孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

モルドバ  ロシアの介入もあるなかで、新欧米路線の現職大統領再選、RU加盟加盟支持か

2024-10-19 22:03:32 | 欧州情勢

(2024年10月10日、キシナウにて欧州委員会(EC)のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長(左)とモルドバのマイア・サンドゥ大統領)

【モルドバの今後の方向を決める大統領選挙および国民投票】
ロシアとEU・欧米の間で揺れる旧ソ連の国のひとつがモルドバですが、そのモルドバの今後の方向をきめる大統領選挙およびEU加盟の是非を問う国民投票が20日に行われます。

その件については、下記のように10月4日ブログ“ジョージアそしてモルドバ  ロシアと欧米の間で揺れる ロシアの周辺に位置する国々”でも取り上げました。

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【ロシアの選挙介入を警戒するモルドバ】
“ロシアの周辺に位置する他の国々”のひとつがやはり旧ソ連のモルドバですが、モルドバもロシアと欧米の間で揺れています。

****ロシア系勢力がモルドバ大統領選とEU投票で13万人買収=国家警察****
モルドバ国家警察は3日、大統領選と欧州連合(EU)加盟の是非を問う国民投票を20日に控え、ロシア系勢力が13万人以上を買収し、サンドゥ政権の親EU政策を妨害する「前例のない直接攻撃」を仕掛けていると発表した。

国家警察トップのビオレル・チェルナウタヌ氏は記者団に捜査状況を説明し、ロシアが管理するネットワークを経由し、「選挙プロセスの混乱を狙った資金提供と汚職がまん延している」と述べた。9月だけで約1500万ドルがロシアのプロムスヴャジバンクに開設された口座に送金されたと明らかにした。

サンドゥ大統領は2期目を目指している。ロシアが政権転覆工作を繰り返していると長く非難してきた。ロシア政府はこれを否定している。

今回の大統領選では立候補者が過去最多の11人と乱立しているものの、世論調査ではサンドゥ氏が圧倒的なリードを保っている。【10月4日 ロイター】
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モルドバはロシアのウクライナ侵攻後の2022年6月にEUの加盟候補国となりましたが、ソ連時代の名残で国民の3分の1が親ロシアとも言われ、国内に抱える親ロシアの未承認国家「沿ドニエストル」にはロシア軍が駐留しています。

アメリカも、ロシアがウクライナ周辺などの諸外国で、親ロシア候補への間接的な資金提供やネット上の世論操作を通じ、選挙に介入しようとしてきたと分析しており、民主主義を弱体化させることを警戒しています。

サンドゥ大統領が危機感を深める背景には、強まるロシアの揺さぶりがあります。

ウクライナ侵攻後、ロシアはモルドバへの天然ガスの供給を大幅に削減。ガス料金は6倍、電気料金は3倍に上昇し、世論調査では、半数がサンドゥ政権で経済が悪化したと回答しています。

プロパガンダ対策でロシア語のニュース報道などを禁止した政権に対し、「強権主義」との批判も出ています。

サンドゥ大統領の支持率は30%台で圧倒的ですが、1回目の投票で過半数を獲得して当選を決めないと、決選投票で野党が連合すれば負ける可能性もあります。

また、国民の多くはEU加盟に賛成とみられていますが、政権への不満が高まれば、投票率が下がり国民投票が成立しない恐れもあります。
10月4日ブログから再録
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投票日を明日に控えた今も状況は変わっていません。

基本的には親EU路線のサンドゥ氏が優勢ですが、“ソ連時代の名残で国民の3分の1が親ロシア”という状況、ロシア語を話す国民が少なくないなかで、ロシア語のニュースや公的な場面での使用が禁止・制限されているということへの不満、ロシアと敵対することでロシアの圧力を受けてガスなどの物価が高騰していること・・・といった状況から、必ずしも全国民が親EU・欧米という訳でもありません。

そしてロシアの介入も。

*****モルドバ、親欧米路線問う選挙 投票まで1週間、ロシアの介入も****
ウクライナに隣接する旧ソ連構成国モルドバで20日、欧州連合(EU)加盟の是非を問う国民投票と大統領選が実施される。歴史的にロシアの影響を色濃く受けるモルドバが、EU加盟に向けた親欧米路線を決定付けられるかどうかが焦点となる。

