孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

新疆ウイグル自治区  「再教育収容所」への「不穏分子」送り込みに邁進する「工作組」

2018-05-16 22:03:27 | 中国

(新疆ウイグル自治区のグルジャ 再教育のために使用されると考えられるセンターにつながるセキュリティー・ポストの警備員(2017年11月2日)【4月30日 「仮称 パルデンの会 ・Free Tibet Palden」】)

【「妻は『訓練』を受けており、子どもたちの世話は政府がみている」】
中国政府がウイグル族の分離独立支持勢力によるテロの脅威にさらされていると強く警戒し、新疆ウイグル自治区において極めて厳しい統治をおこなっていることは、これまでも再三取り上げてきました。

2017年8月31日ブログ“中国 故郷にも国外にも安住の地がないウイグル族”では、民族運動の温床とみなされた旧市街で取り壊し・移転が進められているという話を

2017年12月23日ブログ“新疆ウイグル自治区 圧倒的な治安維持強化のもとで進む「完全監視社会」構築”では、顔認証システムなど中国得意の先端技術も駆使した、近未来小説に表現されているような「完全監視社会」がつくられていることを

2018年2月17日ブログ“新疆ウイグル自治区における強制収容所の実態 「唯一の罪は、ウイグル族に生まれたことだけ」”では、当局が「教育センター」と呼ぶ「再教育」のための収容所の実態を取り上げてきました。

強制収容所については、3月15日ブログ“チベット動乱から10年 焼身自殺続くもペースは減少 監視強化か情勢安定か? “Xデー”問題も”でも、チベット問題との関連で取り上げました。

下記は、仕事の関係でパキスタンで暮らしている夫が、中国に残しているウイグル人の妻や子どもと連絡がつかなくなり、中国当局者から「妻は(再教育)『訓練』を受けており、子どもたちの世話は政府がみている」と言われ、会うこともかなわない・・・という話です。

****中国で消えたウイグル人妻たち、パキスタン人の夫ら募る不安****
毎年秋になると、中国の最西部に住むパキスタン人商人らは、中国人の妻たちにひと時の別れを告げる。古代シルクロードの一部だった山深いカラコルム・ハイウエーをたどって国境を越え、自国で冬を過ごすためだ。
 
雪が積もる頃、男たちは離れ離れになった妻たちと電話で連絡を取り合う。だが昨年、そのような電話の多くが突然通じなくなった。
 
後に男たちは、中国に残してきた家族が、イスラム系少数民族ウイグル人を排除するための謎に包まれた「再教育収容所」に送られたことを知った。

「妻と子どもたちは昨年3月、中国当局に連れ去られた。それ以来、家族とは連絡が取れていない」とイクバルさんは語った。
 
昨年7月、イクバルさんは家族を見つけるために中国へ向かったが、国境で追い払われた。イクバルさんはAFPに対し、中国当局者から「妻は『訓練』を受けており、子どもたちの世話は政府がみている」と言われたと説明した。
 
中国・新疆ウイグル自治区と国境を接するパキスタンのギルギット・バルティスタン州の議員、ジェイブド・フセイン氏によると、ビザやビジネス上の理由でパキスタン側に戻り、中国に住むウイグル人の家族と連絡が取れなくなった男性は州内に多数いるという。
 
そうした多数のパキスタン男性の場合と同様、イクバルさんの家族も中国・パキスタン経済回廊沿いにあるウイグルの古都カシュガルに住んでいた。
 
中国は近年、パキスタンとの関係強化に力を入れており、インフラ事業であるCPECに何百億ドルもの資金をつぎ込んでいる。

だが、中国は開発の野望と、ウイグルの分離独立派がパキスタンから暴力を国内に持ち込むのではないかという恐怖の間で折り合いをつけることに苦心している。

■「過激主義者の排除」
中国当局は長年、ウイグルのイスラム教徒に対する弾圧を国際テロ対策のためだと主張してきた。ここ数年は、テロリスト、宗教過激派、分離独立派を「3大勢力」と呼び、徹底的に排除する方針を強めている。
 
2017年、中国政府は「過激主義者を排除する」ためとして、ウイグルに何万人もの治安要員を送り込んだ。都市部ではほぼ1区画ごとに警官の詰め所が設置され、厳しい法律が制定された。

これにより、分離独立派に共感を抱いたと疑われるものは誰でも、強制的に「再教育」されることが増えた。
 
イクバルさんを含むパキスタン男性らは、自分の妻、時には仕事上のパートナーまでもが当局の標的にされたのは、パキスタンから電話やメッセージを受け取ったためだと信じている。
 
中国当局は再教育収容所の存在を否定している。だが、昨年3月にウイグルで可決された過激主義を取り締まる法律は、当局に政治的再教育の強化を求めている。
 
米議会の出資により設置された放送局ラジオ・フリー・アジアによると、1月に収容所に送られた人数は、カシュガルだけでも12万人以上に上るという。これはこの地域の人口の約3%に当たる。
 
