孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中国  キャッシュレス社会の急速な進行 スマホ・ネット依存の拡大 情報の国家管理

2017-08-17 22:35:00 | 中国

(中国では物乞いもモバイル決済で行われる・・・という話も話題になりました。みんなが現金を持ち歩かなければ、そうなるでしょう。画像は【http://www.chinesepayment.com/2017/05/qr.html】)

モバイル決済 日本は6% 中国都市部では9割超
スマホによるモバイル決済・・・こすいた「キャッシュレス社会」に関しては、周知のように日本より中国がはるかに先を言っています。

中国では、単に現金が使われなくなったというだけでなく、「キャッシュレス店」や「シェアリング自転車」などの新たなサービス形態を生むことにもなっています。

日本では“支払時にモバイル決済を利用している人はわずか6%”に対し、中国では“都市部の普及率は9割を超える”という状況です。

日本でモバイル決済が広がらない事情については、以下のようにも。

****日本、利用6%のみ****
日本のモバイル決済は、中国に大きく差を付けられている。日銀が昨年11〜12月に実施した「生活意識に関するアンケート調査」によると、支払時にモバイル決済を利用している人はわずか6%にとどまり、中国とは違って日本はいまだ現金決済が優勢だ。
 
アンケートではモバイル決済を利用しない理由について「安全性に不安がある」との回答が最も多かった。

クレジットカードなど既に他の決済手段が浸透していることに加え、個人情報流出に対する警戒感がモバイル決済の普及を妨げるハードルになっているようだ。【8月7日 毎日】
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個人情報流出・プライバシーに対する感覚の差
個人情報流出に対する警戒感に関しては、中国は随分とおおらかなようです。
防犯用の監視カメラ映像の多くが、不特定多数が見られる形でオープンになっているとか。

****監視カメラ映像、中国では一大コンテンツに****
中国のインターネットユーザー7億5100万人は、ユーチューブの閲覧こそブロックされているかもしれないが、ヨガスタジオや水泳教室、アルパカ牧場など、監視カメラがとらえた映像ならリアルタイムでいくらでも見ることができる。
 
法律の専門家によると、そうした映像の多くは欧米では考えられない内容だ。外食、ダンスのレッスン、下着の買い物などの様子を公開しようとすれば、そこに映っている人は反対するだろう。本人の許可なく公開すれば訴訟につながりかねない。
 
しかし中国では、監視はどこでも行われており、広く受け入れられている。有名な中国の現代芸術家はこれを新たな映画の題材にした。(中略)

徐氏とアシスタントは中国のウェブサイトからのダウンロードを中心に約7000時間の動画の中から映像を選別し、作品を作り上げた。
 
そうしたサイトのうち、「シュイディ」(水滴)はインターネットセキュリティ会社の奇虎360科技が運営している。一方、「Ezviz」を運営するのは監視カメラメーカーの世界最大手、杭州 海康威視 数字技術だ。両サイトは合わせて数千台に及ぶ全国のカメラからのフィードを提供している。
 
徐氏はドラゴンフライ・アイズを制作する過程で、1998年の米映画「トゥルーマン・ショー」が未来を予言していたと確信した。この作品は、ジム・キャリー演じる主人公の一挙手一投足が、本人の知らないうちに生放送されるというストーリーだった。
 
「世界全体が巨大な映画スタジオになった」と徐氏は述べた。
 
当初はのぞき見のように思えて不安だったという。だが映像に登場した人たちの大半は何の問題もなく放映許可書に署名したうえ、一部の人は自分もフィードを見たと話した。
 
徐氏は「監視と人々の関係は変化している」と述べた。「以前は、利用するのは政府だった。だが今では、政府からあらゆる人へと拡大している」

監視が広がる土壌
プライバシーに対する市民の意識が厳しくないこともあって、中国政府は監視の範囲を拡大できた。
当局は、個人の行動に関するデータに基づいて「社会信用」スコアを算出する制度を導入しつつあるほか、どの国よりも広範にわたって顔認識技術を利用してきたが、不満は広がっていない。(後略)【8月15日 WSJ】
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このあたりのプライバシーに関する感覚の差は、国家による情報管理の問題にもつながる訳ですが、“中国では取引履歴を政府が個人監視に利用しているのでないかと指摘されるなど情報流出の懸念はつきまとう。だが、北京市内の会社員、郭さん(33)は「個人情報を見られても気にしない」と意に介さない。”【8月7日 毎日】といった声も。

