孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

サウジアラビアとイランの対立、カタール断交問題 動きは多々あるものの、方向性は不透明

2017-08-25 21:57:32 | 中東情勢

(政権転覆の憶測も呼んでいる、カタール首長家の一員、アブドラ・ビン・アリー・サーニ氏とサウジアラビアのムハンマド皇太子の面会【8月22日 WSJ】)

サウジ・イランの外交官同士の相互訪問が近く実現 一方でイランの牙城イラクへサウジ進出
中東における最大の対立軸のひとつが、サウジアラビアとイランの対立であり、イエメン内戦は両国の代理戦争とも言われています。

また、イランと近い関係にあるとされるカタールが、サウジアラビアなどアラブ諸国・イスラム諸国から関係を絶たれる制裁にあっているのも、サウジ・イランの対立が根底にあります。(カタールの問題はイランとの関係だけではありませんが)

ここ数日、その対立の当事国サウジアラビアの“動き”がいろいろ報じられています。

ただ、その“動き”の方向性が、イランやカタールとの緊張緩和なのか、それともこれまで以上の対立なのか、まったく逆の方向が指摘もされており判然としません。なにぶん、秘密主義のサウジアラビアの話ですから・・・。

先ず、イランとの直接関係については、8月21日ブログ“イラン 周辺国に影響力を拡大する行動の背景に、イラン・イラク戦争の悲惨な記憶が”で、サウジアラビア側からのイランへ関係修復の動きに関する情報があったものの、サウジアラビア側がこれをを否定した・・・という話を取り上げました。

上記情報に関してはサウジアラビア側は否定はしたものの、やはり両国間でなんらかの動きがあるようです。

****<イラン>サウジと9月にも相互訪問へ 関係改善の兆し****
ランのザリフ外相は、昨年1月から断交が続いているサウジアラビアとの間で、外交官同士の相互訪問が近く実現すると語った。ロイター通信が23日、伝えた。

サウジにあるイスラム教の聖地メッカへの大巡礼(ハッジ)期間が9月第1週に終了後、実施される予定という。中東の覇権を巡り敵対してきた両国だが、関係改善の兆しが出始めている。
 
ザリフ外相は地元メディアに「既にビザは相互に発給されている」と明言し、現在は訪問に向けた最終手続きの段階と述べた。両国の外交官は相手国に滞在中、自国の大使館の状況などを確認するという。ザリフ外相は「地域の危機を解決するため、イランはサウジと対話する用意がある」と述べた。
 
イスラム教シーア派国家のイランは、スンニ派の盟主サウジと長年にわたって敵対。昨年1月、サウジがシーア派有力指導者の処刑を発表したことで対立は決定的となり、サウジがイランとの国交断絶に踏み切った。
 
両国は、シリアやイエメンの内戦でも互いに別勢力を支援する「代理戦争」を展開。また、今年6月にサウジなどがカタールと断交した背景には、カタールが親イラン姿勢を示したことがあったとされ、中東地域の覇権争いが激化していた。
 
イランのロウハニ大統領は対外融和路線を掲げて政権2期目をスタートさせたばかりで、1期目で悪化した周辺国との摩擦を徐々に解消したい意向があるとみられる。
 
一方、原油価格低迷で厳しい財政状況が続くサウジでは最近、ムハンマド皇太子が泥沼化するイエメン内戦から「手を引きたがっている」(衛星テレビ局アルジャジーラ)とされ、そのためにイランとの和解も模索していると報じられていた。【8月24日 毎日】
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長引くイエメン内戦への介入がサウジアラビア財政にとって大きな負担となっている・・・という指摘は以前からなされているところです。(もっとも、サウジアラビアの狙いは、イエメンを現在のような混乱状態に置き続けることではないか・・・との、うがった見方もあるようですが)

上記の話が軌道に乗って両国関係が改善し、ひいてはイエメン内戦も鎮静化するのであれば、非常に喜ばしい話です。

しかしながら、サウジラビアはイランに対抗する形でイラクへ接近しているとの話もあります。この動きにはIS後を睨んだアメリカの後押しもあるとか。

7月21日ブログでも取り上げたように、イランはイラン・イラク戦争の悲惨な記憶もあって、シーア派主体のイラクに強固な影響力を構築しています。

そのイラクにサウジアラビアがイランと対抗する形で影響力を強めようとすれば、IS後の統治枠組みをめぐって重要な時期にあるイラクは、イエメン同様にイランとサウジアラビアの間で引き裂かれるような事態も懸念されます。

