孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

スウェーデンNATO加盟で続くハンガリー・トルコの抵抗 加盟したフィンランドへは露が難民送り付け

2023-11-24 22:55:26 | 欧州情勢


(近頃の難民は自転車でやってくる?──フィンランドに入ろうとする「難民」はロシア国境警備隊の支援を受けているという主張も(11月21日、国境検問所があるフィンランド北部のサッラ)【11月22日 Newsweek】)

【スウェーデンNATO加盟へのハンガリーの抵抗 EU補助金をめぐる駆け引きか】
ロシアのウクライナ侵攻によって、ロシアへの警戒感を強める北欧フィンランドとスウェーデンがNATO加盟を新たに申請した件に関しては、フィンランドについては3月末にハンガリー・トルコが承認し正式加盟に至っていますが、スウェーデンについては未だにハンガリー・トルコ両国の批准が得られていません。

スウェーデンの新規加盟については、主にクルド人反政府勢力の扱いに反発するトルコ・エルドアン大統領の動向が国際的に注目されてきましたが、上記のようにロシア寄りの姿勢を隠さないハンガリー・オルバン首相も(当初は“ほどなく同意する予定”とも見られていましたが)未だに同意していません。

****スウェーデンのNATO加盟、ハンガリーが批准先延ばし…ぎりぎりまで抵抗して譲歩引き出す戦術か****
スウェーデンの北大西洋条約機構(NATO)加盟を巡り、ハンガリーが承認手続きを先延ばしにしている。ぎりぎりまで抵抗して譲歩を引き出す戦術とみられるが、NATOとしては、今月末に「32か国体制」とする計画が頓挫しかねず、懸命の説得を続けている。

NATOのイェンス・ストルテンベルグ事務総長は8日、ブリュッセルでハンガリーのノバーク・カタリン大統領と会談。共同記者会見で「ハンガリー議会は、これ以上遅れることなく批准を決議すべきだ」と強く求めた。

スウェーデンの加盟実現に向けて残された手続きは、トルコとハンガリーの議会批准のみだ。最大のネックと目されてきたトルコは、タイップ・エルドアン大統領が10月23日に加盟を認める議定書に署名し議会に送付した。批准確実とみたNATOはスウェーデンの正式加盟を決定する場として今月28〜29日の外相理事会開催で調整に入った。

ところが、トルコに追随するとみられていたハンガリーの議会は10月24日、ビクトル・オルバン首相率いる与党フィデスが採決を拒否した。

オルバン政権の強権政治に懸念を示すスウェーデンへの不満が表向きの理由だが、法の支配に懸念があるとして凍結された欧州連合(EU)補助金の支給に向けた交渉材料にするのが本音との見方が強い。

ハンガリーの物価上昇率(前年同月比)は9月、EU平均の4・9%を上回る12・2%を記録し、経済対策の財源が必要という背景もある。

ハンガリーは「自国第一」を掲げ、NATOやEUに加盟しながら、中露との協力も重視する。ウクライナへの侵略開始後もロシアから天然ガスの輸入を続けてきた。その一方で、EUの対露制裁案に当初は反対しつつも最終的には同意し、補助金凍結の一部解除につなげるなどしたたかな外交を展開する。

ノバーク大統領はストルテンベルグ氏との共同記者会見で、批准の時期を明言しなかった。外相理事会までに決着するかどうかは未知数な状況だ。【11月11日 読売】
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ハンガリー・オルバン首相がEU指導部の西欧的・リベラルな民主主義価値観に反発し、独自の“非自由民主主義”掲げてロシア・中国的な強権政治を目指し、EU内部での対立を生んでいること、また、NATO加盟国ながら、ロシア・プーチン大統領と緊密な関係にあって、ロシアのウクライナ侵攻後もロシア制裁、ウクライナへの武器供与に反対していること・・・・などは、これまでも折に触れ取り上げてきました。

その一方で、ハンガリーはEUからの補助金の受益者でもありますが、国内の人権問題などから凍結もされており、スウェーデンのNATO加盟批准はそこらをめぐる駆け引きの材料にもなっているようです。

