孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

南アフリカ  総選挙で想定以上に大敗した与党ANCは白人政党と統一政府  根深い人種間の分断も

2024-10-28 22:42:15 | アフリカ

(アパルトヘイト(人種隔離)の歴史を抱える南アで人種間融和の象徴と目されていたコリシ選手(右)とレイチェルさん=2020年2月 【10月28日 共同】)

【人種間対立が根強い南アで人々の希望を集めてきた夫婦が離婚】
“ゴシップネタ”ではありますが、南アフリカにおける根深い人種問題も絡んで“ゴシップ”で終わらないところもある話題が下記。

****南アフリカ黒人主将、離婚に衝撃 ラグビー強豪、人種融和の象徴****
ラグビーの強豪・南アフリカ代表で主将を務める黒人のシヤ・コリシ選手(33)が28日までに、白人の妻との離婚を発表し、同国に衝撃が広がっている。2人はアパルトヘイト(人種隔離)の歴史を抱える南アで人種間融和の象徴と目されていたためだ。

英BBC放送などによると、2人は2016年に結婚した。コリシ選手は長年白人が主体だった代表チームで黒人として初の主将となったトッププレーヤー。南アが19年のワールドカップ(W杯)日本大会で優勝した時も主将だった。

妻のレイチェルさん(34)は女性の活躍や人権問題に取り組む活動家で、2人の間には子どもと養子計4人がいる。

2人は人種隔離撤廃を成し遂げた故マンデラ元大統領が夢見た多人種共存の「虹の国」を体現する存在として、民主化から30年たっても人種間対立が根強い南アで人々の希望を集めてきた。

22日、SNSに連名で「熟考を重ね、結婚生活に終止符を打つことを決めた」と投稿。悲嘆に暮れる一部の国民が離婚阻止の署名活動を訴える事態となった。【10月28日 共同】
*****************

離婚阻止の署名活動・・・・それも無理な話ですが、それだけ“民主化から30年たっても人種間対立が根強い南アで人々の希望を集めてきた”ということでしょう。

【総選挙で想定以上に大敗した黒人主導の政治をリードしてきた与党ANCと白人主体のDAが国民統一政府(GNU)を樹立】
上記は黒人と白人の夫婦ですが、政治で世界でも従前は想像できなかた連立も生まれています。

昨日の日本の総選挙では、選挙前から自民党はある程度の負けは想定されていましたが、その想定を越えて、第1党は維持したものの、自公の与党で過半数を大きく下回る“大敗”となりました。

同様に、ある程度の負けは予想されていたものの、想定以上に負け、過半数を大きく下回ったのが、5月29日に行われた南アフリカ総選挙におけるアフリカ民族会議(ANC)でした。

与党アフリカ民族会議(ANC)は、かつてネルソン・マンデラ氏が率いた名門政党で、アパルトヘイトを終わらせた南アフリカの政治を長年牽引してきました。白人支配を終わらせ、黒人主導の政治を実践してきた政党でもあります。

しかし、長年の“政権与党”の座が腐敗を蔓延させ、貧困・治安は改善されず、ジリジリと国民の信頼を失い、5月末の過半数割れという結果に至っています。

過半数を大きく割ったANCにとっては、5月末の総選挙で台頭した同じく黒人層を基盤とする急進的ポピュリズム政党と組むのか、あるいは、穏健な経済政策をとるものの支持基盤が全く異なる白人政党と組むのか・・・という二つの選択肢がありましたが、ラマポーザ大統領は白人主体で親欧米の野党民主同盟(DA)を含む全10党で構成される国民統一政府(GNU、Government of National Unity)を樹立しました。

****国民統一政府(GNU)への期待と不安****
南アフリカ共和国新政権の展望(1)

南アフリカ共和国では、5月29日に、アパルトヘイト(人種隔離政策)終了後、初の全人種参加による民主的選挙が1994年に行われて以来、7回目となる総選挙(国民議会・州議会選挙)が行われた。

これまで長きにわたって単独政権を担ってきたアフリカ民族会議(ANC)が初めて過半数を割り込み、しかも予想以上に低い得票率にとどまったことで、新政権がどのように樹立されるのか内外の注目を集めた。

このような中、シリル・ラマポーザ大統領は国民統一政府(GNU、Government of National Unity)の樹立を宣言、ANCを含めた全10政党(注)からなる新内閣を発足させた。(中略)

ANCの大敗とGNUの成立
5月29日の総選挙をめぐっては、ANCの過半数割れが予想されたが、得票率は45~50%弱という小幅な負けとの見方が多かった。

しかしふたを開けてみると、ANCの得票率は40.2%にとどまり、最大得票政党は維持したものの予想以上の大敗であった。

前回2019年総選挙で獲得した57.5%からも大きく支持を減らし、国民議会議席数では230議席から71議席を失い、159議席となった。

その他、民主同盟(DA)が得票率21.8%で2位、民族の槍(やり)(M.K.)が14.6%で3位、経済的解放の闘士(EFF)が9.5%で4位、などの順であった。

注目を集めたのは一気に第3政党に躍り出たM.K.で、ジェイコブ・ズマ元大統領が率いる左翼ポピュリスト的とされる政党だ。ズマ氏自身の支持基盤であるクワズールナタール州、ズールー族が支持層として重なり、同州での得票率は過半数に迫る45.9%となった。

