孤帆の遠影碧空に尽き

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フランス  「5月革命」から50年 マクロン改革への抵抗は不発気味 デモを乗っ取る“壊し屋集団”

2018-05-08 21:38:05 | 欧州情勢

(労働者のデモ行進に便乗して機動隊に火炎瓶を投げる黒づくめの暴徒(5月1日、パリ)【5月8日 広岡裕児氏 Newsweek】)

国鉄・エールフランスの長期スト 参加者は減少傾向 譲らぬ政府側
フランスでは、マクロン大統領の「改革」に対し、国鉄、航空会社などの労働者が長期のストライキで抵抗を示していることは、4月5日ブログ「フランス国鉄、大規模スト突入 一方で進む通勤・働き方改革  重なる“スト権スト”の記憶」でも取り上げました。
労働側も利用者の便宜に一定に配慮して、大規模な混乱状態とならないようにしているようですが、政府側が譲歩する気配はなく、一般国民からの支持も盛り上がらず、また、代替通勤手段の活用も進み、労働側にとって厳しい情勢となっているようです。

****仏国鉄とエールフランスの同時スト、参加者が減少****
仏国鉄SNCFとエールフランスで5月3、4日に同時ストが実施される。両社では抗議行動が1ヶ月前に開始したが、ともにスト参加者が減少しつつある。

仏国鉄は、高速鉄道TGVとパリ首都圏の郊外列車で半分、ローカル線では5本に2本の運行を見込む。

列車運行に必要な部署の人員のスト参加率は29.8%で、同じく平日にストが実施された4月24日(32.2%)を下回る。経営側によると、5月3日のスト参加率は、運転士で52%、車掌で40%、信号係で23%に上る見通し。

2日間のストを実施した後に3日間はストを中止し、このサイクルを繰り返すというこれまでとは違ったストの方式に対応して、公共輸送機関の利用者も鉄道以外の他の移動手段の利用で対応しつつあり、1995年の国鉄長期ストで国が麻痺状態に陥ったような事態は起きてはいない。

同僚、隣人による私的なライドシェアリングの組織化、ライドシェアリングの斡旋サイトの利用、長距離バスやこれまで利用されていなかったトラムの利用などが観測される。

一方、エールフランスによると、パイロットのスト参加率は18.8%と前回4月24日の27.2%を下回る。CAでは18%と横ばいで、地上職ではスト参加者が微減しつつある。

ストに加わるパイロットの減少により、85%近くの便の運行が確保される見通し(前回は65-75%)。

4月半ばからパイロットのスト参加率は低下し始めており、特に賃上げ案に関する従業員投票を実施することが発表されてから、参加率の減少が加速している。【5月3日 パリ・エ・トエワ】
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政府側は強気の姿勢を崩していません。

従業員による大規模なストライキが続く仏航空大手エールフランスについても、ルメール経済相は「不当な賃上げを要求している乗務員、地上職員、パイロットら全員に責任がある。エールフランスの存亡は瀬戸際の状況にある」と発言。
 
さらに同社株式の14.3%を保有する仏政府が債務処理に介入して同社を支えることはないと警告し、「競争力を高めるために必要な努力をしなければ、エールフランスは消えてしまうだろう」と強調しています。【5月7日 時事より】

【「5月革命」の再現とはならない大学改革抵抗運動
マクロン政権は労働改革に併せて、「成績による選別を行う」という大学の改革も進めており、これに抗議する学生らのキャンパス占拠も続いています。

「成績による選別」というのは、日本的には当たり前のことのように思えますが、フランスにはフランスの事情があるようです。しかし、抵抗運動は広がらなかったようです。

****フランスの学生が大学を占拠してまで「成績による選別」に反対する理由****
<各地で大学占拠が頻発したのは、大学入学者の「成績による選別」に反対するためだという。いったいどういうこと?>

(中略)大学占拠の争点は、マクロン政権の教育改革で新たに作られた「学生の進路と成功法」による、入学時の選別の導入である。

フランスでは「バカロレア」(大学入学資格)があればどの大学、学部にも入れるのが原則だった。だが新法では、入学希望者が定員をオーバーした場合、学生の成績によって選別し、希望のコースに入れなくしようというのだ。

