
(米大使館移転セレモニーに出席したイバンカ氏 その優美さが、境界で起きている惨事と対対照的です。上下とも【5月15日 WSJ】)

【「彼を早く冷蔵室に入れろ。次が到着している」】
パレスチナ・ガザ地区のイスラエル境界では、米トランプ政権による大使館のエルサレム移転に抗議する大規模なデモが連日行われており、イスラエル軍の実弾を使った鎮圧行動もあって、14日だけで59人が死亡、1359人が負傷【5月15日 NHK】と報じられています。
抗議行動が行われているここ7週間では、死者は109人【5月15日 AFP】とも。イスラエル側には死者は出ていません。
****米大使館移転抗議デモ、パレスチナの流血と悲しみ****
パレスチナ自治区ガザ地区にあるシファ病院では14日、家族や友人らを必死に捜す人々の姿があった。
中には、その対象が遺体となって運ばれてきたことを知りながら確認作業を進める人や、安否に関する情報がなく、病室を見て回った後に遺体安置所へと向かう人々の姿もあった。
病院では、ストレッチャーに横たわるきょうだいの遺体を前にして、「なぜ私を残して逝ってしまったんだ」と若い男性が叫んでいた。彼の悲痛な叫びは、遺体を移動するよう命令する職員の声でかき消された。「彼を早く冷蔵室に入れろ。次が到着している」
死亡した男性は、14日に行われた米大使館のエルサレム移転に抗議する大規模なデモの最中に、イスラエル軍による銃撃などで死亡したパレスチナ人の一人だ。
この日の衝突では、少なくとも55人のパレスチナ人が死亡した。死者数としては、ガザ地区を実効支配するイスラム原理主義組織ハマスとイスラエルが衝突した2014年の戦闘以来で最も多かった。
シファ病院の状況は深刻だ。ここ7週にわたって続いていた抗議デモを背景に、必要な薬が著しく不足していたのだ。ガザの保健当局は、輸血用の血液が不足しているとして、市民に献血を呼び掛けている。
この7週間で、パレスチナ側の死者は109人に上っているが、イスラエル側はゼロだ。
イスラエルは、抗議デモを背後で扇動しているとしてハマスを非難する。そして、パレスチナへの攻撃については、自国を守っているだけと主張している。
一方のパレスチナの人々が求めているのは、1948年に追われた土地への帰還だ。彼らはタイヤに火を付けて煙幕としながら、境界線付近に向かって石や火炎瓶を投げ込んでいる。イスラエル側はその行為に対して催涙ガスを撃ち込み、そして実弾を用いた。
若いパレスチナ人男性のグループは、境界線付近に設置された有刺フェンスを突破しようと数時間にわたり試みた。最後まで成功することはなかった。さらにこのフェンスの先には、より頑丈な仕切りがさらに設置されており、デモの参加者らがイスラエル軍に近づくことを強固に拒んでいるのだ。
■「戦闘機や戦車が攻撃(準備)を始めた」
イスラエルとの衝突でパレスチナの人々は次々と倒れていったが、それでもデモの参加者らはフェンスをめがけて進んでいった。
ラビア・カワジャさんは、「私たちは、境界線を越える試みを続ける」とAFPに語った。
フェンスを突破するという目下の目的は果たせなかったものの、ガザの住民200万人の苦しみや米大使館移転に対するパレスチナ人たちの拒絶を世界に向けて発信するという、より大きな目標は達成された。
この衝突を受けて南アフリカは、イスラエル駐在の自国大使を帰国させて抗議し、またクウェートも国連安全保障理事会の緊急会合を15日に開くよう要請し、イスラエルを非難した。
シファ病院では、ベッドの数も足りていない。(中略)午後になると、テントにはより多くの負傷者が搬送された。医師らはスペースの不足を理由に人々を家へと帰した。
夕方が近づくと、イスラエルによる銃撃計画があるとのうわさが飛び交った。そして、境界線付近から離れるようよびかける音声が拡声器を通じて流された。デモはこれを境に収束していった。
カワジャさんは、「戦闘機や戦車が攻撃(準備)を始めたのを見て、私たちは撤退した」とAFPの取材に明らかにした。【5月15日 AFP】
