(オーストリア総選挙で勝利を確実にし、演説する極右・自由党のキクル党首(中央)=ウィーンで2024年9月29日【10月1日 毎日】)
【オーストリア 極右政党・自由党が第1党に】
フランスでの国民連合の堅調ぶり、ドイツにおけるAfD(ドイツのための選択肢)の勢力拡大、イタリアのメローニ政権など、反移民などの右傾化、極右勢力の台頭が続く欧州にあって、9月29日に行われたオーストリア国民議会(下院、183議席)の総選挙で、極右政党の自由党が“暫定結果によると、自由党が前回2019年選挙から13ポイント増の得票率29.2%でトップ。ネハンマー首相率いる中道右派、国民党が11ポイント減の26.5%、野党の社会民主党が0.1ポイント減の21.0%で続いた。”【9月30日 共同】と勝利しました。
****極右が初の第1党=与党敗北も政権維持の公算―オーストリア総選挙****
オーストリアで29日、国民議会(下院、定数183)議員選挙が実施され、反移民を掲げる極右・自由党が3割弱の票を獲得して初めて第1党となった。ただ、他党は協力に否定的で、自由党主導の政権が誕生する可能性は低い。
キックル党首は「われわれは歴史の一部を記した」と支持者に語った。自由党は1956年に元ナチス親衛隊将校が創設。選挙戦では移民の送還強化や減税を訴えた。欧州連合(EU)に批判的で、ウクライナに侵攻するロシアに対する制裁に反対している。
与党の中道右派・国民党は敗北し、第2党に転落。しかし、連立交渉では主導権を握る見通しで、引き続き政権を率いる公算が大きい。【9月30日 時事】
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他党が自由党との連立を嫌っていますので、連立交渉は難航しそうです。
“(自由党の)キクル氏はファン・デア・ベレン氏(大統領)に、従来の慣行に従って第1党に政権を樹立させるよう求めているが、ファン・デア・ベレン氏はそのような義務はないと反論。憲法の専門家も同氏の主張を支持している。”【10月1日 ロイター】とも。
ただ、“(国民党の現首相)ネハンマー氏は自由党のキクル党首が首相など中枢ポストに就くのであれば組まないとの考えを示している。両党は17年に国民党主導で連立政権を構築した。”【9月30日 共同】とのことですから、逆に言えば、“自由党のキクル党首が首相など中枢ポストに就かない”のであれば中道右派・国民党との連立もあり得るかも・・・・ということでしょうか。
自由党は1956年に元ナチス親衛隊将校が創設した政党で、極右色を薄めるフランスのルペン氏や、EUとも協調路線をとるイタリアのメローニ首相などと異なり、オーストリアの自由党キクル党首は自らをナチスの表現である「人民宰相」と呼ぶような“極右の中の極右”【10月10日 Newsweek】とも言われています。
【危機に瀕しているのは民主主義ではなく中間層の怒りに正面から向き合わないリベラリズム・・・との指摘】
極右勢力の台頭について、既存の政治エリートが地方で生活する労働者など有権者の声に共鳴していないことを理由にあげる指摘があります。
****欧州「極右」の勝利は“民主主義の危機”ではない…「リベラル政治家」は中間層の怒りと向き合うべき****
(中略)
極右勢力の台頭で政治が機能不全に陥りつつある欧州だが、根本の原因は何だろうか。
オランダ、フランス、ドイツなどと同じくオーストリアでも「表面化する移民問題に後押しされた」と見られているが、今回の選挙で自由党は、移民がほとんど居住していない農村部で特に票を伸ばしている。
オーストリアの専門家はこの現象について「自由党のメッセージの中核は移民ではなく、『エリートは有権者に共感していない』ということだ」と分析している。
高学歴のエリート層が牛耳る欧州連合(EU)は新自由主義的な政策を進める。対して地方で生活する労働者たちの間では、自分たちの政治的な意思が反映されていないという認識が広がっている。極右政党は彼らの被害者意識に寄り添ったことで勢力を拡大することができたというわけだ。
この分析が正しいとすれば、既存政党が移民政策を厳格化しても、極右政党から票を奪い返すことは困難だと言わざるを得ない。欧州でも米国と同様、政治の構図は左派と右派ではなく、上と下の対立に転じた感がある。
「政治エリート」に対する反発
(中略)
極右の台頭で民主主義の危機が叫ばれているが、筆者は危機に瀕しているのは民主主義ではなく、これまで政治を主導してきたリベラリズムだと考えている。
リベラリズムを信奉する政治家(リベラル政治家)は、移民などの積極的な受け入れや経済のグローバル化を重視するが、中間層の不満にあまり関心を示してこなかったからだ。
リベラル政治家が中間層の怒りに正面から向き合わない限り、ドイツをはじめ欧州で民主主義の危機が発生するのは時間の問題なのではないだろうか。【10月10日 藤和彦氏 デイリー新潮】
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ただ、単純に有権者の声に寄り添う・・・ということでは、中道右派の国民党が移民に関する極右・自由党の姿勢を受け入れて強硬な姿勢を打ち出し、移民問題に関する国民党の政策は「自由党とほぼ区別がつかない」(保守系日刊紙プレッセ)といった状況にもなってきます。
【自由党勝利は単に既成政治への抗議ではなく、欧州で極右が普通の存在として受け入れられるようになった結果・・・との指摘も】
一方で、オーストリア有権者は単に従来の既成政党への批判票ということではなく、自由党・キクル党首の極右体質を理解したうえで自由党に投票している、そのように有権者が右傾化している・・・との指摘も。
