(ローレル・ハバード選手:コモンウェルスゲームズ ゴールドコースト2018【オリンピック公式サイト】)
【基準をクリアして参加した元男性重量挙げ女性選手に批判も】
「世界中の人々が多様性と調和の重要性を改めて認識し、共生社会をはぐくむ契機となるような大会とする」ことを掲げる今大会にあって、今日はジェンダーに関する話題。
今日(8月2日)の女子ウエイトリフティングに、元男性でトランスした選手が出場しますが、そのことに対し“不公平”との批判があります。
なお、国際オリンピック委員会(IOC)が定めるトランスジェンダー選手の参加基準によると、トランスジェンダーの選手が女子として出場する場合、大会前の少なくとも12カ月間、テストテトロンの血中濃度が1リットルあたり10ナノモールを下回っていなければならないとのこと。
出場するトランスジェンダー選手はこの基準をクリアしています。
****元男性が女子の重量挙げに出るのは不公平じゃないの? 五輪史上初のトランスジェンダー選手にくすぶる批判****
<重量挙げのローレン・ハバードは男子として国内ジュニア記録を打ち立てた選手。女性になってもその自分を自分らしく貫きたいだけ──しかし、それと戦わされる女子選手の人生や気持ちは?>
東京五輪には、男性から女性に性別変更したことを公表したトランスジェンダーの選手が史上初めて出場している。ニュージーランドの重量挙げ選手、ローレル・ハバード(43)だ。
ハバードは8月2日、重量挙げ女子87キロ超級の予選に出場する。現在43歳で、今大会の重量挙げ競技に参加した選手の中で最年長でもある。
ハバードは1978年2月、ニュージーランドのオークランドで生まれた。父は穀物会社の経営者で、2004~08年にはオークランド市長も務めた人物だ。
重量挙げを始めたきっかけについてハバードは、自分は男だと自分に言い聞かせるために「いかにも男らしい」スポーツを選んだ、と語る。 「すごく男っぽいことに挑戦すれば、そうなれるのではないかという気持ちがたぶんあった」と、2017年に地元ラジオ局の取材に語っている。
「だが残念ながら、そうはならなかった。思惑通りにいけば、人生で最も暗かったあの時期が、多少なりとも過ごしやすくなるかもしれないと思ったのに」
1998年、20歳の時に男子選手(105キロ超級)としてニュージーランドの国内ジュニア記録を打ち立てた。バーベルを床から一気に頭上まで持ち上げる「スナッチ」と、いったん肩の高さまで持ち上げてから頭上に持ち上げる「クリーン&ジャーク」のトータル300キロという記録だった。
だが3年後の2001年、ハバードは競技から引退する。「私のような人間のために作られたわけではないに違いない世界に自分を合わせなければならないプレッシャーが大きすぎて、耐えられなくなった」
<女子として世界ランキング7位に>
ハバードは2012年、35歳の時に男性から女性への性移行を始めた。その後、女子選手として重量挙げ競技に出場するようになる。 2017年には「ローレル・ハバード」の名で初めて国際大会に出た。
オーストラリアで行われた大会で女子の最も重い階級に出場し、スナッチ123キロ、クリーン&ジャーク145キロのトータル268キロで優勝。男子選手時代に出したジュニア記録の300キロを大きく下回っていたが、女子の2位の選手を19キロも上回った。
現在、ハバードは国際ウェートリフティング連盟の女子87キロ超級の世界ランキング7位だ。 そして今年6月、ハバードは東京五輪のニュージーランド代表選手に正式に選ばれた。
国際オリンピック委員会(IOC)が定めるトランスジェンダー選手の参加基準をクリアしたからだ。 それによると、トランスジェンダーの選手が女子として出場する場合、大会前の少なくとも12カ月間、テストテトロンの血中濃度が1リットルあたり10ナノモールを下回っていなければならない。
「これほど多くのニュージーランドの人々から頂いた優しさと支援に感謝するとともに恐縮している」とハバードはニュージーランド・オリンピック委員会(NZOC)を通してコメントしたと、AP通信は伝えた。
他の選手のチャンスを不当に奪う?