世論調査では加盟支持が多数派で、親欧米の現職サンドゥ大統領が優勢。加盟阻止を狙うロシア側は、大規模な買収を行い選挙介入を図っているもようだ。
 
モルドバと加盟交渉を開始したEUはフォンデアライエン欧州委員長が10日に首都キシナウを訪れサンドゥ氏と会談。記者会見で「モルドバの居場所はEUにある」と連帯を示した。
 
サンドゥ氏は2020年の就任以降、親欧米路線を維持している。22年のロシアによるウクライナ侵攻後には多数の避難民がモルドバに滞在し、サンドゥ氏はプーチン政権批判を強めた。
 
大統領選には11人が乱立し、得票が誰も過半数に届かなければ、決選投票となる。世論調査ではサンドゥ氏が36%の支持率で独走しており、11月3日の決選投票にもつれ込むかは微妙な情勢だ。【10月13日 共同】
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【ロシアの選挙介入・情報工作】
ロシアの介入については、以下のようにも。

****モルドバ当局、ロシアで争乱訓練察知 大統領選など妨害目的か****
モルドバの警察当局は17日、ロシアでモルドバ人数百人に暴動や騒乱の訓練を受けさせる計画を察知したと発表した。

大統領選と欧州連合(EU)加盟の是非を問う国民投票を20日に控え、ロシアによる介入疑惑が相次ぎ浮上している。

警察は今月、ロシアが支援する犯罪集団が多数の有権者に賄賂を贈ったり、政府庁舎の占拠計画を進めたりするなど選挙妨害を企てていたと明らかにした。

ロシアは干渉を否定し、ウクライナ侵攻以後ロシアの勢力圏離脱の動きを加速させているモルドバ政権が「ロシア嫌い」をあおっていると非難した。

警察は記者会見で、亡命中の親ロ派実業家イラン・ショル氏と関係のある集団が騒乱を起こすため訓練を企画したとみていると説明。検察は「汚職対策担当が現在、犯罪組織の利益につながる大規模な騒乱準備に関連する複数の事件を捜査している」と述べた。【10月18日 ロイター】
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ロシア系勢力がモルドバ大統領選とEU投票で13万人買収=国家警察****
モルドバ国家警察は3日、大統領選と欧州連合(EU)加盟の是非を問う国民投票を20日に控え、ロシア系勢力が13万人以上を買収し、サンドゥ政権の親EU政策を妨害する「前例のない直接攻撃」を仕掛けていると発表した。

国家警察トップのビオレル・チェルナウタヌ氏は記者団に捜査状況を説明し、ロシアが管理するネットワークを経由し、「選挙プロセスの混乱を狙った資金提供と汚職がまん延している」と述べた。

9月だけで約1500万ドルがロシアのプロムスヴャジバンクに開設された口座に送金されたと明らかにした。

サンドゥ大統領は2期目を目指している。ロシアが政権転覆工作を繰り返していると長く非難してきた。ロシア政府はこれを否定している。

今回の大統領選では立候補者が過去最多の11人と乱立しているものの、世論調査ではサンドゥ氏が圧倒的なリードを保っている。【10月4日 ロイター】
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【事前の支持率調査では親欧米派のサンドゥ現大統領が大きくリード。国民の大半もEU加盟を希望】
ロシアの情報工作、選挙介入がどこまで効果を発揮するのか・・・・最初にも述べたように、基本的には親欧米路線のサンドゥ大統領の再選、EU加盟支持の方向にあります。

****モルドバ大統領選まで1週間 親欧米路線が継続の見通し 露の介入が不安要素****
ウクライナに接する東欧の旧ソ連構成国、モルドバで20日、大統領選(任期4年)が行われる。同じ日には欧州連合(EU)加盟を国家目標として憲法に明記することの是非を問う国民投票も実施される。

モルドバでは親欧米派と親ロシア派の政治勢力による政権交代が相次いできたが、事前の支持率調査では親欧米派のサンドゥ現大統領が大きくリード。国民の大半もEU加盟を望んでおり、選挙後も親欧米路線が続く公算が大きい。

親欧米派の現職がリード、EU加盟巡る国民投票も
「モルドバの未来は欧州にある。国が欧州に加わるために私は2期目を目指す」。選挙戦でサンドゥ氏はこう述べ、自身への投票を訴えてきた。

米ハーバード大大学院で公共政策を学び、モルドバ首相などを務めたサンドゥ氏は2020年の前回大統領選で親露派のドドン大統領(当時)に勝利。

エネルギー分野などでの対露依存からの脱却を図りつつ、欧州との統合政策を進めてきた。サンドゥ氏はロシアによるウクライナ侵略も強く非難。22年、モルドバの「EU加盟候補国」の地位獲得を実現させた。

国民の多くがサンドゥ氏の路線を支持しているもようだ。大統領選にはサンドゥ氏を含む計11人が候補者登録されているが、モルドバのシンクタンクが今月発表した世論調査によると、サンドゥ氏の支持率は36・1%でトップ。親露派政党の支援を受ける元モルドバ検事総長で、支持率10・1%で2位となったストイアノグロ氏に大差を付けた。

政府庁舎の占拠や大規模買収を計画か
EU加盟の是非を巡る世論調査でも、「賛成」(63・2%)が「反対」(32・4%)を上回っている。順当に行けば、サンドゥ氏の再選とEU加盟目標の憲法明記が支持される可能性が高い。

不安要素はロシアと親露派勢力の動きだ。サンドゥ氏によると、ロシアと親露派はこれまでも政権転覆を狙い、選挙干渉や反政権デモの扇動を行ってきたとされる。

モルドバ警察当局は今月、ロシアに支援された「犯罪集団」が政府庁舎の占拠を含む選挙妨害を計画していたと発表。サンドゥ氏と国民投票に反対票を投じさせるため、ロシアと親露派が1500万ドル(約22億3千億円)を投じ、13万人以上の有権者を買収しようとしたとも発表した。【10月13日 産経】
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ロシアの選挙介入・情報工作で動かせる部分はそんなに大きくはないと思いますが、親EU・欧米路線で取り残さる“ソ連時代の名残で国民の3分の1が親ロシア”という人々の不満・不安がどの程度の数字になるのかといったあたりが注目されます。

この記事が読まれる頃には一定の結果が出ていると思いますが。

【親EU路線のサンドゥ大統領を強力に後押しするEU】
EUは親EU路線のサンドゥ大統領を強力に後押ししいています。

****モルドバが大統領選出の準備、EUは直ちに1,8億ユーロを支出****
モルドバの将来の方向性を決定する2つの重要な選挙が間もなく行われるとき、欧州委員会(EC)のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は自らモルドバ国民に投票を呼び掛け、同時に1,8億ユーロ(1,97億3万ドル)の寄付を宣言した。(中略)

EUへの加盟を望むモルドバの願望への支持を示すため、EUの執行機関長官は10月10日にキシナウを訪問した。

サンドゥ氏との共同記者会見で、フォンデアライエン氏はモルドバ人に対し、「自由で情報に基づいた選択」を表明するために投票するよう奨励した。(中略)

「モルドバ国民は重要な節目に直面している…私はモルドバ国民が投票を活用し、自由な選択を表明することを奨励する」とフォンデアライエン氏は記者団に対し、国民投票について言及した。

モルドバは2022年6月にEU候補の地位を獲得し、今年初めにEUとの加盟交渉開始にゴーサインを与えられた。

フォンデアライエン氏は、「モルドバの立場は欧州連合内にある」とし、欧州連合への加盟は「今後10年間で国の経済を倍増させる」ことに貢献する可能性があると述べた。

EU長官によると、1,8億ユーロの資金調達パッケージは、バルティ市とカフル市での学校の修復や2つの新しい病院の建設、道路の建設などの「経済成長と公共サービスを生み出す分野」への投資に使用されるという。

フォンデアライエン氏は、モルドバ大統領の国の「欧州への道」に対するコミットメントとモルドバがEU加盟に向けて成し遂げてきた進歩についてサンドゥ氏を称賛した。

サンドゥ氏は、EUの金融支援策は「モルドバの発展可能性に対する自信の象徴」であると述べた。サンドゥ氏は、モルドバの輸出の65%がEU向けであり、「これは我が国の戦略的利益がどこにあるかを示している」と述べた。

ロシアとウクライナの紛争を強く非難するサンドゥ大統領は、モルドバのEU加盟推進を主導しており、2030年までにこの目標を達成したいと考えている。

調査によると、モルドバ大統領選挙ではサンドゥ氏が他の10人の候補者をリードしている。調査では、モルドバ人の大多数がEUへの加盟を支持していることも示されている。【10月13日 VIETNAM.VN】
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ロシアがEUと同じような資金提供を表明すれば、“ロシアの選挙介入”と言われそうですが・・・

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カナダとインド、シーク教指導者暗殺事件で激しい対立

2024-10-19 01:43:42 | 国際情勢

(ニューデリーにて2023年9月に撮影したトルドー首相とモディ首相【10月16日 ロイター】)

【シーク教指導者で対立が激しくなるインドとカナダの関係】
カナダで昨年6月、インドからの分離独立を主張するシーク教指導者が(カナダ側主張では)インドの工作員に暗殺される事件が起きて以来、カナダとインドの関係が互いに外交官を追放するなど、非常に悪化しています。

シーク教徒はインド国内では少数派ですが、カナダには、インド国外では最大のシーク教徒のコミュニティーがあります。

*****インドとカナダ、互いに外交トップを追放 シーク教指導者殺害めぐり対立悪化****
インドとカナダは14日、互いに外交トップらを国外追放した。カナダで昨年、インドからの分離独立を主張するシーク教指導者が暗殺される事件が起きて以来、両国の対立は激しく悪化している。

カナダ西部ブリティッシュコロンビア州サリーで昨年6月、シーク教指導者ハーディープ・シン・ニジャール氏が、寺院の前で覆面をした2人に射殺された。同国の警察は、インドの工作員らが直接関与したとの信用度の高い疑いがあるとして、捜査を進めている。

警察は、インドの工作員らがカナダで「殺人、恐喝、暴力行為」に関わり、シーク教徒の独立国を求めるカリスタン運動の支持者らを襲撃しているとしている。

一方、インドはこの見方を「ばかげている」と全面否定。カナダのジャスティン・トルドー首相が政治的利益を目的に、同国の大規模なシーク教徒コミュニティーに迎合しているのだと非難している。また、カナダが主張を裏付ける証拠を、全く示していないと主張している。

カナダのトルドー首相は14日午後、テレビの生放送で、最新の捜査で証拠が浮上し、カナダ政府はこれを無視できず、行動を取る必要があると説明。インドについて、カナダ国内での「犯罪」行為を支援するという「根本的な誤り」を犯したと主張した。

そして、「カナダの治安を脅かし続ける犯罪行為を阻止する必要がある。だからこそ私たちは行動に出たのだ」と述べた。

カナダの連邦警察トップはこの日、捜査中の情報を公表するという異例の措置を取ると発表。「私たちの国の治安にとって重大な脅威」と理由を説明し、主にカリスタン運動の支持者らに対する「本物だと信頼できる、かつ切迫した、生命への脅迫が十数件」あるとした。また、脅迫は深刻なもので、「インド政府との対決が不可欠と感じる段階に達した」とした。

警察当局は、インドの工作員12人が犯罪行為に関与している疑いがあるとしたが、ニジャール氏殺害に直接関係したとみているのかは明らかにしなかった。

インドは怒りの声明を発表
インド外務省は同日、声明で激しい怒りを表明した。カナダの主張について、シーク教徒の分離主義者らの影響を受けているとした。

同省はその後、インド駐在のスチュワート・ロス・ウィーラー高等弁務官代理らカナダの外交官6人について、19日までにインドを出国するよう求めたと発表した。

ウィーラー氏はこの日、インド外務省に呼び出され、カナダの動きについて説明を求められた。この面会のあと、ウィーラー氏は記者団に、カナダはインドから要求されていた証拠を渡しており、インドは疑惑について調べる必要があると主張。「真相究明は、両国と両国民にとって有益なことだ」と述べた。

インド政府は、カナダ駐在のサンジャイ・クマール・ヴェルマ高等弁務官に関して、「カナダ政府からの中傷はとんでもないもので、軽蔑に値する」とした。

インド外務省は、トップの外交官を含む外交スタッフを「引き揚げる」と発表。「外国官らの安全確保に対するカナダ政府の取り組みは信頼できない。従って、インド政府は高等弁務官をはじめ、標的とされている外交官や職員らを引き揚げることを決めた」とした。

対立の経緯
インドとカナダの関係は、カナダ議会で昨年9月にトルドー首相が、ニジャール氏殺害とインドの工作員を結びつける信用度の高い証拠があると発言して以来、緊張が続いている。トルドー氏は、カナダの主権に対する侵害行為だと批判した。

これを受け、インドがカナダに対し、外交スタッフ数十人を帰国させるよう求め、カナダ人へのビザ(査証)発行を停止するなど、両国関係は悪化した。

昨年10月にインドがビザ発給を再開すると、凍りついた関係がわずかに改善したかに見えた。

しかし、カナダのメラニー・ジョリー外相は先週、インドとの関係を「緊迫している」、「非常に難しい」と表現。ニジャール氏殺害のような殺人事件がカナダで今後も起きる危険がなお存在するとした。

カナダには、インド国外では最大のシーク教徒のコミュニティーがある。シーク教徒のほとんどはインド・パンジャブ州に住み、宗教的にはインド国内で少数派となっている。【10月15日 BBC】
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【両国政権とも、国内的に苦境にあって、強硬姿勢をとることのメリットがあるという事情も】
両国首脳が双方とも強気の姿勢をとっている背景には、インドのモディ首相率いるインド人民党は先の総選挙で単独過半数を失い、カナダのトルドー首相の自由党は支持率低下に苦しんでいるというように、両国首脳とも国内的には苦しい状況にあり、今回の問題で強硬姿勢をとることで国内的には良い影響があるといった事情もあるようです。

****インドとカナダの関係悪化、両国首相には短期的に追い風か****
インドのモディ首相とカナダのトルドー首相にとって、両国の関係悪化は当面政治的なプラスに働く可能性があるとの見方を複数の専門家が示した。

カナダでインドのシーク教徒独立運動に関わった男性が昨年殺害された事件を巡り、カナダ政府は今月14日に捜査への協力を拒否したインド外交官6人の国外追放を決定。インド側も対抗措置として同国に駐在するカナダ大使代理ら6人に19日までに出国するよう要請し、外交関係がかつてないほど冷え込んだ。

カナダはインド国外で最もシーク教徒が多く、全人口の約2%を占める。近年インドでは分離独立を求めるシーク教徒のデモが相次ぎ、政府は神経をとがらせている。

こうした中で専門家の間では、インド政府による今回の対応を通じてモディ氏が国家安全保障面で毅然とした人物だとのイメージが高まるのではないかとみられている。

元インド外務次官のハーシュ・バルダン・シュリングラ氏は「国民はインド政府が先進国からの脅しや高圧的な措置に立ち向かっているとみなす。一般大衆はモディ首相と政府を強く支持するだろう」と述べた。

モディ氏が率いる与党インド人民党は今年6月の総選挙で過半数議席を失い、同氏の政治基盤は弱体化した。しかし、シンクタンクのオブザーバー・リサーチ・ファウンデーションの外交政策責任者、ハーシュ・パント氏は、トルドー氏がインドに批判の矛先を向ければ向けるほどモディ氏にとって有利になると指摘。

インドの主権と領土の一体性を守るために立ち上がっている指導者とみなされ、モディ氏の人気維持につながると予想した。

一方、来年10月までに総選挙が行われるカナダで、与党自由党の支持率低迷に苦しんでいるトルドー氏にとっても、インドとのあつれきは党内の「トルドー降ろし」の動きから注目をそらす効果がある。

トルドー氏は今月13日、記者団に対して「党内の動きについてはまた改めて話す機会があるだろう。今は政府と全ての議員がカナダの主権のための行動や、内政干渉への反対、この難局における国民の支援に専念しなければならない」と訴えた。

自由党の少数派政権を維持する上で協力が不可欠となっている左派系野党も、インド外交官の退去措置を支持すると表明した。

ただ、トレント大のクリスティン・ド・クレルシー教授は、トルドー氏への追い風は長続きしそうにないとみている。遠くのインドとの関係という1つの事象に比べ、トルドー氏が対処すべき国内問題はずっと多く、より複雑だと指摘した。【10月16日 ロイター】
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上記のような事情もあって、トルドー首相のインド批判も激しくなっています。

****インドの主権干渉は「恐ろしい過ち」、カナダ首相が疑惑巡り批判****
カナダのトルドー首相は16日、インドのシーク教徒独立運動に関わった男性がカナダ国内で殺害された事件を巡りインド外交官の追放を決めたことを受け、カナダの主権に大胆な形で干渉できるとインドが考えたのは「恐ろしい過ち」だと述べた。

カナダ政府は14日、インド外交官6人の追放を決定。国内のインド人反体制派を標的とする広範な動きがなお見られるとしている。

トルドー氏の発言は、1年にわたる論争で両国関係が最悪となる中、これまでで最も強い調子となった。

また、政府としてカナダ国民の安全確保に追加措置を講じる可能性があると述べたが、詳細は明らかにしなかった。

インドは干渉疑惑を否定し、報復としてカナダ外交官6人を追放した。【10月17日 ロイター】
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【アメリカでも未遂事件 インド・カナダのような激しい対立には至らず】
シーク教徒指導者暗殺についてはアメリカでも未遂事件があったとして、アメリカはインド政府高官の指示で活動していたインド人を起訴するという対応を示しています。

****米、元インド情報当局幹部を起訴 シーク教徒独立指導者暗殺未遂で****
米司法省は17日、米国とカナダの二重国籍者であるシーク教徒独立運動指導者のグルパトワント・シン・パヌン氏を米ニューヨークで暗殺するように指示したとして、元インド情報当局幹部のビカシュ・ヤダブ被告をニューヨーク南部地区連邦地裁に起訴したと発表した。暗殺は未遂に終わった。

米連邦捜査局(FBI)のレイ長官は「憲法で保証された権利を行使して米国に住んでいる人々に対する暴力行為や、他の報復行為をFBIは許さない」との声明を出した。

インドの関与を調査している同国政府の委員会関係者は15日、米首都ワシントンで米当局者らと会談した。米司法省はインド情報当局がパヌン氏の暗殺計画を指示したと主張しており、米国がインドに対して調査するよう促していた。(中略)

インドはシーク教徒独立主義者を「テロリスト」と決めつけ、治安を脅かす存在だとレッテルを貼っている。シーク教徒独立主義者はインドの一部を分離し、「カリスタン」という名の独立国を作ることを求めている。1980年代から90年代にかけての独立運動では数万人が死亡した。【10月18日 ロイター】
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ただ、インド・カナダのとげとげしい対立にくらべると、今のところインドとアメリカの関係は比較的穏やかです。

****シーク教徒殺害計画巡るインドとの会談、米政府「生産的」と評価****
米国務省の報道官は16日、米国内で計画されていたシーク教徒独立活動家の暗殺に関するインドとの協議について、生産的だったと評価し、インド側の協力に満足していると語った。

米政府は、昨年ニューヨークで起きたシーク教分離主義指導者の暗殺計画にインドの工作員が関与していたと主張し、インド政府高官の指示で活動していたインド人を起訴した。

国務省報道官は、暗殺計画への関与を調査しているインド政府委員会が15日にワシントンで米当局者と会談したとし、会談は「生産的」なものだったと指摘。「我々は(彼らの)協力に満足している。これは継続中のプロセスだ」と説明した。

カナダ政府は14日、インド外交官6人の国外追放を決定した。インド側もカナダの外交官6人の追放を発表。カナダでインドでのシーク教徒独立運動に関わった男性が殺害された事件を巡り、両国の対立は激化している。【10月17日 ロイター】
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カナダとのようにインド批判が激しくならないのは、アメリカは中国包囲網のためにはインドの協力が不可欠ということで、インドに対しては宥和的ですし、大統領選挙を控えて、これ以上もめ事を抱えたくないといった思惑もあるのかも。

【カナダ 中国とも追加関税で対立】
なお、カナダは中国とも、中国製品に対する追加関税をめぐり対立しています。

****中国 カナダの追加関税に「差別的」として調査開始 さらなる対抗措置検討か****
中国商務省は、カナダが中国製品に対し追加関税を課したことについて調査を始めたことを明らかにしました。

カナダ政府は先月、中国製のEV=電気自動車に100%の関税を課す方針を発表していますが、中国商務省はきょう、カナダがEVに加え中国産の鉄鋼、アルミニウムに対し追加関税を課したことについて「差別的な措置だ」として調査を開始したと発表しました。

調査期間は3か月ですが、場合によっては延長される可能性もあるということです。

すでに中国政府は食用油の原料となるカナダ産の菜種について価格が不当に安く抑えられている疑いがあるとして「反ダンピング調査」を始めるなど対抗措置をとっていますが、今回さらに追加の措置をとることでカナダ側に圧力をかける狙いがあるものとみられます。【9月26日 TBS NEWS DIG】
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