****歩み寄るサウジとイラク、イランへの対抗で****
トランプ政権にとっても「優先事項」

サウジアラビアが米国の後押しを受け、長年対立していた隣国イラクに歩み寄り始めている。米同盟国のイラクと関係改善に取り組み、イランの影響力を弱めることが狙いだ。
 
サウジ当局はイラクのシーア派指導者に秋波を送り、外交的プレゼンスを拡大しているほか、2国間の直行便の運航も開始。厳重な警備で数十年にわたって閉鎖されていた約970キロにわたる両国国境も再開している。(中略)
 
ある米当局者はサウジとイラクの関係改善がドナルド・トランプ政権にとっても優先事項だとした上で、それを実現させるのは「今からでも遅すぎることはない」と指摘。米政府にとっては、イラクを「サウジアラビアやトルコのような国に少し近づけ、イランの影響力を多少弱める」取り組みの一環でもあるとした。
 
スンニ派の過激派組織ISの掃討では、米国主導の有志連合はイランと同じ側で戦った。その有志連合にはサウジも参加している。ISの掃討が進んだ今、有志連合参加国はイラクに影響力を残す機会を得ている。
 
有志国連合の対IS作戦を担当するブレット・マガーク米特使はサブハーン氏と国境検問所を訪れた際、「過去3年にわたって打倒ダーイシュ(ISのアラビア語の略称)を掲げてきただけでなく、ダーイシュが去った後のことも考えてきた」と発言。集まったイラクとサウジの当局者には、「われわれは両国の努力を支えるため可能なことはすべて行う」と伝えた。(中略)

イラクのハイダル・アバディ首相はイランへの対抗勢力を歓迎する。アバディ氏は来年に議会選挙を控えているが、ライバルであるヌーリ・マリキ前首相はイランとの距離が近い。
 
サウジとイラクの当局者らによれば、バグダッドやリヤドなどの都市を結ぶ約140の直行便は、今後数週間内に運航を開始する。

アラールの検問所は、通商目的や旅行者のために今月再開された。メッカ巡礼の時期であるため、イラク側からの訪問者の増加にも間に合った。政府間では、来年さらに1カ所の検問所を開けることで合意している。(中略)
 
イラクとサウジの歩み寄りの裏には、米国の仲介もあった。米当局者によればレックス・ティラーソン国務長官は2月の就任直後、サウジのアーデル・ジュベイル外相に対し、イラク国内でサウジがより大きな役割を果たすべきだと進言している。
 
ジュベイル氏がバグダッドに向かったのはその数日後の2月25日。サウジ外相が同地を訪問するのは2003年のイラク戦争後初めてのことだった。その後、イラクのアバディ首相が6月にサウジを公式訪問し、両政府は安全保障や貿易に関する協議会を立ち上げることで同意した。
 
7月末にはシーア派の指導者であるイラクのムクタダ・サドル師が、サルマン皇太子とサウジで面会した。同じくシーア派指導者のニムル師が2016年にサウジで処刑されたことにサドル師が強く非難していた背景があったため、両サイドが顔を合わせるのは不可能だと考えられていた。
 
一方、イラン政府もマリキ前首相を支援するなどしてイラクでの影響力を高め、ISと戦うシーア派武装組織に資金や訓練を提供し続けている。
 
サウジ政府の動向について問われたイランのジャバード・ザリフ外相は、イラン学生通信(ISNA)が23日配信したインタビューで、相手国の意図は分からないとしながらもイラン政府は懸念していないと話した。

「重要なのは、われわれがこの地域での自らの役割や隣国との関係に関しても自信を持っていることで、これら動きもまったく不安に感じていない」と述べている。

イラク国内にはサウジへの反発も
イラク国内では、サウジの動きに反発する声も聞かれる。イラク国内でスンニ派過激勢力が台頭したのは、イスラム教の教えを厳格に解釈するサウジによって、組織が感化されたためだとする考える人も多い。ISにはサウジから数千人が参加しているため、一部のイラク国民はISとサウジを同一視してもいる。(中略)

一方、国営石油会社サウジアラムコのようなサウジ企業は、イラクの農業や石油化学部門に投資する機会をうかがっている。(中略)
 
