孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

エジプト・シシ政権  経済再生のため、痛みを伴う補助金削減の賭けに 批判勢力は力で封じ込め

2017-08-24 22:23:45 | 北アフリカ

(食料品価格が上昇するなかで、主食であるエジプトパン「アエーシ」は、販売所では20枚1ポンド(約6.2円)でずっと変わらずに売られています。補助金によって小麦粉価格より低く抑えることで、人々の不満をかろうじて抑えていますが、財政的に大きな負担ともなっています。「アエーシ」に手をつけると、不満が爆発する危険も。
画像は【5月6日 東洋経済online「ルポ・エジプト、自由とパンと治安のゆくえ」】)

アメリカ・トランプ政権も援助停止を継続
エジプト・シシ政権に対して、アメリカ・オバマ前大統領は、その人権弾圧姿勢を問題視して軍事援助を停止していました。

人権問題には関心がないトランプ政権に代わって、エジプト支援が復活するのかと思っていましたが、そうでもないようです。

****対エジプト援助の停止(米国****
米政府はオバマ政権時代、エジプトの人権抑圧を理由に度々、その軍事援助等を停止しては、両国間の摩擦の種となっていましたが、トランプはそのような「面倒なことは言わずに」援助をすると予測されていましたが、al qods al arabi net とal arabiya net はトランプ政権が2億9000万ドルの援助を停止したと報じています。

それによると、これは米政府の複数の筋が22日明らかにしたところの由。

それによると、米は9570万ドルの軍事援助を中止し、その他の1億9500万ドルの援助を凍結した由。

米政府筋によると、この措置はエジプトとの治安協力を維持しながら、エジプトの民主化努力の欠如と人権侵害問題に対する、トランプ政権の問題視を示している由。

人権問題では、特に民間協会[NGOのことか?]に関する新法律が、人権、貧困救済等に当たる団体の活動を大幅に制限するとして問題視されていて、トランプ政権が注意喚起し、シーシも実施は見合わせると約していたが、実施されることになったことにトランプも困惑している由。(後略)【8月23日 「中東の窓」】
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上記記事では、トランプ大統領本人はともかく、アメリカ国務省がやはりシシ政権の姿勢を問題視しているのか・・・とも。

来年の大統領選挙を控え、野党候補者潰しを強行するシシ政権
エジプトでは来年に大統領選挙を控えて、シシ大統領による候補者潰しなど、強権的姿勢が続いていると報じられています。

****シシ独裁に抗う人権派の戦い****
当局は来年の大統領選をにらみ弾圧を強化 それでも人権派弁護士は抵抗し続ける

ハレド・アリはエジプトの著名な人権派弁護士。(中略)
 
エジプト当局は5月、「公序良俗違反」容疑でアリを逮捕した。カイロの裁判所の外で下品な手のしぐさをした、というのが逮捕理由だ。
 
アリが問題のしぐさをしたのは、アブデル・ファタハ・アル・シシ大統領の率いる政府に対して提起した訴訟で勝訴した今年1月。

エジプト政府は紅海に浮かぶ2つの島の領有権をサウジアラビアに譲ることで合意していたが、最高行政裁判所は
それを無効とする判決を下した。
 
多くの国民はこの合意について、シシはサウジアラビアからの巨額の援助や投資と引き換えに島を売り渡したと考えている。

エジプトの法律はデモを厳しく制限しているが、昨年に合意が発表されると、珍しく人々は街頭で抗議行動に訴えた。
 
アリはこの日の裁判で勝ったものの、最終的には敗北を喫した。シシは司法の判断を無視して議会で審議を進め、議会は先月(6月)中旬に合意を承認した。
 
アリは逮捕の理由について、現体制に公然と挑戦したためだと主張する。この訴訟に加え、2月には次期大統領選への立候補を検討中だと発表していた。
 
国際人権団体アムネスティ・インターナショナルから「不合理」だと批判されたアリの逮捕は、潜在的な政敵を根絶しようとするシシの姿勢を象徴する事件になった。

「逮捕に正当な理由はない。私を脅すのが目的だ」と、アリは本誌に言った。
アリは脅しに屈する気はない。来年の大統領選についても、まだ出馬の可能性を模索している。

だが、現体制への挑戦は決して許さないというシシの決意は固そうだ。4月以来、アリが創設した左翼政党「パンと自由党」など少なくとも5つの野党と若者グループの活動家約50人が逮捕されている。(中略)
 