【キャッシュレス社会で取り残される高齢者】
さきほど7時のNHKニュースで、日本でも「海の家」など現金を持ち歩きたくないような場所で、スマホ利用が広がっているとの話題を報じていました。

ただ、そのNHKニュースでも取り上げていたように、キャッシュレス“先進国”中国では、店頭に置かれた「二次元コード」の上から偽造コードを張り付け改ざんし、自分の口座に入金させる・・・などの新たな問題も出現しています。【7月30日 NHKより】

そうしたセキュリティーの問題以外に、モバイル決済が利用できない高齢者の現金使用が拒否され、買い物もできない、タクシーにも乗れない・・・という社会になりつつもあります。

****中国で急速に普及したキャッシュレス化は高齢者への差別****
・・・・専門家の中には、キャッシュレス化キャンペーンに疑問を呈する人もいる。北京師範大学・国際金融所の賀力平(ホー・リーピン)所長は、「もし現金での支払いを店が拒否するなら、それは私のような高齢者に対する差別になるのではないか」と述べている。

賀所長によると、現金での支払いができないことも不便なことであり、バランスのとれた多方面に配慮した社会を構築すべきで、現金拒否は法に触れる恐れもあるという。

清華大学・国家金融研究院の朱寧(ジュー・ニン)副院長も、「モバイル決済を大々的に活用することには賛成だが、キャッシュレス化社会には同意しない。モバイル決済が主流になる方向とはいえ、これは現金を無くすことを意味するものではない」と語り、「まだ多くの人が携帯電話やスマートフォンを使用していないことを覚えておかないと、不公平になってしまう」と指摘した。(後略)【8月15日 Record China】
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いろんな問題があるかもしれないが、まずやってみる、問題がでてきたらその時に対応する・・・というのが中国流の発想法であり、“石橋を叩いて壊してしまう”ような日本とは対照的です。

一概にどちらが・・・というのは言い難いところですが、日本も中国的なダイナミズムは参考にすべきところが多々あるようにも思えます。

ついでに言えば、“まずやってみる”というのが中国民間の発想なら、“とりあえずやらせる。多くの業者が出てきて競争し、その後に淘汰され大手が残ったところで、その大手を対象に規制をかけコントロールする”というのが中国当局のやり方とか。

深刻化・拡大するスマホ・ネット依存
スマホやネットへの“依存”などの弊害は、日本を含め世界共通の現象ですが、スマホが生活の中で主たる位置を占めつつあるような中国では、その“依存”も深刻なようです。

****ネット依存の18歳が死亡 中国、治療施設に入所直後****
中国で、インターネット依存症の治療施設に入所した18歳の少年が、入所から2日足らずに死亡する出来事があり、これまでにも物議を醸していた同様の施設に対し改めて疑惑の目が向けられている。
 
世界で初めて、インターネット依存症を治療が必要な障害と認定した中国には、延々とネットにふける人が何百万人もいると推定され、その多くは若い男性とされる。
 
亡くなった少年の両親は、息子のネット依存を止めようと、家業に関わらせる、軍への入隊を勧める、旅行に連れていくなど、あらゆる手を尽くした。
 
だがこれらのいずれも奏功しなかったことから、2万2800元(約38万円)を支払って治療施設での180日間に及ぶ「隔離環境での特別教育」を受けさせようと決意した。
 
両親は13日、国営の中国中央テレビ(CCTV)に対し、施設からは心理療法と軍隊式のトレーニングとを組み合わせて実施するという説明を受けていたと語った。
 
少年の死因はいまだ明らかになっていないものの、両親は息子の遺体に無数の傷があったと主張している。(後略)【8月16日 AFP】
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上記記事で“軍への入隊を勧める”とありましたが、軍の中でもスマホの影響が懸念される状況とか。

****中国軍の新たな敵はスマホゲーム? 夢中になり過ぎる兵士に懸念****
中国人民解放軍の幹部に新たな「敵」が出現したようだ。国内で大ヒットしているスマートフォン向け対戦型ゲーム「王者栄耀(King of Glory)」だ。若い兵士らがゲームに夢中になり過ぎて実際の戦闘に悪影響を与える可能性があると懸念されている。
 