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“パレスチナの人々は次々と倒れていったが、それでもデモの参加者らはフェンスをめがけて進んでいった・・・・”
まるで乃木大将の二百三高地攻略を描く映画の一場面のようですが、今繰り広げられている現実です。
犠牲者の中には、生後8か月の女の子も。
****ガザ衝突、催涙ガスで乳児1人が死亡 保健省発表****
パレスチナ自治区ガザ地区とイスラエルとの境界付近で発生した在イスラエル米大使館のエルサレム移転に抗議するパレスチナ人とイスラエル軍との衝突で、ガザの保健省は15日、催涙ガスを吸い込んだパレスチナ人の乳児1人が死亡したと明らかにした。
死亡したのは生後8か月の女の子で、14日にガザ市東部で行われた大規模な抗議デモ中に催涙ガスにさらされたという。同省によるとこの抗議デモでパレスチナ人58人が死亡し、死者の多くが狙撃者から銃撃を受けたという。(後略)【5月15日 AFP】
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なんとも痛ましい限りです。
【「致命傷を与える武力は、最初ではなく最後の手段として用いられてしかるべき」】
イスラエル側は“自国を守っているだけ”とのことですが、まだ境界を越えていない群衆を実弾で狙撃していいのか?
****ガザ抗議では「誰も射殺を免れないように見える」、国連報道官が指摘****
パレスチナ自治区ガザ地区でイスラエルとの境界付近で発生した衝突について、国連人権高等弁務官事務所の報道官は15日、抗議を繰り広げるパレスチナ人は誰であれ、直接的な脅威をもたらしているかどうかにかかわらずイスラエル軍によって殺害されることを「免れない」ように見えると述べた。
OHCHRのルパート・コルビル報道官はスイス・ジュネーブで報道陣に対し、「フェンスに近づいたという事実だけでは、致命的な、生命を脅かしかねない行為ではないがゆえに、発砲は正当化できない」と指摘。
にもかかわらずガザでは「誰も射殺を免れないように見える」と述べたコルビル氏は、イスラエルにも適用される国際法には「致命傷を与える武力は、最初ではなく最後の手段として用いられてしかるべき」ということが明記されていると強調した。
また「これは(イスラム原理主義組織の)ハマスによるものだから構わないのだと言ってのけるのは容認できない」と述べ、多くのパレスチナ人犠牲者を出していることについてのイスラエルの弁解を一蹴した。【5月15日 AFP】
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近年、パレスチナ問題は、和平の可能性が遠のいたこともあって、シリア内戦などの陰に隠れる形にもなっていましたが、“フェンスを突破するという目下の目的は果たせなかったものの、ガザの住民200万人の苦しみや米大使館移転に対するパレスチナ人たちの拒絶を世界に向けて発信するという、より大きな目標は達成された。”
【サウジ・エジプトも非難 ただし、温度差も】
今回の激しい衝突によって、埃をかぶっていた“アラブの大義”の旗が、再び持ち出されることにも。
****<米大使館移転>怒る中東、米へ非難拡大 「集団虐殺だ」****
在イスラエル米大使館のエルサレム移転を受け、中東のイスラム諸国ではイスラエルや米国への非難が拡大している。
トルコ政府は14日、米国とイスラエルに駐在するトルコ大使を召還。イスラエル軍がパレスチナ人デモ隊に発砲し、多数が死傷したことについて、トルコのエルドアン大統領は「ジェノサイド(集団虐殺)だ」と怒りをあらわにした。パレスチナ人の犠牲者はさらに増える恐れがあり、緊張が高まっている。
中東の衛星テレビ局アルジャジーラなどによると、トルコの最大都市イスタンブールでは14日、6000人規模の抗議デモが発生。参加者は「イスラエルはテロ国家」「パレスチナ人を見捨てない」と訴え、米国旗を燃やす市民もいた。トルコ政府はパレスチナへの連帯を示すため、15日から3日間を服喪期間にすると宣言した。
トルコは北大西洋条約機構(NATO)の一員で米国の同盟国だが、近年はトルコが敵視する一部のクルド人勢力を米国が支援したことなどから、対米関係が悪化している。