****オーストリア総選挙で「ナチス礼賛」の自由党が第1党、背景にコロナ禍で政府の規制より「個人の自由」を擁護****
<欧州を席巻する極右勢力は今や「体制側」の存在だ。最近もドイツ東部やオランダで極右が躍進しており、オーストリアもその流れに加わった形。欧州の右傾化が新たな次元に>
欧州を席巻する右傾化の波が9月29日、さらに加速した。オーストリアの総選挙で極右政党「自由党」が初めて第1党に躍り出たのだ。
イタリアやスロバキア、クロアチア、ハンガリーなど多くのEU加盟国で反自由主義かつ権威主義的な主張を掲げる極右政党が既存の政治体制を揺さぶっている。最近もドイツ東部やオランダで極右が躍進しており、オーストリアもその流れに加わった形だ。(中略)
自由党は今や同国政界の中心的な存在だ。キクルは選挙期間中に「オーストリアの要塞化」を約束。移民の流入を阻止し、外国ルーツの市民の「再移住」(つまり国外追放)を推進し、教育制度を一新し、公共メディアを中立化させると訴えた。
自由党の躍進はコロナ禍のおかげでもある。自由党は当時、政府の規制より個人の自由を擁護する唯一の存在だった。コロナ関連の陰謀論も、非合理的な主張を展開する自由党の追い風となった。さらに政府自身も、4度の全土ロックダウンや違反者への厳罰を強行して不興を買った。
自由党は欧州極右の歴史の中でも特異な立場にある。2000年に国民党との連立政権に加わると、冷戦時代から続く保守と社会民主主義の二大政党制が崩壊。欧州で極右が普通の存在として受け入れられる契機となった。
当時、同党のカリスマ党首イェルク・ハイダーが首相に就任する可能性もあった。この前代未聞の事態を受け、EU諸国は同国に制裁を科した。民主主義を脅かす政党を容認すれば、各国で類似勢力が台頭すると懸念したのだ。
平均的な人が極右に投票
実際、その懸念は現実のものとなった。自由党が17年に再び政権に返り咲いたときには、もはやEUからの反発は起きなかった。(中略)
過激さを増した自由党が政権を担う可能性が欧州で容認されている現状は、新たな時代の兆候だ。大規模な抗議運動も制裁を求める声もない。(中略)
オーストリアの右傾化と欧州全体への影響は表層的ではない。この選挙結果を「抗議票」や漠然とした政治批判と見なすべきではない。
キクルは極右の中の極右であり、人々の醜悪な本能を刺激する。彼の勝利は、欧州の極右勢力が1990年代から描き続けてきたシナリオに新たな1ページを書き加えた。
ウィーンの研究機関、オーストリア・レジスタンス資料センターのアンドレアス・クラネビッター所長は、「この数十年で、今ほど国民の間で人種差別主義や反ユダヤ主義が高まり、外国人を嫌悪し、移民に敵意を抱く人が増えている時はない」と述べる。
クラネビッターによれば、自由党はこの傾向に拍車をかけ、「人民宰相」や「民族共同体」といったナチス的な用語を党綱領に再び採用している。「これらは右派の過激派の間で通じている隠語で、新しい支持者にも容認する人や無関心な人が増えている。そこには女性や専門職、大卒者、若者も含まれる」
ドイツのレーゲンスブルク大学のオーストリア歴史学者であるウルフ・ブルンバウアーも、自由党支持者は抗議票を投じたわけではないと考えている。
「今日、自由党はエスタブリッシュメントの政党だ。オーストリア国民は、自由党が人種差別主義的で権威主義的であり、キクルが憎悪に満ちた親ロシアで反移民であることを十分理解している。彼らに投票する人の大半はイデオロギー的な信念からだ。オーストリア社会の平均的な人をほぼ反映している」
自由党の台頭は、オーストリアの伝統的な保守政党である国民党を変貌させた。社会世論の変化の結果にせよ、自由党がそれを利用することに成功した結果にせよ、国民党は自由党に対抗していないどころか、移民に関する同党の姿勢を受け入れている。
国民党党首のカール・ネーハマー首相は今年に入り、難民申請者に対して国内居住の最初の5年間は社会給付の支給を拒否するなど、保守派の有権者に向けたポピュリスト的政策を相次ぎ打ち出した。
「われわれが望むのは、働けない人のための社会福祉制度であり、働きたくない人のための制度ではない」とネーハマーは移民を批判して述べた。
同国の保守系日刊紙プレッセは、移民問題に関する国民党の政策は「自由党とほぼ区別がつかない」とし、「そうした政策の支持者は皆、以前から自由党に投票している」と指摘した。国民党が今回失った得票率の11ポイントは、大部分が自由党に流れた。
パンデミックが自由党の再浮上に重要な役割を果たしたとの指摘もある。オーストリアが21年後半にワクチン接種を義務化すると、キクルは「今日からオーストリアは独裁国家だ」とぶち上げた。自由党の支持率は30%前後に上昇し、同党はスキャンダルによる低迷から脱した。(中略)
2000年と同様、自由党はいま再びヨーロッパの極右の主唱者の仲間入りをし、かつて信頼を失った極右政党が政治文化全体を覆し、傷つけることが可能であることを証明した。この教えは、中欧の他の親ロシア派のポピュリストに刻まれるだろう。【10月10日 Newsweek】
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上記指摘によれば、有権者は極右勢力の“極右体質”を容認しつつあるということになり、まさに“民主主義の危機”が進行しているのかも。
そうした有権者が極右勢力の“極右体質”を容認する背景には、「リベラル政治家」が有権者の声に正面から向き合っていないということもあるでしょうから、二つの指摘はまったく別物ではないでしょうが、有権者が極右勢力の“極右体質”をどこまで容認しているのかについては差があります。