選別は、教育の平等の精神に反すると学生側は主張する。所得や人種で差別されないのと同じく、成績にも関係なく誰にでもが学ぶ権利があるべきだ、というのだ。

理想論のようにも思えるが、ここには現代社会が抱える問題があるのも事実だ。

大学は"誰でも"入れた
フランスの高等教育は大学と「グランゼコール」(大学校)の2本立てとなっている。

グランゼコールはもともとナポレオンが国家エリートを養成するためにつくったもので、民間企業に就職してもいきなり課長クラスから始まる。バカロレアのあとさらに難関の入学試験があり、高校で成績優秀な者が準備コースか大学を経て入る。

一方、大学には誰でも入れる。日本では、高校卒業と大学入学や職業の資格取得は別物だが、フランスでは、ただの高校卒業というのは存在せず、何らかの資格を取ることで卒業となる。バカロレアはその一つで、大学に入れるという資格である。だから、バカロレア取得者が好きなところに入学できるのは当たり前だ。

昔はそれでよかった。1965年には、バカロレア取得までいく者は同じ世代のわずかに10%だった。この中には高級官僚や大会社の幹部をめざすグランゼコールや美術学校、ビジネススクールなど専門学校へ行く人たちもいるから、大学は実学と距離を置いた学問の府、ということで十分だった。

ところが、バカロレア取得者の数はいまや3倍以上に増えた。グランゼコールや専門学校の定員は増えないから、その人たちが大学になだれこんでくる。

この人たちは、必ずしも学問の探究のために大学に入るわけではない。社会的格差を乗り越えるためだ。社会の側でも知的労働者に対する需要は増加した。そこで大学側も、修士コースをMBAに似たものにするなど機構改革を行い、実学の要求に応えるようになった。

それでも、質を確保するためには無制限に学生を受け入れるわけにはいかない。予算の問題もある。そこに定員オーバーが生じる。公表こそされないがこれまでも、先着順や抽選、成績などによる選別が行われてきた。それを、今回公然と選別ができるようにしたのである。

だが、成績選別を導入すると、小中学校から勉強に専念できる余裕のある家庭の者が有利になる。格差の助長にもつながると、学生たちは反発する。

これは現にエリート養成校のグランゼコール入学者に起きており、進学率の高い名門高校では公立であるにもかかわらず貧乏人や移民の子に対する差別が平然と行われている。

ということで大学占拠が起きたのだが、運動は不発だったと言わざるをえない。

萎む抵抗と「壊し屋」
たとえば2月1日にはパリで、国会審議が大詰めを迎えた「学生の進路と成功法」に反対する主催者発表1万人(警察発表2400人)のデモが行われたが、1986年の大学改革法のデモでは50万人の動員があった。一昨年の労働法改革でもパリで15万人(警察発表6万人)、地方でも数千人のデモになった。今年のデモはいずれも1ケタ少ない。

4月10日のデモの後には、200名ほどの学生がパリの学生街カルチェラタンのシンボルともいえる第4大学ソルボンヌ校舎を占拠したが、3日で排除された。今回は、よくある再占拠もとくになかった。

占拠校の数も、最盛期でも全国67の大学のうち10〜15にとどまった。それもいくつかの例外を除いてメーデー前までにほぼすべてが機動隊に排除された。

メーデーに来ていた学生は「運動は終わっていない。またすぐ燃え上がる」というが、5月は年末の試験で、その後は夏休み、そして何もなかったかのように新学年を迎える公算が大きい。

この学生は来年も同じように労働者たちと手をつなぎ、スローガンを叫びながらデモをするのだろうか。それとも、黒づくめで最前列に紛れ込む「壊し屋」になるのだろうか。【5月2日 広岡裕児氏 Newsweek】
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時代が変わり、1968年の「5月革命」の再現はないようです。

****フランス、デモ連帯に影 大学封鎖、訴えに冷たい目も****
既存の体制に「ノン」を突きつけた1968年のパリ「5月革命」から50年。政府や大企業といった権威に対し、理不尽だと思えば市民がデモやストで意思表示する街頭民主主義は、フランスに今も息づく。だが労働者や若者を取り巻く環境は変わり、社会の分断が市民の幅広い連帯を阻んでいる。
 
(中略)近くで勉強していたリュカ・サボワさん(19)は「中間試験が中止になりそうで進級が心配。街頭でデモをすればいい。少数の学生が大多数を妨げるのはおかしい」と突き放した。

