孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

インド・モディ首相の“ダークサイド” 改めて問われる「全国民とともに」

2017-08-28 22:16:42 | 南アジア(インド)

(この(2015年)3月、インド有数の商業都市ムンバイを有するマハラシュトラ州で、「ヒンドゥー教において神聖な存在」という理由から、牛の食肉処理、販売などを禁止する法律が施行された。同法では牛肉の所持も取り締まりの対象となり、違反すれば最大で禁固5年に処される。

この極端な政策を後押ししたのは、モディ首相率いるインド人民党(BJP)だ。「ヒンドゥー至上主義」を掲げるBJPが同州で第一党になると、法案はただちに州議会で可決。BJPの支援団体である「世界ヒンドゥー協会」は、「悲願が達成された」と大喜びした。だが、この法律が国内では大きな波紋を呼んでいる。

というのも、あまり知られていないが、インドは世界屈指の牛肉輸出国だからだ。2014年の輸出総額は43億ドル(約5160億円)にのぼり、巨大な食肉処理場があるムンバイは、その輸出拠点だった。また、安価な牛肉は「貧乏人のタンパク源」と呼ばれ、約2億5000万人いる非ヒンドゥー教徒たちの間で日常的に食べられてきた。

牛の解体に従事しているのは、主にイスラム教徒だ。だが、米「ニューヨーク・タイムズ」紙の取材によれば、ムンバイの食肉処理業者のうち、約50万人が失業したという。畜産業を営み、牛肉を卸していたヒンドゥー教徒たちも顧客を失った。彼らの多くは貧困層で、生活はさらに困窮している。【2015年9月14日 COURRIER JAPON】)

2002年グジャラート州暴動関与疑惑は過去のもの・・・か?】
インド内政を取り上げる際にいつも言及するように、モディ首相には経済手腕が期待される側面と同時に、ヒンズー至上主義・反イスラムの経歴・側面がつきまといます。

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モディは若い頃からヒンドゥー至上主義を掲げる民族義勇団に所属しており、イスラム教に対する憎悪を煽る演説を行っていた。

イスラム教徒のヒンドゥー教徒への列車焼き討ち事件 を、きっかけに起きた2002年グジャラート州暴動では、ヒンドゥー教徒とイスラム教徒双方合わせて1000人以上死亡する事件を黙認したマスコミに指弾され、グジャラート州のモディ政権は西側諸国から「犯罪政権」と見做された。

事件当初からモディ自身は事件への関与を否定していたが、後の裁判で改めて関与否定が確定したが、一部の側近は事件に関与したと判断された。(中略)

モディは2014年の選挙において、イスラム教徒への融和姿勢や配慮を強調する場面も見られた。

インドのイスラム教徒の中には、モディのグジャラート州での政治を見て、経済成長からイスラム教徒が巧妙に疎外される「少数派の社会的疎外化」を懸念する声や、将来を悲観する声が上がっている。

一方で、国民会議派の腐敗への失望や、モディの経済手腕への期待から、モディや人民党に票を投じたイスラム教徒も少なくなく、グジャラート州のイスラム教徒も発展の恩恵を受けたという指摘もある。【ウィキペディア】
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「民族義勇団」は、ヒンズー教徒以外にも多様な民族・宗教が混在するインドにあって、インドをヒンズー国家にすることを主張する団体で、現在の与党人民党(BJP)は同団体が1980年に政治組織として設立した政党です。

首相に当選するまでは、アメリカはモディ氏に対するビザ発給を拒否していました。

****インドの首相候補モディ氏はなぜ米国入国を拒否されたか****
・・・・この米国渡航を禁止された政治家はナレンダ・モディ氏。長年にわたってヒンズー派民族主義者で、野党インド人民党(BJP)の首相候補だ。

9年前の2005年、米政府はモディ氏に渡航ビザ発給を拒否した。同氏がニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデンで開催されるインド系米国人の会合で演説するために訪米しようとしていた時だ。
 
このビザ発給拒否の決定は、モディ氏がそれに先立つ3年前、インドのグジャラート州首相就任後に少数派イスラム教徒に対する一連のヒンズー教徒の暴動を阻止しようとしなかったためだ。

国務省は1998年に成立したほとんど知られていない米国法、つまり「宗教的自由の重大な違反」の責任がある外国当局者にはビザを発給しないという同法の条項を適用したのだ。モディ氏はこの条項に基づいて米国ビザを禁止された唯一の人物で、米当局もこの事実を確認している。(中略)

同氏は実質的にインドのヒンズー民族主義運動の中で成長した。地元の食料雑貨商の息子で、少年時代をヒンズー至上主義団体の「民族義勇団」で過ごした。

多様だがヒンズー教徒が過半数を占めるインドをヒンズー国家にしようとしている団体だ。同団体が1980年に政治組織としてBJPを設立した後、情熱的なモディ氏は頭角を現し、2001年にグジャラート州の首相に就任した。
 
