孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中国  米との太平洋「東西分割」に向けて 台湾・南シナ海・南太平洋で強まる圧力・影響力

2018-05-20 22:59:43 | 中国

(南太平洋・バヌアツのルーガンビル 中国の援助でできた埠頭。クルーズ船の旅客ターミナルの入り口(手前)には「ウェルカム」とあるが、今年は月1隻ほどの寄港にとどまる【5月19日 朝日】)

台湾への軍事的圧力 南シナ海での軍事拠点化
トランプ米大統領は中国との貿易摩擦がピークに達した3月半ば、アメリカと台湾の閣僚や政府高官の相互訪問の活発化を目指す「台湾旅行法」案に署名し、中国はこれに強く反発。

さらに、台湾で最も人気がある若手政治家とも評される頼清徳(ウィリアム・ライ)行政院長(首相)が議会で台湾の独立に言及していることもあって、実弾演習、空母「遼寧」を中心とする「空母編隊」を台湾側の防衛体制の手薄な南東部へ派遣しての演習などで、中国が台湾に対する軍事的圧力を強めていることは、4月28日ブログ“台湾 軍事的圧力を強める中国”でも取り上げたところです。

****威圧的な軍事演習で台湾を脅かす中国──もうアメリカしかかなわない****
中国が4月に南シナ海と台湾海峡で行った実弾演習は台湾に対する警告であり、必要ならば武力で台湾を併合するという意思表示だと、中国当局者が語った。

中国の習近平(シー・チンピン)国家主席は「一つの中国」原則を認めない台湾への締め付けを強めており、南シナ海で史上最大規模の観艦式を実施するなど、このところ盛んに軍事力を誇示している。

中国の国務院台湾事務弁公室の安峰山(アン・フォンシャン)報道官は5月16日の記者会見で、一連の軍事演習は「二つの中国」に固執する台湾当局に対するメッセージだと語った。(後略)【5月17日 Newsweek】
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“もうアメリカしかかなわない”とのことですが、そのアメリカ・トランプ政権にどれだけの中国に対峙する意思と能力があるのか・・・と言う話は、また後ほど。

一方、南シナ海での中国の軍事拠点化は着々と進んでいるようです。
中国は3つの島に対艦巡航ミサイルと地対空ミサイルシステムを配備したもようだと、米CNBCが2日、米情報機関の関係筋の話として報じています。

****中国、南シナ海にミサイル配備か 外務省は確認避ける****
中国政府は3日、ベトナムやフィリピンなどとの係争が続く南シナ海について、中国は同海に「国防」設備を建設する権利を有すると改めて主張する一方、中国が同海の人工島に新たにミサイルを配備したとの報道については確認を避けた。
 
米経済専門局CNBCは2日、米情報機関に近い筋の話として、中国軍が対艦巡航ミサイルと地対空ミサイルを南沙諸島(スプラトリー諸島)にある複数の軍事基地に配備したと報じていた。同局は、配備が行われたのは過去30日間のことだとしている。
 
報道内容が事実なら、戦略的要衝である同海の周辺諸国との間で緊張が再燃する恐れがある。
 
中国外務省の華春瑩報道官は3日の定例記者会見で、ミサイルの配備について事実関係を明言しなかった。
同報道官は「必要な国防設備の配置を含め、中国による南沙諸島での平和的な建設活動は、中国の主権と安全保障の保護を目的としている」とし、「(主権を)侵害する意図がない者に心配する理由はない」と述べた。
【5月4日 AFP】
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ミサイル配備に続いては、爆撃機も。

****<南シナ海>中国空軍が初めて爆撃機を着陸****
米シンクタンク「戦略国際問題研究所(CSIS)」は18日、中国空軍が南シナ海の西沙(英語名・パラセル)諸島のウッディー島に、初めて爆撃機を着陸させたと発表した。中国のソーシャルメディアなどが伝えたもので、H6K爆撃機が離着陸訓練を繰り返しているという。

H6K爆撃機の航続距離は約1800キロで、ウッディー島から南シナ海全域をカバーできる。中国は、ミスチーフ礁など南沙(英語名・スプラトリー)諸島の三つの人工島にも戦闘機や爆撃機の収容施設の建設を続けるなど、南シナ海の実効支配や軍事拠点化を進めている。【5月19日 毎日】
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中国としては、自国の領域に自衛のための国防配備をして何が悪い・・・というところでしょう。

