(中国マカオ特別行政区で19日、祖国復帰25周年を祝う文芸公演が開かれた。【12月20日 新華社】)
【行政長官に初の本土出身者 本土との融合の象徴、「横琴島」開発】
*****マカオ返還25周年式典に習近平氏出席 「1国2制度」の成果強調****
マカオがポルトガルから中国に返還されて25年となった20日、マカオで記念式典が開かれ、中国の習近平国家主席が出席した。新華社通信によると、習氏は演説で「返還後にマカオが得た輝かしい成果は、『1国2制度』が強国建設と民族復興の偉業に資する良い制度だと示している」と述べ、中国が主導するマカオ統治の正当性を強調した。
1887年にポルトガルに割譲されたマカオは1999年12月20日に中国に返還され、特別行政区となった。英国から返還された香港同様、1国2制度を導入して50年間は高度な自治が約束された。
だが近年、香港とともに、中国による統制強化が進む。2021年の立法会(議会)選挙では民主派の立候補が禁じられたが、マカオ社会に民主主義を求める機運は乏しい。
習氏は演説で、香港やマカオの統治について「『1国』を基本として『2制度』の利点を生かすことや、高いレベルの安全を維持して質の高い発展を進めることが必要だ」と主張した。
20日にはマカオ政府トップの行政長官に岑浩輝(しんこうき)氏(62)が就任した。岑氏は中国南部・広東省出身で、マカオ終審法院院長(最高裁長官)を務めた。
返還後のこれまでの行政長官3人はいずれもマカオ生まれで、中国本土出身者は初めて。任期は5年。10月の選挙では他に立候補はなく、各界の代表で構成する選挙委員400人のうち394人の票を得た。
マカオメディアによると、岑氏は就任式で習氏に向かって宣誓し、「偉大な祖国の後ろ盾と住民の団結で、マカオという宝石はさらに輝けると信じる」と述べた。カジノ関連産業に依存する経済の改革が課題となる。”【12月20日 毎日】
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初の中国本土出身の行政長官をいただき、「新たな段階」に向かって中国との一体化が進むと思われます。
****マカオ返還から25年、一国二制度「新たな段階」に…習近平主席は強国建設への貢献を要求****
(中略)習近平国家主席が記念式典で演説し、マカオに適用される一国二制度は「新たな段階に入った」として強国建設への貢献を求めた。マカオは返還後50年は高度な自治を認められているが、その折り返しを迎える中、習政権は中国本土との一体化を加速させている。
習近平主席は「経済建設」に重点
習氏は一国二制度について、あくまでも「一国が原則」とし、「国家の主権、安全、発展の利益が何よりも優先される。中央(政府)の管轄権はいかなる時も揺るがない」と強調した。
習政権が米欧とは異なる独自の発展を目指す「中国式現代化」を推進していることにも触れ、「マカオの一国二制度の実践も新たな段階に入った」として発展への貢献を要求。マカオ政府に経済改革などを求めた。
習氏は、2019年のマカオ返還20年の記念式典の演説では、香港で反政府抗議運動が起きたことを受けて「国家安全」を強調したが、今回は中国の景気減速を受け、「経済建設」に重点を置いた模様だ。
行政長官に初の本土出身者
習氏は演説で「マカオ人によるマカオ統治」に言及したが、20日にマカオ政府トップに就任した岑浩輝しんこうき・行政長官は広東省出身で、初めて本土出身の行政長官となった。10月の行政長官選挙で岑氏が唯一の候補者だったのも、習政権の意向があった可能性がある。
マカオ経済はカジノ産業に依存し、コロナ禍で大打撃を受けた。改革の必要性は長年指摘されてきたが、これまでの行政長官は地元財界出身だったことから、「痛みを伴う改革ができなかった」との指摘もある。
習氏は、マカオ終審法院(最高裁)院長を25年間務め、地元財界との縁が薄い岑氏に「経済の適度な多元化」の実現を期待するが、「マカオ人による統治は崩れた」(外交筋)との声も上がる。
本土との融合の象徴、「横琴島」開発
演説で習氏がマカオと本土の融合を図る象徴として挙げたのが、マカオの西隣にある中国広東省珠海の横琴島の開発だ。21年、マカオと広東省が共同開発する区域に格上げされた。
開発の余地が限られる狭いマカオの3倍の面積がある横琴島で発展を促したい考えで、島内には昨年秋、マカオ住民のための27棟の高層マンションが完成した。
しかし、住民からは「マカオとの行き来が不便」といった声も上がり、全4000戸のうち売約済みは3割程度にとどまる。科学技術など先端企業の誘致を目指す産業区も人影はまばらだ。マカオ住民の意向を無視した、本土との「融合」ありきの開発が突き進んでいる。【12月21日 読売】
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【マカオってどんなところ?】
そもそも「マカオ」というのはどういうところなのか・・・国際金融都市で世界有数の観光都市でもある香港は馴染みも深く、また、これまでも民主化や中国当局の弾圧などで頻繁に取り上げられていますが、マカオというと「カジノがあるところ」ぐらいのイメージしかありません。
