
【最終的には大連立に向かうとの見方が強い】
北アフリカのチュニジアで26日、新たに制定された民主的な憲法に基づいて議会選挙が行われ、217の議席に対し、1300を超える政治会派から1万人以上が立候補しました。
そのなかでも、制憲議会で第1党だったイスラム政党アンナハダと世俗政党ニダチュニスの2大勢力の争いが中心で、現段階では世俗政党優勢の予測が報じられています。
ただ、いずれにしても過半数を制する政党はなく、世俗政党とイスラム政党との大連立が模索されているようです。
****<チュニジア議会選>世俗政党が優勢 大連立形成が焦点に****
チュニジア議会選挙(定数217)が26日行われた。暫定集計の結果、世俗政党ニダチュニス(チュニジアの呼びかけ)が第1党となる公算が大きくなった。ロイター通信などが報じた。
憲法制定を担う制憲議会で第1党だったイスラム政党アンナハダ(再生)は第2党に転落。過半数に達する政党はない見通しで、主要2党による大連立が形成されるかが焦点となる。
議会選は、2011年の民主化要求運動「アラブの春」によるベンアリ政権崩壊後に制定された新憲法下で初めて実施。
新憲法は大統領権限を国防・外交に限り、行政権は議会多数派が組閣する内閣に付与しており、議会選が実質的な政権選択の機会となる。
ロイター通信などによると、ニダチュニスは約80議席、アンナハダは約65議席の見通し。比例代表制で行われ、100前後の政党が参加したが、他党は20議席に及ばない模様だ。投票率は60%に達し、3年前の制憲議会選を上回る可能性がある。
ニダチュニスは、11月の大統領選で有力視されるセブシ元首相(87)が率いる。制憲議会選で世俗派が小政党に分裂し、アンナハダの躍進を許した経緯を踏まえ、「世俗派の結集」を呼びかける戦略が奏功した。
革命後のアンナハダ中心の政権下で、イスラム過激派が活動を強め、治安や経済が不安定化したことに不満を抱く有権者の支持も取り込んだ。
選挙戦中、ニダチュニスはアンナハダとの大連立には否定的だったが、一定の支持層を持つイスラム勢力を排除すれば、治安や社会の混乱につながる可能性もある。そのため、最終的には大連立に向かうとの見方が強く、アンナハダは世俗派との連立に前向きだ。【10月27日 毎日】
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【イスラム過激派のテロを乗り越えて、憲法制定・選挙実施】
北アフリカの小国チュニジアの選挙が世界的にも注目されているのは、チュニジアは2011年、中東の民主化運動「アラブの春」の発端となった国であること、そしてチュニジアの運動を機に各地で始まった民主国家への移行がエジプト、リビア、シリアなど次々と失敗に終わるなか、なんとか民主化への試みを維持しているチュニジアに中東民主化の最後の望みがかかっているという事情があります。
****「アラブの春」の発端に****
チュニジアでは、2010年12月に、失業していた若者が体に火をつけて自殺したことをきっかけに独裁政権に抗議するデモが広がり、翌年の1月におよそ23年間続いたベンアリ政権が崩壊しました。
2011年10月に行われた憲法を制定する議会の選挙を経て、イスラム政党の「ナハダ党」が主導する暫定政権が発足しましたが、去年、世俗派の野党の党首が暗殺されたことを受けて、与野党の対立が深まりました。
民主化プロセスが大幅に遅れるなか、すべての政党が参加して協議を続けた結果、ことし1月に信仰や表現の自由を認め、男女平等を保障する新しい憲法を制定しました。【10月27日 NHK】
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“男女平等を保障する新しい憲法”を受けて、新選挙法は政党が男女同数の候補者を擁立することを義務付けています。
これだけでも、アラブ・イスラム世界にあっては画期的に思えます。
****チュニジアで新選挙法成立、政党に男女同数の擁立義務付け****
「アラブの春」の発端となった民衆蜂起「ジャスミン革命」から3年、チュニジアの制憲議会(定数217)は1日、2014年内の大統領選と総選挙の実施を定めた選挙法を賛成132、反対11、棄権9の賛成多数で承認した。
