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(パレスチナ自治区ガザ地区ガザ市の映画館「サメルシネマ」で、映画を観賞するガザ市民ら(2017年8月26日撮影)【8月27日 AFP】)
【現在も過密状態 2030年には人口が1.5倍に】
イスラエルを認めないイスラム原理主義組織ハマスが支配するパレスチナ・ガザ地区は、隣接するイスラエル(一部はエジプト)との境界を、数か所の検問所を残してコンクリート壁などで遮断されており、度重なるイスラエルとの衝突による破壊に加え、物資の流入が厳しく制約され、電力供給もままならない状況で、“天井のない監獄”とも呼ばれています。
****ガザ地区*****
人口が急増しており、東京23区の約6割の面積に相当する約360 km2ほどの地域に暮らす住民は2016年10月、200万人を超えた。
その8割が食料などの援助に依存し、失業率は40%以上。
国連人口基金の予測によると、2020年にガザ地区は「居住不能」レベルまで人が溢れ、2030年の人口は310万人に達する【ウィキペディア】
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2016年に200万人だったのが、14年後の2030年には5割増の310万人・・・・そんなに急増するものだろうか?とも思ったのですが、人口増加率が2.8%ということで、電卓を叩いてみると確かにそんな数字になります。
現在でもその窮状が大きな問題になっているのに、人口が5割も増えたら、文字通り“パンク”です。
人口がそこまで増える一つの要因は娯楽施設も何もないことがあるのかも。電気も十分に供給されませんからTVも観られません。そんな状態で人間がすることと言えば・・・・という話でしょう。
【30年以上ぶりに映画館での映画上映】
娯楽施設に関しては“30年以上ぶりに映画館での映画上映”というニュースが。“30年ぶり”に映画館上映されたことを喜ぶべきか、30年間も映画館が機能しない状況にあることを憂うべきか・・・・。まあ、後者でしょう。
****30年ぶり、一夜限りで映画館が復活 パレスチナ自治区ガザ地区****
パレスチナ自治区ガザ地区で26日、30年以上ぶりに映画館での映画上映が一夜限りで行われた。
この映画館は、ガザ市に1944年にオープンしたサメルシネマ。ガザ地区で最も古い映画館だったが1960年代に閉鎖されて以降、放置されていた。
10年前からイスラム原理主義組織ハマスが実効支配するガザ地区では、約200万人がイスラエルに封鎖された狭い地区内に暮らしているが、現在営業している映画館は一つもない。一夜限りの映画上映はハマスの承認を得て実現した。
蒸し暑い夜に冷房設備のない中での特別上映だったが、同日、映画館では約300人の男女が、性別によって分けられることなく共に映画を観賞した。
上映された映画はイスラエルの刑務所に収監されたパレスチナ人たちを描いた『Ten Years(10年間)』。ガザ地区で撮影され、ボランティアの俳優たちが出演した。
上映会を主催したガーダ・サルミさんによれば、映画はイスラエルとパレスチナの紛争という政治問題に焦点を当てたものではなくヒューマンドラマだという。
ガザ地区では5月に人権問題に焦点を当てた映画作品のイベントが開催され、作品は野外で上映された。また同地区では、ホールを借りて映画が上映されることがある。【8月27日 AFP】
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上記記事にあるように、映画館以外のホールを使った上映会などはこれまでも行われているようです。