オルバン首相は、スウェーデンのNATO加盟だけでなく、ウクライナのEU加盟問題でも反対姿勢を崩しておらず、EU指導部の頭痛の種になっています。

オルバン首相のウクライナへの反感の背景には、単にEU内部での価値観・人権・移民問題をめぐる対立、ロシアとの緊密な関係、エネルギー政策での国益第一主義だけでなく、(表向きの議論ではあまり言及はされませんが)ハンガリーの歴史的事情、ウクライナに暮らすハンガリー系住民の存在もあることは、4月30日ブログ“ハンガリー・オルバン首相  ロシア制裁・ウクライナ武器供与に反対する独自路線”でも取り上げました。

****ハンガリー首相、EUに変化必要と訴え ウクライナ加盟交渉に反対****
ハンガリーのオルバン首相は18日、自ら率いる与党「フィデス・ハンガリー市民連盟」の大会で、同国は欧州委員会が設計した現状の欧州モデルを否定しなければならず、欧州連合(EU)には変化が必要だと述べた。

首相は、ウクライナのEU加盟交渉に反対する政府の姿勢を改めて表明。「ウクライナはEUからはるかに遠い位置にあり、欧州委が加盟交渉開始を約束したとの誤解を正すのもわれわれの責務だ」と指摘。ハンガリーに移民を送り込もうとするEUの試みを阻止していくとも述べた。

ウクライナは2022年2月のロシアによる侵攻から数日後にEU加盟を申請し、これを最優先課題に据えている。来月のEU首脳会議では、加盟交渉を開始するかどうかが議題となっている。

ただEU高官は17日、ハンガリーの抵抗がEUの一致した足並みを乱す恐れがあるなどの理由から、加盟交渉のためウクライナを首脳会議に招請する決定が「リスクにさらされている」との見方を示した。【11月20日 ロイター】
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EU指導部も保留されていたハンガリーへの資金拠出を認めることで、オルバン首相の懐柔を試みているようです。

****欧州委、ハンガリーへの資金拠出承認 対ウクライナ支援で前進も****
欧州連合(EU)欧州委員会は23日、ハンガリーへの9億ユーロ(10億ドル)資金提供を承認した。これによりEUのウクライナ支援が実現に前進する可能性がある。

欧州委は、ハンガリーの汚職やオルバン政権の民主主義後退的政策への懸念から、コロナ禍後の支援対象から外した。これを受け、ハンガリーはEUとしての500億ユーロ規模の対ウクライナ経済支援や、ウクライナのEU加盟交渉開始に待ったをかけていた。

今回、ハンガリーへの実施が承認されたのは、コロナ禍後の支援策の一つで脱化石燃料を支援する「REPowerEU」からの拠出。EUの金融支援では「法の統治」に関する条件を満たす必要があるが、8億ユーロはその条件が付かない方式で実行する。【11月24日 ロイター】
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(欧州・EUにとって問題を残す対応ではありますが)こうした形でEUから資金を引き出すことができれば、スウェーデンのNATO加盟についても、オルバン首相の姿勢も和らぐ・・・・のでしょうか。

【トルコの対応も一進一退】
一方、スウェーデンNATO加盟に関するトルコ・エルドアン大統領の対応については、10月、ようやく・・・といった動きもありました。

****スウェーデンのNATO加盟 トルコ大統領が承認し議会に提出****
トルコ大統領府は23日、エルドアン大統領がスウェーデンのNATO加盟を認める議定書に署名し、トルコ議会に提出したと明らかにしました。これで議会は批准の手続きに入りますが、詳しい日程などは明らかになっていません。

スウェーデンは2022年5月、NATOに加盟申請しましたがイスラム教の聖典「コーラン」が燃やされるデモが起きたことなどにトルコが反発し、話し合いが続いていました。そして2023年7月、エルドアン大統領はNATOの首脳会議で、自国での加盟承認手続きを進めることで合意したと発表しました。

NATOの加盟にはすべての加盟国の批准が必要ですが、ハンガリーも手続きが終わっていません。(ANNニュース)【10月24日 ABEMA TIMES】
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しかし・・・一進一退のようです。

****トルコ議会外交委、スウェーデンNATO加盟法案の採決延期****
トルコ議会の外交委員会は16日、スウェーデンの北大西洋条約機構(NATO)加盟批准に向けた法案について、一段の討議が必要として採決を延期した。

議会外交委員長は、数時間にわたる討議後に記者団に対し「全議員がスウェーデンのNATO加盟を承認するには、十分に納得しなければならない。次回の委員会会合で討議を重ねる」とし、必要ならスウェーデン大使を招いて議員に対する説明を求めることもできると述べた。

