孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

チュニジア  EUと移民に関する“手本となる”合意 一方で、強制連行した不法移民を砂漠に置き去り

2023-08-02 22:28:08 | 難民・移民
(2023年7月30日、リビア・チュニジア国境のアルアッサー付近の無人地帯に到着後、チュニジア当局に放置されたされるアフリカ系移民に水を提供するリビアの国境警備隊の隊員たち。【8月1日 ARAB NEWS】)

【EUとチュニジア 移民に関する“他国にも手本となり得る”合意】
リビア・チュニジアなど北アフリカからの地中海を渡る移民流入は欧州にとって大きな課題となっています。
何とかして自国に流入しないように、かなり非道な方策もとられているようにも。
一方、移民側からすると、まさに“命がけの渡航”になります

そうした状況で、EUがチュニジアと“手本”となるような移民に関する合意を結んだとか。

****欧州・チュニジアの移民合意、今後のモデルに=欧州委員長****
 欧州連合(EU)欧州委員会のフォンデアライエン委員長は23日、EUとチュニジアの間で成立した移民に関する合意は他国にも手本となり得るとの見解を示した。

EUとチュニジアは先週、人身売買取り締まりや国境規制強化などを含む「戦略的パートナーシップ」を締結した。
またEUは、チュニジアの経済・財政支援に10億ユーロ(11億ドル)拠出を確約した。

フォンデアライエン氏はローマで行われた会合で、「チュニジアとの合意が地域の他国とのパートナーシップに対する一つのひな型となり、将来の青写真となることを望む」と説明。移民に危険な航海をさせず、合法的に受け入れる道を提供すべきと述べた。

戦略的パートナーシップにはこのほか、経済発展、貿易、投資に関する内容が含まれるとともに、気候や再生可能エネルギーなど相互にとっての優位店も盛り込まれるという。

フォンデアライエン氏はまた、欧州とエジプト、モロッコの水素関連パートナーシップに言及し、「地中海地域には太陽光や風力、広大な土地といった莫大な天然資源が豊富に存在する」と述べた。【7月24日 ロイター】
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【不法移民を強制的に連行し、熱波のなかで水も食料も与えず砂漠地帯に置き去り】
“EUとチュニジアの間で成立した移民に関する合意”というのがどういうものかは知りませんが、チュニジアの移民に対する扱いについては大きな疑惑が指摘されています。

****チュニジア、不法移民をリビア国境の砂漠に置き去りか****
北アフリカのチュニジアとリビアの国境に広がる砂漠地帯に置き去りにされた不法移民が、支援を訴えている。移民らはチュニジア当局により、水や食料もなしに置き去りにされたという。

チュニジアのリビアやアルジェリアとの国境地帯に、移民が置き去りにされる事例はこれまでにも報告されている。国境警備隊や移民、そして過去に同様の事例を確認したNGO職員によると、今回は約140人のサハラ以南のアフリカ諸国出身者が放置された。

ナイジェリア人のジョージさん(43)は、リビア沿岸部ラスジェディルの国境検問所から30メートル離れた、有刺鉄線の間に作られた仮設収容キャンプにいる。「今にも死にそうだ。毎分、死が近づいている」とAFPに語った。
 
どうかお願いだから、今すぐここから連れだしてほしい。助けに来て」「ここがどこかも分からない。食料も水もなく、苦しんでいる」と懇願した。

リビア内務省は25日、チュニジア国境付近でアフリカ系移民5人の遺体が見つかったと発表した。

ジョージさんは、チュニジアの沿岸の街スファクスで18か月間、理髪師として働いていた。妻と幼い子どもは今もスファクスにいる。

「チュニジア警察は、武器を向け、私たちをテロリストと呼んだ」
リビア政府は、移民らに国境を超えないよう通告してきた。ジョージさんたちは、地中海が熱波に襲われる中、行き場を失った。ただ、リビアは赤新月社を通して、水と食料を提供してくれた。
 
同じく移民のニジェール人女性、ファティマさん(36)は、チュニジア兵は移民から携帯電話などの私物を「全て没収」し、砂漠に置き去りにしたと話した。ファティマさんも姓は名乗らなかった。 別の移民は「われわれは人間だ」と訴えた。

 ■「強制的に連れて来られた」
スファクスは、イタリアのランペドゥーザ島からわずか130キロの距離にある。チュニジアは、欧州でのより良い生活を夢見て危険な航海に挑む不法移民と亡命希望者の主な出発地となっている。