(中略)結局、一晩拘束された後に釈放。今は裁判を待っている。有罪なら禁鋼刑もあり得るという。
有罪判決が出るのは確実だと、アリは本誌に言った。そうなれば、大統領選への出馬は法的に不可能になる(本誌はこの件でエジプト内務省に問い合わせたが、返答はなかった)。

アメリカの関心は薄い
逮捕に怯えるエジプト人は多い。他の野党関係者は、報復の恐れがあるため大統領選の候補者擁立を進められないと語る。

「シシは野党から強力な対立候補が出るのを妨害している」と、立憲党のハレドーダウド党首は言う。同党のメンバーは大統領侮辱罪などの容疑で何人も逮捕されている。
 
若者は逮捕への恐れから立憲党への参加をためらっていると、ダウトは言う。資金面も厳しい。「党員の多くが日常的に逮捕されるのを見て、わが党に献金しようと思う実業家などいるはずがない」
 
一方、シシ政権は別の形の不満表明に対する締め付けも強化している。4月末には、最高裁を含む上級裁判所の首席判事の任命権を大統領に付与する法改正を実施した。専門家によれば、政権に批判的な2人の判事の昇進を阻止するのが目的だ。
 
5月からはカタールの衛星テレビ局アルジャジーラやエジプト有数の独立系ニュースサイト「マダマスル」など、少なくとも100のウェブサイトヘのアクセス遮断を開始した。

同じ月には、国際人権団体ヒユーマン・ライツ・ウォッチが批判するなか、「多くのNGOの活動を違法化し、独立した役割を失わせる」新法が制定された。
 
シシは13年、民主的に選ばれたエジプト初の大統領ムハンマド・モルシを軍事クーデターで追放した直後から、既に反対派の弾圧に手を染めていた。翌年の大統領就任以来、これまでに逮捕または起訴した政治犯は約4万人。

政府に対する抗議行動を事実上禁止し、活動家から移動の自由を奪い、体制に協力的ではない裁判官を追放してきた。
 
今ではシシの権力に挑もうとする勢力はほとんどない。なのになぜ、反体制派つぶしにこれほど躍起になるのか。
一部のアナリストによれば、経済運営と治安対策をめぐる世論の批判に対し、過度に神経質になっているためだ。

テロ組織ISIS(自称イスラム国)は昨年12月以来、キリスト教の一派コプト敦の信者に対する攻撃を4回起こしている。
 
紅海の2島に関するサウジアラビアとの合意を理由に挙げる向きもある。議会がこの不人気な合意を承認するかどうかの採決に入る前に、反対派を黙らせておきたかったというわけだ。

それでも支配層の内部では、シシヘの支持は依然として強く、本人も周囲も権力の危機とは考えていないと、米シンクタンク大西洋協議会のH・A・ヘリヤー客員上級研究員は言う。
 
ドナルド・トランプ米大統領との良好に見える関係も、シシを大胆にさせている。5月にサウジアラビアの首都リヤドで行われたアラブ諸国指導者との会議に出席したトランプは、エジプト訪問を約束。さらにシシの礼装用の靴を褒めてみせた。
 
「アメリカの政権交代は、シシヘの国際的な圧力はあまり強くならないというシグナルとなった」と、ヘリヤーは指摘する。

もっともトランプ政権誕生前から、アメリカはシシに強い圧力をかけていなかった。「オバマ前米政権は実際の政策レベルでは、エジプトの統治の改善にあまり熱心ではなかった」
 
人権派弁護士のアリにとって、現状の見通しは必ずしも明るいものではない。それでも、戦いをやめるつもりはない。「体制側や当局側か全ての戦いに勝つことはあり得ない」と、アリは言う。しかし今のところは、戦況は体制側が圧倒的に優位に見える。【7月18日号 Newsweek日本語版】
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痛みとリスクを伴う補助金削減へ 「成果が出るまで待つ余裕があるだろうか」】
モルシ前政権時代の混乱や「アラブの春」による中東各国の混乱を目にして、エジプト国民は社会安定のためにシシ政権の強権姿勢を一定に容認しているようにも思えますが、不満の火種としては治安問題と経済問題でしょう。

