
(就任式観衆に関する“ウソ”を“alternative facts”(もう一つの事実)と言い放ち、肩にかかった髪を払いのけるコンウェイ大統領顧問【NBC】 その仕草の裏にあるのは自信か、挑戦的闘志か、あるいはうしろめたさ・不安か?)
【「今はトランプ大統領がいる。彼がお前たち全員を追い出すだろう」】
****トランプ大統領に言及しイスラム教徒女性に暴行****
アメリカ・ニューヨークの空港で、利用客の男がイスラム教徒の女性従業員を蹴りつけたうえ、「トランプ大統領がお前たちを追い出すだろう」などと差別的な言葉を浴びせる事件があり、トランプ大統領がイスラム教徒が多く暮らす一部の国の人たちの入国を一時停止するなどとした大統領令に署名する中、イスラム教徒への差別意識が高まることへの懸念が広がっています。
ニューヨークの司法当局などによりますと、ニューヨークにあるケネディ国際空港の利用客の待合室で25日、会社経営者の男がイスラム教徒の女性が身に着けるスカーフをかぶった従業員の女性に対し、暴言を浴びせたうえで蹴りつけました。
男は、さらに、逃げようとする女性に対して「今はトランプ大統領がいる。彼がお前たち全員を追い出すだろう」などと叫んだということです。
男は警察に逮捕され、差別に基づく犯罪=ヘイトクライムに関連した暴行などの容疑で訴追されました。
アメリカでは、27日、トランプ大統領がテロ対策としてイスラム教徒が多く暮らす一部の国の人たちの入国を一時停止する措置を盛り込んだ大統領令に署名しました。
大統領令について、イスラム教徒で作る団体は「テロ対策でなく、反イスラム主義を勢いづけるものだ」などと批判していて、アメリカ国内でイスラム教徒への差別意識が高まることへの懸念が広がっています。【1月28日 NHK】
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また、“イスラム人権団体によると、西部コロラド州オーロラでも26日、内戦などで世界各地から逃れて来た難民の支援施設で、「おまえたち難民全員を吹き飛ばす」と書かれたメモが2枚見つかり、警察がヘイトクライムの疑いで捜査している。”【1月28日 毎日】とも。
【“alternative facts”(もう一つの事実)・・・なんじゃそりゃ?!】
アメリカ・トランプ大統領はショットガンかマシンガンのごとく、連日“大統領令”を撃ちまくっています。
その内容は、TPP離脱、オバマケア見直し、人工妊娠中絶を支援している外国の非政府組織(NGO)への政府の補助金交付禁止、メキシコ国境の壁建設など不法移民対策強化、テロ対策強化のためシリア難民を含むすべての国からの難民の受け入れの一時停止及びテロが起きている一部の国を対象にした入国一時停止等々。
今後も、国連などへの拠出金削減、地球温暖化対策の国際的な枠組み「パリ協定」からの離脱などが準備されているとか。
どれも非常に重要な案件で、アメリカ国内だけでなく、関係国・周辺国・世界情勢にも影響するものですが、あまりのラッシュぶりに、メディアなどもひとつひとつ詳しく取り上げていられないほどです。
まあ、そのあたりも“トランプ流”の政治手法なのでしょう。どうせ批判は出るだろうから、一気にまとめてやってしまえ・・・公約実現に取り組んでいることを支持者にも強烈にアピールできる・・・。
確かに、これまでのオバマ政治を全否定する連日の対応は非常に強烈で、個人的には批判も多々ある内容ながら、現実が一気に塗り替えられていく様をただ眺めるしかない無力感も感じてしまいます。
そうした“トランプ流政治手法”のなかでも、ひときわ印象的だったのは“alternative facts”(もう一つの事実)という言葉です。
例の就任式観衆に関するやり取りでコンウェイ大統領顧問が言い放った言葉です。
就任式の観衆の数はオバマ前大統領の時よりも少なかった」と報じられたことに対し、初登場のスパイサー報道官は「過去最大の人出だった」と断言。
明らかに事実と異なるこうした発言に関し、NBCの報道番組で「どうして報道官にすぐにわかるウソ(falsehoods)をつかせたのか?」と執拗に追及する司会者に対し、コンウェイ大統領顧問が「Don’t be so overly dramatic about it, Chuck. You’re saying it’s a falsehood, and they’re giving Sean Spicer, our press secretary, gave alternative facts to that.」(そんなに大袈裟にしないで、チャック。あなたは“ウソ”と言うけど、スパイサー報道官は“alternative facts”を示しただけよ。)
そう言い放つと肩にかかった髪を払いのけるコンウェイ大統領顧問の仕草・表情が実に印象的でした。
政治家やタレントの仕草に関する精神分析的コメントがよく行われます。通常は「そんなことが言えるかね・・・」と懐疑的に聞いていますが、このときのコンウェイ大統領顧問の仕草・表情に関する精神分析的コメントは是非聞いてみたいものです。