ただ、多くの人々が娯楽を欲しているのに、どうして映画館が復興しないのか?何らかの事情でハマスが許可しないのか?(大勢の人が集まることを嫌うとか・・・)
再開しても、次の紛争で破壊される・・・といった繰り返しで、結局そのまま放置されている・・・という状況のようです。資材も入ってこないでしょうし。(ハマスの対応は知りません)
そのあたりは、昨年行われた“20年ぶりにホールで行われた映画観賞会”を伝える下記記事に。
****パレスチナ自治区ガザで20年ぶり映画上映会****
パレスチナ自治区ガザで前週、20年ぶりに映画鑑賞会が開かれ、約150人の市民が楽しんだ。会場は、普段は祝賀会や伝統芸能の催しが行われている赤新月社ソサエティホール。(中略)
映画を見に来るのはこれが初めてだという学生のアラー・アブー・ガーセムさんは、鑑賞を終えて「とても幸せ。でもポップコーンがなかったわ」と話した。観客の中には、スクリーンの写真を携帯電話で撮影する人もいた。
ガザ地区ではエジプト領だった1950年代、西欧の作品を含め映画が人気を集めたが、87年に始まった「第1次インティファーダ」と呼ばれる暴動時に多くの映画館が焼き討ちされた。全施設がいったん再建されたものの、96年の暴動で再び焼かれた。
過去にガザで映画を見たことがあるという演出家は「ガザは映画に飢えている。この地で住民から映画や劇場を取り上げることは、人間性を侵害することだ」と訴えた。【2016年3月1日】
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でも、どうせ上映するなら、イスラエルの刑務所に収監されたパレスチナ人たちを描いた作品(今回)、反イスラエル暴動が起きた1987―2011年のパレスチナを描いた作品(昨年3月)といったものでなく、一般の人々がもっと楽しめる娯楽映画を上映したほうが・・・・とも思うのですが。
【1日の電力供給は約2〜4時間】
厳しく流入物資を制限されていることもあって、ガザの復興が進まないことは、これまでも取り上げてきました。
電力不足は、“停電時間”ではなく、“通電時間”が1日数時間という状況で、市民生活も医療も限界です。
****<ガザ停戦3年>復興進まず 電力供給1日2〜4時間****
パレスチナ自治区ガザ地区を実効支配するイスラム原理主義組織ハマスとイスラエルの大規模な戦闘が終結して26日で3年が経過する。
だがイスラエルの封鎖政策などで復興は遅々として進まず、ヨルダン川西岸を支配するパレスチナ自治政府(PA)がハマスへの圧力を強化するなど同胞間の対立も深刻化。ガザ地区200万人の住民は苦境に陥っている。
「鳥肉はどうだい」「こっちはモモだよ」。売り子の威勢のいい声が響きわたる。休日の金曜朝、シャティ市場は食材を求める買い物客であふれていた。
活気に満ちた光景だが、裏がある。酷暑の中、1日の電力供給は約2〜4時間に過ぎず、各家庭は冷蔵庫で食品を保管できない。その日に使う食材を、その都度買わざるを得ないのだ。
難民キャンプで暮らすタクシー運転手、アシュラフ・アブラムディさん(36)は「市場には以前は週に2回しか来なかったが、今はほぼ毎日。ゆうべも暑くてよく眠れなかった」と、うんざりした表情で語った。
PAは今年4月、ガザ地区に対する財政支出を財政難を理由に大幅にカット。対立するハマスに圧力をかけたとみられる。これによる燃料不足が電力危機に拍車をかけている。
ガザ保健当局のエルケドラ広報官は「医療機関は自家発電で電力をまかなうが、この状況が続けば、現在の1日当たり250件の手術や200人の出産に対応できなくなる」と語った。