 ■有期雇用増が背景か
今年のメーデーは、雇用の柔軟性を高める労働法改正や、公務員削減といったマクロン政権の姿勢への抗議の場にもなった。だがマクロン大統領は「民主主義は街頭にだけあるわけではない。選挙結果で改革が支持されている」と強気だ。
 
68年当時、仏東部ソショーの仏自動車プジョーの工場でストライキを率いたジャン・カデさん(81)は「5月革命は確かに成功だったが、社会に個人主義をもたらした。労働者がまとまるのが難しくなった」と嘆く。
 
(中略)カデさんは「今日、労働者の結集が難しいのは、失業者と有期雇用が増えたためだ」と言う。68年当時の失業率は2%台。カデさんは「当時は終身雇用が一般的だった」と振り返る。
 
いま失業率は9%台。15~24歳の若者の半数以上は有期雇用だ。抗議すれば仕事を失うリスクを抱える。

(中略)パリのデモに参加したビヨデルさんも言った。「私たちは今日、新たな権利を獲得するためでなく、50年前に獲得した成果を失わないための戦いを強いられている」【5月4日 朝日】
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改革案が出る度に大規模デモで挫折し、競争力で独英に後れを取る仏 「彼らに妥協して、現状を維持するわけにはいかない」】
労働者や学生からすれば、“50年前に獲得した成果を失わないための戦い”であり、これまで保証されていた権利を守るための戦いということになりますが、改革を進めるマクロン政権からすれば“フランス病”の危機から祖国を救うための改革ということにもなります。

****マクロン革命 大統領就任1年】(上)フランス病 病巣にメス 大学、国鉄…改革抵抗勢力と対峙****
フランスは今、政府への抗議デモとストで大荒れだ。国鉄、航空会社、法曹界、大学−背景を探ると「フランス病」の深刻さが浮かび上がる。
 
(中略)フランスには大学入試がない。バカロレアという高校卒業資格を取れば、誰でも国立大学に入れる。希望者が多ければ抽選。

受験地獄と無縁で良い制度に見えるが、講義室は座り切れない学生であふれ、入学1年で3割が脱落する。4年間で学士(日本の大卒資格)を取得するのは4割だけだ。

(中略)かつて西欧の知の中心地だったソルボンヌ大は、英誌による最新の世界大学番付で196位。英国のオックスフォード、ケンブリッジ両大が1、2位を争うのと大差がついた。

国内で優秀な学生は「グランドゼコール」と呼ばれるエリート養成校に進む。大統領はその最難関、国立行政学院(ENA)を卒業した。
 
だが、ソルボンヌのような大学が不振では、人材や研究の底上げはできない。「平等」に固執し、フランスはずるずると世界のトップから引き離された。

大学以外のスト現場でも、既得権益にしがみつく「病」は深刻だ。

国鉄デモは4月初めから5日間に2日のペースで続き、利用者の不満は爆発寸前だ。抗議の主な対象は、鉄道員の雇用特権の廃止。「52歳で辞めても年金は満額支給」など民間とかけ離れた厚遇で、20世紀初めに重労働だった鉄道員の確保のために導入された制度だ。国鉄職員の約9割がこの恩恵に浴し、約500億ユーロ(約6兆円)に上る国鉄債務の原因でもある。
 
労働組合は「ここで譲れば、政府は『国鉄民営化』を言い出す」とストを正当化するが、公共部門の巨額赤字は財政負担を増やし、経済の足を引っ張る。

ドイツや北欧は1990年以降、労働市場や年金改革で成長力を回復したのに、フランスでは改革案が出る度に大規模デモに発展し、挫折を迫られてきた。
 
大統領は4月、民放テレビのインタビューで「彼らに妥協して、現状を維持するわけにはいかない」と訴えた。国民にショック療法を与えるのも、再選に臨む2022年までに「改革の果実」を示す必要があるからだ。

フランスの経済は、競争力ランキングなどで独英に水をあけられている。
仏モンテーニュ研究所のドミニク・モイジ首席顧問は「改革の成果で2%超の経済成長を実現するか、あるいは国民の反発を受けて孤立するか。1年後には、マクロン政権の行方が見えるはずだ」と予測する。(後略)【5月1日 産経】
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デモを乗っ取った“壊し屋”「ブラック・ブロック」】
労働者・学生の抵抗が不発気味の一方で、今年目立ったのは全身黒ずくめ“壊し屋集団”。