来週にも討議が再開可能性があるとしながらも、具体的な日程は示さなかった。

スウェーデンのNATO加盟批准に向けた法案は、外交委員会の承認を経て議会全体で採決にかけられ、可決されればエルドアン大統領が署名して成立する。(後略)【11月17日 ロイター】
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【NATO加盟を果たしたフィンランドへのロシアの嫌がらせ 難民送り付け】
スウェーデンより一足先にNATO加盟を果たしたフィンランドに関しては、難民を送り付けるというロシアの“いやがらせ”が表面化しています。

****フィンランド、ロシア国境の一部検問所閉鎖を決定 難民流入阻止****
フィンランドのオルポ首相は16日、ロシアから増加している難民申請希望者の流入を阻止するため、ロシアとの国境にある9カ所の検問所のうち4カ所を18日に閉鎖すると発表した。

隣国ノルウェーも、必要になればロシアとの国境を閉鎖するとしている。

フィンランド政府は前日、ロシアが意図的に難民申請希望者を国境へ送り込んでいると非難し、大規模な難民流入を阻止して国家安全保障を確保するために必要な措置を講じると表明。オルポ首相は「これらの人々が(ロシアの)国境警備隊に手助けされたり、誘導されたりしているのは明らかだ」と述べていた。

欧州委員会のフォンデアライエン委員長は「ロシアによる移民の利用は恥ずべきことだ」と非難。「フィンランドが決定した措置を全面的に支持する」と述べた。

フィンランド国境警備隊によると、イラク、イエメン、ソマリア、シリアなどの国からの難民申請希望者は秋の初めは1日平均1人程度だったが、今週に入ってからはロシア経由で毎日数十人が到着している。【11月17日 ロイター】
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フィンランドでは難民不法入国への懸念から、ロシアとの国境付近に高さ3メートル、全長およそ200kmのフェンスの建設も進められています。

****フィンランド、ロシアとの国境検問所1カ所除き閉鎖へ 難民流入阻止へ****
フィンランドのオルポ首相は22日、ロシアとの国境の最北端1カ所を除き全ての検問所を24日から閉鎖すると発表した。ロシア経由での難民申請者の流入を食い止めることが目的。

月初から、イエメンやアフガニスタン、ケニア、モロッコ、パキスタン、ソマリア、シリアなどの第3国から600人超の難民申請者がロシア経由でフィンランドに入国しており、フィランドはすでにロシアとの国境にある9カ所の検問所うち4カ所を閉鎖している。

オルポ首相は「東部国境の状況が悪化している兆候が増大している」とし、さらなる国境閉鎖を決定したと述べた。

フィンランド政府はこれまでにロシアが意図的に難民申請希望者を国境へ送り込んでいると非難。ロシア側は否定しており、ロシア大統領府(クレムリン)のペスコフ報道官は20日、フィンランドによるロシアとの国境の検問所の一部を閉鎖する決定を「非常に遺憾」に思うと述べた。【11月23日 ロイター】
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ロシアのこうした動きに、ノルウェーやエストニアなども神経を尖らせています。

****ヨーロッパに「鉄のカーテン」が復活──ロシアの新種の嫌がらせに、たまらず国境閉ざすフィンランド****
<NATO加盟の報復に「自転車難民」を送り込んでくる?ロシアの新種の攻撃を防ぐには、人権保護に厚いフィンランドも壁を築くしかない>

フィンランドは、ロシアとの国境からの入国制限を強化している欧州諸国の一つだ。際限なく続く亡命希望者は、フィンランドを弱らせるためにロシアが送り込んでいる「武器」だと非難している。

ある専門家は本誌の取材に対し、ロシアは、NATO加盟でアメリカと軍事同盟を組んだフィンランドの決意を試そうとしていると語り、状況はさらに悪化する可能性があると付け加えた。(中略)

この動きを見たノルウェーのエミーリエ・エンゲル・メヘル法務大臣は、ロシアからノルウェーへの越境者が急増した場合、極北にあるロシアとの国境を閉鎖する用意があると警告した。