ある意味、パレスチナ・スーダン・コンゴより馴染みがない・・・。アジア方面を頻繁に観光していますが、これまでマカオに行こうと思った事は一度もありません。「マカオって、カジノがある中国なんでしょ」って。
****「アジアのラスベガス」、マカオの住民の暮らしぶりとは****
マカオは中国の特別行政区(SAR)で、香港と比較されることが多い。また大中華圏でギャンブルが合法である唯一の場所であり、「アジアのラスベガス」として知られる。人口は香港の700万人に対し、わずか60万人ほどだ。
マカオは、北のマカオ本島と南のタイパ島の二つの島で構成されている。かつては2島間を船で移動していたが、1972年に二つの島を結ぶ最初の橋が完成した。現在は3本の橋が架かっており、4本目も建設中だ。
わずか40平方キロメートルの世界
世界の人々は、マカオといえばギャンブルを思い浮かべるかもしれないが、マカオの住民は必ずしもそうではない。
マカオで最も古い家族の出身で、8代目のマカオ人であるマリナ・フェルナンデスさんは、ポルトガル語と中国語が混ざったパトゥア語を話す。
フェルナンデスさんによると、地元の住民はめったにカジノには行かず、ギャンブルをしにカジノに行く人はごくわずかだという。また公務員はカジノへの立ち入りを禁止されており、ギャンブルは地元の住民向けというより、観光客向けの娯楽だとフェルナンデスさんは言う。
マカオの生活費の上昇により、カジノや高級店の従業員の中には、マカオに隣接する比較的物価の安い中国本土の都市、珠海(しゅかい)から通勤する人が増えており、それに伴い、広東語ではなく標準中国語を話す従業員も増えている。
マカオは特別行政区であるため、珠海・マカオ間の往来には国境検問所を通過する必要があるが、中国の身分証を保有するマカオの永住者と市民は専用のレーンがあり、審査が迅速に行われる。
2021年のマカオの国勢調査によると、マカオの総人口のおよそ6分の5は中国系で、ポルトガル系はわずか数千人しかいない。
ポルトガル語は現在もマカオの公用語であり、標識や政府文書はポルトガル語の使用が義務付けられている。しかし、多くの地元住民は、特に1999年のマカオ返還(マカオの主権がポルトガルから中国に返還された)に先立ち、ポルトガル語ではなく英語や標準中国語を学ぶ選択をした。
インフラの整備が課題
タイパ島東部にあるマカオの空港は、小規模でターミナルも一つしかないが、近代的で、空港内の移動も容易だ。周辺地域からのフライトが大半で、シンガポール、ジャカルタ、ハノイ、バンコク、北京などへの定期便があるが、北米や欧州への長距離便に乗るには近くの香港、深圳、広州に行く必要がある。
現在、中国は香港、マカオ、広東省の9都市を結ぶグレーターベイエリア(GBA)の接続・促進を目的とした多くのプロジェクトを進めており、2018年に完成した、香港・珠海・マカオを結ぶ世界最長の巨大な海上橋、港珠澳(こうじゅおう)大橋もその一つだ。
一方、マカオ内部のインフラは十分に整備されているとは言い難い。車を持たない地元住民は主に公共バスを利用している。
香港には効率的で、よく整備された地下鉄があるが、19年に開業したマカオ唯一の鉄道、マカオLRTは今のところ一路線しかない。また米配車サービス大手ウーバーは17年にマカオでのサービスを中止しており、市内を走るタクシーは現金払いのみだ。
外国人に厳しい労働政策
マカオはその規模の小ささゆえに、外国人に対して厳しい労働政策を実施している。
リスボン出身のリカルド・バロカスさんは、13年に欧州からマカオに移住して以来、さまざまな職に就いてきた。
バロカスさんのようにマカオに移住した外国人の大半は、マカオで7年間居住、労働、納税をした後に永住権を取得する資格を得る。永住権があれば、労働ビザやスポンサー企業がなくてもマカオに居住可能だ。
マカオ政府発行の身分証明書(IDカード)を持つ居住者は、特別行政区の医療サービスを利用できる。またマカオ市民と永住者には、特別行政区政府から年間1万パタカ(約20万円)の手当が支給される。
しかし、フィリピンなど、マカオよりも貧しい地域から来た労働者の多くには別のルールが適用される。多くのフィリピン人は、家政婦や警備員として働くためにマカオにやって来るが、彼らは地元住民と結婚しない限り、永住権や市民権の資格を得ることはできない。(中略)
バロカスさんは「本音を言うと、マカオに来た人たちにはぜひ、カジノから出てきて、街の中を探索してもらいたい」と述べ、「マカオには美しい美術館や街並みなど、探索すべき場所が山ほどある」と付け加えた。【7月6日 CNN】
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【香港との違いは? アイデンティティーの差か】
香港と同じような「一国二制度」を導入しながら、香港が激しい民主化運動を経験した(今では完全に封じ込まれましたが)のに対し、“一国二制度の優等生”マカオについては、そのような話をほとんど聞かない。その差はどうして?