アルシファ病院のジハード・ジュアイディ集中治療室(ICU)長は「ICUと手術に電気は不可欠」と指摘。この10年間でICUの医師が23人から15人に減ったといい、「復興どころではない。状況は確実に悪化している。命に関わる医療は政治問題とは切り離してほしい」と訴えた。
国連児童基金(ユニセフ)によると、ガザ地区では過去4カ月で、電力不足のため使用可能な水量が3分の1減少。国際基準で最低とされる1人1日当たり100リットルのほぼ半分の53リットルに落ち込み、南部では1日40リットルにまで激減している。
電力不足は汚水処理も阻害しており、連日10万立方メートル以上の汚水が海に垂れ流されている。ユニセフは6月に報告された3歳未満の子供の下痢の症例は3月の2.5倍に当たる3713件に上ったとし、国際社会に支援を呼びかけている。【8月24日 毎日】
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ガザ地区には発電所は一カ所しかなく、しかもイスラエルとの2014年夏の戦闘で損傷を受けています。イスラエルとエジプトから電力を輸入はしていますが、需要をまかなえていません。
****電力不足のパレスチナ・ガザ地区、太陽光発電に託す希望****
パレスチナ自治区ガザ地区のナヘド・アブ・アシさんの農場は、2008年以降3度のイスラエルとの大規模な戦闘のたびに爆撃の被害を受けた──そしてガザ地区の他の場所と同じく、毎日、ほんのわずかな電力供給しか受けていない。
発電機を使用する費用は高く、アシさんはガザ地区の他の住民たちと同じ方法に望みを託している──費用のためのローンさえ見つかれば、太陽光パネルを設置するのだ。
不安定な電力供給にうんざりしているガザ地区の住民の間では、太陽光パネルを設置する人々が増えている。ガザ地区では1年の大半の期間、太陽が照っているのだ。
屋根の上には灰色と黒色の太陽光パネルが目立つようになってきた。
太陽光発電を扱う商店や広告も増えている。ガザ地区を実効支配するイスラム原理主義組織ハマスも、太陽光発電に目を向け始めている。
ガザ地区電力当局の太陽光エネルギー部門の代表、ライド・アブ・ハッジ氏は「電力危機を少しでも改善しようと、学校、病院、公共の施設に太陽光パネルが設置され、他のプロジェクトも始まっている」と語った。ガザ地区ではまもなく、住宅1万戸に太陽光パネルが設置されるかもしれない。
太陽光発電は決して安い方策ではない。農家のアシさんは、太陽光パネルに4500~5400ユーロ(約52万~63万円)を支払う見込みだが、長期的には利益になるはずだと話した。
人口190万人のガザ地区にはたった一つの発電所しかなく、しかもイスラエルとの2014年夏の戦闘で損傷を受けた。イスラエルとエジプトから電力を輸入しているが、それでも十分な量にはほど遠い。
電力需要は推定450メガワットだが、供給量はわずか250メガワット。このうち27%がイスラエルから、22%がガザ地区の発電所、6%がエジプトからの供給となっている。【2016年7月29日 AFP】
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“27%がイスラエルから、22%がガザ地区の発電所、6%がエジプトから”・・・・残りはどこから?(供給量ではなく、需要量に対する割合でしょうか)
まあ、そういう細かい話はともかく、太陽光発電は確かに適していると思うのですが、問題は資材・資金でしょう。
国際的な援助がないと、自力ではなかなか。
イスラエルから電力供給が最大の供給源となっているようですが、おそらくイスラエル側は厳しく対応しているのでしょう。(ハマス側に電力輸入する資金力がないのか?)