治安については、上記記事にもあるISによるコプト教徒を対象にしたテロほか、7月14日にはカイロ南方バドラシンで、バイクに乗った3人組が警察車両に発砲し、内務省によると警官ら5人が死亡した事件も起きています。

低迷を続ける経済状況は深刻で、政権に対して極めて大きな脅威とないます。
シシ大統領は経済打開のため、政策論としては本筋ではあるものの、国民の大きな反発をまねきかねない食料・燃料補助金の削減という荒療治に着手しています。

****エジプト大統領が踏み切った危険な賭け****
経済再生のため数十年続いた食料・燃料補助金を削減、ショック療法は成功するのか

エジプトのアブデル・ファタ・シシ大統領は、2011年の同国の民主化革命以降、失速を続ける国内経済を救うために、前任者たちが誰も踏み切らなかった食料・燃料補助金の削減という危険な賭けに出た。補助金は長らく無駄と汚職の温床となっていた。
 
エジプトポンドの急落と相まって、この「ショック療法」がアラブ世界で最も人口の多いこの国を揺るがしている。燃料価格は6月に50%上昇。調理用ガスは2倍に上昇し、年間インフレ率は30%を超えている。
 
貯蓄が減り、消費者の購買力が低下する中、シシ大統領は、景気低迷によって再び民主化要求運動「アラブの春」のような反政府デモが頻発する前に、雇用創出や外国からの投資、経済成長といった期待される成果が表れることに賭けている。
 
緊縮財政が社会に与える影響を懸念している政府支持派のオサマ・ヘイカル議員は「貧しい人々は本当に苦しんでおり、中間層が貧困化している」と述べた。
 
補助金削減は、国際通貨基金(IMF)がエジプトの経済安定化を支援するために120億ドルを融資した際に付けた条件の1つだ。
 
食料・燃料補助金は、今回の削減後でも年間110億ドル余りと、エジプトの18会計年度(17年7月~18年6月)の予算の18%を占める。

だが、補助金は経済成長の阻害要因の1つにすぎない。エジプトでは労働法のために従業員を解雇するのがほぼ不可能で、司法当局は信頼できず、官僚制度が創意工夫を妨げている。また、軍が生産を行い、経済を実質的に運営していることが事態を悪化させている。
 
エジプトの元外相で、現在はカイロのアメリカン大学の教授を務めるナビール・ファハミ氏は、補助金削減はエジプト経済のひずみを是正するが、痛みとリスクを伴うと指摘。「問題は十分な見返りが得られるかどうかだ。成果が出るまで待つ余裕があるだろうか」と述べた。 
 
エジプト政府は、電力・輸送インフラに投資しているほか、起業や工場開設、起業のための土地取得をしやすくする計画を推し進めている。一方で、かつて国防相だったシシ大統領は、国内経済に対する軍の影響力を一段と強化している。

シシ大統領は、エジプト初の自由選挙で選ばれたムスリム同胞団のムハンマド・モルシ大統領を13年に解任・投獄してから、政治的な敵対勢力と組織的な抗議活動をほとんど排除している。
 
エジプトの報道機関は自由に報道できなくなり、ここ数カ月は独立系ウェブサイトへのアクセスも遮断されている。新たな法律が非政府組織の活動を妨げ、民衆の不満がどれほど高まっているかを分からなくしている。

政府はこうした規制について、テロや過激派と戦うために必要と説明したが、人権擁護団体などはこれに反発している。

配給のパン
イスラム穏健派政治家のアブドルモネイム・アブールフトゥーフ氏は「現在の安定は爆発寸前の火山のようなものだ。いつ爆発するかは誰も予測できない」と述べた。同氏は12年のエジプト大統領選挙の1回目の投票で17%の票を獲得した。
 