最大の争点となったのは、ジャスミン革命で追放されたジン・アビディン・ベンアリ元大統領の独裁政権で高官を務めた政治家らの出馬を禁止する条項だったが、1票の差で盛り込まれなかった。
一方、選挙法には、政党が男女同数の候補者を擁立することを義務付ける条項が盛り込まれた。
2011年のジャスミン革命後、政治危機や社会的対立、過激派勢力の台頭などに悩まされてきたチュニジアは、大統領選と総選挙によって正式な政権と議会の成立を目指している。(後略)【5月2日 AFP】
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もちろん、ここまでの道のりは平たんではなく、チュニジアにおいてもイスラム過激派の台頭によって、昨年には野党「民主愛国主義者運動」のベライード党首と野党「人民運動」のブラヒミ制憲国民議会議員が相次いで暗殺され、チュニジア政治は一時は麻痺状態に陥いりました。
シリアやイラクに渡ったとされる外国人戦闘員約1万5千人のうち、チュニジア出身者は約3千人で、国別では最多となっています。
****アラブの若者、「聖戦」へ続々 「イスラム国」巧みに接近・宣伝****
過激派組織「イスラム国」が台頭したシリアやイラクへ向かう若者たち。その半数以上は中東・北アフリカ出身だ。
2011年には強権政権が次々と倒れた民主化運動「アラブの春」があった。その後も続く経済低迷への失望や、宗教心に訴える主張が、若者を「聖戦」へと駆り立てる。
■チュニジア 革命後、高失業率に失望
・・・・人民議会は、ベンアリ政権が倒れた11年の革命後の正式な立法府となる。「アラブの春」の混乱が続く国もあるなか、チュニジアの民主化は比較的順調に進んでいる。
しかし、シリアやイラクに渡ったとされる外国人戦闘員約1万5千人のうち、チュニジア出身者は約3千人。国別では最多だ。
失業率は15%前後と革命前より高水準が続く。
政権づくりではイスラム系と世俗派の対立が続いた。
失望した若者に過激派は近づき、アサド政権の残忍さを印象づける映像を見せた。弾圧される人々への同情心と義憤をあおり、「聖戦」へと勧誘した。
元チュニジア国防省広報官で治安情勢に詳しいモクタル・ナスルさん(61)は「治安当局も大きなミスを犯した」と指摘する。旧政権の抑圧組織として批判されたため、革命後の1年間、監視を緩めた結果、過激派をのさばらせた。
リビアの存在も大きい。両国の過激派組織は協力関係にあり、チュニジアで勧誘された若者はリビアで2週間程度の戦闘訓練を受け、シリアに密航する。
チュニジア当局は、紛争地に向かう恐れがある9千人を渡航禁止にし、過激派掃討に力を入れる。【10月26日 朝日】
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今回選挙もテロの脅威に備え、7万人を超える規模の治安部隊が出動し、重装備のトラックが主要道路を巡回する厳戒態勢のなかで行われました。
また、チュニジアは地理的にイタリアに近いため、欧州行きを希望するアフリカ・中東難民の出発基地にもなっていますが、経済情勢が悪いチュニジアからも多くの難民が命がけの旅に出ています。
そうした混乱状態のなかにあっても、マルズーキ大統領らは独裁体制への逆戻りを許さない歴史的な新憲法の署名にこぎつけ、今回選挙に至りました。
そうした努力を称えるとともに、今後の民主化が着実に進むようにとの後押しの意味もあってか、ノーベル平和賞の予想では定評があるノルウェーの公共放送局NRKは、2014年の平和賞受賞者候補として、チュニジアのマルズーキ大統領と政局混乱を仲介した労働組合を本命視する記事をウェブサイトに掲載しています。(周知のように平和賞は結局マララさんに決まりました)
とにもかくにも、ここまで漕ぎつけたチュニジアですが、イスラム過激派によるテロや政党間の対立などによる治安悪化を防ぎ、経済を立て直していけるかが、今後の民主化プロセスが順調に進むかどうかのカギになります。