その結果は、ガザでの汚水処理能力不足という形で、イスラエル側にも跳ね返っているようです。
****地中海のビーチ汚水垂れ流し・・・・ガザ、経済封鎖で****
イスラエル南部からパレスチナ自治区ガザにかけての地中海沿岸で、汚水垂れ流しのため水質が悪化し観光業や漁業に深刻な打撃が広がっている。
イスラエルによる経済封鎖でガザの電力が不足し、下水処理施設が動かなくなっているためだ。
「客が激減している。ガザの汚水が原因だ」。イスラエル南部のビーチで13日、管理人の男性(43)が憤った。ビーチ周辺では7月以降、汚物などが原因の細菌が高い値で検出され、イスラエル保健省は「衛生上の問題がある」としてビーチ数か所を一時閉鎖した。男性は「毎年この時期は大勢の海水浴客でにぎわっているのに迷惑な話だ」と吐き捨てた。
このビーチから南約15キロのガザ市南部。直径約1メートルの排水管からは、トイレなどの排水がそのまま海に流れ出ていた。一帯には強烈な悪臭が漂い、白い泡が浮かぶ波が浜辺に打ち寄せていた。【8月15日 読売】
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【孤立状態のハマス エジプトに期待・・・・とは言うものの】
もとよりイスラエルとは敵対関係にあり、パレスチナ自治政府からは政治対立で“締め付け”を受け、更に、これまで支援してくれたカタールもサウジアラビア等による断交措置で支援を停止・・・ということで、ガザ地区を実効支配するハマスにとってエジプトが最後の頼みの綱だとか。
****<ガザ停戦3年>孤立するハマス 支援はエジプト頼み****
パレスチナ自治区ガザ地区を実効支配するイスラム原理主義組織ハマスは、3年前に激しい戦闘を展開したイスラエルに包囲され、パレスチナ自治政府(PA)の圧力を受け、ペルシャ湾岸諸国の外交対立に伴うカタールからの援助停止にも直面する。孤立状態を打開するため隣国エジプトの支援に活路を見いだそうとしている。
ハマスは2007年6月にガザ地区を武力制圧し実効支配を固めたが、多くの医療関係者、教員、民生部門の公務員らへの給与は、自治政府が支払ってきた。その数は現在も1万人以上に上るとされる。
自治政府は今年4月から、これら公務員らの給与を3分の1以上減額。早期退職を勧告するとの情報も発信した。公式な発表はないが、「対象は45歳以上」「対象者のリストに名前が載っている」といったうわさが駆け巡り、不安が増幅されている。
現地アル・アズハル大のハイマル・アブサダ准教授は「早期退職勧告は財政的な圧力が狙い。PAはハマスを追い詰めている」と分析する。公務員らが退職すればハマスは欠員を補充し給与も負担しなければならない。
アブサダ氏は「ハマスに財政的な余裕はない。欠員補充でも、ベテランから経験のない人材に置き換えれば、医療や教育に破滅的影響をもたらしかねない」と危惧する。
ガザ地区の孤立は、周辺アラブ諸国間の外交関係や政治状況とも無関係ではない。サウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)、バーレーンなどの湾岸諸国は6月、ガザのインフラ復興を支えてきたカタールと断交。解除の条件としてイランとの関係を再考することやテロ支援の停止を挙げた。
サウジのジュベイル外相はフランスでの記者会見で「カタールはハマスへの援助をやめなければならない」と発言。カタールのガザ支援事業は現在、行われていない。
四面楚歌(そか)の状況に置かれたハマスだが、6月以降、エジプトの招きで、電力不足など人道危機の解消に向けた協議を進めている。
こうした協議には、かつてガザ地区の保安警察長官としてハマスを弾圧し、自治政府のアッバス議長との確執からUAEに亡命したダハラン氏の系列のグループも参加しており、カタールと対立する湾岸諸国の意向も反映されているとみられる。
ハマスはダハラン氏と和解する姿勢を示すなど、譲歩の構えも取っている。エジプトとの間のラファ検問所の常時開放や電力支援などの協力をエジプトから取り付けることが狙いだ。【8月24日 毎日】
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エジプト自体が8月24日ブログ“エジプト・シシ政権 経済再生のため、痛みを伴う補助金削減の賭けに 批判勢力は力で封じ込め”で取り上げたように、経済的に追い詰められた状況ですから、ガザ地区・ハマスを資金的に支援する余力はないでしょう。
まあ、ラファ検問所の扱いならカネもかからない話ですが、こちらはイスラエルとの調整が必要になります。
また、シナイ半島ではイスラム過激派が跋扈し、その対応にエジプトは苦慮しています。ガザ地区・ハマスとの交流でこの活動が刺激されるようなことも避けたいところでしょう。
エジプト頼みでは、あまり大きく改善するようには思えません。
ハマスにとって、住民を満足させる平時の統治は、イスラエルとの戦闘以上に難しいかも。