アブールフトゥーフ氏は「もし爆発しても、11年のような中間層が起こす革命にはならないだろう。現在の状況下ではカオスに陥ると思う。そしてエジプト中にカオスが広がれば、エジプト人だけでなく、中東地域全体、さらに欧米にとっても脅威になるだろう」と語った。
 
エジプトでは毎日、0.02ドルに満たない価格で5個のパンを買うために、数百万人が政府系のパン屋に列を成す。食料補助金は第2次世界大戦中に配給の一環として始まり、今は同国の一般世帯の約80%に支給されている。
 
また、エジプト各地の農家はディーゼル油を燃料とする給水ポンプで水をくんで作物を育てているが、ディーゼル油価格が6月に55%上昇したにもかかわらず、小売価格は1ガロン=0.77ドルと、米国の3分の1もしない。
 
政府当局者によると、この補助金制度は数十年の間に腐敗している。補助金を受けている食料・燃料・ガスを当局者がエジプトの国内外で不正転売しているためだ。
 
エジプトのタレク・カビル貿易・産業相は、向こう3~5年で補助金支給を打ち切ることを目指しているとし、「やるべきことは補助金を完全に廃止することだが、40年にわたる問題を1日で解決することはできず、今すぐに廃止することはできない」と述べた。
 
エジプト政府は、食料・燃料補助金の代わりに必要に応じて現金を支給し、さらに最低賃金と年金額を引き上げている。
 
カビル氏は「全国民に補助金を一律に支給することはできない。中には補助金を必要としない人もいる」とした上で、補助金制度の合理化によって、医療、教育、産業界の成長への支出を増やせるとの見方を示した。

経済改革か、それとも
だがこれはエジプトの一般市民には受け入れがたい。カイロのマーディ地区の政府系パン屋の外で列に並んでいた元公務員のサイード・モハメド・サイードさんは不満をまくし立て始め、他の人もうなずいていた。
 
サイードさんは、最近年金が月額100エジプトポンド(約5.63ドル)増えたが、物価上昇分を考えれば無意味だと批判。「こうした状況にあとどれくらい耐えられるか分からない。ありとあらゆるものの価格が急上昇している。それと引き換えにわれわれは何を得ているか。何もない」とぶちまけた。
 
カイロの貧しいエリア、シューブラ地区では2人の子供の母親であるファトマ・ハッサンさん(35)が政府への怒りを訴える。

ハッサンさんの家族の月収は4500エジプトポンド前後で、1年前には生活に余裕があったが、いまでは生きていくのがやっとだという。最近行われた調理用ガスと油、砂糖の値上げが特にこたえたと話す。「どうしていいかわからない。銀行強盗でもするべきか」
 
それでも、「アラブの春」以降にエジプトやその他の国々を襲った混乱は、シシ大統領の経済改革を受け入れやすいものにしている。

2011年のエジプト民主化革命後に経済のメルトダウンや法と秩序の崩壊を目にした多くのエジプト人は、改革による耐乏生活にもかかわらず、今のところ反政府デモには訴えていない。6月に行われた最新の補助金削減でも抗議行動はあまり行われなかった。
 
「人々は経済危機と生活費の上昇にひどく苦しんでいる」とサラフィー主義政党「ヌール党(光の党)」の党首ユーニス・マフユーン氏は話す。「しかし人々はシリアやリビア、イラクなど、近隣諸国の経験も見ている。そしてエジプトが同様の運命をたどることを恐れている」【8月9日 WSJ】
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どこの国でも、補助金政策はアヘンのように経済・国民を依存体質にしてしまいますので、そこからの脱却は厳しい“禁断症状”を伴います。

エジプトでも、サダト大統領の時代から政府がパンの料金を上げようとして暴動が発生することもありました。
シシ政権下でも、値上げの噂が広まったことで政府への抗議デモが昨年来報じられています。

シシ大統領が補助金削減という危険な賭けに出たのは、経済状況悪化がそれほど差し迫った問題となっているためでしょう。また、不満・反発は力で抑えられるとの自信もあってのことでしょう。

もっとも、選挙となると“パンの恨み”が政権批判票となって噴出する可能性がありますので、前出のような対抗馬・候補者潰しに躍起になっている・・・ということのようです。
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