人民解放軍の機関紙は「見逃せない安全保障上のリスクがあるのは確実だ」と指摘。「このゲームは常に注意力を必要とするが、兵士の任務はすべてが不確実だ。緊急の任務でゲームを止めても兵士の意識がゲームにとどまっていたら、任務の間、上の空になる恐れがある」と警鐘を鳴らしている。
 
機関紙によると、ある宿舎で兵士のほぼ全員が週末の間にこのゲームをしているのを軍の将校らが見つけ、懸念するようになったという。ゲームがすぐに禁止される計画はないが、兵士に「科学的なガイドライン」が示されるべきだと同紙は伝えている。
 
1日あたり最大8000万人がプレーする王者栄耀については、中国政府も長時間にわたりゲームをする子どもや10代の若者への影響について懸念を深めている。
 
王者栄耀を提供するIT・ネットサービス企業テンセント(Tencent)は先月、国内でのあまりの人気ぶりに「子どもたちの健全な成長のため」プレー時間を1日1~2時間に制限すると発表した。【8月16日 AFP】
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ネットユーザーが7億人とも言われる中国社会ですから、何百万人もの依存症患者がいても不思議ではありません。

個人的にも、私はスマホは使用しませんが、PCでのネット依存症状があって、“常に情報に飢えており、探し求めている。見逃している情報がありそうで不安になる”といった傾向があります。

海外旅行にもノートを持参して、街に出ずに、ホテルで(旅行とは無関係な)情報を検索している・・・ということも。
ホテルの選択基準もWiFi条件がいいことが一番です。先日のイラン旅行でも、アクセスできないサイトが多く、かなりのストレスを感じました。

インターネットは生活の利便性を高め、娯楽と収益をもたらしますが、多大な時間を消費し、注意力を奪い、自己喪失にも至る・・・といった弊害もあります。

そのあたりの中国の事情について、下記のようにも。

****中国7億人のネットユーザー、スマホ生活の実態に迫る****
携帯電話でネットを利用する人は7億人以上で、ユーザーの月平均モバイルインターネット通信量は1.5GB以上。こんなにも通信量が多いのは、スマホが手放せなくなるのが癖になっているからだろうか、それとも生きるため必要だからだろうか。(中略)

◆スマホを手放せない生活になって何を失った?
インターネットは生活の利便性を高め、娯楽と収益をもたらすが、悩みと戸惑いもある。

杭州市のIT企業で働くOLの程さんは最近、微信モーメンツの使用を停止したという。その理由は簡単だ。「思わずチェックしてしまい、通信量を消費してしまうのはともかく、時間を無駄にしているから」

ドイツの調査会社「Statista」の統計データによると、中国のスマホユーザーは2016年にスマホを毎日3時間利用しており、「夢中度」で世界2位につけている。テンセントのデータによると、微信だけでも毎日の使用時間が1時間半のユーザーが半数に達している。

清華大学新聞・伝播学院の金兼斌教授は、「通信量経済は人々の注意力を奪い、自己喪失という最大の問題が生じる。スマホを手にして忙しそうに見えるが、その一部の仕事は急ぎのものではない。表面的にはネット記事を読み多くのことを学んだように見えるが、得られる知識は系統的ではなく、問題を直接解決できるものではない」と指摘した。

テンセントが行った「SNS断捨離」実験によると、15日続けて微信の使用時間を毎日30分に短縮すると、被験者の消極的な情緒が大きく改善され、仕事への集中度が大幅に高まった。

人と人がいつまでもスマホの交流のみに留まり、特に長期的にSNSにのめり込むと、性格や行為の形成に知らぬ間に影響が生じる。

北京の事業機関の管理職は、「近年採用している実習生、特に90年代生まれになると、EQ(心の知能指数)や感情表現などの面に欠陥があると感じる。ルックス抜群でEQの高いモーメンツのイメージとはかけ離れている」と指摘した。

◆5G社会を目前に 中国人のネット生活はどうなる?
さらに大きな変化が控えている。例えば、間もなく訪れる5G応用だ。

中国移動(チャイナ・モバイル)は上半期、上海市と広州市で5G試験ネットワークの設置を完了した。これによる通信密度は1平方キロメートル当たり10-100Tbpsに達する。つまり5Gは今後、スマホ通信量の1000倍以上の拡大をサポートし、高画質映画のダウンロードに1秒もかからないことになる。