IOCは2015年、テストステロンの血中濃度が一定レベルより低ければ、トランスジェンダー選手でも女子として競技に出られるように規則を改正した。
ハバードはIOCの定めた基準を全てクリアしているが、それでも五輪への参加には批判も聞かれる。 最近ではNFL(全米プロフットボールリーグ)のスター選手だったブレット・ファーブが、ハバードの出場に異議を唱えた。
ファーブは7月、ポッドキャストの番組で「男が女として競技していることになる」と語った。 「それはアンフェアだ。たとえその人が女性になりたいとか、(性移行を)せずにはいられないと感じているとしても、男がやるのはフェアじゃない。別の性別になりたいということ自体は構わない。私もそれに対して異議はない。だが競技に出るのはダメだ。男性が女性と戦うのはダメだ」
「もし私が本物の女性で――変な言い方だけれど――重量挙げの試合に出てこの人に負けたら、逆上するだろう」 ベルギー代表として東京五輪に出場する同じ87キロ超級の重量挙げ選手アンナ・ファンベリンヘンは5月、こう述べた。
「高いレベルで重量挙げの練習をしてきた人なら誰でも骨身に染みて分かっているはずだ。この特殊な状況は、競技に対しても選手に対してもアンフェアだ」
<「自分らしく生きたいだけ」>
またファンベリンヘンはこうも述べた。「(ハバードが出場するせいで)メダルや五輪出場など人生の大きなチャンスを失う選手もいるというのに、私たちは無力だ」
2017年12月のインタビューでハバードはこう述べた。「目の前の課題に集中するしかない。そうしていれば道は開けるだろう。誰もが私を支持してくれるわけでないのは承知している。それでも心を閉ざさずに、もっと広い文脈で私の競技を見ていただきたいと思っている」
「私にできるのは、自分自身であること、自分らしく行動することだけだ。もし人々が(そこから)インスピレーションを見つけてくれれば素晴らしいけれど、それを目指しているわけではない」とハバードは述べた。
「私は私。私は世界を変えるためにここにいるのではない。ただ自分自身でありたいし、私らしく行動したいと思っている」【8月2日 Newsweek】
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21時現在、試合は今も行われていますが、ローレル・ハバード選手はスナッチの3回の試技に全て失敗し、記録なしとなって失格。ジャークには進めませんでした。
体の丸みなどは、他の選手と違うような感もありましたが、それが問題かと言えば、そうも言えないでしょう。
アスリートではない、普通のトランスジェンダー(男性から女性へのMtFの方)のブログなどを拝見していると、ホルモン治療でテストテトロンを抑えると筋力がおちて、以前は持てたような重いものが持てなくなるようです。
その意味では、12カ月間、テストテトロンの血中濃度が一定値以下であれば・・・という基準は合理的なようにも思えます。(詳しくは知りませんが、筋肉の新陳代謝は相当に早いサイクルで行われるようですし)
ただ、元男性としての骨格はどうなのか?・・・とか、トランスが全く影響ないかどうかは私はわかりません。
敢えて言えば、そういう差異を言い出すと、「じゃ、足の形が泳ぐのに適した形をしている水泳選手はアウトなのか?」とか、極端に言えば「一流アスリートは皆、遺伝子的に競技に適したものを持っているのだろう。そういう遺伝子レベルの差異は不公平ではないのか?」とか、いろいろありそうです。
【性ホルモンに関する基準で本来種目(400m)に出場できなかった女性2選手が200mで決勝進出】
もう1件はトランスではなく、性分化疾患に関する基準の話。
テストテトロンなど性ホルモンの血中濃度が高い選手は一部種目で「女子」として競技できない規則があり、この規則によってメダル候補だった400mに出場できなかったナミビアの2選手が、出場可能な200mでは決勝に勝ち進んでいます。
以前は、800mで連覇していたキャスター・セメンヤ(南アフリカ)選手が話題になったことがありますが、彼女は今大会には出ていません。
