孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

存在感を増す中国外交 南シナ海、ミャンマー、ネパール、そしてジンバブエ

2017-11-29 22:11:37 | 中国

(握手を交わすアウン・サン・スー・チー氏と習近平氏(5月15日)【11月29日 WSJ】)

【「相互尊重、公平、協力、ウィンウィンを旨とする新型の国際関係と人類運命共同体の構築」】
中国・習近平国家主席は今月10,11日に開催されたアジア太平洋経済協力会議(APEC)の関連会合で、「中国は相互尊重、公平、協力、ウィンウィンを旨とする新型の国際関係と人類運命共同体の構築を進めていく」と演説していますが、その考えを具現化したものが現代版シルクロード経済圏構想「一帯一路」であるとされています。

普段、無表情・仏頂面が多い習近平主席ですが、一連の会談などでは、“柔和な微笑み”が目だったとか。

“その微笑みの陰にはしたたかな覇権主義が・・・”というのは、ある意味、中国に限らずどこの国でも当然の話ですが、微笑みをふりまけるのは影響力を増す中国外交への自信の表れともとれます。

****中国 覇権主義隠した“微笑外交” 「一帯一路」で共存共栄唱え着々****
・・・・中国の覇権主義に対抗する形で日米首脳は「自由で開かれたインド太平洋戦略」を提唱した。ただ米国やアジア各国に対し、懐柔策や離間策を駆使する中国のしたたかな外交戦略が際立った感は否めない。
     ◇
中国の習近平国家主席は、ベトナムにおける日本、韓国、東南アジア諸国との首脳会談などで強面を封印し、“微笑外交””を繰り広げた。

10月の中国共産党大会で打ち出した「強国」路線を柔和なベールで覆い隠しつつ、中国主導で「新型の国際関係」構築を目指す2期目の習外交が始動した。
 
一連の会談で話題となったのが、習氏の柔和な表情だった。安倍晋三首相との会談では、仏頂面だった過去の会談との違いがメディアで取り上げられ、日中の関係改善を印象付けた。
 
習氏はほほ笑みを浮かべる裏で、自身の早期訪日を望む日本や、対中関係の修復を望む韓国から譲歩を勝ち取るアメとムチの外交を展開。南シナ海問題で日本の対中批判を押さえ込み、日米韓の安全保障協力では韓国から対中配慮を引き出すことに成功を収めた。
 
習氏は党大会で、「今世紀半ばまでにトップレベルの国家になる」と宣言。強国路線を邁進する方針を示し、それを支える「大国外交」の強化をうたった。
 
これに対し、中国の覇権主義や膨張主義を警戒する国際社会の声は高まっている。習政権としては、「強国」「大国」を包むオブラートが必要だった。「ウィンウィン」(共栄)を掲げた新型の国際関係や「人類運命共同体」、現代版シルクロード経済圏構想「一帯一路」である。(後略)【11月16日 産経】
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2期目を周辺外交立て直しからスタート
一連の会議に続いて、習近平主席は社会主義体制のベトナム、ラオスを訪問し、周辺外交の立て直しを進めています。

****習新体制の外交、社会主義国重視 ベトナムとラオス訪問****
中国の習近平(シーチンピン)国家主席は14日、ベトナム、ラオスの公式訪問を終えた。習氏は10月の共産党大会を経て総書記に選出され、周辺外交の立て直しを進めている。

2期目に入って初となる外遊はまず、政治的な価値観を共有できる社会主義体制の隣国2カ国を訪ね、関係強化を図る姿勢を示した。(中略)

そのなかで習指導部が重視するのは、ロシアやベトナムなどといった旧・現社会主義国だ。党大会後にはロシアのメドベージェフ首相やベトナム特使らを北京に迎え、党大会の内容を報告するなどした。
 
王毅(ワンイー)外相は国営新華社通信が14日配信したインタビュー記事で「習近平主席のアジア太平洋経済協力会議(APEC)の出席と社会主義の隣国への訪問は、新時代の中国の特色ある大国外交の新たな気風を示した」と説明。両国訪問は「中国が社会主義事業の発展を支持する明確なシグナルを出した」とした。
 
中国は、北朝鮮の核・ミサイル開発問題など外交上の課題が山積しており、まず「社会主義」の共通項でつながることのできる国との関係を強化したうえで課題に取り組む構えだ。【11月15日 朝日】
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先ずは足場を固めて・・・といったところのようです。