AFPが国営メディアと政府資料を元にしたところ、少なくとも30か所以上の収容所が存在し、約4000人が収容されたことを確認できた。
 
ビジネスマンのアリさんは、12月から妻と連絡が取れていない。アリさんは、妻が当局によって連れ去られ「共産主義について教えを受け、愛国者になるための訓練」を受けていると述べた。

「妻は、家に中国の警察がやって来て、パキスタンから電話がかかってくることについて聞かれ、東トルキスタン・イスラム運動(ETM)とのつながりを説明するよう言われたと私に言っていた」とアリさんは言う。ETIMは、中国当局がウイグルの分離独立主義を扇動していると非難している組織だ。
 
アリさんは5月に家族を探すために中国入りする計画だが、子どもたちは中国政府が保護していると言われており、再び家族に会うことが出来るかどうか分からないと言う。「彼らは何も教えてくれない。家族は訓練を終えたら戻って来ると言うだけだ」【4月30日 AFP】
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拘留型の閉鎖的「再教育収容所」以外にも、昼間に授業に出席し、夜間に帰宅できるようにする「開放型政治再教育キャンプ」も存在するようで、「軽度」と評価された者が一定期間ここで学習することを強要されるようです。

ここでは中国国旗掲揚から始まって、政治的な勉強会のほか、中国語、特に中国の歌詞を国歌に習うように強制されているとのことです。【5月10日 「仮称 パルデンの会 ・Free Tibet Palden」より】

【「不穏分子」摘発で成果を誇る「工作組」】
ウイグル族社会に送り込まれたのは治安要員だけではありません。
ウイグル族住民の再教育収容所送りに“成果”をあげているのが、当局が現地に送り込んでいる民間人団体の「工作組」と呼ばれる組織だそうです。

****不穏分子」を毎日訪問、中国・新疆ウイグル自治区でさらなる弾圧****
「人民の心をつかむ」という政府の掛け声のもと、中国・新疆ウイグル自治区の村に民間人の団体が押し寄せている。だがその団体には、政府に対する脅威を特定し罰するという裏の任務がある。
 
中国共産党が「工作組」を阿克切坎勒村に送り込んでから4か月後、100人以上が拘束され再教育収容所に送られた。これは村の成人人口の5分の1にあたる。
 
工作組は地方の大学の職員などで構成され、昨年は1万以上のグループがウイグルの農村に派遣された。この制度はイスラム教徒が多数派を占めるウイグルで、政府が実施する分離独立派と宗教過激派への対抗策の一環として導入された。
 
政府は「人民の状況を調べ、人民の生活を改善し、人民の心をつかむ」のスローガンのもと、職員や教授を募集している。多数派の漢民族が大部分で、党のプロパガンダを広め、農村の貧困を撲滅し、「民族調和」を推進する。
 
政情不安定なウイグルでは、全人口を政治的に洗脳しようという試みが日常のあらゆる場面で行われており、このような工作組が極めて重要となる。
 
共産党は昨年、すでに厳しい宗教と個人の自由に対する制限を、さらに強化する任務を工作組に課した。これは、何十年にもわたり毛沢東の下で行われた残酷な思想改造を思い起こさせる。
 
阿克切坎勒村の工作組は、新疆兵団廣播電視大学(BBTU)から派遣された。このような工作組が多数地方に送り込まれ、膨大な数の人々を刑務所や秘密の再教育収容所に送るのを手伝い、家族を壊し、村をも破壊した。
 
BBTUの工作組は2017年初めに村に入った。まずは村人が春節を祝うための赤いちょうちんを村中に吊るすのを手伝い、政府が約束する職業訓練の実施、クリーンな政府の実現と安全な水の供給を後押しした。
 
しかしその後の活動の焦点は、反対意見の兆しがないか村人に問い詰めることに移っていった。

BBTUの広報部門はソーシャルメディアの公式アカウントで、「工作組の士気は高い。我々は阿克切坎勒村の背後関係を洗い出し、膿を出し切ることができる」と、工作組の裏の仕事を、珍しくおおっぴらに褒めたたえている。
 
AFPは、BBTUと新疆ウイグル自治区当局に対し工作組のプログラムについてコメントを求めたが、回答は得られなかった。
 
だが、何百もの国営メディアの記事、政府文書、公的機関によるソーシャルメディアへの投稿で、工作組の手段とその破滅的な影響がはっきりと浮かび上がってくる。

■「不穏分子」を毎日訪問
阿克切坎勒村は、新疆ウイグル自治区のカラカシュ県にある。同自治区の中でもウイグル族が多数派を占め、地球上で最も厳重な警備が敷かれるようになった場所の一つだ。
 