****陸上400mに「女子」として出られなかった2人、200mは決勝へ****
(性ホルモンの血中濃度が高いため、メダル候補に挙げられていた女子400メートルに出られなかったクリスティン・エムボマ。女子200メートルに出場し、決勝進出を決めた=ロイター)
ナミビアのクリスティン・エムボマとベアトリス・マシリンギが、3日の女子200メートル決勝に勝ち進んだ。女性として生活していても、性ホルモンの血中濃度が高い選手は一部種目で「女子」として競技できない。
この「DSD規定」により、共に18歳の2人はメダル候補に挙げられていた女子400メートルに出られなかった。この規定が五輪に影響したのは東京五輪が初めて。女子400メートルで、エムボマ、マシリンギはメダル候補だった。
エムボマは2日午前の200メートルの予選で20歳以下世界記録となる22秒11をマークして1位通過。夜の準決勝では後半の逆転で2位となり決勝へ。21秒97は20歳以下世界記録を更新し、準決勝全体で2番目のタイム。マシリンギも予選、準決勝と自己ベストを更新し、それぞれの組で2位になり決勝に進んた。
ナミビア・オリンピック委員会は7月、血液検査で2人のテストステロン濃度が世界陸連の基準を超え、「DSD規定」がある女子400メートルの出場をあきらめ、規定が適用されない女子200メートルに出ると発表した。
DSDは性分化疾患の略称で、女性として生活しているが性ホルモンのテストステロンの血中濃度などが男性同様の場合がある。世界陸連は女子400メートル、同800メートル、同1500メートルなどで出場選手のテストステロン血中濃度の上限を設け、国際大会出場や記録認定を制限している。
リオデジャネイロ五輪女子800メートルのメダリスト3人はいずれも生まれつきテストステロン血中濃度が高く、DSD規定で同種目などに出場できなくなった。【8月2日 朝日】
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****「女性じゃないとは言わせない」 ナミビアの陸上選手、200メートル出場へ****
2日に行われる東京オリンピック・陸上女子200メートル準決勝に、ナミビアのベアトリス・マシリンギ選手が出場する。
しかし18歳のマシリンギ選手にとって、200メートルは第一希望ではなかった。同選手は400メートルへの出場を目指して練習を重ねてきた。今年に入ってからは49秒53と世界3位の記録を出しており、メダル候補と期待されていた。
だが世界陸連は先に、マシリンギ選手のテストステロン値が基準値よりも高いとして、同種目への出場を禁止した。
BBCスポーツ・アフリカの取材でマシリンギ選手は、「最初はとても落ち込んでいたけれど、今は誰にも、私は女性じゃないとは言わせない。本当にいらいらしたし神経にさわったけれど、これについては今は何もできないので」と語った。
「本当に残念だし、とても動揺した。ダイヤモンドリーグへの出場を楽しみにしていた時にこのことを知らされた」
「全員が同じで、同じ能力を持っているなんてありえないのに、本当に不公平だと思う。みんな違う能力を持って生まれていて、同じなどありえない。意味がわからない」【8月2日 BBC】
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決勝は明日の予定のようです。
400mには「DSD規定」が適用され、200mには適用されない理由は知りません。
リオ五輪800mメダリスト3人がいずれもDSD規定で出場できないとは・・・この基準の適用範囲を広げればもっと大きな影響がでるようにも予想されます。
ただ、そうした基準が妥当かどうかは、先述のように「そういう差異を言い出すと・・・・」という話で、よくわかりません。
「男と女」といった一見明確な区分も、性自任の問題、クラインフェルター症候群のように染色体レベルの問題など、いろいろ曖昧なものがあるのは今更の話です。
大多数にとっては「そんなもの・・・」といった話も、当事者にとっては大問題となります。
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