(ルーマニア大統領選挙で、SNSを駆使した選挙運動で一躍首位に躍り出た親ロシア・極右政治家カリン・ジョルジェスク氏)
【「反移民」「反エリート」で共振するトランプ氏と欧州右派 「自国第一」でロシアの侵略を容認】
中東欧にあって親ロシア的で、移民受け入れに消極的で、西欧的民主主義のリベラル的価値観を否定した強権的政治、更に親トランプ・・・・と言えば、これまでも何度も取り上げたきたハンガリー・オルバン首相の名前があがります。
オルバン首相に限らず、「反移民」「反エリート」の主張は最近の欧州で大きな潮流になりつつあり、アメリカのトランプ氏復権と共振しつつ、今後更に大きなうねりとなることが予想されます。
****「反移民」「反エリート」で共振するトランプ氏と欧州右派 国際秩序に打撃のリスク 「トランプ2.0」の衝撃③****
米大統領選で共和党候補のトランプ前大統領(78)が勝利を確定的にした6日、トランプ氏といち早く電話で言葉を交わした外国首脳の一人にハンガリーの強権指導者、オルバン首相(61)がいる。トランプ氏との親密さを誇示するように、X(旧ツイッター)に「私たちには未来に向けた大きな計画がある!」と投稿した。
2人が盟友関係にあることはよく知られる。トランプ氏は選挙演説で何度もオルバン氏を「強い指導者」「素晴らしい男」と絶賛した。オルバン氏も公然とトランプ氏を支持し、7月には米南部フロリダ州にあるトランプ氏の私邸に足を運んだ。
欧州連合(EU)内で批判され、異端視されることの多かったオルバン氏が、トランプ氏との近さゆえに存在感を増していく可能性がある。
オルバン氏が首相に返り咲いた2010年以降のハンガリーでは、報道の自由や司法の独立性、LGBT(性的少数者)の権利などへの制限が進んだ。自由民主主義の規範から逸脱していると批判を浴びるが、オルバン氏はむしろ、自分こそが来たるべき「非リベラル民主主義」時代の先駆けだと胸を張る。
盟友のオルバン氏、欧州難民危機が追い風に
オルバン氏が権力を盤石にする契機の一つとなったのは、中東・アフリカの難民らが欧州に押し寄せた15年の難民危機だった。「反移民・難民」の旗幟(きし)を鮮明にし、人道的対応を求めるEUのエリート官僚らへの攻撃を強めた。
そうした「反移民」「反エリート」の主張は最近の欧州で大きな潮流になりつつある。
フランスの「国民連合」(RN)やドイツの「ドイツのための選択肢」(AfD)といった右派勢力の台頭が典型だ。今年6月にEU各国で行われた欧州議会選では、フランスでRNが首位、ドイツでAfDが2位につけた。
トランプ氏も同じ系譜にある。初当選した16年大統領選では、不法移民流入を阻止する「国境の壁」建設や、反エスタブリッシュメント(既得権益層)を掲げた。これらの主張は、20年大統領選での落選を経てさらに先鋭化している。
今回の大統領選では、1100万人超とも2千万人超ともいわれる不法移民に「最大級の強制送還作戦」を行うと訴えた。民主党などのリベラル勢力を「内なる敵」と呼び、「州兵や米軍を使って排除する」とも語った。反エスタブリッシュメントの主張はしばしば、リベラル勢力から成る「ディープステート(闇の政府)」が米国を牛耳っているという陰謀論の色彩まで帯びる。
欧州の新興右派勢力には福祉政策の拡大を掲げているものが多く、トランプ氏もそうだ。
共和党の支持基盤である保守派では従来、連邦政府の支出や権限を縮小し、企業の自由競争を促す「小さな政府」論が支配的だった。
しかしトランプ氏は大統領選で、社会保障年金やメディケア(高齢者向け医療保険)の維持だけでなく、体外受精の費用を保険会社が負担するよう「義務付ける」と豪語するなど、民主党左派とみまがう主張を展開した。
こうしたこともあって、仏RNや独AfD、オルバン氏やトランプ氏らはポピュリズム(大衆迎合主義)勢力に分類されることが多い。
「自国第一」に由来する侵略国ロシアへの甘さ
その政策と人気に盲点はないか。最も懸念されるのは、この勢力に共通する「自国第一」の姿勢が、ウクライナを侵略するロシアへの甘い態度につながっていることである。
オルバン氏はプーチン露大統領と親しく、EUと北大西洋条約機構(NATO)内で最も親露的な立場をとる。ウクライナは「勝てない」と公言し、欧州各国は対ウクライナ支援を縮小して停戦圧力をかけるべきだとしてきた。
その主張は、ウクライナでの早期停戦を実現するとし、ロシアとのディール(取引)を志向するトランプ氏とも通じる。
仮にロシアに領土を割譲するような形でウクライナ侵略戦争が終われば、「一方的な領土変更は認めない」という第二次大戦後の国際秩序は根幹から揺らぐ。
また、世界で「自国第一」の傾向が強まり、米国主導の集団安全保障体制が弱体化することは、プーチン氏が強く願ってきたことにほかならない。
米右派の最大イベント「保守政治行動会議(CPAC)」では近年、オルバン氏ら欧州の右派政治家が大歓声で迎えられ、連帯を確かめ合うのが恒例の光景となっている。トランプ氏の当選確実が伝えられたとき、旧ソ連構成国のキルギスを訪問中だったオルバン氏はわがことのように喜び、「ウオッカで祝杯をあげた」という。
「反移民」「反エリート」が米欧で共振する現象は、世界に何をもたらすのだろうか。【11月10日 産経】
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【ルーマニア大統領選挙でSNSを駆使する親ロシア極右候補が首位に】
中東欧でまた一つ、ルーマニアにおいて親ロシアでウクライナ支援を否定する、西欧的リベラリズムと異なる極右政治家が大統領選挙で躍進しました。
同時に、日本の兵庫県知事選挙同様に、SNSを駆使して泡沫候補から一躍首位に躍り出た選挙手法も注目されます。
****ルーマニア大統領選、「SNS戦略」成功でプーチン賛美の「極右」が予想外の首位...若年層の不満を代弁****
<ルーマニア大統領選第1回投票で、「ウクライナ戦争の背後で『帝国主義』軍産複合体が暗躍」と訴えるジョルジェスク候補が首位に>
ルーマニア大統領選の第1回投票が11月24日行われ、親露派で反北大西洋条約機構(NATO)の極右ナショナリスト候補カリン・ジョルジェスク氏が212万票(得票率22.9%)を超える予想外の大躍進を見せ、首位で12月8日の決選投票にコマを進めた。
ジョルジェスク氏はウラジーミル・プーチン露大統領を称え、ウクライナ戦争の背後で「帝国主義」軍産複合体が暗躍していると唱える。事前の世論調査では社会民主党(PSD)代表のマルチェル・チョラク首相が圧倒的にリードしており、ジョルジェスク氏は完全なダークホースだった。(中略)
ホロコーストに加担した第二次大戦指導者を称賛
ホロコースト(ユダヤ人大虐殺)に加担して銃殺刑になったルーマニアの第二次大戦指導者イオン・アントネスクや、欧州で最も暴力的な極右の反ユダヤ主義民族運動「鉄衛団」の創設者コルネリウ・コドレアヌを国民的英雄と呼ぶ極右ナショナリストだ。
政治スタンスは親露。ルーマニアのNATO加盟に反対する。NATOが加盟国を守る能力に懐疑的な一方、ルーマニアは外交的・戦略的判断を下す準備ができておらず 「ロシアの知恵 」に従うべきだと主張する。しかし実際にロシアを支持するかどうかについては名言を避けている。
「私は不当な扱いを受けた人々のために投票した」
ルーマニアはフランス率いるNATO多国籍戦闘部隊と米軍のミサイル防衛施設を受け入れており、ジョルジェスク氏は「外交の恥」と批判。
ジョルジェスク氏の躍進は主流政党に対する広範な不満を反映しており、自らを社会や経済から取り残された人々の代弁者と位置づける。
投票後、フェイスブックに「私は不当な扱いを受けた人々、屈辱を受けた人々、この世で自分は重要でないと感じている人々のために投票した! 投票は国家への祈りだ」と投稿した。
より多くの有権者にリーチするため動画共有サイトTikTokなどSNSを効果的に活用した。
新聞・テレビを上回るSNSや動画サイトの破壊力
幅広い視聴者、特に若い有権者の共感を呼ぶ短くて魅力的な動画を共有することで、ジョルジェスク氏は反体制的で民族主義的なメッセージを効果的に広めた。伝統的なメディアを回避し、主要政党を見放した有権者と直接つながり、知名度と支持を大幅に高めることに成功した。
NHKによると、日本でも自身のパワハラ疑惑などを巡る出直し兵庫県知事選で再選した斎藤元彦知事のユーチューブ公式チャンネルの総再生回数は約119万回。街頭演説を短くまとめた動画は少なくとも計2000万回再生された。SNSや動画サイトの破壊力は新聞・テレビを上回る。
米大統領選で返り咲いたドナルド・トランプ次期大統領を例に挙げるまでもなく、SNSや動画サイトの活用はポピュリスト政治家の常套手段。ジョルジェスク氏は若者に人気のTikTokで25万人のフォロワーを持ち、投稿したクリップのいくつかは300万回以上再生された。
ロシアの干渉を示す証拠は見つかっていない。ジョルジェスク氏が決選投票でも勝利すれば首相指名権、連立協議権、外交・安全保障政策に関する最終決定権を持つ役職に就くことになる。極右の暗雲がさらに広がり、NATOや欧州連合(EU)の結束が大きな音を立ててきしみ始めた。【11月26日 木村正人氏 Newsweek】
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ルーマニアでは首相が行政を指揮する一方、大統領は国防と外交の権限を持ちます。
第1回投票結果は、“ジョルジェスク氏が得票率約23%で首位に立った。野党の中道右派「ルーマニア救国同盟」党首でウクライナ支援継続を訴えるラスコニ氏が19%で続き、決選投票へ駒を進めた。中道左派、社会民主党の現職首相チョラク氏は3位で敗退した。ウクライナ支援や物価高対策などが争点となった。”【11月27日 毎日】
ジョルジェスク氏の支持率は“10月の世論調査では支持率1%未満と低迷し、11月に入って急速に支持を広げたが、それでも5%台だった。予想外の躍進といえる。”【同上】とのことで、その爆発的躍進に瞠目させられます。あるいは、世論調査と実際結果の乖離もまた。
「TikTok(ティックトック)」では乗馬をしたり、黒帯を締めて武道の稽古に励んだりする動画などを投稿し、26日現在で35万人のフォロワーを有するとも。
決選投票は12月8日に行われます。
また、12月1日には議会選も予定されています。“追い風を意識して、出身の超国家主義政党などが事後的にジョルジェスク氏への支持を表明した。「旋風」の成り行き次第では、ウクライナに対する欧州の多国間支援の枠組みが揺らぎかねない。”【同上】
【スロバキア・フィツォ首相 ハンガリー・オルバン首相と似た親ロシア・強権支配 大統領選挙も制する】
実は中東欧ではもう一つ、親ロシア・反ウクライナの強権支配的国家があります。それはスロバキア。
フィツォ首相がハンガリー・オルバン首相類似の強権政治を進めています。更に、大統領も支持勢力でおさえています。
****スロバキアの「ハンガリー化」に懸念 親ロシア姿勢、強権統治に批判****
東欧スロバキアのフィツォ政権に対し、強権統治を敷くハンガリーのオルバン政権と同様、欧州連合(EU)の結束を脅かしかねないとして懸念が広がっている。
25日で就任5カ月となるフィツォ首相は、ロシアによるウクライナ占領を認める形での停戦を主張。国内で進める司法改革も「法の支配」を弱めると批判を浴びている。(中略)
昨年10月に首相に返り咲いたフィツォ氏は、ウクライナへの武器供与停止を決定。今年1月にはロシア軍撤退は「非現実的だ」と述べ、ウクライナに領土奪還を断念するよう促した。ただ、スロバキアの民間企業による武器供給を容認するなど、西側諸国との過度な対立は避けている。
スロバキアで今月(3月)23日実施の大統領選は、フィツォ氏を支えるペレグリニ元首相と、野党の支持を受けるコルチョク元ス外相による事実上の一騎打ちで、フィツォ政権への評価が争点。いずれの候補も当選に必要な過半数に届かず、ペレグリニ、コルチョク両氏が来月6日の決選投票に進出する公算が大きい。
退任するチャプトバ大統領は、汚職罪の罰則軽減を含むフィツォ政権の司法改革にブレーキをかけてきた。ペレグリニ氏が後継に就任すれば、フィツォ氏に一段と権力が集中し「法の支配を巡って、EUとの衝突につながる」(ロンドン大キングスカレッジの研究者)と懸念する声もある。
同様に親ロシア姿勢が目立つハンガリーのオルバン政権に対して、EUは性的少数者の権利やメディアの独立性が侵害されていると憂慮。裁判官人事や汚職捜査への政治的介入を防ぐ対策が不十分で「法の支配」が損なわれているとして、資金供給の一部を凍結している。欧米メディアは「次はスロバキアかもしれない」と伝えている。【3月23日 時事】
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スロバキアでは政治・行政の主導権は首相にあるものの、大統領にも法案への拒否権など一定の権限があります。
4月6日に行われた大統領選挙決選投票で、フィツォ首相に近い左派HLAS(声)党首で国会議長のペレグリニ氏が当選し、フィツォ首相による親ロシアでウクライナ支援に消極的な政治、ハンガリー・オルバン政権的な強権政治が加速する可能性があります。
なお、5月15日にはフィツォ首相が狙撃され負傷する事件も。
【左右両方のポピュリスト政党が同時に台頭し、独裁政権がロシアとイデオロギーで連帯】
中東欧においては、ハンガリー・オルバン首相、スロバキア・フィツォ首相に続いて、前述のルーマニアの大統領選挙での極右ジョルジェスク氏の躍進・・・と親ロシア勢力の拡大が目立ちます。
****中東欧が「プーチン支持」に傾くのはなぜか?...世界秩序を揺るがす空想の「ソ連圏への郷愁」と「国民の不安」****
<ドイツ東部からスロバキア、ハンガリー、アゼルバイジャン、ロシアと戦火を交えたジョージアまで──なぜ、「ロシア寄り」の極右や極左が躍進しているのか>
ロシアがウクライナで都市部への空爆を続け、東部ドンバス地方の前線で進軍するなか、9月1日にドイツの東部2州で州議会選挙が行われ、極右と極左の政党が躍進した。
とりわけ憂慮されるのは、両党がウクライナ支援に反対し、ロシア寄りの立場を取っていることだ。
極右「ドイツのための選択肢(AfD)」も左派の新党「ザーラ・ワーゲンクネヒト同盟(BSW)」も、ロシアを挑発したとして西側諸国に責任を転嫁し、ロシアとの全面的な軍事衝突を恐れる国民感情に付け込んでいる。
こうした見解や極右・極左政党の躍進はドイツ東部に限った話ではない。1989年までソ連の支配下にあった他の中東欧諸国でも同様の機運が高まり、特に顕著なのがEUとNATOの加盟国であるスロバキアとハンガリーだ。
アゼルバイジャンやジョージアなどの旧ソ連構成国でも、状況は同じ。不安と鬱憤と郷愁が入り交じった独特の国民感情を背景とするこの流れはソ連圏の復活を意味するものではないが、少なくとも中東欧の一部でイデオロギー的な結束が強まっていることを示唆する。(中略)
「空想のソ連圏」への郷愁
残酷な侵略戦争が2年半以上も続く状況で、侵略者のロシアがいま再び共感を呼ぶのはウクライナにも同盟国にとっても由々しき事態だ。
ドイツ東部、スロバキア、ハンガリー、アゼルバイジャン、ジョージアにおける権威主義の高まりはウクライナ侵攻が発端ではないが、ウクライナ侵攻の結果としてエスカレートしたのは間違いない。
これを推し進める指導者は国民感情に付け込み、世論を慎重に誘導する。そうした感情の1つは、ロシアとの戦争に引きずり込まれるのではないかという根強い不安だ。コロナ禍の影響やウクライナ侵攻が引き金となった物価高への対応をしくじった政府への恨みもある。
またソ連時代の保守的で強い指導者たちが強要した「秩序」とその後のリベラルな「混乱」を比べ、空想のソ連圏に郷愁を覚える人もいる。
一方、昨年チェコではNATO出身のペトル・パベルが大統領に就任し、ポーランド総選挙では反EU政権が敗北。旧ソ連圏で起きている民主主義の退行に歯止めをかけ、逆転させられる可能性を示した。
同様に、ロシア主導の軍事同盟である集団安全保障条約機構から今年6月にアルメニアが脱退を明言したことは、地政学的同盟関係が不動でないことを教えてくれる。
こうした変化は全て世界において安全保障の秩序が揺らいでいることを示唆する。ウクライナでの戦争がいつどのような形で終わるかが、新秩序の在り方を決めるだろう。
しかしながら左右両方のポピュリスト政党が同時に台頭し、独裁政権がロシアとイデオロギーで連帯する現状は強い警告を発している。この戦争に勝者がいるかどうかは分からない。だが誰が勝利するにせよ、自由主義的な秩序の再構築は決して保証されていないのだ。【9月10日 Newsweek】
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親ロシア、反ウクライナ、強権的権威主義、反移民・・・・従来の西欧的リベラリズムへの反発が中東欧、欧州で、更にはブラジル前政権やアルゼンチンなど世界で拡大しています。
西欧的リベラリズムへの反発が押し込まれていた箱の蓋をトランプ第1次政権が開け、第2次政権が箱から溢れ出たものの動きを加速させるように思われます。
「エリート」が主張するリベラリズムで顧みられれなかった人々の不満が西欧的リベラリズムへの反発となって噴き出しているようにも。
そういう点では一概にネガティブにとらえるべきではないのかもしれませんが、親ロシア、反ウクライナ、強権的権威主義、反移民といったその方向性には危ういものを感じます。
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