越境阻止に動く近隣諸国
一方、バルト三国のエストニアでは、ソマリアからの移民8人が国境都市ナルバを経由してNATOおよびEU加盟国に入国しようとする事件があり、必要とあればロシアとの国境通過点をすべて閉鎖すると発表した。

エストニア政府は、東部ナルバにあるロシアとの国境に、対戦車用の「竜の歯」という障害物を設置するよう命じた。ラウリ・ラーネメッツ内相は、ロシアが「理由もなく」亡命希望者を国境に向かわせていると非難した。エストニアは、書類も許可もなしに国境を越えようとする人々を全員送還した。

ヨーロッパ各国のロシアとの国境における緊張を如実に物語るのが、ニイララ国境駅でのフィンランド国境警備隊と移民の対立を撮影した動画だ。ソーシャルメディア上で共有された画像には、自転車で国境に集まった難民たちの姿が写っている。

フィンランドはロシアと1340キロに渡る国境を接している。

フィンランドのペッテリ・オルポ首相は、ロシアがフィンランドのNATO加盟に報復しようとしていると主張し、ロシアからの難民は「ロシアの国境警備隊の助けを借りて国境まで護衛されたり、移送されたりしている」と非難した。

シンクタンク英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)のアソシエイトフェローでヘルシンキ大学の客員研究員サリ・アルホ・ハブレンは、ロシアはフィンランドのNATO加盟と10月に発表されたアメリカとの防衛協力協定(DCA)の両方に反応していると述べた。

「フィンランド当局は、こうしたロシアの圧力に断固として対応する用意があると言っているが、状況は緩和されるどころか、悪化する可能性がある」と彼女は本誌に語った。フィンランドは今も国際人権協定を遵守し、正当な亡命希望者の申請手続きを進めているというが、ロシアはそれを逆手に取っている可能性もある。

ロシアはフィンランドに圧力をかけるために亡命希望者を利用している、とハブレンは言う、「冬の気候を考えると、国境地帯に集まった人々はとても厳しい状況にある」

「今や、フィンランドに住むロシア人までが、国境を開放し続けるよう要求し始めている。事態の根本的な原因はロシア政府の攻撃的な政策にある」と、彼女は言う。「ロシアが次にどんな行動を計画しているのか、推測するしかない」

巧妙な難民利用作戦
ロシアのドミトリー・ペスコフ報道官は、フィンランドが移民問題でロシアと対立するのは「大きな過ち」だと述べ、ロシア外務省は「移民を武器化している」というフィンランドの主張を否定。「非常に奇妙」な非難だと表現した。

移民の武器化といえば、ロシアから数千人の移民がロシアの同盟国ベラルーシ経由でEU加盟国のポーランドとリトアニアに入国した2021年のケースが有名だ。EUはベラルーシの指導者アレクサンドル・ルカシェンコがEU圏を不安定化させようとしていると非難した。

フィンランドのタンペレ大学の研究員ペッカ・カッリオニエミは、ロシアはベラルーシとともに、軍備と難民の「ハイブリッド攻撃作戦」をEUに仕掛けていると本誌に語った。

「ロシア政府は、この作戦からさまざまな面で利益を得ることができる。国内のプロパガンダに利用できるだけでなく、フィンランドを亡命希望者を不当に扱う国に仕立て上げることもできる」【11月22日 Newsweek】
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フィンランドでは4月の総選挙で、マリン首相率いる中道左派「社会民主党」が敗れて緊縮財政を訴えた中道右派野党の「国民連合」が第1党になりました。また、極右野党「フィン人党」も第2党に躍進。この結果を受けて、「国民連合」のペッテリ・オルポ党首を首相とする極右勢力「フィン人党」を含む右派連立政権が発足しています。

移民・難民問題に関する右派連立政権のスタンスはよく知りませんが、政権交代・極右台頭の背景には移民・難民への厳しい世論も影響しているのではないでしょうか。流入が急増する難民の問題が大きな政治・社会問題になることは容易に想像できます。

難民を政治的な道具として送り付ける手法は、リベラルな価値観と急増難民がもたらす軋轢という現実問題の間の齟齬という「弱点」をつく有効な手段として、近年、上記記事にもあるベラルーシや、あるいはアメリカ国内における南部州からニューヨークなどへのバス移送など頻用されています。
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