ANCの負けが小幅だった場合、ANCは過半数を維持するために、自政党と政策が近く、しかしキャスティングボートを握られないで済む少数政党と連立を組むことが予想された。

しかしこの選挙結果を受け、過半数維持に向けては得票率約10%分を埋めなくてはならなくなり、少数政党の寄せ集めでは困難な状況となる。

ここに至り、ANCがポピュリスト色の強いM.K.やEFFと組み、南ア新政権が市場からの信認を失うのか、それとも経済政策を重視し、主として白人やカラード(混血)が支持母体であるDAと、歴史的な禍根を乗り越えてパートナーシップを組むことができるのかが注目された。

識者や調査会社専門家などの間でも多様な見方が示されたが、ANCという政党の成り立ちや南ア民主化の歴史的経緯に鑑みると、(白人主体の)DAと組むことはハードルが高いとの見方が強かった。

こうした中で、ラマポーザ大統領は6月6日、GNUの発足を目指すと発表、一部政党と議論を開始していることを明らかにした。

個別の政党と政策協定を結ぶ形での連立政権よりもやや緩やかに、GNUの意図表明・原則を確認することを前提に、幅広く政権参加政党を募ることとしたのだ。

どの政党にもGNUへの門戸は閉ざさないとしたものの、ここでも各政党が掲げた公約や主張の違い、これまでの経緯などから、ANCが組むことができる政党は限られるとの向きが多かった。

そうした中の6月14日、ANCとDAがGNU樹立に向けて合意したとの電撃的発表を行う。これにより、同日開幕する総選挙後の第1回国民議会でラマポーザ氏が大統領に選出されることが事実上固まり、続投が決まった。GNUはANC、DAを含む全10党で構成される。(後略)【10月24日 JETRO】
********************

黒人主体の政治を牽引してきたANCと白人主体のDAが組むことも画期的でですが、問題はその政権がうまく機能するのかというところ。

ANCとDAを含む国民統一政府(GNU)の発足後の評価についてはほとんど情報を持っていませんが、やや相反するような下記の報道も。

****南アの「挙国一致」政府に広がる楽観論 連立内に火種も****
南アフリカのラマポーザ大統領は9月に国連総会で演説し、先ごろ発足した「挙国一致政府(GNU)」を南アの「第2の奇跡」と位置付け、異例の連立が長期政権を維持できるという強気の姿勢が広がっていることをうかがわせた。
同氏は大連立を発足させた政治取引について大風呂敷を広げた格好だ。(後略)【10月21日 日経】
*******************

****見えてきた「ラマポーザ政権の南アフリカ」のアイデンティティと国際社会での行動原理****
南アフリカ(南ア)では今年5月末の総選挙(国民議会選挙・400議席)で与党アフリカ民族会議(ANC)の議席が1994年の民主化後初めて過半数を下回り、 シリル・ラマポーザ大統領 はANCを軸に10政党から成る国民統一政府(GNU)を樹立した。

だが、GNU発足からわずか3カ月にして、教育政策を巡ってGNU内の政党間対立が先鋭化し、政権は不安定化している。(後略)【10月18日 新潮社Foresight】
********************

異なる政党ですから対立・不協和音があるのは当然ですが、それを乗り越えて有効な政策を実行できるのかが問われています。

当然ながら、フォーマルな世界での差別がなくなっても、人の心の中にある差別意識はそうそう簡単にはかわりません。

【人種間の緊張を高める事件】
いささかスキャンダラスですが、下記のような事件も。

****白人男性農場主が黒人女性を殺害、豚に食べさせた疑い 南アフリカで怒り渦巻く****
南アフリカで、白人男性農場主らが黒人女性2人を銃で殺害し、豚に食べさせたとみられる事件があり、怒りの声が噴出している。

殺害されたとされるのは、マリア・マクガトさん(45)とルシア・ンドロヴさん(34)。 南アフリカ北部リンポポ州の都市ポロクワネに近い農場で今年8月、食べ物を探していたところ、銃で撃たれたとされる。

その後、2人の遺体は証拠隠滅のため、豚に与えられたとみられている。

この事件で、農場主のザカリア・ヨハネス・オリヴィエ被告(60)、従業員のエイドリアン・デ・ウェット被告(19)、ウィリアム・ムソラ被告(50)の3人の男性が逮捕・起訴された。(中略)

マクガトさんのきょうだいのウォルター・マトホールさんは、この事件で、南アフリカの黒人と白人の間にある人種的な緊張が一段と悪化したとBBCに話した。

南アでは人種差別制度のアパルトヘイト(人種隔離)が30年前に撤廃されたが、人種間の緊張は特に農村部で広く残っている。

女性の夫が逃げ延び通報
事件は8月17日夜に発生した。人々が集団で、農場で売られている作物の中から賞味期限が切れたか、もうすぐ切れるものを手に入れようと、今回の現場に行ったとされる。販売されている農作物で残ったものは、豚に与えられることもあったとされる。