ムバラク・アダム・モハマドさん(24)は内戦の続くスーダンを離れ、リビアを経由して、チュニジアに入った。「スファクスで逮捕され、強制的にここに連れて来られた」とし、「国際組織」などに救済を訴えた。

国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチ(HRW)は、7月だけで最大1200人の移民が、チュニジアの憲兵隊によってリビアやアルジェリアとの国境地帯の砂漠へと「強制的に退去・移送された」としている。

チュニジアの赤新月社は7月中旬、同月3日以降にラスジェディルに連れていかれた少なくとも移民630人を支援したと述べた。
リビアの国境警備隊は同時期に、水も食料も持たずにチュニジア当局によって砂漠に置き去りにされた移民数十人を救助したと報告している。

AFPも、ラスジェディルの南に位置する、人里離れたリビア・アルアッサー近郊で、明らかに疲弊し、脱水状態にある移民が、気温40度の中、木陰で砂の上に座ったり、寝そべったりして暑さをしのぐ移民の姿を目撃した。【7月31日 時事】
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同内容の記事をもうひとつ。

****チュニジア・リビア国境の砂漠で生死の境をさまよう移民たち****

(2023年7月30日、リビア・チュニジア国境のアルアッサー付近の無人地帯に到着後、倒れるアフリカ系移民。)
ラス・ジェディールでは、350人が仮設キャンプに残っており、その中には65人の子供と12人の妊婦が含まれている

リビア、アルアッサー:耐え難い真昼の暑さの中、リビアのパトロール隊がチュニジアとの国境近くで、赤茶けた砂漠の砂の上に倒れているアフリカ系黒人の男性を発見した。かろうじて息をしている彼の唇に数滴の水を垂らし、隊員たちは慎重に、彼を回復させようと試みた。

この男性は、チュニジアの治安部隊によって砂漠の国境地帯に放棄された後、毎日リビアに到着する何百人もの移民のうちの一人に過ぎない。これはリビアの国境警備隊や移民たち自身が語っている。

これらの、サハラ以南のアフリカから来る移民たちは、リビアに到着するまでに、摂氏40度を超える気温の中、疲労困憊している。

日曜日にAFPは、リビアとチュニジアの国境沿いにある塩湖、サブカ・アル・マグタ(Sebkhat Al-Magta)近くの無人地帯から、国境警備隊が約100人の男女を救出する様子を目撃した。

遠くの陽炎の中に、最新の到着者である6人の人影が現れた。彼らはアラビア語を話し、チュニジアから来たと言う。

リビアの国境警備隊がAFPに語ったところによると、過去2週間にわたり、トリポリの西約150キロに位置するアルアッサー近郊の国境地帯で、チュニジア当局に置き去りにされたという数百人の移民を救助したという。

7月初めには、サハラ以南のアフリカ諸国からの数百人の移民が、チュニジアの港湾都市スファックスから追い出された。これは、地元住民と移民との間の衝突でチュニジア人男性が死亡した後、人種間の緊張が高まる中での出来事だ。

スーダン出身のハイサム・ヤヒヤ氏は、ニジェールとアルジェリアを経由してチュニジアに密入国した後、建設関連の仕事に付き、1年間働いたと言う。

「仕事中に捕まって、最初はパトカーで、それから(治安部隊の)トラックでここに連れてこられた。その後、彼らは、リビアに行けと言い、私を置き去りにした」と、アルアッサーで彼は語った。

イタリアからチュニジアに最も近い地点であるスファックス近郊は、イタリアのランペドゥーザ島からわずか130キロの距離だ。

北アフリカの同国は、ヨーロッパでのより良い生活を求めて危険な海上航海を試みる移民や亡命希望者の主要な玄関口であり、ヨーロッパの指導者たちはチュニジアがこの流れを管理するのを助けるために財政援助を提供している。

ヒューマン・ライツ・ウォッチによると、7月にチュニジアの治安部隊によって「追放された、又は強制的に移送された」アフリカ系黒人は最大で1200人に上り、同国の砂漠地帯であるリビアやアルジェリアとの国境地帯へ移送されたという。

7月中旬、チュニジア赤新月社は、7月3日以降にアルアッサーの北約40キロにあるラス・ジェディールに連行された少なくとも630人の移民に避難所を提供したと述べた。

しかし数日後、AFPはラス・ジェディールの緩衝地帯で立ち往生している数百人の移民からの証言を集めた。彼らはチュニジアの治安部隊によってそこに強制的に連れて行かれたと述べた。

ラス・ジェディールでは、350人が仮設キャンプに残っており、その中には65人の子供と12人の妊婦が含まれていた。

「彼らの生活状況は非常に問題だ」と人道支援機関の関係者はAFPに語り、「長期的には持続可能ではない。トイレも水タンクも本当の避難所もない」と付け加えた。

アルアッサーには、足元はサンダルのみの、フラフラになった移民たちが、よろめきながら到着している。
彼らは、2人、3人、または数十人単位で移動してくる。倒れる者もいる。衛兵は彼らの乾いた口元に水の入ったボトルを差し出す。(中略)

パトロール範囲はアルアッサー周辺15キロだ。ワリ氏(リビア国境警備隊第19大隊報道官)によれば、日によって「150人、200人、350人、時には400人、500人もの非正規移民」を見つけることもあるという。この日は110人で、うち女性が2人だった。他にも2人いるはずだと言われ、兵士は双眼鏡で周辺を探した。

木曜日、国連機関の共同声明は、チュニジアの国境地帯における移民、難民、亡命希望者の「展開する悲劇」に言及した。
「彼らは砂漠で立ち往生し、猛暑に直面し、避難所、食料、又は水を手に入れることができない。緊急かつ人道的な解決策が見出されるまでの間、生命を救う重要な人道支援を提供することが急務である」と声明は述べている。

国連は過去にも何度か報告書でリビアを取り上げ、60万人の移民(そのほとんどがキャンプに収容されている)に対する暴力を非難している。

リビア政府は最近、チュニジアから到着した移民の自国領内への「再定住」を拒否していることを表明している。
一方、移民たちは知らず知らずのうちに国境を越えている。彼らは、チュニジアの治安部隊が向かうように指示した方向、リビアに向かって歩いていると語る。(中略)

ワリ氏によると、隊員が土曜日に2人の遺体を発見したという。その1週間前にも5人の死体が発見された。その中には女性と彼女の赤ちゃんが含まれていた。彼らはまた、1週間前にも5体の遺体を発見したと語った。
「どうやって生き延びろと言うのだ?この暑さの中、水なしで、2、3日の行軍で」と、ワリ氏は語った。

AFPが連絡を取ったリビアの人道団体は、過去3週間で少なくとも17人が死亡したと報告した。【8月1日 ARAB NEWS】
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ちなみに、北アフリカ・南欧の地中海沿岸諸国は50℃に迫る熱波に襲われ、各地で山火事が発生し、手が付けられない状況にもなっています。

****地中海13カ国、松明のように広がった山火事…「50度に迫る」災害に見舞われる****
地中海沿岸の国々が摂氏50度に迫る猛暑と相次ぐ山火事で燃えている。南欧のギリシャ・イタリア・フランスなどと北アフリカアルジェリア・チュニジアなどで高温で乾燥した天気と強風で山火事が広がり人命被害が相次いだ。
専門家らは地中海沿岸の猛暑と山火事を気候変動による自然災害と診断した。

26日(現地時間)、欧州森林火災情報システム(EFFIS)によると、同日イタリア南部のシチリア島、フランス南部のコルシカ島、ギリシャ中部のボロス・ラミアなどで山火事が新たに発生した。前日にはポルトガルの首都リスボン郊外とクロアチアの人気観光地ドゥブロヴニク南側で山火事が発生した。

その他アルバニア・トルコの地中海近隣地域と地中海南側にある北アフリカアルジェリア・チュニジアの海岸都市でも山火事が起きた。 

EFFISデータを確認してみると、今月に入って地中海を囲む13カ国で山火事が発生した。事実上、地中海沿岸国家のほとんどが山火事の危険にさらされている状況だ。

ガーディアンは「地中海国家に炎が松明のように広がり、地中海が燃えている」と報じた。(中略)

 地中海諸国は今夏、歴史上最も暑い7月を過ごしている。ほとんどが摂氏30度後半から40度序盤の猛暑にも苦しんでいるが、特に山火事が数日間続いているギリシャ・イタリア・アルジェリア・チュニジアなどは摂氏50度に迫る高温を記録した。 地中海の海面温度も史上最高記録を更新した。(後略)【7月28日 中央日報】
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リビア国境の砂漠への水も食料も与えない移民置き去りは、上記のような気象環境のなかで行われています。
それは昨日今日の話ではなく、多くの関係者が知るところでした。

当然にEUフォンデアライエン委員長も知っていたはず、あるいは知っているべきことです。そのうえでのチュニジアとの移民に関する“他国にも手本となり得る”合意というのがどういうものか、私は知りません。

