![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/49/d2/e0cb3b17bb75a882a9059f4a973b1aa7.jpg?random=a97f9136c441a094a17b66da72407843)
(2012年に逮捕され、むち打ち1,000回の刑を言い渡されたライフ・バダウィ氏と娘さん 【アムネスティ・インターナショナル】)
【死刑容認国の日米 執行状況には大きな差も・・・刑罰の在り方は様々】
死刑制度を含めた刑罰の在り方は、各国の文化・価値観の違いを反映して様々であり、一概に他国の在り方をとやかく言うのは筋違いである・・・・まあ、確かにそうも言えます。
日本も世界的に見れば、先進国としては死刑制度を認めている少数派で、国際的にはとかくの意見もありますが、日本国内では概ね支持されているように思われます。
日本の死刑執行は厳格な秘密主義のもとで行われます。
法律上、死刑執行には検察官と拘置所長(または代理人)が立ち会わなければなりませんが、家族の立ち会いも認められず、徹底した秘密主義の下で行われています。
日本と同じように死刑制度を認める州があるアメリカの場合は大分様相が異なります。
ドラマなどでよく観るように、死刑執行時に大勢が立ち合います。
****アメリカ合衆国の死刑制度****
刑務所は死刑の執行を公開する義務の下にあり、この刑務所には24名定員の立会部屋(Watch room)があります。
処刑室をガラス越しに見ることのできる立会部屋の1つは、マス・コミ(TV局、ラジオ局、新聞社等)関係者が立ち会うための部屋です。
彼等は執行の場に必ず立ち会うことになっており、総勢で9~10名の枠があります。地元のマス・コミは必ずそのなかに入ることになっており、注目される事件の場合には地元以外のマス・コミはくじ引きとなっています。
私たちの視察に動向した地元政党新聞の記者によると、彼自身も立ち会ったことがあり、その時にはメモ帳とペンを貸与されたと聞きました。
さらに、この報道関係者の部屋を挟み死刑執行室をガラス越しに見ることのできるもう1つの部屋は、被害者の遺族などが立会うための部屋です。
このほか、死刑囚自身が7名の枠内で立会人を指名することができます。
また、職務として、局長、判決を下した判事、検事、郡保安官なども参加することが要求されていると聞きました(但し、判事はめったに来ないとのこと)。【http://www3.osk.3web.ne.jp/~akineko/ME/USA/05.html】
********************
アメリカは日本とは逆に公開が義務づけられているようです。
秘密裡・勝手に当局が死刑執行するようなことを防止する・・・という発想でしょうか。
それはそれで「なるほど・・・」という感もあります。特に、死刑判決に関与した判事、検事、郡保安官の立ち合いが求められるというのは、自身の判断の結末を見届ける責任を果たす意味でも説得的です。
ただ、マスコミ、被害者・加害者の家族が見守る中で・・・というのは、そうしたシーンをドラマで観るたびに違和感を感じます。
【“むち打ち1000回”の刑のブロガーにサハロフ賞】
刑罰の在り方は、各国の文化・価値観の違いを反映して様々・・・・それで、話はサウジアラビアの刑罰制度です。
一般にイスラム諸国ではムチ打ち刑とか公開処刑といったことがありますが、なかでも厳格な宗教戒律が重んじられるサウジアラビアの刑罰執行についてはしばしば論議を呼びます。
イスラムを侮辱したとされるブロガーに対する「むち打ち1000回」の刑も、そうしたひとつです。
****サウジ最高裁、ブロガーへのむち打ち1000回と禁錮刑を支持****
サウジアラビアの最高裁は、ウェブサイトに書いた見解が「イスラムを侮辱している」として市民ジャーナリスト、ライフ・バダウィ氏に言い渡されていた禁錮10年とむち打ち1000回の判決を支持する判断を下した。バダウィ氏の妻が7日、明らかにした。
バダウィ氏は1月9日に港湾都市ジッダのモスクの外で、むち打ち刑1000回のうち最初の50回を受けた。残りのむち打ちの執行は医学上の理由から延期されているが、バダウィ氏の妻は来週にも再開されるのではないかと懸念している。
この件では国連、米国、欧州連合(EU)、カナダなど世界中からの非難の声が上がっていた。
国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは「残酷で不当な判決」を支持した「嫌悪すべき」決定だとして激しく非難し、「表現の自由にとって暗黒の日」だと述べた。
同団体のフィリップ・ルーサー中東・北アフリカ部長は、「ブログを書くことは犯罪ではない。ライフ・バダウィ氏は表現の自由の権利をあえて行使しただけで罰されている」と語った。
バダウィ氏はインターネットのディスカッショングループ「Saudi Liberal Network(サウジ自由ネットワーク)」の共同発起人で、2012年6月にサイバー犯罪の規定を適用されて逮捕された。同グループがサウジアラビアの悪名高い宗教警察を批判したことを受け、裁判所は同グループのウェブサイトの閉鎖を命じた。(後略)【6月8日 AFP】
********************
逮捕理由自体が欧米的価値観から著しく乖離するものであることと、「むち打ち1000回」という刑の残忍さの両方から問題となったケースです。
まともに「むち打ち1000回」を執行したら途中で死んでしまうでしょう。一種の公開“なぶり殺し”でもあります。
どこかの段階で恩赦とかが入るのでは・・・とも思っていたのですが、今のところはないようです。
****サハロフ賞にサウジのブロガー EU欧州議会「表現の自由貫いた」****
欧州連合(EU)の欧州議会は29日、人権や民主主義を守る活動をたたえる今年の「サハロフ賞」に、サウジアラビアの政教分離を主張して背教の罪でむち打ちなどの刑が宣告されたブロガー、ライフ・バダウィさん(31)を選んだ。
シュルツ議長は、「過酷な刑罰に直面しながら、表現の自由を貫いたことをたたえる」と説明。仏ストラスブールの欧州議会で12月に開かれる授賞式に収監中のバダウィさんが参加できるよう、サウジ当局にバダウィさんの釈放を求めた。【10月30日 朝日】
********************
刑の執行は中断されていますが、“授賞式に収監中のバダウィさんが参加”は今のところは考えられません。
欧米側が批判的に取り上げる分、サウジアラビア側も頑なになることも懸念されます。
【イギリスと人権をめぐる外交問題も】
先月には、74歳のイギリス人男性に対するむち打ち刑が、イギリスとサウジアラビアの国家間の外交問題ともなりました。
****英男性にむち打ち刑も=停止訴え、キャメロン首相介入―サウジ****
サウジアラビアで禁制の自家製ワインを所持していたとして拘束された英国人男性に対し、むち打ちの刑が執行される可能性が強まり、家族らが刑の停止と釈放を訴えている。
キャメロン英首相も13日、「極めて懸念される事態」としてサウジ側に対応を求める考えを表明した。刑が執行されれば「人権問題をめぐる外交上の緊張」(ロイター通信)を招く可能性もある。
同通信などによると、男性はサウジ在住のカール・アンドレ氏(74)。2014年8月、自家製ワインを車に積んでいたところをサウジ当局に発見・逮捕され、禁錮1年とむち打ち300回以上の刑を言い渡された。禁錮刑の刑期は終えたものの、現在も釈放されず、むち打ちの執行を待っている状態という。(後略)【10月14日 時事】