また、イラン核合意離脱問題などで米国やイスラエルと敵対するイランのザリフ外相は、ツイッターで「世界最大の野外監獄(ガザ)で、数え切れないパレスチナ人が無残に殺害された。大いなる恥の日だ」と述べた。
アラブ連盟(21カ国と1機構、本部・カイロ)は対応を協議する緊急会合を16日に開催する。アブルゲイト事務局長(エジプト元外相)は、14日の移転式典に多くの国が参加したことを「恥ずべき行為」と指摘した。
親米のサウジアラビアやエジプトの外務省なども14日、イスラエル軍によるパレスチナ人殺害を非難。チュニジアの労組団体は、米国船の入港禁止を検討していると伝えられた。
宗教界からも懸念の声が上がり、エジプトにあるイスラム教スンニ派最高権威機関アズハルのタイエブ総長は「世界の15億人のイスラム教徒の心を傷付ける行為だ」と大使館移転を批判した。【5月15日 毎日】
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イランに対抗する構図から、アメリカ・イスラエルと接近しているサウジアラビアも、さすがに(抑制されたトーンながら)非難しているようです。どこまでの本気度かはわかりませんが、イスラエルと大ぴらに連携することは難しくなります。
問題がさらに拡大すれば、イスラエル・サウジアラビアと連携してイランを叩く・・・というトランプ大統領の目論見にも齟齬をきたしかねません。
もっとも、街頭での反イスラエル・反米デモはトルコの様子などが報じられていますが、サウジアラビアやエジプトからは報じられていないようにも。政府だけでなく、社会レベルでパレスチナ問題への“変化”が生じているのでしょうか。
なお、イスラエル軍による銃撃については、フランスやEUなども14日、相次いで声明を発表し、イスラエルの武力行使を非難しています。
【アメリカ「ハマスに責任」 国内選挙事情優先のトランプ政権】
大使館移転という混乱の引き金を引いたトランプ大統領(混乱の背景には、トランプ大統領の露骨なイスラエル寄りの姿勢で、「2国家共存」の可能性すら遠のいている現実もあります)が、この混乱にどのようにツイートしているのかは知りませんが、アメリカは「ハマスに責任がある」としています。
****パレスチナ人死傷「ハマスに責任」=イスラエル擁護明確―米報道官****
シャー米大統領副報道官は14日の記者会見で、パレスチナ自治区ガザで起きた米大使館のエルサレム移転に抗議するデモ隊への発砲で、パレスチナ人多数が死傷したことに関し「(イスラム原理主義組織)ハマスに責任がある」と非難した。
銃撃したイスラエル軍の責任を問わない姿勢を明確にしたことで、パレスチナ側がさらに反発を強めるのは必至だ。
シャー氏は、ガザを実効支配するハマスが「意図的に(パレスチナ人の)反発をあおってきた」と主張した。イスラエル政府については「暴力を用いない事態収拾を何週間も試みてきたと思う」と擁護。「イスラエルには自衛権がある」と強調した。【5月15日 時事】
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あまり説得的とも思えませんが、トランプ大統領の中東の安定・平和より国内選挙事情を優先させるような“良識”にも疑問を感じます。
****開いた「パンドラの箱」、エルサレム分断 米大使館移転****
・・・・米国が仲介した1993年のオスロ合意では、イスラエルとパレスチナの「2国家共存」を目指す和平交渉への道が開かれた。だが、両者は不信をぬぐえず衝突を繰り返し、2014年4月を最後に交渉は行われていない。
米大使館移転を受けて、米国が仲介する形での和平交渉の再開は絶望的になった。パレスチナ自治政府のアッバス議長は「米国はもはや公平な仲介者ではない」と断じた。
ユダヤ教、キリスト教、イスラム教の聖地があるエルサレムの帰属を決めるのは至難だ。国際社会は「イスラエルとパレスチナの交渉で解決されなければならない」として、和平交渉の推移を見守ってきた。だが、和平が進む見通しが消えたことで、聖地の帰属も未解決のまま放置される。
トランプ氏、中間選挙へアピール