【「ウィンウィン」の米中関係で、南シナ海に波立たず
懸案事項であった南シナ海問題の方は、トランプ政権が積極的関与を示さない状況(あるいは、トランプ政権の中国への配慮)で、中国ペースでことが運んでいます。

****<トランプ氏>中国へ配慮にじむ 南シナ海問題の発言乏しく****
トランプ米大統領は日中韓3カ国訪問で、北朝鮮の核・ミサイル問題に関し、解決への意欲と、軍事的脅威にひるむことなく対抗する強い姿勢を打ち出した。一方、これとは対照的にベトナム、フィリピン訪問の際には、東南アジア地域の安全保障に積極的に関与しようとする発言は多く聞かれなかった。
 
発信の乏しさの背景にあるのは、中国による南シナ海への海洋進出問題を正面から提起しない、とする米政権の政策判断がある。

トランプ氏は8〜10日の訪中時、習近平国家主席に対し、南シナ海での軍事拠点化など力による現状変更と既成事実化をやめるよう強く迫るような場面はなかった。

米国としては太平洋軍による「航行の自由作戦」の回数を増やすなど存在感は強めつつも、首脳級協議など外交の場では争点化しないことで、北朝鮮対応や貿易不均衡是正など、他の政策課題分野で協力を得る狙いがあった。(後略)【11月14日 毎日】
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こうしたトランプ政権の姿勢があって、東南アジア諸国連合(ASEAN)は南シナ海問題については、人工島造成で軍事拠点化を進める中国を念頭に「非軍事化と自制の重要性を強調する」と明記したものの、過去の声明で示してきた「懸念」を表明しておらず、中国に配慮した内容となったことは周知のところです。

“12日のベトナムのクアン国家主席との会談で、南シナ海問題に関してトランプ氏が提案したのは「仲裁役」になることであり、地域の「守護役」ではなかった。”【同上】

アジアに特段の関心もなく、戦略も持ち合わせていないトランプ大統領は、中国との「ウィンウィン」の関係を構築する方向で、中国が主張する“太平洋を米中で東西に分け合う”という考えに、今後ますます近づくように思われます。

ロヒンギャ問題でミャンマー取り込みのチャンス
現代版シルクロード経済圏構想「一帯一路」の要となるミャンマーにおいては、軍事政権から民主化路線への転換に伴って、中国は影響力を低下させたように見られていましたが、昨今のロヒンギャ問題で国際的批判を受けて窮地に立つスー・チー政権に手を差し出す形で、再び積極外交に転じています。

****ロヒンギャ問題、好機とみる中国が積極外交****
レックス・ティラーソン米国務長官が先週、ミャンマーによる少数民族ロヒンギャに対する弾圧を「民族浄化」と表現していたとき、ミャンマーの軍トップは別の国の旧友たちを訪問していた。中国だ。
 
この軍トップはミャンマー国軍のミン・アウン・フライン司令官で、今月21日に北京にある中国人民解放軍(PLA)本部で儀仗隊の歓迎を受けた。(中略)

ミャンマー国営メディアによれば、ミャンマーの文民指導者であるアウン・サン・スー・チー国家顧問兼外相も近く北京を訪問する。これは、ミャンマーによるロヒンギャの扱いに世界的な批判が集中しているなかで、中国がミャンマー指導者たちをいかに丁重にもてなそうとしているかを浮き彫りにしている。(中略)
 
中国はといえば、今がミャンマーとの関係を再構築する良い機会だと感じている。
 
ワシントンのシンクタンク「スティムソン・センター」の上級アソシエート、ユン・スン(孫韻)氏は「中国はこれを戦略的な機会だと認識している」と述べ、「これはミャンマーの政府と国民の信頼を勝ち取るチャンスだ」と語った。
 
ミャンマーの軍政時代、中国は長年にわたって同国経済を支援してきた。しかし両国の関係は、ミャンマー軍部指導者が2011年に民主改革を導入し始めると悪化した。(中略)
 
中国との関係冷却化で中国の水力発電プロジェクトが凍結され、日本や欧米による投資がミャンマーに流れ始めた。その結果、中国はミャンマーの唯一の支援国としての座から脱落した。

インド洋に進出する上で最良の機会
現在、中国はその失われた影響力を取り戻しつつある。中国は水力発電所を含む停滞プロジェクトを復活させ、総額73億ドル(約8100億円)の港湾・パイプライン・プロジェクトを通じてミャンマーのインド洋沿岸にアクセスしようと試みている。(中略)