コンウェイ大統領顧問は10代の頃から夏になるとブルーベリー農場で働いており、16歳のときにはニュージャージー・ブルーベリー・プリンセス・コンテストで優勝したとった経歴もあるようですが、大統領選挙では選挙対策本部長を務め、選挙中には「トランプ氏の調教師」と呼ばれた女性です。
いわば今の“トランプ現象”あるいは“トランプ劇場”を作り出した功労者の一人です。
また、大統領選挙に勝利した初の女性選挙対策本部長です。
“alternative facts”という言葉も、追及をかわすためにとっさに出てきた言葉ではなく、選挙期間中の基本戦略として常に彼女とトランプ氏の頭の中にあったものでしょう。
“どんなウソでも押し通せば、事実として大衆は受け入れる・・・・”
就任式観衆の数は非常に些細なことです。しかし、それをウソで塗り替えてしまうという言動は尋常ではありません。
“元米大統領顧問のデービッド・アクセルロッド氏は「事の大きさからすれば聴衆の数はささいなことだ」とツイッターに投稿した。「(大統領が)それに執着している事実はささいではない」”【1月23日 AFP】
“alternative facts”・・・ウソも強弁すれば“事実”となるという“トランプ流”認識でしょうか。
この“ウソ”に関するトランプ氏及びその周辺の認識が、非常に特異で、また厄介でもあります。
****ウソを恥じないトランプ政権に、日本はどう対応するべきか****
<80年代の感覚で日本批判を続けるトランプがやっかいなのは、「劇場型パフォーマンス」のためには平然とウソをつくところ>
・・・・(中略)そんなわけで「論破するのは簡単」なのですが、ここに困った問題が横たわっているのです。それは「ファクト」が通用する相手ではないということです。
トランプ政権の構造は、選挙戦の時からそうですが「劇場型パフォーマンス」を重視しています。それは敵を作ってその敵を叩くことで、支持者を扇動して自分の政治的な求心力にするという手法です。
この「劇場型」というのは、別に21世紀の政治には珍しいものではありません。小泉政権だって、オバマ政権だって、みんな一種の劇場型です。
ところが、トランプ政権が特殊なのは「オルタナティブ・ファクト」つまり「もう一つの事実」、要するに「ウソ」を平気で口にするということです。
どんなに事実とは反していても、ある政治的な「敵と味方の対決劇」として求心力に使えるのなら、「ウソも方便」どころか「大きなウソは真実になる」という種類の悪質な扇動を行い、しかもまったく恥じていないのです。
この手法は、さすがに大統領に就任したら自粛すると思っていたのですが、就任後も確信犯的に使用しているのですからタチが悪いと言えます。
例えば、23日にトランプ大統領は、議会指導者との面談を行いましたが、そこで「ヒラリー候補が自分より単純な得票数合計で上回ったのは不法移民の票が入ったからだ」と述べています。各州の選管は有権者の確認には様々な努力をしているので不法移民が投票できる州はありません。真っ赤なウソです。ですが、民主党を敵視するという政治的な「劇」にあたってはどうでもいいのです。
さらに、「20日の就任式の群衆は史上最高」だという、これまた平然とウソを言って、大統領と同じように報道官もウソに基づく主張を続けたばかりか、補佐官(コンウェイ大統領顧問)に至っては「もう一つの真実だ」と述べて居直っていました。
ですから、日本の通商姿勢に関しても、「80年代の貿易戦争を記憶している比較的高齢の支持者」に対して、「憎い日本を懲罰するとカッコいい」という「政治劇」を演じている中で、「敵味方の果たし合い」を面白く見せるには「事実などどうでもいい」ということになるのでしょう。
これは大変に危険な相手です。その「ウソを平気で」という姿勢に対して、こちら側が「真面目に怒ってしまう」と、余計に相手の思うつぼで、どこまで行っても対立は解消しないばかりか、対立を相手は政治的求心力の拡大に利用してくるのですから、まったく落とし所が見えなくなってしまいます。(後略)【1月24日 冷泉彰彦氏 Newsweek】
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【「自由の女神が泣いている」】
「真面目に怒ってしまう」と、余計に相手の思うつぼ・・・ということで、どう対応していいのかわかりません。
とりあえず、“メキシコ国境の壁”と“難民受け入れ停止”という、冒頭記事のような排他的風潮を助長している施策に関する批判的な反応をいくつか。
****「自由の女神が泣いている」=難民規制のトランプ氏に批判―米****
トランプ米大統領がシリア難民の無期限受け入れ停止などを命じる大統領令に署名したことに対し、米国では「移民の国」の価値観に反すると非難する声が相次いでいる。
米メディアによると、民主党のチャック・シューマー上院院内総務は「自由の女神が泣いている。移民を歓迎する伝統が踏みにじられた」と強い言葉で大統領を批判した。
民主党のベン・カーディン上院議員も「冷酷な大統領令は米国の核心的な価値と伝統を損ない、国の安全保障を脅かす」と訴えている。関係国やイスラム教徒の間で反発が広がれば、過激派組織「イスラム国」(IS)掃討作戦やテロ対策に悪影響が出かねないと懸念も広がり始めた。