国境をまたいで生活する地元部族の長老リーサン・ムタシェル・アルザヤド氏は、「サウジとの関係が遮断されてすべての繁栄が失われた」と話した。「住民の期待は高まっている。サウジの兄弟たちと良好な関係を築くことを楽しみにしている」【8月24日 WSJ】
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カタール巡礼者のサウジ受入れ 関係改善の兆しか?政権転覆の謀議か?】
カタールに関しては、イスラム教徒にとって非常に重要な大巡礼ハッジを8月末に控え、サウジアラビアが断交中のカタールの巡礼者を、聖地のあるサウジアラビアに入国させることを決定したこと報じられました。

“サウジアラビアとしては、国籍を問わず、イスラム教徒の聖地巡礼を認める姿勢を強調することで、「聖地の守護者」としての威信を保ちたい思惑があると見られます。”【8月17日 NHK】というように、すぐに政治的は関係改善につながるものではありません。

しかし、カタール・タミム首長が7月に「対話の用意がある」と表明するなど、緊張緩和を模索する動きも出始めている状況にあって、両国関係改善のきっかけともなりうるものとも思えます。

****サウジ国王、カタールからの巡礼者にB777型機7機をチャーター****
イスラム教徒がサウジアラビアの聖地メッカを訪れる年に1度の大巡礼「ハッジ」を8月末に控え、サウジアラビアのサルマン国王は、6月に国交を断絶して以来対立が続くカタールの巡礼者をメッカに運ぶため、特別機を私費でチャーターすることを決めた。政治対立が宗教対立に発展するのを防ぐための寛大なジェスチャーだ。

サウジアラビアをはじめとする湾岸諸国がカタールと断交し、人や物資の往来を禁止したことで、中東は過去数十年で最悪の外交危機の最中にある。(中略)

サウジアラビア国営航空会社サウディアによるチャーター便は、出発便が8月22~25日までの間、帰国便はハッジが終了する9月5日に、それぞれ運航する予定だ。

カタールの巡礼者が聖地メッカを訪問しやすいよう、サウジアラビアはカタール国境の唯一の陸路であるサルワも開放した。これにより、カタール国民は大巡礼のためにメッカを車で往復できるようにもなると、米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは伝えた。(中略)

カタールとサウジアラビアの仲たがいは日々、宗教対立の様相を呈するようになっていった。その流れを変えたのが、ムハンマド皇太子とシェイク・アブドラの会談だった。

カタール政府は会談からできるだけ距離を置き、これが政治問題にするのを避けた。あるカタール政府関係筋によれば、ジェッダを訪問したシェイク・アブドラは、カタール政府の特使というより、むしろ私人の立場で振る舞っていたという。【8月21日 Newsweek】
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この話もこれだけであれば、少なくとも“悪い話ではない”と言えますが、カタール側のシェイク・アブドラ氏なる人物はカタール政府とは疎遠で、サウジアラビア側による“カタール政権転覆”の謀議ではないか・・・という物騒な話もあるようです。

****カタール王族がサウジ訪問、政権転覆の臆測も****
中東4カ国とカタールの断交問題を複雑化させる事態に
 
サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子は先週、カタール首長一族のサーニ家に属するある人物と面会した。

公式には国交を断絶した湾岸地域の隣国同士の溝を埋めるのが目的だったが、逆に両国の長年にわたる外交的小競り合いを悪化させる事態となっている。
 
カタール首長家のアブドラ・ビン・アリー・サーニ氏がサウジを訪れたのは、聖地メッカへの巡礼シーズンを前に、カタール市民のサウジへの入国を円滑にするためだったとされる。

6月の断交宣言以来、サウジの指導者とカタール首長家の一員が公式に顔を合わせる初の機会となったため、当初は緊張緩和の兆しだろうとみられた。
 
ただ、この人物は王族のコミュニティ以外ではほぼ知られていない存在であるうえ、カタールは政府の使者ではないと発表。これを受け、現在のカタール首長、タミム・ビン・ハマド・サーニ氏を交代させるサウジのたくらみに加担したのではないかとの臆測を呼んだ。(中略)
 
巡礼は今月末に始まるが、サルマン国王はカタールからの巡礼者のためにサウジへの航空便を用意することも申し出た。ただ、今のところ巡礼者向けにサウジの航空機が運航された形跡はない。
 