現場の農場には当時、ンドロブさんの夫マブト・ンクベさんもいた。一団は銃撃され、ンクベさんは、はって逃げ出した。その後、どうにか医者に助けを求めたという。

ンクベさんは警察にも通報。数日後、警官が豚舎で、ンドロブさんとマクガトさんの腐敗した遺体を発見したという。

警官が豚舎に入った際には、マクガトさんのきょうだいのマトホールさんも同行。マクガトさんの遺体の一部が豚によって食べられていたのを見たという。

被告3人は殺人に加え、ンクベさんに対する殺人未遂、銃器の無免許所持の罪にも問われている。(中略)

野党「経済的解放の闘士」(EFF)は、この農場の閉鎖を要求。「この農場で生産された製品が販売され続けるのを黙って見ていることはできない。消費者に危険をもたらしている」と主張した。

南アフリカ人権委員会は、この事件を非難するとともに、影響を受けたコミュニティーの間で反人種差別的な対話を行うよう呼びかけている。

農家(多くは白人)を代表する団体は、犯罪率が高い南アにおいて、農業コミュニティーに属する人々は自分たちが狙われていると感じている、と主張している。

ただ、農家がそれ以外の人たちより高いリスクに直面していることを示す証拠はない。

南アで人種間の緊張を高める事件は、最近も2件起きている。

東部ムプマランガ州では8月、農家と警備員が、男性2人を殺害した容疑で逮捕された。羊を盗んだとされる男性2人の遺体は、誰なのか判別できないほど焼かれていた。現在、遺灰のDNA鑑定が進められている。

別の事件では、70歳の白人農家が、自分の農場からオレンジ1個を盗んだとして6歳の少年を車でひき、両足を骨折させた疑いがかけられている。

この農家は殺人未遂2件と危険運転の罪で起訴され、現在、裁判所で保釈の審理が続いている。 これまでの審理では、少年が母親と一緒に食料品を買いに町へ向かう途中、農場の前を通りかかり、地面に落ちていたオレンジを拾ったとの説明がされた。母親は息子が農家に車でひかれるのを、恐怖にかられながら見ていたとされる。【10月12日 BBC】
***********************

【遠い「虹の国」の理想 「国民のために奉仕する政府がいれば、この国はもっと豊かになれる」】
南アフリカにおける「虹の国」の現実については、以下のようにも。

****“自慢の姉”が南アフリカの大女優になっていた アパルトヘイト撤廃から30年 マンデラが掲げた「虹の国」の理想は遠く****
(中略)
今年は、南アフリカにとって初の民主的な選挙が行われてからちょうど30年の節目の年だった。30年間、この国では、マンデラ元大統領が率いた与党ANC(アフリカ民族会議)が、国民の圧倒的な支持のもと政権を維持し続けていた。

ところが長期政権となったANCの内部では汚職が蔓延し、一向に縮まらない経済格差、世界最悪レベルの失業率、国家的災害とも言われる電力危機などから、国民の心はANCから離れつつあった。

5月に行われた総選挙では、与党ANCが初めて過半数を割り、白人主体で親欧米の野党DA(民主同盟)らとの連立政権が発足した。

揺らぐことのなかったマンデラの党・ANCの時代は、一つの終わりを迎えた。
ソウェトで生まれた一人の黒人少女は、差別が撤廃されてからの30年あまりをどう見てきたのか。

「確かに私たちは民主主義を手に入れ、自由になった。投票権を得て、市民として認められるようになった。だけど、今の南アフリカでは毎日のように計画停電が行われ、生活に必要な電気すら手に入らない。政治家や警察は汚職にまみれ、信じることができない。そんな国が、果たして本当に“自由”だと言えるでしょうか?

アパルトヘイトは撤廃され、肌の色による差別はなくなった。でも、この国には“経済的な不平等”が今も根強く残っています」

白人の失業率が9%であるのに対し、黒人は37%。 世界銀行の調査では、いまも人口の1割が富の7割を支配する、「世界で最も不平等な国」だといわれている。

実際に選挙前の取材では、白人排斥をも辞さない過激な主張を行う急進左派政党(EFF=経済的解放の闘士)が若者の熱狂的な支持を集めていた。

縮まらない経済格差から、人種間の分断は再び深まっているように感じられた。 マンデラが掲げた「虹の国」の理念は、失われてしまったのだろうか。

「すべてがダメなわけじゃない。ここからきっと良くしていける。上手くいかなかったのは、いつしか政治家が国民のためではなく私利私欲のために動くようになってしまったから。恵まれない人にチャンスを与え、国民のために奉仕する政府がいれば、この国はもっと豊かになれる」。(後略)【9月29日 TBS NEWS DIG】
********************
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする