましたが。9月26日に合意に至らず、年内の協定署名が不確実な状況となっています。

少数民族側によると、政府側が一転して強硬な姿勢を見せたとも言われています。

10月に入ってからは、カレン族と間で戦闘が再燃しています。

****軍と少数民族が戦闘 ミャンマー南東部****
日本が支援に力を入れているミャンマー南東部のタイ国境付近で、政府軍と少数民族武装勢力との戦闘が再燃している。民間人の犠牲も出ており、全国規模の停戦交渉にも影を落としている。

タイ国境の町カレン州ミャワディ近郊で11日、食堂に止まっていたバスにロケット弾が着弾。地元病院によると12歳の少年を含む乗客男性ら4人が死亡した。

付近では少数民族カレンの武装組織、民主カレン慈善軍(DKBA)と政府軍の戦闘が激化。地元メディアによると、10日にも州内の2カ所で衝突があった。(中略)

主に北部で戦闘が続いていたが、南東部のカレン州や隣のモン州ではDKBAが2011年11月に政府と停戦。地域最大勢力のカレン民族同盟(KNU)が翌年1月に政府と停戦後、情勢は落ち着いていた。

ところが、9月に入って戦闘が再開。KNUと政府軍との間でも衝突が起き、戦死者が出た。政府軍はカレンの各武装組織にミャワディでの武装解除を要求。武装組織側が反発するなど緊張が高まっている。

政府がカレン州で計画するダム建設予定地から、武装勢力を一掃しようと軍が圧力をかけていることが背景にあるとの見方もある。

ミャンマー南東部は日本企業の一大生産拠点でもあるタイとの交易ルート。
日本は国際協力機構(JICA)がカレン、モン両州の中長期開発計画立案を支援するなど援助に乗りだし、NGOも活動を始めている。日本のNGO関係者によると、移動が制限されるなどの影響が出ている。(後略)【10月19日 朝日】
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軍部・政権与党の改革への根強い抵抗
一方、政治的枠組み、民主化の取り組みについては、既得権を有する軍部や政権与党による抵抗も大きいようです。

****ミャンマー国会、比例代表制導入の審議開始 15年秋に総選挙 ****
ミャンマー国会は21日、国政選挙への比例代表制の導入を巡る審議を始めた。

現在ミャンマーでは小選挙区制が採用されているが、国会の特別委員会が同日、比例代表制を盛り込んだ複数の選挙制度案を提出した。比例代表制は旧軍事政権の流れをくむ与党に有利とみられ、審議の行方は来年秋の総選挙の結果を大きく左右する。(中略)

アウン・サン・スー・チー氏率いる最大野党、国民民主連盟(NLD)や少数民族政党は「与党だけを利する」として比例代表制に反対している。

ミャンマーでは軍事政権時代の2010年に前回総選挙が実施されたがNLDは憲法の非民主性を理由にボイコットし、USDPが圧勝した。NLDも参加した12年の補欠選挙では、改選45議席中43議席をNLDが獲得した。

選挙管理委員会によれば次回総選挙は来年10~11月に行われる見通し。スー・チー氏の国民的人気は高く、NLDが優勢とみられている。【10月21日 日経】
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そのスー・チー氏については、大統領を目指すためには憲法改正が必要になりますが、やはりハードルは高そうです。

軍事政権時代の2008年に制定された憲法は、家族が外国籍を持つ者の大統領就任を禁じています。死別した夫が英国人で、子供も英国籍を持つスー・チー氏は不適格とされます。

スー・チー氏率いる国民民主連盟(NLD)は、大統領資格に関する条項の撤廃を求めていましたが、大胆な改憲を望まない軍系の与党、連邦団結発展党(USDP)の反対で道は開けていません。

****大統領資格「現行通り」 ミャンマー憲法改正委****
ミャンマー国会の憲法改正実現委員会(31議員で構成)は22日、改憲をめぐる報告書を本会議に示した。野党党首アウンサンスーチー氏の大統領就任を阻む資格要件など大半の条項について、「現行通りにとどめるべきだ」と提言。来年の総選挙後にスーチー氏が大統領になるのは極めて困難な情勢だ。【10月23日 朝日】
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