孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イギリス  キャメロン首相、移民制限に乗り出す

2011-04-17 20:06:52 | 世相

(“illegal immigrants”というタイトルのロンドンの光景 “flickr”より By Tom Močička http://www.flickr.com/photos/32773922@N05/3728794811/

フィンランド:反移民政党支持率4%→16%
実質的に移民への門戸を殆んど閉ざしている日本と異なり、これまで大量の移民を受け入れてきた欧州社会は、移民増加に伴う文化的軋轢・経済的摩擦から反移民・移民排斥の流れが強まっており、そうした風潮を背景に政治的には極右政党が各地で台頭していることは、これまでたびたび取り上げてきたところです。

先日14日に取り上げたフランスのブルカ禁止法もその流れであり、中東・北アフリカの民主化運動の結果、イタリアは対岸チュニジアからの大量移民問題に直面しています。
今日もフィンランドで議会選挙が行われていますが、反移民を掲げる右派政党がどこまで伸びるか注目されています。

****フィンランド:議会選投票始まる 注目は真正フィン人党に****
任期満了に伴うフィンランド議会(1院制・定数200)選挙の投票が17日朝、始まった。事前の世論調査では、連立政権の一翼を担う中道右派の国民連合がややリードするが、過半数には遠く及ばない。一方で、反ユーロや反移民を掲げる右派「真正フィン人党」が大きく支持を伸ばす見通しで、波乱含みとなっている。

小党乱立の同国では主要3党が選挙結果を受けて連立政権を主導するのが一般的。3党の支持率は拮抗(きっこう)しているが、カタイネン財務相の率いる国民連合が、キビニエミ首相の中道右派・中央党などを抑えて第1党になると予想されている。
一方、真正フィン人党は反ユーロの立場から、財政危機に陥った加盟国への欧州連合(EU)による金融支援に反対。税金を他国への支援に使うことに反発する国民の不満を吸収して、前回07年総選挙の得票率4%から支持率を4倍近い16%前後まで伸ばしている。選挙結果次第で、EUのポルトガル金融支援に影響を及ばすとの指摘も出ている。選挙は比例代表制。即日開票される。【4月17日 毎日】
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【「優秀な移民以外はお断り」】
事情はイギリスでも同様で、欧州屈指の寛容さを誇った受け入れ移民大国イギリスが保守党キャメロン政権下で「優秀な移民以外はお断り」という移民規制に乗り出しています。

****移民受け入れという慈善」はやめた*****
イギリスのデービッド・キャメロン首相は14日、南部ハンプシャー州で開かれた保守党の会合で行った演説で、EU諸国以外からの移民の受け入れを制限する方針を明らかにした。
キャメロンが移民政策に特化した演説を行うのは、1年前の選挙戦以来。移民の受け入れ数を現状の年間「数十万人」から「数万人」に減らすと約束した。

インドのビジネス・スタンダード紙によると、キャメロンは演説でEU圏外からの移民が多くなった要因としてイギリスの福祉制度を批判。その上で、現政権は「大量の移民ではなく優秀な移民」のみを歓迎すると発言した。
「問題は、働かない国民を長年支えてきた福祉制度のおかげで、ぽっかりと空いた労働市場の穴を、移民が埋めているということ。非難されるべきは、このひどい福祉制度であり、前政権がその改革に完全なまでに失敗したことだ」

インドのヒンドゥスタン・タイムズ紙によると、キャメロンはさらに、前政権である労働党は大量の移民と不法移民(主に学生や合法移民の家族)が法の抜け穴を利用して入国してきたことを傍観していたとも批判した。
英ガーディアン紙によれば、英語を話せなかったり社会に同化する意志のない移民は、コミュニティーを分断させる「一種のわだかまり」を生んでいるとも語った。
ガーディアンが公開しているキャメロンの演説全文から、要点を一部引用すると──。

■移民の大量受け入れは善行で、経済もおかげで助かっているという主張もあれば、移民はイギリスの寛大な福祉制度を悪用しているという主張もある。こうした両極端な主張をただし、分別ある理論的な議論を展開することが、政治家の役割だ。
■しかし先の労働党政権はそれとは逆に、議論を煽ってきた。移民に反対するのは人種差別だとでも言うように議論そのものから目を背けた閣僚もいれば、自身の保守派としてのイメージを守ろうと躍起になって反移民を叫びながら、移民削減へ向けて何一つ具体的な行動を起こさなかった閣僚もいる。

■わが国は移民から計り知れないほどの恩恵を受けてきた。どこの病院に行っても、ウガンダ、インド、パキスタンなどから来た人々が病人や弱者の世話をしている姿を見かける。学校や大学では、世界中から集まってきた教師がイギリスの若者たちに刺激を与えている。外国から来た起業家たちは地元経済に貢献しているだけでなく、地域社会の一員としての役割を果たしている。
移民がイギリスに多大な貢献をしていることは間違いないし、われわれも歓迎している。だがそれでも、私にははっきりさせておきたいことがある。長い間、イギリスは移民を多く受け入れ過ぎてきた。