2009年に新疆ウイグル自治区の区都ウルムチで暴動が起こって以来、ウイグル人は国中で発生し多数の死者を出した大量殺傷事件や爆破事件に結び付けられている。秩序不安と政府との衝突で何百人以上も殺されている。
 
その結果行われた弾圧は、国際社会に衝撃を与えた。米国務省は4月、「広い範囲で拘束が行われ、かつてない規模で監視も実施されており」懸念が高まっている、と述べた。
 
人権保護団体は中国政府の差別的政策が怒りを招き暴力をあおっていると指摘する。一方、政府はムスリム過激派の責任だとしている。
 
2016年12月、3人のウイグル人がカラカシュの県共産党委員会に突入し幹部2人が死亡した。これをきっかけに政府は弾圧を強めた。何万人もの追加の治安要員を送り込み、厳しい法律を制定し、強制的再教育に送る人の数を増やした。
 
同地域では公の場の監視カメラの数が何倍にも増え、工作組は農村で国家の目となり耳となった。
 
工作組の素晴らしい取り組みを報じるメディアによると、工作組はインフラを整えるのを手伝い、職業訓練を行い、人々が「党に感謝する」よう勧めている。

だがこの他に、村のすべての家庭を少なくとも週1回は訪問して中に入り、違法行為が行われている証拠がないか探るよう指導されている。
 
さらに「重要人物」や「不穏分子」と呼ぶ人物に至っては、毎日訪問する。ウイグルの司法当局は、過激派に洗脳されやすい人の特徴として、信仰心が厚い人、パスポート所持者、16〜45才のすべての男性、読み書きができない人などを挙げている。
 
BBTUに派遣された工作組は阿克切坎勒村で、違法な宗教行為に従事したことがある村人、もしくはそのような人物を知っている人は届け出るよう呼び掛けるビラを貼った。
 
工作組は人物調査書をまとめ、疑わしい人物は監視リストに載せ、毎日情報交換のためのミーティングを行う。
 
BBTUは工作組の基準を公表していないが、他の地方政府では職員に、25件の違法行為と75件の過激派の兆候を警戒するよう通告している。これには、一見無害に見える「禁煙」や「テントを買う」などの行為も含まれている。
 
地方政府のウェブサイトには、些細な違反でも1〜3か月「教育的改造」施設へ収容されると記されている。
 
そのような施設への収容は無期限で、適性な手続きも取られていない。収容者には軍隊風の訓練や、マルクス主義と中国語のクラスの受講など様々な思想改造が科せられる。
 
BBTUの工作組は、6月までに情報提供者の助けを得て100近い「手掛かり」を収集したと述べている。工作組は当局に支援を求め、当局は容疑者を拘束し、「違法な宗教活動に長期的に携わっている集団を暴いた」という。

■「家に残されたのは年寄り、弱い女性や子どもだけ」
再教育収容所は、阿克切坎勒村から車で少しの距離にあり、有刺鉄線が張り巡らされた塀で囲まれている。厳重な警備が敷かれている入り口付近で家族がひしめき合っている姿が、平日にも見られる。
 
拘束される人があまりにも増えたため、学校は両親が連れていかれた子どものための支援プログラムを提供している。

また、工作組は残された人々の農作業を手伝っている。ウイグルの農業当局はいくつかの家庭について、「家に残されたのは年寄り、弱い女性や子どもだけだ」と述べた。
 
国営メディアは、家族がいなくなった何万もの家庭に政府が手を差し伸べていると報じている。
 
工作組の一人は、「誰が家族にこのような事態をもたらしたか、誰に復讐すべきか、誰の親愛の情に感謝を示すべきか、を(家族に工作組が)理解させなければならない」とソーシャルメディアに投稿している。
 
だが、地方政府は反発に備えている。工作組派遣プログラムが怒りを引き起こし、危険な状況になっていると警告するメモが内部で回覧されているのだ。
 
政府の農業部門のウェブサイトでは、工作組に対する事前注意事項が掲載されている。襲われた場合の緊急対策を考えること、村人の居住区に決して一人きりではいかないことなどを呼び掛けている。
 
だが、BBTUの工作組は阿克切坎勒村の村人の心をつかめると確信している。昨年7月までに約50人の村人が共産党に入党したと誇らしげに語る。一方、拘束された村人は117人に上り、その数はすぐに「さらに増加する」とも工作組は述べている。【5月15日 AFP】
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自らの“成果”を誇らしげに語る「工作組」・・・・かつて文化大革命の時代、思想的に誤っているとみなした多くの人々を摘発して、自己批判という“つるし上げ”で猛威をふるった紅衛兵の嬉々とした様子を彷彿させます。

“右”でも“左”でも、自らの信じているものを疑うことを知らず、その思想に照らして他人を裁き、思想的に誤った者を糾弾することに“正義”を感じる・・・・そうした政治的“無邪気さ”は非常に怖いものがあります。


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