【権限集中を進めるサイード大統領 事態好転せず首相交代】
チュニジアの国内政治は、2011年の中東民主化運動「アラブの春」の唯一の成功例と言われているものの、昨今はサイード大統領への権力集中が進んでいます。サイード大統領の言い分としては、議会の混乱で内政が麻痺状態に陥っているため、その状況を打破するための措置ということにもなります。

****チュニジア警察、反大統領派さらに逮捕 最大野党「誘拐」と非難****
北アフリカ・チュニジアの警察当局は13日、反大統領派を標的とした逮捕劇の一環として、新たに野党幹部ら2人とサイード大統領に批判的な放送をしてきたラジオ局の代表を拘束した。

弁護士らによると、拘束されたのは最大野党ナフダ幹部のNoureddine Bhiri氏、政治活動家で弁護士のLazhar Akremi氏、ラジオ局モザイクFMの代表Noureddine Boutar氏。

警察は11日以降、サイード大統領に対して反対の声を上げたり、抗議行動を起こそうとしたりした多数を拘束している。その中には著名なビジネスリーダー、元財務相、別のナフダ幹部、裁判官らも含まれている。弁護士によると、いずれも国家安全保障に危害を加えた疑いで逮捕された。

警察当局などは今回の逮捕についてコメントしていない。ナフダは「反サイード派に対する誘拐」だとして非難した。

サイード大統領は2021年7月、議会を突如閉鎖し、政府を解体させ、大統領令による統治に移行。その後に憲法を改正した。反対派はこれらについて、11年の革命後に築かれた民主主義を引き裂くクーデターだと批判している。【2月14日 ロイター】
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****デモ弾圧批判に反論=議会停止を正当化―チュニジア大使****
チュニジアのエルーミ駐日大使は14日、東京都内で時事通信のインタビューに応じ、強権色を強めるサイード大統領の下で相次ぐ反体制派の拘束について「裁判官の法に基づく判断」で行われていると反論した。「自由で開かれたインド太平洋」構想で重視される「法の支配」の理念をチュニジアも共有していると主張した。

大使は、チュニジアの議会が「国にとって主要な問題に取り組まず、政争に明け暮れていた」ため、市民の求めに応じサイード氏が2021年に停止させたと強調。強権手法を巡っては「(クーデターで権力を握った国軍が反対派を弾圧している)ミャンマーとは全く違う。軍は市民の側にいる」と持論を展開した。【3月14日 時事】 
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****元サッカー選手が警察に抗議し焼身自殺 ネット上で拡散 チュニジア****
ロイター通信などは14日、チュニジア中部で元プロサッカー選手の男性が警察に「テロリスト」呼ばわりされたことに抗議し、警察署の前で焼身自殺をはかったと報じた。

男性は火を付ける場面を自ら動画で撮影しており、ソーシャルメディアで拡散した。男性が死亡した13日には抗議デモが起き、警官隊との衝突に発展したという。

報道によると、男性はニザール・イッサウィさん(35)。バナナが通常の倍の値段だったことから警察に苦情を申し立てたところ、「テロ」扱いされたという。

拡散した動画では「10チュニジア・ディナール(約440円)でバナナを売っている人と口論になっただけで警察からテロだと非難された。バナナの文句だけでテロだ」と叫び、自分の体に火を付ける様子が映っている。13日のデモでは参加者が警察に投石し、警官隊は催涙ガスで鎮圧をはかったという。(後略)【4月15日 毎日】
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サイード大統領への権限集中でも、経済・社会の立て直しはうまくいっていないようです。
チュニジア初の女性首相として2021年に任命したブーデン首相(地球物理学者で政治的には無名で、政府役職も未経験)を解任し、後任にチュニジア中央銀行幹部だったハシャニ氏を指名しています。

****チュニジア大統領、新首相指名 中銀出身のハシャニ氏****
チュニジアのサイード大統領はブーデン首相を解任し、後任にチュニジア中央銀行で人事部長を務めたアハメド・ハシャニ氏を指名した。大統領府が2日、発表した。

サイード氏は2021年7月、当時のメシシ首相を解任。議会を停止させ、ほぼ全ての権力を掌握した。その後、ブーデン氏が首相に指名されたが、経済と社会の危機を修復することはできなかった。【8月2日 時事】
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行政経験のない地球物理学者には荷が重かったかも。今回のハシャニ氏も中央銀行幹部と言っても人事部長で行政手腕は未知数とのこと。 大統領の意のままに動く人材ということか。
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