米Cisco社は報告書の中で、世界のスマホ1台当たりの平均月間通信量は2021年に14.9GBに増加すると予想した。これにより、人々の多くの需要が満たされるようになる。これはまた人の自制心と実行力の大きな試練となる。

長沙市に住む趙さん(51)は、5Gが間もなく切り開く「新世界」について、「期待しているが、不安でもある。今でも多くのスマホアプリを使えないのに、今後さらに多くのものが登場すれば、本当にスマホがなければ生きられなくなるのではないか。もっと年上の高齢者は、社会から見捨てられるのではないか」と述べた。

実際に「断捨離」を選び始めている人もいる。
「地下鉄蔵書活動(地下鉄に読み終わった本を置き、読書普及につなげる活動)」の流行や、微信がモーメンツに三日間以内の内容しか閲覧できない機能を追加した。テンセントはモバイルゲーム「王者栄耀(Honor of Kings)」にもユーザのゲーム没頭防止機能を追加した。これは通信量への意図的な制御、スマホの過度使用への反省だ。

金氏は今後について、「物質文明が発達するにつれ、社会の発展が速くなる。これは歴史の進歩の必然的な法則だ。スマホ族の幸福指数が上がったかは現時点では不明だが、将来的に人工知能をうまく活用できれば、娯楽の時間をより多く確保できるようになるだろう」と語った。【8月16日 Record china】
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情報の国家管理・統制 サイバーセキュリティー分野での人材育成
上記は、中国の・・・と言うより、日本を含めた現代社会に共通の問題です。

中国固有の問題としては、国家による情報管理・統制の問題があります。
(情報管理自体は多くの国がやっています。また、アメリカでトランプ政権が反トランプ大統領を掲げるサイトのデータを持つIT会社に対し、サイトを閲覧した人の個人情報を提出するよう命じていた・・・といった話もあります。ですから、“中国固有の”というよりは、“中国では大ぴら・大規模・広範に行われている”というべきでしょう)

****大手3社を一斉調査=党大会前、ネット統制強化―中国****
中国国家インターネット情報弁公室は11日、ネット上に国家の安全や社会秩序を脅かす情報を投稿するユーザーがいるとして、ネット大手3社に対する調査に着手したと発表した。

これまでも、問題があると判断した書き込みの削除を求めるなど規制してきたが、大手に対する一斉調査は異例。習近平指導部は秋に共産党大会を控え、言論統制をますます強めている。
 
調査対象となったのは、騰訊(広東省深セン市)の中国版LINEと呼ばれる「微信」、新浪(北京市)の中国版ツイッター「微博」、百度(同)の掲示板。いずれも中国では多くの人々が利用している。
 
ネット情報弁公室は「暴力テロや虚偽のデマ、わいせつなポルノを広めるユーザーが存在する。3社は法律月違反の書き込みに対する管理義務が不十分だ」と指摘。インターネット安全法違反の疑いがあると説明している。【8月11日 時事】 
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情報の国家管理やは別にしても、現代社会でサイバーセキュリティーが非常に重要な分野となり、そこでの人材が求められているのは間違いないでしょう。

****ネット統制の要員育成=「サイバー学院」設立へ―中国****
中国共産党の中央インターネット安全・情報化指導小組と中国教育省は、サイバーセキュリティー分野で優秀な人材を育成するため、「一流のネット安全学院」を設立すると発表した。

同省が15日、ネット上で明らかにした。2027年までに「国際的に影響力と知名度を持つ学院」を国内の4〜6カ所につくる計画だ。
 
発表によると、学院の設立は「習近平総書記(国家主席)の重要な指示」に基づく。習指導部は言論統制のためにネット規制を強化すると同時に、サイバー技術の軍事利用にも力を入れている。学院を設立し、体制を守る観点からサイバー分野の先端技術を備える要員の養成を目指すもようだ。
 
学院の教員には経験豊富な専門家を招き、外国の大学や企業、研究機関と積極的に交流を進める方針。地方政府や企業などにも学院建設への支援を求めている。【8月16日 時事】 
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育成した人材をどのように使うかは重大な問題ですが、人材の育成自体は日本でも参考にすべき非常に大切な課題でしょう。
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