孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中国  故郷にも国外にも安住の地がないウイグル族

2017-08-31 22:20:39 | 中国

(破壊されたカルグリックのウイグル人街。元は青壁の美しい街だった SHUICHI OKAMOTO FOR NEWSWEEK JAPAN 【8月18日 水谷尚子氏 Newsweek】)

破壊され、同化を強要されるカシュガル旧市街
中国・新疆ウイグル自治区のカシュガル・・・古くから多くの人々・物資が行き交ったシルクロードの要衝であり、現代にあっては、そうしたノスタルジー・ロマンを感じさせる街として観光的にも有名な都市です。

個人的には、カシュガルには忘れらない思い出があります。
12年前の2005年に旅行した際に、経由地のウルムチの街で、路上に置かれたテーブルでぼんやりお茶している間にパスポートや現金・カード・航空券などすべてが入ったバッグを置き引きされたことがあります。

なんとかパスポートなどは戻ってきたので目的地のカシュガルまではたどり着いたのですが、現金のほとんどは返ってこず、予定を変更してカシュガルで節約の日々を強いられました。

そのカシュガル旅行時に旧市街にも足を運んだのですが、ガイドを雇うカネもなくて、どんな場所かもまったくわからなかったことに加え、ウルムチでの“事件”のショックでテンションが低かったこともあって、旧市街内部に深く入ることなく、強い日差しから逃げるように周辺部を少し歩いただけに終わりました。

そんな“思い出”もあって、“そのうち、カシュガルにリベンジしないと・・・”という思いもあったのですが、再訪を果たす前に、旧市街の方が消えてしまったようです。

****さまようウイグル人の悲劇****
(中略)
安住の地はどこにもない

近年カルグリックのみならず、新疆各地でウイグル人居住区が無残な廃墟となっている光景を目にする。その典型がカシュガル旧市街だろう。

モロッコの世界遺産フェズの旧市街にも似た、本来は世界遺産に登録されてしかるべき歴史的街並みだったが、中国共産党はウイグル人居住者の多くを追い出し、一部を残して「テーマパーク化」した。

カシュガル旧市街の破壊には漢人の学者さえ反対したが、共産党は決して彼らの見解を聞こうとはしなかった。

文化財級の歴史的景観を破壊した点では、北京や上海の都市開発と同様だとの意見もある。北京や上海などの都市では街並みが破壊され郊外に住居移転が余儀なくされても、街自体の拡大と経済発展によって、生活は維持向上し続けられる。

しかし新疆の場合、郊外に移転しようにも移転先の経済基盤は脆弱な上、新疆各都市の中心部に移住してきた漢人コミュニティーがウイグル人を排除するため生計を維持できず、多くの人々が路頭に迷うことになった。(後略)【8月18日 水谷尚子氏 Newsweek】
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カシュガル近郊のカルグリックでは、美しかった青壁の街並みが人為的破壊によって瓦礫と化しており、警察の厳しい警備で観光もままならない状況のようです。

官製スパイウエアによる住民監視
単に住み慣れた場所を奪うだけではなく、住民の日常生活への厳しい監視が行われています。

****中国、ウイグル族にスパイウエアのインストールを強制****
<中国・新疆ウイグル自治区に漢族を大量に送り込み、イスラム系少数民族ウイグル族を迫害してきた中国政府が今度は、住民に官製スパイウエアのインストールを強制。拒否したり削除したりすれば連行されるという>

中国の新疆ウイグル自治区に暮らすイスラム系少数民族のウイグル族が、スマートフォンにスパイウェア・アプリをインストールすることを強制されている。その狙いは、中国政府の監視当局が「テロリストや不法な宗教活動に関連する」コンテンツを発見できるようにすること。

「ラジオ・フリー・アジア」の報道によれば、ウイグルの首府ウルムチの中国政府当局は2017年4月、「百姓安全」と呼ばれるアプリを開発したという。このアプリは、政府が市民の携帯デバイスをスキャンし、「テロリストのプロパガンダ」を発見できるようにするためのものだ。

ウイグルに住むウイグル族は7月中旬、チャットアプリ「微信(ウィーチャット)」を通じて、地元警察からの通達を受け取った。通達の内容は、「監視アプリ」をインストールし、抜き打ち検査に備えるよう求めるものだった。

警察は、路上での職務質問で、アプリがインストールされているかどうかをチェックし始めている。微信経由で送られたメッセージは、中国語とウイグル語で書かれていた。

セキュリティ情報サイト「ブリーピング・コンピューター」の報道によれば、問題のアプリは、ユーザーのファイルのログを作成し、既知のテロリストの動画やコンテンツを集めたデータベースと照らし合わせるもの。

また、ユーザーの「微博(ウェイボー)」や微信のデータベースのコピーを作成し、WiFiログイン情報とともに政府のサーバーにアップロードする機能もある。

ブルカの着用も禁止
アプリをインストールしなかったり、あとで削除したりした人は、最長で10日間にわたって警察に拘束される可能性があると、地元メディアは報じている。

アンドロイド携帯の利用者は、警察の送信した微信メッセージにあるQRコードをスキャンし、自動的に百姓安全アプリをダウンロードしてインストールするよう求められている。