下記記事は5年前の香港で民主化運動が行われていた頃のもの。
****香港と同じ一国二制度 マカオではなぜ反中デモが起きないのか****
マカオを訪問中の中国の習近平国家主席は19日、夕食会で演説し、中国への返還20周年を迎えるマカオが「愛国」を「民主、法治、人権、自由」より優先したと称賛した。
デモが続く香港を牽制した形だが、香港と同じ一国二制度を享受するマカオでなぜ「愛国」が進み、反中デモが起きないのか。一国二制度の優等生が誕生した背景を探った。
マカオと香港の違いはまず、それぞれの旧宗主国であるポルトガルと英国によって形成された。
マカオでは1966年に中国系住民による大規模な暴動が発生、中国系住民側に死者が出た。反発した中国政府は人民解放軍を国境に集結させ、謝罪と賠償を要求。譲歩を余儀なくされたポルトガル政府とマカオ政庁の権威は失墜した。
マカオ立法会(議会)の民主派議員、蘇嘉豪(そ・かごう)氏(28)は「以後、マカオは親中派に牛耳られた。返還前に英国が民主化を進めた香港とは違う」と話す。
こうした歴史的背景に加え、返還前夜の状況もマカオの中国化を加速させた。
マカオでは99年の返還が近づくにつれ、中国の体制下に入る前にカジノの利権を確保しようと暴力団の抗争が激化、治安が極度に悪化した。このため返還と同時に駐留を開始する人民解放軍に、治安回復への期待を寄せるマカオ市民が多かった。進駐を拍手で迎えた市民もいたほどだ。
「香港の若者が今、抗議の声を上げているのは閉塞感があるからだ。マカオの若者とは異なる」と経済的背景の違いを強調するのは立法会の民主派議員、区錦新(く・きんしん)氏(62)である。
返還後、カジノ市場を開放したマカオは、昨年までの19年間で域内総生産(GDP)が9倍に激増。平均給与も3倍以上に増えた。
「マカオの経済発展の最大の受益者は若者たちだ。生きる権利が脅かされていると感じている香港の若者たちとは異なる」という。
一方、マカオ大社会科学学院の楊鳴宇(よう・めいう)准教授(32)は、アイデンティティーの問題を指摘する。
「香港では自らを香港人と考える人が増えている。香港映画、香港音楽といった香港人意識を醸成するような文化もあるが、マカオにはない。自らを中国人と考える人が多い」
マカオには、マカオ人として結集する土壌がまだないというわけだ。
国家分裂や反乱の扇動、政権転覆を禁じた「国家安全法」(2009年制定、香港は未整備)がマカオ市民への無言の圧力となり、「自己規制が進んでいる」(蘇氏)との見方もある。
これらの違いは政治状況にも反映されている。
立法会における民主派議員は、香港で定数70のうち23人を占めているが、マカオでは定数33のうち4人にとどまっている。
ただ、マカオでデモが起きないわけではない。14年5月には、政府高官に巨額の退職金と年金を支給する法案への抗議デモが行われ、主催者発表で2万人が参加。法案を撤回させた。
「マカオ市民は香港のように自由や民主ではなく、政府の悪政に立ち上がる。黙っているわけではない」と蘇氏は話す。
こうした市民の声を政治に反映させようと、マカオの民主派は香港の民主派同様、行政長官選に普通選挙を導入するよう求める運動を続けている。【2019年12月19日 産経】
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旧宗主国の統治の違い、返還後の経済改善の度合い、返還後の政治体制の違い・・・などがあげられていますが、一番の違いはアイデンティティーの問題ではないでしょうか。
香港は国際金融都市、世界有数の観光都市として世界に胸をはれるものがあり、結果的に中国本土を「遅れた国」「民度の低い国」と見下すようなところもありました。中国と香港のネット社会で激しい罵り合いもありました。
そうした中で「香港人」としてのプライドやアイデンティティーも形成され、その政治的あらわれが中国的統治への拒否感・民主化運動でもありました。「自分たちは中国なしでもやっていける」という思いも。
一方のマカオにはカジノ以外にめぼしいものはなく、そのカジノも民衆には縁遠く、厄介なもの。中国の統治を受け入れるなかで生活は格段に向上・・・抗議が起こる土壌がなかったと言えます。
【香港 民主化運動の幕引き図る習近平政権】
しかし、民主化運動に挫折した香港も1周遅れでマカオと同じような軌跡に。
習近平政権は香港でも「仕上げ」にとりかかっています。
****「愛国者による統治」進める習近平政権、狙い通りの幕引き 香港民主派45人量刑****
香港で19日、45人の民主活動家に一斉に量刑が言い渡された。
罪となったのは民主主義に基づいて実施された予備選に関わったことで、香港国家安全維持法(国安法)による民主化運動の弾圧を象徴する判決だ。「愛国者治港(愛国者による香港統治)」を進める中国の習近平政権の狙い通りの幕引きとなった。
判決後に親指立て笑顔
「我愛香港(私は香港を愛している)。バイバイ!」。この日、法廷には45人の被告全員が出廷した。量刑の言い渡しが終わった後、著名な民主活動家で、禁錮4年8月の判決を受けた黄之鋒(ジョシュア・ウォン)氏(28)はこう叫んで、法廷を後にした。
黄氏は、国安法施行後も「中国の独裁政権に反対する」と公然と主張し続ける強硬派として知られた。予備選に出馬した民主活動家たちの中心的メンバーだった。
今回の裁判では刑の減軽などを図るため罪を認めたものの、他の被告のように情状酌量を求める文書を裁判所に提出することはなかった。
黄氏同様、予備選に出馬し、多くの市民から支持されたのが何桂藍氏(34)だ。ネットメディア「立場新聞」の元記者で、2019年の反香港政府・反中国共産党デモの最前線でネット中継を行い、若者たちから「立場姉ちゃん」と親しみを込めて呼ばれていた。
何氏は罪を認めず、法廷で起訴事実を争った。「香港人は、政権があらゆる面をコントロールする制度の下で生きることを望んでいない」などと主張、自らの情状酌量も求めなかった。
結果、この日の判決は禁錮7年という重刑となった。しかし何氏は言い渡しを受けた後、傍聴席に向かって親指を立てて笑顔を見せたという。
判決の影響、香港政府は考えるべき
香港では民主派が大量に検挙されて以降、選挙制度の見直しが進み、立法会選に民主派が出馬することさえ難しくなっている。愛国者、つまり香港よりも中国共産党を愛する親中派一色に染まってしまった観がある。
こうした中、量刑の言い渡しが行われた裁判所には19日朝、500人を超える市民が傍聴券を求めて詰めかけた。「法廷に入れなくても(45人を)応援する姿勢を示したい」と話す市民もいた。
民主派団体の元代表で、自身も無許可集会に参加した罪などで約1年半入獄した経験がある陳皓桓氏(28)は取材に対し、「今日の判決は予備選で投票した約61万人の市民に対する判決であり、市民への弾圧だ。判決の影響がどれだけ大きいのか香港政府は考えるべきだ」と語った。【11月19日 産経】
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中国の強靭・圧倒的な力はチベット・新疆を抑え、マカオ・香港を平らげ、残る目標は台湾
台湾では香港以上に「台湾人」としてのアイデンティティーが強く、香港のように本土の手足となって動く現地当局もありません。
中国にとって有効な方法は経済的つながりで揺さぶることでしょう。
台湾内で中国との経済的つながりを重視する勢力が増えれば、社会不安も増大。そうした揺れ動く状況で、親中国勢力の要請を受けたという形で軍事進攻・・・