アブドラ氏はカタール首長と疎遠な立場にあり、サウジ王室とは良好な関係を保っていることから、反体制派の象徴になりうる存在として注目されている。

同氏は1972年に権力闘争に敗れた一族の分家に属する。このとき同氏の兄アフマド・ビン・アリー氏は首長の座を追われ、現首長の祖父が後任に収まった。【8月22日 WSJ】
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今回断交問題以前からサウジラビア王家がカタール首長と対立関係にあり、今回断交でも諸般の事情で軍事力行使はできないものの、“政権転覆”を狙っているのかも・・・という話は当初からありましたので、上記のような“憶測”も生まれます。

“憶測”なのか“事実”なのか・・・わかりません。

セネガルは改善に向けた動き 一方、カタールは駐イラン大使復帰でサウジに対抗
カタール問題に関しては、好転に向けたセネガルの動きも報じられています。

****<カタール断交>セネガル大使が復帰 サウジ側も軟化の兆し****
サウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)などがカタールと断交した問題で、サウジ側と連帯していた西アフリカのセネガルは21日、自国に召還していた駐カタール大使を再びカタールに戻したことを明らかにした。ロイター通信が伝えた。(中略)
 
セネガルのヌジャイ外相は「わが国のこの決定を通じ、カタールと周辺国が平和的解決に向けて努力することを強く促したい」との声明を出した。(中略)

セネガルはイエメン内戦でもサウジ側の連合軍に戦闘部隊を派遣するなど、サウジやUAEとの結び付きが強い。【8月24日 毎日】
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セネガルは、サウジアラビアの了解を得て、あるいは相談しながら動いているものと推察されます。

一方で、カタール政府が召還していたイラン駐在大使を復帰させると発表しており、サウジアラビア側の了解を水面下で取り付けたうえでの話ならともかく、そうでなければサウジアラビアを強く刺激し、対立を長引かせることにもなりかねません。

****カタールの駐イラン大使復帰、サウジとの対立激化か***
米国の調停工作が頓挫の恐れも

カタール政府は24日、召還していたイラン駐在大使を復帰させると発表した。これによりカタールとサウジアラビア主導のアラブ諸国との対立が激化する恐れがある。両陣営の国交断絶を受け米国が調停を本格化させる中での動きだ。
 
カタールが駐イラン大使を復帰させるのは、サウジの反カタールの姿勢に対する不満を示すのが狙いとみられている。(中略)

カタールの今回の決定は、対立解消に向けた米政府の調停工作を頓挫させる恐れがある。
カタールには、過激派組織「イスラム国(IS)」に対する作戦を統括している米軍基地がある。一方サウジ陣営のバーレーンは米海軍第5艦隊の拠点だ。
 
米政府はカタールとサウジなどとの緊張を緩和させ、対立を解消させようと努めている。国務省当局者は24日、「すべての当事国が自制し、非難の応酬を抑えるよう切望する」と述べ、冷静な対応を呼び掛けた。
 
別の米政府当局者によれば、カタールは米政府に対し、今回の決定はイランとの協力拡大ではなく、サウジへの不満を示すのが狙いだと説明したという。カタール外務省は、カタールが「イランとの関係の全面的な強化」を望んでいることを反映したものだと述べた。
 
サウジはすぐにはコメントしていない。UAE当局者は、カタールは立場を変更していないことを示したと語った。(中略)
 
4カ国はカタールとの国境を封鎖しているため、カタールはイランからの食料輸入への依存度を高めている。イラン国営のイスラム共和国通信によれば、同国外務省の報道官は、カタールが駐イラン大使を復帰させる決定を下したことを歓迎し、「理にかなった行動」と評した。
 
有力シンクタンク「国際危機グループ(ICG)」のイラン上級アナリストであるアリ・バエズ氏は、イランはカタールとサウジ陣営との亀裂に乗じるようなことはほとんど何もしていないが、この亀裂ゆえにカタールはイランの腕の中に飛び込まざるを得なくなっているとみる。サウジにとって「これ以上自滅的な政策は考えづらい」という。(中略)

アラブ4カ国による断交と経済封鎖はカタール経済に大きな打撃を与えている。外貨準備は減少し、株式市場は6月に危機が発生して以降10%近く下落し、食料品価格は上昇している。【8月25日 WSJ】
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このように、サウジアラビアを軸にした様々な動き・情報が出てきていますが、ベクトルの向きが逆を示すものが多々あり、イラン・サウジアラビアの対立、カタール問題が緩和に動くのか、対立激化に動くのか定かではありません。
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