米海軍提督「南シナ海での米軍側の劣勢は否めない状態」】
こうした状況に、アメリカ側にも、南シナ海における中国の軍事的優位を認める声が出ているようです。

****米海軍提督の危惧「海洋戦力は次第に中国が優勢に**** 
中国の“科学者”の団体が、「南シナ海での科学的調査研究活動をよりスムーズに行うために、これまで『九段線』によって曖昧に示されていた南シナ海における中国の領域を、実線によってより明確に表示するべきである」という提言を行い始めた。(中略)

いずれにしても、中国が南シナ海の8割以上の広大なエリアでの軍事的優勢を手にしつつあることへの自信の表明ということができるだろう。

海軍力を誇示し合う中国と米国
3月末には、中国海軍が南シナ海に航空母艦を含む43隻もの艦艇を繰り出して、「南シナ海での軍事的優勢は中国側にある」との示威パレードを行った。
 
これに対抗して、トランプ政権はセオドア・ルーズベルト空母艦隊を南シナ海に派遣し、中国大艦隊の示威パレードに対抗する措置をとった。
 
これまでトランプ政権はFONOP(公海航行自由原則維持のための作戦)を断続的に続けることにより、フィリピンや日本などの同盟国に対して「アメリカは南シナ海情勢から手を退いたわけではない」というアリバイ表明を続けるに留まっていた。

だが、FONOPは通常1隻の駆逐艦が中国が自国領と主張している南沙諸島や西沙諸島の島嶼沿岸12海里内海域を通航するだけであるため、軍事的な示威活動とはなっていなかった。
 
それに反して数十機の戦闘攻撃機を搭載した原子力空母を中心とする空母打撃群を南シナ海に展開させることは、「アメリカ海軍は南シナ海から引き下がったわけではない」という軍事的姿勢を示す行動と見なせる。

威力が衰えつつある米海軍の空母戦力
しかしながら米海軍関係者からは、「米海軍空母部隊が深刻な脅威になっているのか?」という疑問が浮上している。
 
かつては米海軍空母打撃群が出動してきたならば、中国海洋戦力は「なりを潜め」ざるを得なかった。だが、その状況は大きく変化した。

とりわけ、中国本土から突き出た海洋戦力前進拠点としての海南島からさらに1000キロメートル以上も隔たった南沙諸島に7つもの人工島を建設して、それらを軍事拠点化してしまったという状況の南シナ海では、「米空母神話」は崩れつつある。
 
南シナ海とりわけ南沙諸島の軍事情勢は急変してしまった。まもなく中国軍は、人工島のうちの3つに建設された航空基地に、米空母打撃群数個部隊に匹敵する航空戦力を配備することが可能になる。

そして人工島には強力な地対艦ミサイルや地対空ミサイルが設置されて、南沙諸島周辺海域に近寄ろうとする米海軍艦艇や航空機を威圧する。

また、中国本土から発射して米空母を撃沈する対艦弾道ミサイルの開発改良も順調と言われている。それらの攻撃力に先行して、すでに人工島には多数の各種レーダー装置が設置されつつあり、中国側の南沙諸島周辺海域の監視態勢は万全になりつつある。(中略)

次期アメリカ太平洋軍司令官の危惧
このような南シナ海における「中国海洋戦力による優勢」に関して、南シナ海や東シナ海を含むアジア太平洋戦域を統括する次期アメリカ太平洋軍司令官(現在はハリー・ハリス海軍大将)に指名されているフィリップ・デービッドソン海軍大将は、「これまでのような状況が続けば、南シナ海での米軍側の劣勢は否めない状態である」と連邦議会の司令官指命審査質疑に対して回答している。
 
デービッドソン提督は議会に対して、「アメリカ太平洋軍は現状のままではアジア太平洋戦域での責任を果たすことはできない」

「同戦域での責任を果たすためには、潜水艦戦力、スタンドオフ・ミサイル戦力(敵ミサイルの射程圏外から敵を攻撃する空対空ミサイル、空対艦ミサイル、艦対艦ミサイル、地対艦ミサイルなど)、中距離巡航ミサイル戦力、海上輸送戦力、航空輸送戦力、巡航ミサイル防衛能力、空中給油能力、通信能力、航法制御能力、ISR(情報・監視・偵察)能力、指揮統制能力、サイバー戦能力などを著しく強化し、ロジスティックス分野の非効率を解消する必要がある」といった趣旨の証言をしている。
 
要するに、現代の海洋戦に必要なほとんどすべての分野で、中国海洋戦力が優勢を手にしつつあることを次期アメリカ太平洋軍司令官は危惧しているのだ。(後略)【4月26日 北村 淳氏JB Press】
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中国は嫌いだ云々、日本の属国化云々の話ではなく、南シナ海の軍事的優越者がアメリカから中国へと移行しつつある現実、そして、この流れは今後ますます強まるであろうことは、念頭に置いて日本の立ち位置を議論する必要があるでしょう。