米自由人権協会のアンソニー・ロメロ代表は、大統領が導入すると表明した「究極の入国審査手続き」について「イスラム教徒差別の間接的表現だ」と非難。宗教差別を禁じた合衆国憲法に違反すると強調した。
27日はくしくも第2次大戦中のホロコースト(ユダヤ人大虐殺)犠牲者を追悼する国際記念日。ユダヤ人団体「Jストリート」のジェレミー・ベンアミ会長は「大統領令は恐ろしい記憶を呼び覚ます。米国は第2次大戦前もナチスの迫害から逃げようとするユダヤ人に避難先を提供せず、多くが命を落とした」と指摘する。
米国のイスラム教徒人権団体の間では、連邦政府を提訴しようという動きも出ている。【1月28日 時事】
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****マララさん「胸張り裂けそう」=トランプ氏の難民制限に懸念―米****
ノーベル平和賞受賞者の女性教育活動家マララ・ユスフザイさん(19)は米時間27日、トランプ米大統領がシリア難民などの受け入れを停止する大統領令に署名したことを受け、「戦乱から逃れる子供や両親への扉を閉ざした。胸が張り裂けそうだ」と懸念する声明を発表した。
マララさんは、「罪なきシリア難民の子供が差別の標的になった」と批判。「世界が不安定な中で、最も無防備な子供や家族に背を向けないでほしい」と大統領に訴えた。【1月28日 時事】
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****トランプ氏に「壁造るな」 分断の歴史持つベルリン市長呼び掛け****
かつて壁によって長らく街が分断されていたドイツの首都ベルリンの市長が27日、メキシコとの国境に巨大な壁を建設しようとしている米国のドナルド・トランプ(Donald Trump)大統領に対し「壁を造ってはならない」との助言を送った。
トランプ氏は今週、大統領選での公約通り、全長約3200キロに及ぶメキシコとの国境に設置する壁の設計と建設を開始するよう高官らに指示した。
これに対して、東西冷戦(Cold War)時代の1961~1989年まで「ベルリンの壁」によって分断された歴史を持つ同市のミヒャエル・ミュラー市長は、「1つの国が新たな壁を築こうと計画しているのを傍観することはできない」との考えを声明で発表。
社会民主党(SPD)のミュラー市長は冷戦時代の欧州の「鉄のカーテン」による分断にも触れ、「私たちベルリン市民ほど、大陸全体が鉄条網とコンクリート(の壁)で分断されることでどれだけの苦しみがもたらされるかを知っている者はいない」と主張し、21世紀に入った今、「私たちが自由を得たことについて多大な恩がある米国の人々に私たちの歴史的経験が無視されるのであれば、それを受け入れることなど到底できない」と述べている。
さらに同市長は朝鮮半島やキプロス島の分断を例に挙げ、「こうした孤立と排除の誤った道をたどるべきではない」とトランプ氏に呼び掛け、1987年にベルリンの壁付近で当時の米大統領ロナルド・レーガン氏がソ連大統領だったミハイル・ゴルバチョフ氏に対して「この壁を取り壊せ!」と要請する有名な演説を行ったことを引き合いに出し、「親愛なる大統領、この壁を造ってはならない!」とメッセージを送っている。【1月28日 AFP】
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****「壁をつくる時でない」=トランプ氏を批判-イラン大統領****
AFP通信によると、イランのロウハニ大統領は28日、首都テヘランで行われた会合で「国家間に壁をつくる時ではない」と述べ、トランプ米大統領を批判した。
ロウハニ大統領は「(1989年に)ベルリンの壁が崩壊したことを忘れている。国家間に壁があろうと、取り除かなければならない」と述べた。【1月28日 時事】
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****メキシコへの投資こそ移民防ぐ最善の壁=大富豪スリム氏****
メキシコの大富豪カルロス・スリム氏は27日、メキシコは一丸となってトランプ米大統領との交渉にあたる政府を支援する用意があるとの考えを示した。
同氏は記者会見で「米国内の状況はメキシコにとって非常に良好」で、米経済の成長拡大を目指すトランプ氏の政策は、メキシコ経済や米国で働くメキシコ人労働者にとっても追い風になると強調した。
またメキシコに投資して雇用機会を増やすことが、移民を防ぐ最善の壁になると主張した。【1月28日 ロイター】
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実際、メキシコ経済が好調な現在はメキシコから流入する人数より、アメリカからメキシコに戻る人数の方が多かったように思います。不法移民の主流はメキシコではなく中米になっていたようにも。
残念ながら、こうした声もトランプ氏には全く届かない(聞く気がない)のが現実です。
「トランプ氏のような体格の人物は、気分が上下しやすいタイプが多い。今は就任直後で高揚状態にあり、3、4カ月たたないと冷静にならない」(ヒガノクリニックの院長で精神科医の日向野春総氏)【1月28日 夕刊フジ】
そんな“ハイ”な状態で、世界を混乱させる施策を推し進められても困るのですが・・・・。