翌02年、同州でヒンズー教徒とイスラム教徒との間の激しい暴力事件が発生した。ある鉄道駅で、イスラム教徒がヒンズー教徒の巡礼者たちの乗った列車を包囲し、両教徒が衝突した。列車は放火され、乗客58人が死亡した。

ヒンズー教徒の中にはイスラム教徒が放火を扇動したと主張する向きが少なくなかった。暴徒化したヒンズー教徒がイスラム教の居住地域を荒らし回り、人々を殴打して死に至らしめ、女性をレイプし、住居に放火した。数日間で死者は1000人以上に達した。
 
長年の調査の結果、モディ氏を直接こうした攻撃に結び付ける証拠は一切出なかった。しかし、同氏が攻撃を阻止するため適切な行動をとったかどうか疑問が残った。

一部のケースでは、警察当局は傍観しているだけで何もしなかったからだ。モディ氏は、できるだけのことはした、と繰り返し弁明した。(後略)【2014 年 5 月 5 日 WSJ】
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モディ首相は“2014年のインド総選挙後には、「全国民とともに」という表現で、イスラーム教徒への配慮を行うことを示唆した”そうです。

また、“首相就任後、議会で初の主要演説を行った際には、インドで近年起こったレイプ事件とともに、ヒンズー教原理主義集団メンバーの仕業とされるイスラム教徒の若者の殺害に言及、「これらの事件は深い内省を必要とする。政府は厳しく処置しなければならない」と述べ、「国民は長く待っていないだろうし、われわれ自身の良心もわれわれを許さないだろう」と語った”【ウィキペディア】とも。

与党BJP台頭で失われる寛容さ 不作為の首相が問われる責任
首相当選後、アメリカ・オバマ政権はこうした経緯を“過去のこと”として水に流し、世界最大の民主主義国インドの首相を歓待していますが、それはそれで・・・・。

ただ、本当に“過去のこと”なのか、あるいは、グジャラート州暴動で彼はどのような役割を担ったのか・・・そうした疑念がどうしても払しょくできないインドの現在もあります。

****牛運んでいたイスラム教徒2人、リンチされ死亡 インド****
インド東部の西ベンガル州で27日、牛を運んでいたイスラム教徒2人がヒンズー教徒の集団に暴行されて死亡する事件が発生した。

警察当局が明らかにした。インドでは、神聖視する牛を守るという名目で、ヒンズー教徒によるリンチ事件が相次いでいる。
 
事件はバングラデシュとの国境近くの村で発生。警察によると村人らが道をふさいで牛を運んでいたトラックを停止させ、乗っていた2人のイスラム教徒の男性を引きずり下ろし、暴行した。トラックの運転手は難を逃れたという。

殺人の動機が宗教的なものなのか、それとも殺害された2人が牛を不当に扱ったとの疑いによるものなのかは不明。
 
警察は現在、暴行事件について捜査すると共に、イスラム教徒らが合法的に牛を購入したのか、違法な密輸に関わっていたのかについても調べている。
 
インドでは多くの州で牛肉の所持や消費が禁止され、法を犯した場合には終身刑が科される州もあるが、西ベンガル州では牛の食肉処理が認められている。
 
インドでは今年に入り、自警団による殺人が相次いで動揺が広がっており、特に牛の食肉処理や牛肉の消費を疑われたイスラム教徒がターゲットになっている。【8月28日 AFP】
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インドではヒンズー至上主義を掲げる与党インド人民党(BJP)が2014年に政権を取って以降、同様の殺人事件が続発。23人が死亡しています。6月にも首都ニューデリー近郊で、牛肉を運んでいた少年がヒンズー過激派に殺害される事件が発生しています。

もちろん、モディ首相がイスラム教徒への襲撃を扇動している・・・ということはありません。

しかしながら、モディ政権誕生で勢いを得た、首相を支持する勢力・組織が引き起こしている事件であり、それに対しモディ首相が厳しく批判するとか、阻止に向けて行動するということもありません。

2002年グジャラート州暴動のときと同じように、自らの手を血で汚すことなないものの、反イスラム的な動きを黙認、あるいは暗黙の了承を与えている・・・とも思われます。

****牛肉理由に殺害相次ぐ=イスラム教徒「次は自分」―インド****
牛を神聖視するヒンズー教徒が人口の約8割を占めるインドで、牛肉の流通を担う少数派イスラム教徒が「次に殺されるのは自分かもしれない」とおびえる毎日を送っている。

ヒンズー至上主義を掲げる与党インド人民党(BJP)の台頭に伴い牛肉の流通規制が進んだ。しかし、それだけでは飽き足らないヒンズー過激派が、牛肉を理由にイスラム教徒を殺害する事件が後を絶たない。
 
牛肉の産地として有名な南部カルナタカ州の州都ベンガルール(バンガロール)。イスラム教徒地区にある牛肉店の男性店員(24)は「5月以降、売り上げが4割減った」と嘆いている。政府は5月、食肉処理を前提とする牛の流通を禁止する法令を出した。最高裁が「個人の自由の侵害」を理由に法令を差し止めたが、流通規制の流れは確実に強まっている。(中略)