13日夜、エルサレムのイスラエル外務省。イスラエル政府が米国政府からの派遣団を招いて、米国大使館のエルサレム移転を歓迎する式典が開かれた。
「トランプ大統領は歴史をつくろうとしている。勇敢な決断に感謝する!」
イスラエルのネタニヤフ首相がトランプ氏をたたえると、ムニューシン米財務長官も「米国にとってイスラエル以上のすばらしいパートナーはいない」とネタニヤフ氏を持ち上げた。
だがイスラエル外務省によると、式典に招待された86カ国の駐イスラエル大使らのうち、出席したのは23カ国。経済支援や安全保障で米国の強い影響下にある中米グアテマラ、南米パラグアイ、東欧ルーマニアなどだ。イスラエルとパレスチナの「2国家共存」を重視する欧州の主要国や日本の大使は出席しなかった。
トランプ氏は大統領選の時から一貫してイスラエル寄りの姿勢を堅持する。10日には「歴代大統領が選挙で公約しながら、決してできなかった米国大使館のエルサレム移転が、ついに実現する」と自賛した。
背景には、米人口の4分の1を占めるとされる最大の宗教勢力、キリスト教福音派の支持を確実にしたい思惑がある。同派の大半はイスラエルは神がユダヤ人に与えたと考え、ユダヤ人を祝福すれば神の祝福を得られると信じ、大使館移転を熱烈に歓迎している。
今年11月には米中間選挙が控える。トランプ氏が率いる米共和党が上下両院の過半数を確保するには、キリスト教福音派の支持が不可欠だ。共和党が過半数を割れば、トランプ氏は「米国第一」の政策をやりにくくなるうえ、ロシア疑惑をめぐって議会から弾劾(だんがい)を受ける可能性も出てくる。
トランプ氏は昨年12月の首都宣言からわずか半年で大使館移転を実現したが、実態は既存の領事施設を使い、わずかな職員が働くだけだ。フリードマン駐イスラエル大使は新たな大使館に常駐しない。
一方、首都宣言に猛反発するパレスチナに対しては、トランプ氏は「兵糧攻め」に出ている。米国は、パレスチナ難民に医療や教育を提供し、食料を配布する国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)の拠出金の最大負担国だ。
トランプ氏は今年1月、拠出金の半分以上を凍結すると表明。圧力をかけて相手の譲歩を引きだそうとする手法は、イラン核合意からの離脱表明にも共通する。(後略)【5月15日 朝日】
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【“本番”15日を迎え・・・】
非常任理事国のクウェートの要請で、国連安全保障理事会は14日、緊急会合を15日午前(日本時間同日深夜)に開くことを決めたとのことですが、どんなイスラエル批判がでても、アメリカが拒否権を行使するだけでしょう。
パレスチナは現在、15日の午後。「大惨事(ナクバ)」70年目の記念日“本番”を迎えて、14日に引き続き混乱が予想されていますが、そのあたりの情報は日本語メディアではまだ入っていません。
****反イスラエル抗議デモ続く=建国70年で「帰還の行進」―パレスチナ****
パレスチナ自治区ガザでは15日も、米国が在イスラエル大使館をエルサレムに移転したことに反発する抗議デモが続く見通しで、混乱が拡大する恐れもある。
3月末からのデモでは14日、イスラエル軍の銃撃で子供や女性を含む少なくとも59人が死亡、2014年のガザ戦闘以来、1日としては最大の犠牲者数となった。
パレスチナにとっては、1948年のイスラエル建国で70万人以上が故郷を追われた「ナクバ(大惨事)」から15日で70年。市民からは「このまま戦争につながるのでは」という懸念も出ている。(後略)5月15日 時事】
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あまりの混乱に、事態が暴走するのを恐れたハマスが抑止行動に出れば、14日とは違った展開にもなりますが・・・・。
混乱が拡大しないことを願う気持ちが半分、そうはいっても、国際社会の目をパレスチナに向けさせるためには結局のところパレスチナの人々の“血”しかないのかも・・・という思いも半分。