当局によればこのアプリは、スマートフォンに保存された「テロリストや不法な宗教活動に関連するビデオ、画像、電子書籍、電子ドキュメントを自動的に検知する」ものだという。

トルコ系民族であるウイグル族の人口は800万人ほどで、ウイグルの人口の約半数を占めている。中国のほかの省では、今回と同様の対策はとられていない。ウイグルでは近年、デモや衝突がたびたび起きており、数十人が死亡している。

2014年5月にはウルムチでテロ事件が発生し、容疑者4人を含む43人が死亡した。数十年にわたって中国当局によって行われてきた弾圧と殺戮が対立の原因となっているという非難の声もある。

この地域ではテロ組織ISIS(自称イスラム国)の存在感は薄いとされているが、中国政府は、ブルカなどのイスラム伝統衣装の公共の場での着用を禁じるなどの対策をとっている。

ニュースメディア「マッシャブル」が2016年に報じたごころでは、中国政府は、国外のメッセージングアプリを利用するウイグル族の電話サービス遮断しているという。「ワッツアップ」や、ロシア製メッセンジャーアプリ「テレグラム」などはすべて監視対象だ。【7月26日 Newsweek】
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チャイナマネーになびく「トルコ系諸民族の盟主」トルコ
ウイグル自治区における“分離独立運動”を警戒する中国政府が、ウイグル族に対して締め付けを強化していることは今に始まった話ではありませんが、そうした弾圧を逃れて“東南アジアを経由してトルコに着の身着のままやって来たウイグル人亡命者は、既に3万人を軽く突破していると言われている”【8月18日 水谷尚子氏 Newsweek】とも。

しかし、トルコなどの海外も、心安らげる場所ではなくなってきています。

****トルコ外相、国内の反中国勢力を「取り除く」と表明****
中国を訪問中のトルコのメブリュト・チャブシオール外相は3日、中国の王毅外相との会談後に行われた記者会見で、トルコ国内の反中国勢力を「取り除く」と表明した。
 
中国西部の新疆ウイグル自治区に暮らすウイグル人への中国政府の対応をめぐり、過去には中国とトルコの間で摩擦が生じていた。

だがチャブシオール外相による今回の発言は、トルコ政府の中国に対する姿勢の変化を示唆するものとみられている。ウイグル人は大半がイスラム教徒で、チュルク語系の言語を母語としている。

中国の王毅外相と北京で共同記者会見に臨んだチャブシオール外相は、「中国の安全はわれわれにとっての安全とみなして扱う」との考えを示し、「トルコ国内もしくは領内で中国に敵対する、または反発することを狙った活動は今後一切認めず、中国に反発するメディア報道を取り除くよう措置を講じていく」と表明した。
 
この会見の前に行われた会談において、両外相はテロリズムとの戦いで協力していくことを約束した。【8月3日 AFP】
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「トルコ系諸民族の盟主」を自任するトルコは、上記記事で“摩擦”と書かれているように、かつては同じチュルク語系民族であるウイグル族への中国政府の弾圧に対しトルコ国内世論も政府も強く反発していました。(もっとも、そうしたトルコの“盟主気取り”に対する中央アジア諸国の反発もあったようですが)

それが、「中国の安全はわれわれにとっての安全とみなして扱う」というのですから、変わったものです。
これも圧倒的な中国の国際影響力・チャイナマネーのなせる業でしょう。

【「世界最古の大学」アズハル大学を擁するエジプトも
チャイナマネーになびいているのはトルコだけではありません。

これまでエジプトは多くのウイグル族学生を受け入れてきました。

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10世紀に建立されたモスクをベースにしたアズハル大学は、知識人ウラマー(イスラム法学者)組織と付属の小・中・高校を包含する権威ある教育・学術機関だ。

世界最古の大学を自任するこの大学は、総長の指導下にイスラム教スンニ派最大のウラマー集団を擁している。

世界から多くの留学生か集まり、アラビア語とイスラム法、イスラム学を習得しようと研鍛を重ねてきた。ここから出た学生たちの多くは、イスラム指導者として成長していく。ウイグル人学生も例外ではない【9月5日号 楊海英氏 Newsweek日本語版】
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そのエジプトも・・・・

****エジプトでウイグル人学生拘束 中国政府が要請か****
エジプトでイスラム教を学ぶ中国・新疆ウイグル自治区出身の留学生らが7月、エジプト治安当局に相次いで拘束された。人権団体は、中国で少数派であるウイグル人への締め付けを強める中国政府の要請を受けた措置と指摘している。
 
治安当局は拘束理由を明らかにしていない。国際人権団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)」は、拘束が中国政府の要請によるものとみられると指摘。

独自に得た情報として7月3〜5日にカイロやアレクサンドリアで少なくとも62人が逮捕されたとしている。多くはイスラム教スンニ派の最高権威機関アズハルの留学生だという。
 
新疆ウイグル自治区はイスラム教徒のウイグル族が多数を占め、漢族との対立感情が根強い。中国政府は独立派の一部のイスラム過激主義への傾倒を警戒。モスク(イスラム教礼拝所)への出入りを制限するなどイスラム教徒への抑圧を強めているとされる。
 
朝日新聞の取材に応じたアズハルのウイグル人留学生ファクルディン・グネシュさん(23)によると、一斉摘発が始まったのは7月4日午後9時ごろ。

グネシュさんは両親とともに6年間イスタンブールで暮らした経験があり、トルコ国籍も持っているので、自分は逮捕はされないと考えていた。だが中国籍しかない友人は警察が来るのを恐れて荷物をまとめてアパートを出たところ、路上で逮捕されたという。
 
グネシュさんが知る限り、一斉摘発は5日未明まで続き、路上や留学生がよく行くレストランで25人が拘束された。カイロやアレクサンドリアの空港から出国しようとして捕まった人もいるという。計100人以上が拘束されたという。
 
グネシュさんによると、中国政府は今年初めごろから、エジプトに子どもを留学させているウイグル人の家族に対し、子どもを帰国させるように求め始めた。

指示通りに帰国させないと殴られたり、拘束されたりしたという。子どもへの仕送りも禁止。送金した場合は「テロリスト支援」の容疑で逮捕された。
 
グネシュさんは「私たちは純粋に、私たちの宗教を学びたいだけだ。中国政府は(留学生が過激化するという)誤ったレッテルを貼っている」と語った。
 
中国の習近平(シーチンピン)国家主席は昨年1月にエジプトを訪問し、160億ドル以上の経済支援を約束した。両国はテロ対策でも協力に合意している。

一方、過激派組織「イスラム国」(IS)は今年2月、中国への攻撃を予告する動画を公開。動画にはウイグル人とされる戦闘員が映っていた。中国政府が、ウイグル人留学生がイスラム過激派に合流するのを警戒し、拘束を要請した可能性がある。
 
HRWはアズハルのタイイブ総長に書簡を送り、ウイグル人を釈放し、中国への強制送還をしないよう、エジプト政府に要請すべきだと求めた。【8月29日 朝日】
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ウイグル人の安住の地は、故郷にも国外にもない
故郷は同化のために破壊され、批判の声をあげそうな国外に暮らす者は強制帰国させ、すべての住民を厳重な監視下におく・・・・、しかし、そのような圧政はテロリストの温床をつくることにもなります。

****さまようウイグル人の悲劇****
・・・・ウイグル人居住区の取りつぶしは、コミュニティーや人間関係の破壊にとどまらず、人々の信頼と相互扶助をも喪失させた。

さらに中国共産党はここ数カ月のうちに、国外亡命をこれ以上させないようウイグル人のパスポートを没収し、彼らが所持する携帯電話やパソコンにスパイウエアをインストール。「怪しい動き」をしないよう、個々を見張る監視システムを新疆全域で着々と構築しつつある。

いま新疆では、この地を専門とする外国人学者が現地に入ってフィールドワークすることさえ不可能な状況が続いている。尾行や盗聴が行われ、調査対象と話をしたら、公安当局者が後で相手に状況を聞きに現れる。

「一帯一路」政策の陰で経済発展の恩恵を受けることができず、文化大革命期の「黒五類(右派や地主、反革命分子などとレッテルを貼られた者)」と同様に、社会からの排除対象者として扱われるウイグル人。

中国の言う「恐怖分子(テロリスト)」は、こうした差別と排除が生み出している。さまよえるウイグル人の安住の地は、故郷にも国外にもない。【8月18日 水谷尚子氏 Newsweek】
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回族との分断統治
なお、中国にはウイグル族のほかに、イスラム教徒の回族も存在しますが、その対応は全く異なるようです。

****中東をウイグル排除に追いやる中国マネーとイスラム分断策****
(中略)
歴史的対立を巧みに利用
中国は今、国内に2100万人前後のムスリムを抱えており、その大半がスンニ派だ。その中で回族とウイグル人は双方とも800万人以上の人口を有し、ほぼ拮抗している。

中国語を母語とする回族に対して、ウイグル人は政府寄りだといつも不信の目を向けてきた。事実、19世紀末からムスリムたちが中国に大規模な反乱を起こした際も、回族はよく清朝政府側に立ってウイグル人と敵対した。
 
イランはエジプトやトルコと対立するシーア派の国家だが、ウイグル人と歴史的に緩やかな関係を結んできた。
だが中国政府も回族にイラン留学を勧めており、いまイランに多く留学しているのはウイグル人よりも回族だ。

イラン留学生は帰国後、古い伝統を持つ神秘主義のスー・フィー教団(門宦)の指導者になる人が多い。一方、アズハル大学で学んだり、サウジアラビアでメッカ巡礼をしたりした留学生は伝統的なスーフィズムを否定し、原理主義的なワッハーブ主義の信者となってしまう傾向がある。
 
中国はスーフィーー教団の指導者とワッハーブ主義者との間の歴史的対立を利用してイスラム教徒を巧みにコントロールしている。

イランとの友好関係を維持しながら、スンニ派大国に経済援助をばらまくことで、世界のイスラム問題は一層複雑化するだろう。【9月5日号 楊海英氏 Newsweek日本語版】
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