昨今の日中関係改善の動きは、中国側にも日本を必要としている事情があってのことでしょう。そのたりを含めての議論が必要でしょう。

南太平洋地域での中国の影響力拡大 豪・NZは警戒、対応策
南シナ海からさらに遠く、南太平洋に目をやると、ここでも中国の存在感が強まる流れが顕著です。

****中国、南太平洋で援助攻勢 バヌアツの埠頭や庁舎、続々整備****
国際会議場に港湾、スポーツ施設。小さな島国が多い太平洋地域で近年、中国の援助が目立っている。

日米豪が関与してきた太平洋の秩序を変える狙いではないか。そんな見方が広がるなか、日本は18、19の両日、14カ国の首脳を招いて「太平洋・島サミット」を福島県で開く。(中略)
 
バヌアツ最大の島、エスピリットサント島の拠点ルーガンビル。第2次大戦中に米軍が前線基地を設けた天然の良港に全長360メートルの埠頭(ふとう)がある。人口27万人余りの小国では屈指の大型施設は、中国が約90億バツ(約91億円)を融資して昨年8月に完成した。(中略)

同国では、ほかにも中国のインフラ援助が相次ぐ。
首都ポートビラでは2016年、国際会議場が完成。昨年は首相府庁舎や、12月に主催した太平洋諸国のスポーツ大会のメイン会場の複合施設もできた。中国は大会前の半年間、バヌアツ選手190人を自国に招いてトレーニングの機会も提供した。

「中国は『欲しいものを言って』と提案する。単刀直入だ」。現地紙記者が解説する。

■「海軍基地候補」報道に波紋
中国が援助攻勢をかけるなか、今年4月、この埠頭が注目を集めた。豪紙シドニー・モーニング・ヘラルドが豪州の安全保障当局筋の話として、中国がバヌアツに海軍基地を設けるためにバヌアツ側と協議を始め、この埠頭が候補地だと報じた。
 
両政府は否定したが、波紋は広がる。
 
赤道以南の太平洋地域で、米軍が駐留する国は同盟国の豪州だけだが、ルーガンビルは豪東岸から2千キロ。東京・石垣島間ほどの距離しか離れていない。

豪州国立大のロリー・メドカーフ教授は「現時点で基地の計画はなくても、中国のルーガンビルへの投資は純粋に商業上の文脈では理解しにくい。中国は(太平洋に)『島国を結ぶ鎖』を築き、米国を無力化する戦略的な野望を持つと考える。小さいがその始まりかもしれない」とみる。
 
こんな見方が出るのは他国の例からだ。中国の融資でできたスリランカの港は利用が伸びず、債務免除と引き換える形で昨年、中国企業が99年の運営権を得た。軍港としても利用可能との臆測がくすぶる。
 
ヌウェレ氏によると、ルーガンビルへのクルーズ船の寄港は今年、年15隻にとどまる。20年には年100~150隻程度と見込むが、期待通りに埠頭の収益が上がらないと、債務返済は厳しくなる。
 
中国が援助で存在感を高める構図は太平洋の島国で共通する。豪ローウィ研究所によると、中国は06~16年に国交のある8カ国に計17億2900万ドルを援助。豪州には及ばないが、主な援助国の日本やニュージーランドを上回る。(中略)

■太平洋の島国での中国のインフラ支援の例(援助額)
 <パプアニューギニア> 州立病院(1億6264万ドル) 大学キャンパス(2535万ドル)
 <バヌアツ> 陸上競技場などスポーツ複合施設(960万ドル) 国際会議場(1461万ドル) 首相府(960万ドル)
 <フィジー> 公立病院(597万ドル)
 <サモア> 国際空港改修(1995万ドル) 国立医療センター・保健省(5996万ドル)
 <トンガ> 政府合同庁舎(1100万ドル) ※豪ローウィ研究所調べ 【5月17日 朝日】
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南太平洋地域にこれまで大きな影響力を行使してきたオーストラリアやニュージーランドは、中国進出への警戒を強めています。

****中国の影響増で太平洋に「戦略的懸念」 NZ外相が暗に指摘****
ニュージーランドのウィンストン・ピータース外相は1日、豪シンクタンクに向けた演説で太平洋地域における「戦略的懸念」に触れ、太平洋島しょ国の間で中国の影響力が高まっていると暗に指摘した。
 