■移民の制限は、この国の将来にとって非常に重要な課題だ。だかこそ、わが保守党は選挙戦中に国民にはっきりと約束した。移民の数を80〜90年代のレベルにまで削減することを。そして政権を取った今、われわれはこの目標の達成に向かっている。
合法移民については、EU諸国以外からの移民の数に上限を設ける。不法移民については取り締まりを強化。難民の認定ついても見直しに取り掛かった。こうした取り組みの成果は見えてきている。

■とても若く英語がほとんど話せない外国人が英国民と国際結婚するケースがある。この場合、政治的公正に反したとしても、偽装結婚の可能性を疑わないわけにはいかない。昨年11月より配偶者ビザ申請の条件として最低限の英語能力の証明を求めているのも、そのためだ。われわれはまた、イギリスに来る配偶者の年齢制限を21歳以上と規定した。
■もちろん、イギリスは今後も世界の優秀な頭脳や、迫害から逃れてくる人々を歓迎する。だが現保守党政権の下、わが国の国境は開放されているわけではなく、移民の数は受け入れられる範囲でなければならない。そこに「もし」とか「しかし」といった条件はない。これは、われわれが国民と交わした約束であり、決して破ることのない約束だ。【4月15日 Newsweek】
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マイノリティーへの配慮も?】
移民排斥との批判をかわすべく、「わが国は移民から計り知れないほどの恩恵を受けてきた」と、移民のもたらすメリットを強調してバランス感覚を保ちながらも、英語を話せなかったり社会に同化する意志のない移民を拒む方針を明確にしています。

なお、マイノリティーへの配慮というバランス感覚について言えば、キャメロン首相は先日、名門オックスフォード大学の黒人受入れの少なさを批判しています。

****英オックスフォード大 黒人「狭き門」 首相発言波紋****
キャメロン英首相が出身大学の英名門オックスフォード大について「2009年に黒人学生を1人しか受け入れなかったのは不名誉」と非難し、波紋を広げている。オ大は「誤解だ。27人の黒人学生を受け入れた」と反論しているが、黒人受け入れ率は全体の1%。米名門ハーバード大では1割を超えており、黒人にとってオ大が「狭き門」であることが浮き彫りになった。
首相は11日、「低所得者層の学生に門戸を開かない大学は授業料を値上げできない」と述べ、オ大を例に挙げて改善を求めた。

これに対し、オ大は09年の合格者2653人のうち黒人学生は27人だったと反論。内訳はカリブ海出身1人▽アフリカ出身23人▽その他3人。カリブ海出身者については35人が入学願書を提出したが、首相は合格した1人だけを誤って取り上げてしまったようだ。
01年の国勢調査によると英国の人口比率は白人が92・1%、黒人は2%。オ大の黒人受け入れ率はその半分の1%。労働党議員によると、オ大内の1つのカレッジは黒人学生を5年間も受け入れていなかった。
オ大のライバル校、ケンブリッジ大では09年にカリブ海出身6人を含む28人の黒人学生を受け入れた。オ大同様、黒人学生の少なさが目立っている。

英国では中流階級が増えたものの、上流と労働者階級の格差が残り、オ大、ケ大の合格者も富裕層の子弟が通う私立校出身者が4割以上を占める。一流大学の受験資格とみなされる成績を収めた白人は09年に2万9千人に達したのに黒人はわずか452人だった。
一方、米国のハーバード大では今年秋に入学する学生のうち11・8%がアフリカ系で、12・1%が中南米出身。階級が影を残す英国との違いを際立たせている。【4月14日 産経】
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黒人・ヒスパニックの多いアメリカのハーバード大と、黒人が2%イギリスのオックスフォード大を単純には比較できませんが、キャメロン首相が敢えてこうしたマイノリティー問題を取り上げたのも、反移民的な右傾化批判への配慮でしょうか。

移民は「機会」であるよりは「問題」】
移民問題に関しては、移民を「機会」であるよりは「問題」であると考える人が、イギリスで3分の2以上にのぼっているとの世論調査も報告されています。

****移民は「問題」、欧米世論調査****
カナダでは移民は「機会」のひとつと考えられているが、英国や米国、スペインでは移民を「問題」ととらえている人が多いことが、欧米世論の移民問題に対する意識を調べる「欧米トレンド:移民」で明らかになった。
調査は前年末、米国、カナダ、英国、フランス、ドイツ、イタリア、オランダ、スペインの各国の成人1000人を対象に電話で実施された。

フランスでは移民に対して否定的な意見を持つ人が急増した。2009年には違法合法を問わず移民が犯罪を増加させると考える人は25%以下だったが、2010年には40%にまで増えた。
移民を「機会」であるよりは「問題」であると考える人は、英国で3分の2以上、米国とスペインで半数以上の人に上った。

しかし一方で、移民たちが社会に適応できていると考える人の割合も、米国とスペインではそれぞれ59%と54%と半数以上に上った。また、英仏独ではおよそ40%、オランダとイタリアではわずか36%ほどだった。

一方、カナダでは移民を「機会」と考える人の方が多く、移民を「問題」とみる人はわずか27%だった。また、移民らが社会に適応できていると考える人の割合も3分の2近くだった。
また、移民が社会に適応するための方法としてはドイツでは言語の習得が重要と考えられ、オランダでは言語と文化、イタリアとスペインとフランスでは政治制度と法の尊重が最も重要だと考えられていた。【2月6日 AFP】
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