(ドイツ政府は9日公表した秋の経済見通しで、2024年の実質成長率をマイナス0.2%と4月時点のプラス0.3%から下方修正した。マイナス成長は2年連続になる。個人消費の戻りが鈍く、設備投資や生産も冷え込む。ロシアの安価なエネルギーと中国市場の拡大に頼った成長が限界を迎え、構造的な経済不振の様相が強まってきた。【10月10日 日経】)
【「脱ロシア依存」でエネルギー価格高騰 ドイツ経済の悪化】
失われた20年だか30年だかと言われている日本が他国の経済状況を云々できる立場にはありませんが、それはさておき、私の若い頃(1978年のボンサミットの頃ですから大分昔ですが)は“日独機関車論”などと日本とともに世界経済の牽引車とも目されていたドイツ経済の不振が目立ちます。
****ドイツ経済予測、今年もマイナス成長へ-統一後で2度目の連続縮小か****
ドイツ政府は9日、最新経済予測を発表し、今年の国内総生産(GDP)を0.2%減へ下方修正した。欧州最大の経済大国であるドイツは、長引く低迷から抜け出せずにいることがあらためて示された。
昨年のドイツ経済は0.3%縮小。今年もマイナス成長となれば、1990年のドイツ統一後で2度目のGDP連続縮小となる。4月末の予測では今年は0.3%の拡大が見込まれていた。2025年の経済成長率は1.1%、26年は1.6%と、プラス成長が予測されている。【10月9日 Bloomberg】
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経済に浮き沈みはつきもので、ドイツ経済も上記の“日独機関車論”のあと、20002~03年は高い失業率や慢性的な財政赤字などから「欧州の病人」と呼ばれた時期もありました。
その後、ロシアからの安価なエネルギーを活用することで経済は回復しましたが、ロシアのウクライナ侵攻で「脱ロシア依存」を進めた結果、エネルギー価格が高騰して経済も再び悪化して今の状況に至っています。(ドイツ経済の「日本化」とも)
24年は物価高を受けた賃上げの動きが出る中で持ち直しが期待された個人消費の回復ペースが鈍いとか・・・日本とも似通っています。
【独経済の低迷、国内連立の不統一で独のEUへ影響力も低下、EUの統一的対応も困難に】
国内需要が低迷するなかで、輸出にドライブがかかりますが、輸出先として大きな影響力がある中国も経済悪化で中国向け輸出も低迷する状況に。
中国経済が悪化しているとは言え、ドイツ基幹産業である自動車産業にとっては死活的に重要な輸出先ですから中国市場は大事にしたいところですが、周知のように欧州と中国は中国産EVへの追加関税で揉めています。
ドイツとしては、中国に追加関税を課すと中国からの報復が予想されますので、そうした中国と事を構えるようなことは避けたいところ。
かつて欧州政治を牽引したメルケル前首相の頃なら、そうしたドイツの事情をふまえてEUのかじ取りをしたところでしょうが、前述のように経済も低迷、国内政治も連立与党間で不協和音が目立つような状況では、シュルツ首相にかつてのメルケル前首相のような力を期待することはできません。
ドイツ(そしてフランスも)がEU内で十分な指導力を発揮できず、国内の連立与党間の意見の不一致にふりまわされている結果、EUも中国に統一的な対応ができない状況にもなっています。
****EUでドイツの影響力低下、中国EV関税問題で鮮明に*****
ドイツのショルツ首相は、中国から輸入する電気自動車(EV)に追加関税を課す欧州連合(EU)欧州委員会の提案に反対した。しかし、加盟国に追加関税案賛成の輪が広がるのを止めることができず、ドイツが国内政治分断によってEUの政策のかじ取り役を担うのが困難になっている構図があぶり出された。
ドイツの自動車メーカーは売上高のほぼ3分の1を中国市場で稼いでおり、追加関税による中国側の対抗措置を懸念。こうした声に押されてドイツ政府は今月4日のEU加盟国の採決で反対票を投じたが、同調したのは4カ国にとどまった。
これは10年前とは極めて対照的だ。2013年7月のある週末、当時の中国政府とドイツのメルケル首相、欧州委のバローゾ委員長の間で何度も電話のやり取りが交わされた結果、EUの太陽光パネルに対する関税案は撤回され、代わりに最低価格を設定する合意が成立した。
メルケル政権の16年はドイツの産業界が活況を呈すると同時に、メルケル氏の政治力がEUの結束を可能にしていた。ところが、現在のショルツ政権は社会民主党、自由民主党、緑の党の連立でなかなか内部の足並みがそろわない中で景気後退2年目に突入し、来年には連邦議会選挙を控えていることから、まずはEUの政策よりも国内問題を優先せざるを得ない。
こうしたショルツ政権の内部がばらばらな状態を巡っては、EUの外交官から憤まんが聞こえてくる。欧州におけるドイツの影響力を弱め、EUの団結を損なっているというのがその理由だ。
EUはEV問題で引き続き中国と妥協できる線を模索すると約束しているが、ドイツの意見が異なることはEUの交渉力を低下させている。
市場調査会社ユーロインテリジェンスのアナリストチームは「ドイツと残りの(EU諸国)の溝は、個別の加盟国への外国による圧力に一枚岩の態度を示していくという欧州委にとって大事な取り組みの1つを台無しにしている」と記した。
緑の党出身のベーアボック氏がトップに立つドイツ外務省のある高官は、EUは中国の不公正で市場にダメージを与える措置を阻止するべきで、関税を選択肢から外してはならないと発言している。ショルツ政権内部の亀裂も露呈した形だ。 前途多難
政治的にまとまれないドイツが他の加盟国と同一歩調を取れなかったのは今回が初めてではない。3月には、企業寄りのドイツ自由民主党が強く反対したにもかかわらず、EU各国は企業に自社サプライチェーン(供給網)の監査を義務化する法案を支持。ドイツは採決で棄権した。(中略)
欧州改革センター(CER)のアシスタントディレクター、ザック・マイヤーズ氏は、追加関税を巡る論争は、ドイツがもうEUの通商政策を主導できない上、フランスの影響力もより限定されていることを物語ると分析。後者については、フォンデアライエン欧州委員長がフランス出身のブレトン委員を交代させ、後任者の権限を縮小したことが原因だとの見方を示した。
フォンデアライエン氏にしても、米国により接近して中国リスクの低減を図ろうとしているものの、ドイツとフランスの先導がなければ、せいぜい産業セクターごとの政策遂行と国際貿易ルールの尊重を通じて加盟国の支持を得るしかないだろう。
ロジウム・グループのシニアアドバイザー、ノア・バーキン氏は、欧州委は中国製EV向け追加関税で加盟国の賛成多数による支持を得たが、今後はドイツの後押しがなければ、中国に対して一貫したより懐疑的な政策を行っていくのは難しくなると警告した。
ドイツ国内で目先の視野の狭い問題が優先されている限り、欧州委は新たな対外経済政策の課題を推進するのに苦労を強いられるだろうと指摘している。【10月8日 ロイター】
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【ドイツ自動車の中国市場での苦戦】
“ドイツの自動車メーカーは売上高のほぼ3分の1を中国市場で稼いでいる”ということですが、上記関税問題を抜きにしても、ドイツ自動車産業にとって中国市場の動向は厳しそうです。
ドイツ国内では、中国産自動車は好評のようです。かつてのように低価格が注目されるのではなく、中国産EVの技術力が評価されています。時代は変わっています。
****ドイツ人の約6割、中国ブランド車の購入を検討 独ADAC調査****
ドイツ最大の自動車関係団体、ドイツ自動車連盟(ADAC)がこのほど発表した調査結果によると、ドイツ人回答者の59%が中国製自動車の購入意向を示した。特に若年層の購入意欲が高く、30〜39才では74%、18〜29才では72%に上った。純電気自動車(BEV)に限れば、8割が中国製を選びたいと答えた。
中国のハイエンドモデルもドイツの消費者から評価されており、高級車ユーザーの約60%が中国ブランド車を購入する可能性を排除しないと回答した。
中国ブランドを選ぶ理由については、ドイツ人回答者の83%がコストパフォーマンスを最大の理由とした。55%が革新的な技術、37%がデザインを挙げた。
ADACが4月に発表した中国ブランド13車種を対象とする評価報告によると、中国車の多くの車種がユーロNCAP(欧州新車アセスメントプログラム)で最高評価を獲得し、中国のバッテリー技術が成熟し、ものづくりの質が良好であることが示された。【10月2日 新華社】
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その一方で、中国市場におけるドイツ車は・・・苦戦しているようです。
****BMWとベンツ、中国市場で販売台数が大幅減―独メディア****
2024年10月10日、独国際放送局ドイチェ・ヴェレの中国語版サイトは、ドイツの大手自動車メーカーBMWとメルセデス・ベンツがそれぞれ中国市場での販売台数が大幅に減少したと報じた。
記事は、BMWの今年7〜9月の中国市場における納車台数は前年同期比約30%減の14万8000台、ベンツも同13%減の約17万台になったと紹介。世界の他地域の市場に比べて顕著に業績が悪化しており、両ブランドにとって最も重要である中国市場の販売が疲弊していると評した。
そして、ベンツの関係者が中国市場について「全体的な需要が減少している。特に高級ブランドの需要低下が目立つ。また、電気自動車(EV)の価格下落が続いていることも中国での販売に影響した」と分析していることを紹介するとともに、中国での業績悪化に伴ってベンツが今年に入ってすでに2度にわたり利益が大幅に減少する可能性があるとの情報を発信していることを伝えた。
記事は、中国の自動車市場全体がここ数か月縮小を続けている一方で、中国政府による購入奨励措置によってEVに関しては逆に活況を呈していると紹介。ドイツブランドはこの状況から利益を得ることができていないとし、その原因が「中国のライバルによってより低価格で燃費が良く、経済的なモデルが提供されているからだ」と指摘した。
その上で、世界のEV大手BYD(中国)の9月におけるEVとハイブリッド車の合計販売台数が前年同期比45%増で41万8000台に達したほか、テスラ(米国)も9月の中国での販売台数が同66%増の7万2000台となったことを発表したと紹介。
一方で、化石燃料車メーカーの上海汽車は9月の販売台数が前年同時期から30%以上減少したと伝えている。【10月12日 レコードチャイナ】
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ドイツ自動車産業、ひいてはドイツ経済の苦境ぶりが窺えます。
では、日本経済は? と言えば、ドイツ同様かも。と言うか、冒頭【日経】にあるように、ドイツ経済が日本のような構造的経済不振に近づいている・・・ということでしょう。