中国のこうした外交上・商業上の動きは、ユーラシア全域におけるインフラ構築と貿易拡大を狙う習主席の巨大な「一帯一路」構想の一部だ。それはまた、狭くて容易に封鎖できるマラッカ海峡を通航する石油輸送への中国の依存度を軽減できるだろう。(中略)
 
これまでのところ、中国は国連の場でミャンマーを肩入れした一方、中国の王毅外相はミャンマーとバングラデシュの間で合意をとりもつのに中心的な役割を演じた。バングラデシュに逃げ込んだ数十万人のロヒンギャ難民を最終的にミャンマーに帰還させる合意だ。
 
リスク・コンサルタント会社「アジア・グループ・アドバイザーズ」でディレクターを務めるロマン・キャイヨー氏は「中国の現時点での全体的な目標は、ミャンマーの政府と軍部に対し、何が起ころうとも中国がミャンマーの味方であることを誇示することだ」と述べ、「ビジネス合意を交渉したり推進したりする時期が到来した場合、そうした支援の実績がものを言うだろう」と語った。

ミャンマー政府によれば、中国は既にミャンマーに対する累積投資額で最大の国となっており、1988年以降で185億3000万ドルを支出している。(後略)【11月29日 WSJ】
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中国が「今世紀半ばまでにトップレベルの国家になる」と本当に考えるのであれば、国際的批判を浴びる国を抱き込んで・・・といった隙間外交は卒業する必要がありますが、現実はなかなか・・・。

“国際的批判”自体が欧米的価値観に基づくもので、その多くは内政干渉だ・・・という考えなのでしょうが、“トップレベルの国家”になったときどのような理念で世界をまとめ、リードしようとするのか?カネがすべてでしょうか?

アメリカ・トランプ大統領はその役割を放棄しつつあるなかで、その方面に関心がない中国が“もうひとつの大国”となるということで、世界はリーダーを失いつつあります。

ネパールではインドと“綱引き”】
南アジア・ネパールではインドとの“綱引き”が展開されています。現在実施されている総選挙の結果次第で流れが大きく変わります。

****<ネパール>親印か親中か 新憲法下で初の下院選****
中国とインドに挟まれた内陸国ネパールで26日、2015年の新憲法施行後初となる下院選(定数275議席)の第1回投票が行われた。

親印の与党・ネパール会議派を中心とする「民主同盟」と、中国寄りとされる野党連合「左派同盟」が争う構図で、今後の外交方針を占う選挙となりそうだ。
 
26日は北部32地区で投票を実施。12月7日に首都カトマンズなど残る45地区で行われ、12月中旬ごろに小選挙区(165議席)と比例代表(110議席)の結果が発表される。
 
地元メディアなどによると、ネパールは今年5月、中国が提唱するシルクロード経済圏構想「一帯一路」に参加し、鉄道や道路などを建設することで合意。だが、その後に発足したネパール会議派政権は今月13日、中国の支援で建設予定だった水力発電所計画を取りやめると発表し、親印姿勢を示した。
 
一方、第2党の統一共産党と第3党のネパール共産党毛沢東主義派(毛派)が結成した「左派同盟」は政権を取った場合、この計画を復活させると宣言している。

ネパールは常に中印間のバランス外交を迫られているが、今回の選挙の結果次第で比重の置き方が変わりそうだ。
 
(中略)連邦共和制に移行してから9年間で9回も首相が交代するなど不安定な政情が続いただけに、今選挙は、過半数を占める安定政権が成立するかも焦点だ。

地元紙のシャンブー・カトル記者は「選挙は新憲法下での安定に向けた最初のステップ。政治が安定すれば経済開発に集中できるだろう」と期待を寄せた。【11月26日 毎日】
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2015年に発生したマグニチュード(M)7超の大地震からの復興が一向に進まないネパールでは、「これまで政府は再建に十分な支援をしてくれなかった。家が再建できるなら、中国が背後にいようと知ったことではない」といった住民の声も。【11月26日 時事より】

ジンバブエ政変で確固たる地位を
海を越えてアフリカ。先ごろ事実上の“クーデター”でムガベ独裁政権が終わったジンブブエでも、政変の背後に中国の存在・ダイヤモンド採掘利権が指摘されています。

****政変の裏に中国ダイヤ利権****
国軍と密接なパイプを保ち、ダイヤ採掘に利権を持つ中国はムガベ退陣を暗黙のうちに支持し、政治・経済を掌握した

ついに幕が下ろされた。ジンバブエの政変は11月21日、ロバート・ムガベ大統領が辞任。37年に及ぶ長期支配に終わりを告げた。だがムガベ政権の弱体化は、数年前から明らかだった。
 