ピータース外相はオーストラリアの外交シンクタンク、ローウィー研究所への演説で、ニュージーランド最大の貿易相手国である中国への直接の言及は避けながらも、ニュージーランドが太平洋地域で協力を模索しているとする「パートナー国」の中に、当て付けのように中国を加えなかった。(中略)

さらにピータース外相は「太平洋全体もまた、争いが激しくなる戦略的範囲となった。もはや大国の野心に放っておいてはもらえない」と述べ、そのような状況が太平洋地域での戦略的懸念を生み出していると指摘した。
 
一方でピータース外相の演説に先立ち、中国の習近平国家主席は南太平洋の島国トンガのツポウ6世国王と北京で会談。国営新華社通信によると、習主席は「トンガへの経済的・技術的な支援提供を続ける」と約束した。【3月2日 AFP】
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NZ・ピータース外相は、同国・オーストラリア両政府は影響力維持のために一層の努力が必要だと強調していましたが、その具体策も。

****豪州とNZ、中国の攻勢に対抗 太平洋の島国へ援助拡大****
豪州とニュージーランド(NZ)両政府が、17日までに発表した7月からの新年度予算案で、太平洋の島国への援助を大幅に増やした。太平洋地域で高まっている中国の援助攻勢に対抗する側面がある。
 
豪政府は8日、太平洋諸国への援助に前年度比17%増で史上最高額の12億8360万豪ドル(約1070億円)を予算案に計上した。

目玉事業の一つは、ソロモン諸島と豪州を結ぶ高速通信網の整備。この通信網をめぐっては昨年、ソロモン政府が、中国の華為技術(ファーウェイ)の子会社が建設すると発表。豪政府が機密情報が中国側に漏れるのではないかと懸念を示し、計画変更を働きかけていた。
 
NZ政府は17日、太平洋諸国向けが6割を占める開発援助に、これまでの水準より3割増の、4年間で約7億1400万NZドル(約545億円)をあてる予算案を発表した。太平洋地域への関与を改めて強める「パシフィック・リセット」と呼ぶ外交戦略の一環だ。
 
豪ローウィ研究所によると、中国は2006~16年、国交のある8カ国に計17億2900万ドル(約1920億円)を援助した。
 
中国のインフラ支援には、豪州のフィエラバンティウェルズ国際開発・太平洋担当相が1月、「白い象のような無用な建物であふれている」と懸念を表明している。NZのピーターズ外相も今月8日、「我が国が(太平洋地域から)いなくなれば、他の(国の)影響力が取って代わる」と語った。
 
両国は、日本政府が18日から太平洋諸国の首脳を招いて開いている「太平洋・島サミット」に担当相を送り、参加している。【5月19日 朝日】
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「太平洋・島サミット」の首脳会合で、安倍首相は基調演説を行い、法の支配に基づいて南太平洋の秩序を守るための支援を進める考えを示していますが・・・・。

11年前の「太平洋東西分割」の現実化も
“もうアメリカしかかなわない”というアメリカですが、“米中貿易戦争”の方は、ワシントンで17、18日に開いた閣僚級貿易協議の共同声明を19日に発表。

声明が協議日程終了から1日遅れての発表となったことからも、問題が多いことがうかがわれます。
“中国が農産物や資源など米国産品の輸入を増やし、対米貿易黒字を「大幅に減少させる」ことで一致したが、数値目標など具体策は盛りこまれなかった。知的財産権保護などもあいまいな表現にとどまっており、米中間でなお隔たりがあることを示した。両国は今後も協議を継続する。”【5月20日 毎日】

ただ、これ以上“戦争”を拡大させない方向での合意は得られ、“5月上旬の初会合が平行線だったのに比べれば、米中の「貿易戦争」に発展する懸念は後退したものの、双方の対立が根深い問題については対応を軒並み先送りした形で、依然として火種が残っている。”【同上】

今後は経済問題だけでなく、北朝鮮の扱いという安全保障も含めた形で、米中間の関係調整が図られるのでしょう。
東アジア・南太平洋を含めてアメリカ国外の情勢に関心がないトランプ大統との間で、ウィンウィンの新たな大国関係へ・・・ということにも。

米太平洋軍のキーティング司令官(当時)が中国を訪問した際、会談した中国海軍幹部から、ハワイを基点として米中が太平洋の東西を「分割管理」する構想を提案されたのは2007年のことで、もう11年も前の話です。

「太平洋東西分割」は、「中国の夢」を掲げ、「太平洋には中国と米国を受け入れる十分な空間がある」とも語る習近平国家主席の思いでもあるでしょう。

11年が経過して、現実はその「太平洋東西分割」の方向へ進んでいるようにも思えます。
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