店員は、売り上げの減少について、ヒンズー至上主義の高まりを客が恐れた結果だと指摘した。来店した男性客と口をそろえて「BJPの政府になってから、後ろ盾を得て過激派が勢いづいた」と主張、命の危険を感じて暮らしている現状を訴えた。
 
特定の宗教を国教としないインドでは、食生活や婚姻などで各宗派の権利が尊重されてきた。

しかし、BJPの台頭で寛容さは失われつつある。ベンガルールの牛肉業者団体幹部は「牛を守るためのヒンズー教徒の『自警団』が存在する。殺人事件に至らなくても運搬用のトラックを乗っ取られる事件も月に6、7件は起きており、商売を妨害されている」と話す。
 
さらに「イスラム教徒だけの問題ではない。ヒツジやヤギの肉は高く、貧しい人々は牛肉か鶏肉を食べてきた」と指摘する。「牛肉が流通しなくなれば鶏肉の価格も高騰し、貧しい人は肉を食べられなくなる」と影響の大きさを訴えている。【8月27日 時事】 
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【「票田を魅惑するための政治的な放棄だった」】
最近インドで起きた事件としては、宗教指導者の有罪判決をきっかけに起きた暴動事件があります。
警官隊との衝突で32人が死亡したとも言われていますので、日本や欧米なら大変な事態とも認識される事件です。

****インド北部で暴動30人死亡 首都でも放火 宗教指導者の有罪判決きっかけに****
インド北部のハリヤナ州などで25日、男性宗教指導者に性的暴行事件で有罪判決が下ったことに怒った支持者数千人が暴動を起こし、警官隊と衝突した。

PTI通信によると、少なくとも30人が死亡し、250人以上が負傷した。隣接するデリー首都圏やパンジャブ州でも列車やバスが放火された。
 
支持者らは、判決を出した裁判所があるハリヤナ州パンチクラなどで政府施設や警察、駅、報道関係者を襲撃した。死者の多くは警官隊の銃弾を受けたとみられる。現場には軍も出動した。
 
複数地域に外出禁止令や5人以上の集会禁止令が出されたが、暴動は収まらず、警察は千人以上を拘束した。在インド日本大使館によると、在留邦人や日系企業の施設が被害に遭ったとの情報はない。
 
宗教指導者は、2002年に女性信者2人に宗教施設内で性的暴行を働いたとされる。
 
ハリヤナ州では昨年2月にも、カースト集団による暴動が発生し、日系企業が被害を受けたほか、日本人駐在員20人以上が建物から出られなくなりインド軍のヘリで救出されている。【8月26日 産経】 
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この暴動を起こした宗教団体もモディ首相・BJP支持勢力であり、暴動を阻止するような対応をとらなかったことでモディ政権を裁判所が厳しく批判する事態ともなっています。

****インドの裁判所、暴動への対応でモディ政権などを異例の批判****
インド北部ハリヤナ州などで起きた暴動への対応をめぐり、モディ政権や与党インド人民党(BJP)が政権を握る州政府を裁判所が厳しく批判する異例の事態になっている。

ヒンズー至上主義のモディ政権は、先月にも牛の食肉処理に関する法令を裁判所に差し止められており、政治的な偏向が相次いで指弾される形となった。
 
この暴動は、男性宗教指導者が25日、性的暴行事件で有罪判決を受けたことに怒った支持者が起こしたもの。暴徒らは、判決を出した裁判所がある州内パンチクラなどで政府施設や警察、駅、報道関係者を襲撃し、隣接するデリー首都圏やパンジャブ州でも列車やバスに放火した。警官隊の衝突で、36人が死亡した。
 
地元メディアによると、数万人の支持者のパンチクラへの集結を防げなかったハリヤナ州政府の対応が法と秩序の懸念事項に当たるとして、市民がパンジャブ・ハリヤナ両州高裁に提訴した。
 
暴動を起こした宗教集団はBJPを支持しており、高裁は26日、ハリヤナ州が暴動を防げなかったことについて、「票田を魅惑するための政治的な放棄だった」と批判。モディ氏についても「首相は、特定の政党ではなく国家の首相だ」と厳しい見解を示した。
 
高裁はまた、公共施設や私財の被害調査と、宗教集団の資産凍結を当局に命じ、州法務長官はヒンズー紙に「暴動の損害は、国家と納税者の損害だ。責任者に償わせる責任がある」と述べた。
 
印最高裁は7月にも、政府が出した家畜市場での食肉処理を目的とした牛の売買を禁止する法令を差し止めている。多くのヒンズー教徒が牛を神聖視していることに沿った法令で、市民の食の自由が侵害され、イスラム教徒中心の食肉、皮革業者が重大な影響を受けることが懸念されていた。【8月27日 産経】
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支持勢力が暴力に突き進むことを止めようとしないモディ首相・・・就任当時の「全国民とともに」という言葉の意味が改めて問われます。
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