“1日にパリで行われたメーデーのデモで参加者の一部が暴徒化し、商店のショーウインドーを破壊したり、自動車に火をつけるなどした。パリ警察は200人近くを逮捕した。”【5月2日 BBC】

政府側は「真摯な信念があるなら、マスクをしないでデモ抗議をするべきだ」、「フードがかぶっていた連中は民主主義の敵だ」とこの暴徒を批判していますが、この“壊し屋集団”はデモ参加者ではなく、デモを乗っ取った一団のようです。

****仏メーデー行進で大暴れした新左翼集団「ブラック・ブロック」とは何者か****
<パリのデモ行進をぶち壊しにした黒づくめの集団は、破壊衝動をかかえた学生やサラリーマンや女性のバラバラの集まりで、欧米に拡大中の現象だ>

今年のパリのメーデー行進は、暴徒のために台無しにされてしまった。デモコースの4分の1も歩けなかった。

(中略)全身黒づくめの一団が、「Black Bloc(黒い塊)」と書いた横断幕を持ってデモ隊を待ち受けていたのだ。それから一緒になってゆっくり橋を渡りきると、バラバラに散って角のマクドナルドのガラスを破り、火炎瓶を投げつけた。近くにあった小型工事車も炎に包まれた。新聞キオスクのガラスもメチャメチャに砕け散った。

「フランスのパリで5月1日、労働者によるメーデーのデモに参加していた若者らが暴徒化し、商店や車に放火する騒ぎに発展した」(AFP=時事)という報道があったが、実情は異なる。

たしかに、ニュース映像を見てもまるでデモの先頭に立っているように見えるが、デモ隊とはまったく別だ。参加者が暴徒化したのではなく、暴徒が加わったのである。

(中略)人目につかないところで着替え、前日までに隠してあった火炎瓶やハンマーを取り、セーヌ川の橋の上に陣取ってデモ隊に紛れ込んだのだ。(中略)

黒づくめが仲間の合図
「Black Bloc(黒い塊)」の名前のとおり、全員目出し帽やバンダナの覆面で顔を隠し、つま先まで真っ黒な服装をしている。だがよくみれば、Tシャツの者もいればジャージや防水ジャケットを着ている者もいる。バラバラの服装が物語るように、統制は取れていない。

フランスの軍警察学校の報告書の表現を借りれば、「彼らは数人で集まったグループの集合体であって、メンバーはデモのたびに違う。ヒエラルキーもなく、指導者もいない」

つまり、はじめから組織団体があって、この服装で集まれ、といわれるのではなく、この服装の者たちが集まることで集団が形成されるのである。

その目的はあくまでも破壊をすることだ。はじめから催涙ガスよけのスキーのゴーグルや水泳用のメガネをかけ、指紋を残さぬように手袋をしている。

ただし彼らによれば「決して手当たり次第壊しているわけではない」。あくまでも反資本主義運動の左翼を自負している。(中略)

黒はアナーキストの色だが、べつに志を持って無政府革命をしようというのではない。ひと暴れし、終われば着替えて日常生活に戻る。ある意味、欲求不満の発散である。

政治活動もするが、闇に隠れて次の襲撃を準備するのではなく、何食わぬ顔をして、普通のエコロジーやフェミニズム、学生運動などをおこなう。(中略)

世界中でブラック・ブロックが増殖している背景には、デモや集会でいくら訴えても記事にならないが、暴れたというと記事になるという現実もある。(中略)

ネット社会の申し子?
かつてデモに紛れ込んで暴徒となるカッスール(壊し屋)といえば、郊外のスラム化した団地から来る移民二世三世の失業者や学校の落ちこぼれの不満分子だった。だがいまやその姿はない。

パリのメーデーでは5月2日夜現在102人のブラック・ブロックが留置されたが、学生やサラリーマンも多く、3分の1は女性だった。(中略)

そういえば、見ず知らずの者がその場限りで集まる彼らは、まるでスマホゲームで知り合った仲間がオフ会しているようだ。左翼過激派というよりもネット社会の鬼っ子ではないのだろうか。【5月8日 広岡裕児氏 Newsweek】

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