与党のジンバブエ・アフリカ民族同盟愛国戦線(ZANU-PF)は2つの派閥に分裂し、いずれも93歳になるムガベつ後釜を狙っていた。

一方は大紋領の妻グレースが率いる「ジェネレーション40(G40)」で、政界の若手指導者が支持していた。
 
対する「ラコステーグループ」は、独立闘争時代からの古参指導者が中心の勢力だ。ラコステの名は、前副大統領で新大統領となったエマーソン・ムナンガグワにちなむ。

南ローデシアと呼ばれた英植民地時代に黒人が少数派白人支配と闘った頃、ムナンガグワは政治的な抜け目なさから「クロコダイル」の異名を取った。ラコステ派は歴史的に、コンスタンティノ・チウェンガ司令官の率いる国軍と密接な関係にある。
 
グレースは贅沢好きで、夫の後継者になりたがっていることでも知られていた。一方のムナンガグワはムガベの腹心であり、80年代の大量虐殺で少数民族ンデベレ人を弾圧した残忍さで悪名高い人物だ。
 
今回の政変が始まったのは11月14日。軍が大統領を自宅軟禁下に置いてG40関係者の身柄を拘束し、6日に副大統領を解任されていたムナンガグワの大統領就任を実現させた。

この一連の流れについては詳細に報道されているが、政変の持つ国際的な意味はほとんど知られていない。
 
とりわけ報じられていないのが、政変に絡む中国の役割だ。中国は公式に否定しているが、たとえ暗黙の了解にしても、軍の動きを支持したようだ。

当初はG40に近かった中国だったが、ジンバブエ軍とムナンガグワと通じたためにラコステ派支持に転じたとみられる。

銃から戦闘機まで売却
(中略)90年代以降、中国はジンバブエとの経済関係を強化し続け、鉱業や農業、子不ルギー産業、建設業に積極的に投資した。
 
15年、ジンバブエにとって中国は最大の輸出相手国となり、外国からの直接投資の74%を占めるようにもなった。(中略)
 
ラコステ派の力の源泉である軍とも、中国は緊密な関係にある。銃砲から戦闘機に至るまで、さまざまな装備をジンバブエ軍に売却してきた。中国は、新設された国軍大学の建設費も提供している。
 
軍事協力とともに取り沙汰される問題がある。ジンバブエ東部マラング地方のダイヤモンド採掘場の収入が、中国からの兵器購入に流用されたという指摘だ。採掘場への主な投資企業は、中国の按針インベストメンツだ。

中国側は、ムガベ政権の「現地化政策」がダイヤ採掘ビジネスに影響するのではないかと懸念していた。この政策では、外資企業の株式の51%以上をジンバブエ人が保有するとされていた。
 
実際、12年から按針など中国企業2社が株式の51%をジンバブエ人に保有させる形で操業を開始。だが15年、ジンバブエ政府はこの事業を国営企業ジンバブエ統合ダイヤモンド会社(ZCDC)の下に置くこととした。
 
中国政府はこれに強く反発し、両国関係は悪化。16年に中国は、ムガベ政権による反政府勢力弾圧を支持することを拒んだ。
 
中国がダイヤ採掘事業に絡んで受けた不利益は、ジンバブエ軍にも波及した。軍部はチウェンガ司令官の下、中国企業2社と協調関係にあったと伝えられる。例えば按針インベストメンツの株式の30%は、子会社を通じて軍部が握っているという。 

軍とダイヤ業界の結び付きは、ムガベ政権高官らの懐を肥やしている。ジンバブエが98~02年のコンゴ内戦に介入した際も、ムナンガグワは軍を利用したダイヤの違法採掘で儲けたと国連から批判された。
 
ムナンガグワは副大統領を解任された後、中国に渡ったと報じられている。(中略)チウェンガも11月8~10日に訪中したが、これは以前から予定されていた公式訪問だった。(中略)
 
中国はジンバブエ政変へのいかなる関与も否定し、静観する姿勢を示しただけだった。しかしムナンガグワが新大統領となり、国軍のチウェンガの後ろ盾も得るとなれば、中国はジンバブエの政治・経済を掌握したも同然だ。
 
そして中国の利益にとって不可欠な地域の安定も約束される。【12月5日号 Newsweek】
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“政変”の結果、ジンバブエにおける中国の地位は確固たるものになるようです。

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