******************
キャメロン首相は、中国との関係では、人権問題にめをつぶって経済的利益に走った・・・とも批判されていますが、自国民の生命がかかったこのケースでは見過ごすことはできないということのようです。
なお、サウジアラビアは中東における巨大市場であり、イギリスにとっても武器輸出などの大切なお得意様でもあります。
キャメロン首相の介入もあって、上記の禁制の自家製ワインを所持していたイギリス人男性は近く釈放される見込みだとハモンド英外相が28日発表しています。【10月29日 時事より】
ただ、両国間のわだかまりは解消していないようです。
***首切りやむち打ち――英国がサウジ人権批判、2国関係に暗雲****
サウジアラビアの人権問題への懸念から、英政府が同国での刑務所研修プログラムを請け負う計画を中止し、2国間関係に暗雲が漂っている。
首切りやむち打ちなどイスラム法「シャリア」に基づく厳格な刑罰は、国際人権団体などが強く批判しているが、サウジアラビア政府関係者は、世界でも刑罰への考え方はさまざまで、必要なのは公正な裁判と上訴の制度だと反論する。(後略)【10月30日 BBC】
*****************
【公正さを欠いた社会】
“世界でも刑罰への考え方はさまざまで、必要なのは公正な裁判と上訴の制度だ”(サウジアラビア政府関係者)・・・・刑罰の程度・内容にもよりますが、もっともな言い分でもあります。
ただ、公正な司法制度の前に、何が罪に問われるのか(宗教的価値観は脇に置くとしても)、人命をどれほど尊重しているのか、国籍や身分による差別がないのか・・・公正な社会も必要でしょう。
サウジアラビアの場合、その公正さが問題です。
****虐待通報のインド人家政婦に右腕切断の処罰、サウジの家庭****
サウジアラビアの首都リヤドの家庭で家事手伝いとして働いていたインド人女性(58)が虐待を地元警察に通報した後、雇い主が女性の右腕を切り落とす冷酷な仕打ちを行っていたことが10日までにわかった。
女性の姉妹がCNNに明らかにした。先月30日に起きた事件発覚後、インド政府はサウジ政府に抗議の意思を伝え、雇用主を殺人未遂罪で訴追することを要求。また、第3者による事件捜査の着手も要請した。
CNNはニューデリー駐在のサウジ大使に電話でコメントを求めたが回答はなく、正式な面会手続きを取るよう求められた。
女性はリヤドの病院で手当てを受けている。
インドのタミルナド州に居住する姉妹によると、被害者は3カ月前からリヤドの民家で働き始めた。しかし、給料は支払われず、十分な食事も与えられない劣悪な労働環境を強いられていたという。
サウジ内での家事手伝いの過酷な労働条件はこれまでも再三批判の対象となってきた。先月にはニューデリー駐在のサウジ外交官によるネパール人女性の家事手伝い2人に対する性的暴行や集団強姦(ごうかん)への関与の疑惑も浮上。この外交官は出国していた。
また、インドネシア政府は今年、サウジを含む21カ国に家政婦として自国の女性を送ることを禁止。サウジ内では今年、殺人罪に問われたインドネシア人家政婦2人が斬首刑に処されていた。人権団体は殺人罪の立件の根拠を疑問視していた。
スリランカ政府も自国の女性がサウジ内で家事手伝いとして働く人数を制限している。この措置は、サウジ内で当時17歳のスリランカ人女性が雇い主の乳児殺害の罪で斬首刑を受けた後、打ち出されていた。【10月10日 CNN】
*******************
上記記事にあるように、サウジアラビアにおける外国人家政婦の虐待等の問題は頻発しています。
外国人、あるいは貧者への歪んだ価値観が根底にあるように思えてなりません。
上記事件では、インド政府が抗議しなければ、腕を切り落とした雇い主は問題とされることはなかったのでしょうか?
インド政府の抗議後も、事件として扱われたのかは知りません。
聖地メッカ郊外で9月24日に発生した巡礼者圧死事故の死者数は少なくとも2110人に達したと報じられていますが、この数字は巡礼者の出身国180か国のうち、30か国の当局発表や国営メディア報道を集計して算出されたものです。
サウジアラビア側からは、事故発生から2日後の9月26日にサウジ国営通信が死者数を769人と発表して以降、新たな数字は発表されていません。【10月20日 読売より】
こうした誠意を欠いた対応に最大の犠牲者を出した宿敵イランが怒っていますが、怒りももっともな感があります。
いろいろと事情はあるのでしょうが、2000名以上の犠牲者の命をどのように考えているのか・・・疑いを持たざるを得ません。
****米女性3人がサウジ王子を提訴、米邸宅パーティーで性的虐待****
米ビバリーヒルズの邸宅で開かれたセックスとドラッグ絡みのパーティーに3日間にわたって拘束され、性的虐待を受けたとして、米国人女性3人がサウジアラビアの王子を提訴した。
ロサンゼルスの裁判所に22日に訴えを起こされたのは、ナワフ・ビン・スルタン・ビン・アブドルアジズ・アルサウド王子(29)。原告女性らは、9月下旬に家事手伝いとして雇われたと語っている。
3人のうちの1人は王子に体を押しつけられ、もう1人は「全身をなめてくれ」と頼まれるなど、女性たちは王子から性的に言い寄られ、恐怖を感じたと主張している。王子が警備員を含む邸内で働く全員に対し、プールサイドで裸になるよう命じたこともあったという。
女性の1人がやめてほしいと願うと「私は王子だ。やりたいことをやる。私に対しては誰も何もできない」などと怒鳴ったという。
3人はまた、王子が男性の1人に手伝わせて自慰行為をしながら、コカインと思われる白い粉を鼻から吸っていたところを見たとも話している。(後略)【10月27日 AFP】
******************
一夫多妻制の国ですから、王子もはいて捨てるほどいますが、そうした王族のご乱行もしばしば報じられます。
「私は王子だ。やりたいことをやる。私に対しては誰も何もできない」・・・サウジアラビア国内ではそうなのでしょう。
その王族頂点にいる国王が何をしているかと言えば・・・・南仏コートダジュールの別荘で、「お付き」に加え、仏在住のサウジ国民ら1千人を従えて大バカンスだそうです。
****サウジ国王、南仏バカンス切り上げ 地元との確執原因か****
サウジアラビアのサルマン国王が2日、夏季休暇で訪れていた南仏コートダジュールを突然、後にしたと地元当局が発表した。
サルマン国王一行が休暇を過ごすためにビーチは立ち入り禁止になり、物議を醸していたが、間もなく一般向けに再び公開される見通しだという。(中略)
サウジアラビア大使館側は当初、国王一行は今月20日ごろまで滞在すると発表していた。(中略)
一行の滞在は、王族の安全確保とプライバシー保護のためにビーチが立ち入り禁止にされたことから地元民の怒りを招き、世界的な話題となって、公共のビーチの「私物化」に抗議して15万人以上が署名する事態にまで発展していた。
国王の側近の間からは、周囲の視線が不快だとの不満の声も漏れていた。国王一行が滞在を切り上げたのが、ビーチ封鎖をめぐる論争が原因かどうかは今のところは分かっていない。【8月3日 AFP】
******************
価値観の押し付けはよくない・・・とは言いますが、どうもサウジアラビア社会における価値観には欧米や日本の価値観にそぐわないものが多々見受けられます。ありていに言えば、著しく公正さを欠いているようにも思えます。
そうした状況にあって“世界でも刑罰への考え方はさまざまで、必要なのは公正な裁判と上訴の制度だ”と言われても、直ちには納得できないというのが実感です。
なお、言うまでもなく、サウジアラビアはスンニ派の盟主であり、最大の石油出国です。日本にとって最大の原油輸入国です。そして中東の地域大国として、“民主主義の守護者”を自任するアメリカの中東における最大の同盟国です。
アメリカが敵視してきたイランも人権問題は多々抱えていますが、同盟国サウジアラビアもイラン同様に、場合によってはイラン以上に問題を抱えています。
なお、シリア難民を何故サウジアラビアなど中東の金持ち国が受け入れないのか・・・・とも批判されますが、“サウジアラビアには900万人を超える移民労働者がおり、その多くが奴隷のような状況で働かされている。雇用主が身元引受人制度を悪用してパスポートを取り上げ、賃金未払いのまま強制的に働かせている場合も多い。”【5月21日 HUFFINGTON POST】という現状にあっては、サウジアラビアに受け入れさせるのはかなり問題です。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます