孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ベネズエラ  終わらない経済無策の強権支配マドゥロ政権 分断・封じ込まれた野党勢力

2017-11-26 22:24:19 | ラテンアメリカ

(ベネズエラの首都カラカス市内で、医薬品不足で政府に抗議するデモに参加しプラカードを掲げる女性(2017年11月20日撮影)【11月26日 AFP】 “直接支給”では、こうした抗議の声をあげる者には配布されない危険も)

【「マドゥロ式ダイエット」を強いられる国民
南米の石油大国ベネズエラがマドゥロ大統領の失政のもとで極端なインフレ・もの不足に陥り、厳しい地域では三食食べられないとか、栄養失調の子供が急増している、餓死者も出ているといった状況になっていることは、これまでも再三取り上げてきました。

****飢えるベネズエラ、壊れた豊かな国****
インフレ率720%、食料輸入は70%減り栄養失調がまん延する

・・・・ベネズエラのインフレ率は世界で最も高く、国際通貨基金(IMF)の推計では今年、720%に達するとみられている。これでは家庭が収入の範囲で生活することはほぼ不可能だ。

投資銀行トリノ・キャピタルによると、2013年以降、同国経済は27%縮小し、食料輸入は70%減った。
 
子連れを含む多くの人々がごみをあさっている。1年前にはほとんど見られなかった光景だ。
地方に住む人たちは夜になると、木になっている果物から地面で育っているかぼちゃまで農場にあるものはなんでも盗み出し、種や肥料の不足に苦しむ農家に追い打ちをかけている。

食料品店は略奪の被害に遭い、家庭では冷蔵庫に南京錠をかけている。

社会科学者が毎年実施している生活水準に関する全国調査によると、昨年、体重が減ったと回答した国民は4人に3人。平均減少幅は19ポンド(約8.6キロ)に上る。人々は怒りとユーモアを込めてこれを「マドゥロ式ダイエット」と呼んでいる。同国のニコラス・マドゥロ大統領にちなんで命名されたものだ。(中略)

医師で子どもの栄養失調の専門家リビア・マチャド氏は「政府にとって、ベネズエラに栄養失調の子どもは存在しない」と話す。「現実には栄養失調がまん延している。誰もがこの状況に注目すべきだ」(後略)【5月9日 WSJ】
*******************

上記は5月の記事ですが、状況は日々悪化しています。

****困窮のベネズエラ 物不足が悪化/制憲議会で混乱 インフレ率、年720%/餓死者も****
・・・・首都カラカスでは、至るところで市民の長い行列を目にする。米や油、砂糖などの食料品を求めてスーパーに並ぶ人たちだ。
 
「早朝から並んでも何も買えないことがある」。声をかけると、数人が一斉に不満を口にした。行列での口論から殺し合いに発展する事件も起きたという。
 
カラカス中心部のスーパーでは野菜やお菓子はあるものの、小麦粉や鶏肉などの生活に欠かせない食料品はすべて品切れだった。
 
店長のアドゥリアン・レデロンさん(33)は「6年ほど前から品物が減り始め、最近は特に悪化した。ふだんはビスケットや野菜を食べている。1日2食の人も多い」と嘆いた。(後略)【8月15日 朝日】
***************

この混乱の原因は、経済・財政が依存してきた石油の価格が低迷していることもありますが、基本的にはバラマキ社会主義・“チャベスなきチャベス路線”を続けてきたマドゥロ政権の無策、あるいは市場無視の誤った経済政策にあります。

****政策のひずみ噴出****
社会主義的な政策を進めた反米左派のチャベス前大統領は、世界最大の埋蔵量を誇る原油マネーを背景に貧困対策に力を入れた。だが、後を継いだマドゥロ大統領のもとで、ばらまきや無理な経済政策のひずみが噴き出した。
 
生活必需品の価格を安く抑えてきたため、国内産業が次々と撤退に追い込まれ、近年は原油価格の下落で外貨収入も急減。国民生活は困窮し、4割以上が深刻な貧困状態とされる。
 
マドゥロ氏は抜本的な問題解決に手を付けないまま、「米国などが仕掛けた経済戦争が危機の原因だ」と主張してきた。

4月以降に拡大した反政府デモで120人以上が死亡するなか、強権的な姿勢をこれまで以上に強めている。周辺国や国連からはマドゥロ氏の姿勢に対し「独裁政権だ」との非難が相次いでいる。【同上】
*****************

マドゥロ政権は、生産拡大のための有効な施策をとることなく、生産を控えたり価格を上げる民間生産者に批判の矛先を向け、更に生産を縮小に追いやっています。その状態をアメリカのせいだと責任転嫁するばかりです。

唯一、政権のとった食糧増産政策は、繁殖が早いウサギを食用肉供給源として家庭に配った「ウサギ計画」ぐらいでしょうか。

“政府の食料計画を任されているフレディ・ベルナル(Freddy Bernal)氏は、「ウサギ計画」を成功させるため、国民は「ウサギ愛」を捨てなければならないと主張した。
ベルナル氏によると、第一弾として貧困地区を対象に先だって子ウサギを配給したが、住民たちはペットとして名前を付け、一緒に寝るなどかわいがってばかりいるという。”【9月14日 AFP】

「ウサギ愛」が見られるということは、状況はまだ余裕がある・・・ということでしょうか?

医薬品の患者への直接支給 政権による“選別”も
食糧、日用品だけでなく、医薬品の不足も深刻ですが、社会主義国らしく“直接支給”に乗り出したようです。
しかし、“直接支給”はこれまでの食糧などの経験からして、現実的には“政府に協力的な者に対しては”という制約がつくものであり、命を人質にとった批判封じ込めにもなります。

****医薬品不足のベネズエラ、患者への直接支給を開始****
ベネズエラは25日、米国の制裁措置が医薬品不足を招いているとして、病気を患っている3万5651人を対象に医薬品の支給を開始した。医療関係者の間では全医薬品のうち95%が入手できない状態だと言われている。
 
医薬品をもらうには政府の電子カードが必要とされており、政権支持者を優遇するものだとの批判もある。ルイス・ロペス(Luis Lopez)保健相は国営VTVテレビで、全国24州(首都区を含む)のうち10州で医薬品の支給を始めており、翌週には残りの州でも始めると語った。
 
医療人権団体CODEVIDAを率いるフランシスコ・バレンシア(Francisco Valencia)氏は、腎臓病などの慢性病やがんの患者約30万人が必要な医薬品を入手できていないと推定されており一層の取り組みが必要だと述べた。
 
患者やその家族らは22日、カナダやオランダ、ペルー、米国の各国大使館前で、人道目的の医薬品支給をニコラス・マドゥロ(Nicolas Maduro)大統領に働きかけるよう求めるデモ行進を実施した。ベネズエラ政府は国内に人道危機は存在しないと主張しており、医薬品の輸入や供給を困難になった要因は米国の制裁措置だと説明している。【11月26日 AFP】
********************

ハイパーインフレの様相
いずれにしても、もの不足によるインフレに歯止めがかからず、ハイパーインフレの様相を呈しています。

****今年10か月のインフレ率が825%に ベネスエラ****
ニコラス マドゥロ大統領政権はベネスエラのインフレ率に関する発表を止めていますが、反体制派が多数を占めるベネスエラ国会はベネスエラの10月までにインフレ率を825,7%と見積もっています。
 
ベネスエラ国会は今年1年間のインフレ率は1000%を超えると考えています。
 
ベネスエラ反体制派の発表によれば、今年のベネスエラのインフレ率は1400%を超えると推測されています。経済危機の続くベネスエラでは食料と医薬品が極端に不足しており、国民は上がり続ける物価と格闘しています。
 
「今月べネスエラ経済はハイパーインフレに突入したと言わざるを得ません。」と反体制派国会議員アンヘル アルバラドは火曜日に国会で指摘しています。(中略)
 
ベネスエラ政府派2年間インフレ率に関する発表を行っていませんが、ベネスエラ国会は9月のインフレ率を36,6%、10月のインフレ率を45,5%と発表しています。
 
エコノミストはハイパーインフレの定義を数か月連続でインフレ率が50%超えるか、3年連続でインフレ率が100%を超えた時と考えていますが、ベネスエラでは既に2年間インフレ率が100%を超えています。
 
ベネスエラ中央銀行は月ごとのインフレ率の発表を止めていますが、2015年と2016年のインフレ率が180%と240%であったことは認めています。
 
マドゥロ政権は私企業がマドゥロ政権を弱体化させるために物価上昇を行っていると責任転嫁しています。大統領は2018年は経済回復の年になると先週約束しています。【11月8日 音の谷ラテンアメリカニュース】
**********************

インフレ率については、政府が発表していないこともあって、いろんな数字が出ていますが、まともな生活ができないほどの状況になっているのは間違いありません。

政権の“力”で封じ込まれ、切り崩された野党勢力
当然ながら国民の激しい抗議行動が起き、多数の死者も出ていますが、現在は政権が力で封じ込めた形にもなっています。強権支配体制はなかなか民主的な抗議行動によっては倒れない・・・という現実については、10月21日ブログ“ベネズエラ  経済崩壊、抗議行動弾圧、不正選挙・・・それでも続くマドゥロ政権”でも取り上げました。

天文学的数字のインフレ率ともなったハイパーインフレを経験して経済が破たんした南アフリカのジンバブエでは、ムガベ大統領が軍の実質的クーデターによって退任に追い込まれましたが、ベネズエラにあっては軍も政権と利害を一にしているとも言われていますので、そうした出口も難しいようです。

そうしたなかで、野党勢力は政権側に切り崩され、ますます政治的解決が難しくなっています。

****<ベネズエラ>野党連合が分断 知事選きっかけに亀裂****
独裁色を強める南米ベネズエラのマドゥロ大統領に対し、団結して政権打倒を目指してきた野党連合の分断が進んでいる。10月の知事選をきっかけに亀裂が生じ、12月の地方選に向けても統一的な対応がとれていない。
 
野党連合の「民主統一会議」は2015年12月、国会議員選で3分の2以上の議席を取り議会の主導権を握った。三権を超える権限を持つ制憲議会選(今年7月)をボイコットする一方、知事選では全23州で協力して候補を立てるなど足並みをそろえてきた。
 
分裂のきっかけは、10月に当選した野党連合の5州知事の就任を巡る対応だ。マドゥロ氏は制憲議会に就任の宣誓をしないと当選は無効だと圧力をかけたのに対し、野党連合は宣誓を拒否するよう求めた。野党連合や米国、中南米諸国は制憲議会を違憲だとして承認していないためだ。
 
ところが、5州のうち「民主行動党」の4知事は「支持者から求められた」として宣誓し、3人はマドゥロ氏と面会。マドゥロ氏は「野党側と調和、協力の時代が始まった」と語り、切り崩しが奏功した形となった。宣誓しなかった州の知事は当選無効となり、激怒した野党連合幹部は連合再編を模索中だ。
 
亀裂は12月の地方選(335自治体首長選など)を巡っても深まっている。民主行動党など主要3党が「選挙システムの不正操作」を理由に不参加を決めた一方、一部の野党候補は出馬を表明し、混乱が広がっている。【11月7日 毎日】
******************

****<ベネズエラ>野党指導者の亡命、相次ぐ****
独裁色を強める南米ベネズエラのマドゥロ政権と対立する野党指導者の亡命が相次いでいる。

17日には自宅軟禁中の前カラカス大都市圏市長のアントニオ・レデスマ氏(62)が隣国コロンビアに逃走。4日にも野党が多数派の国会で副議長を務めるフレディ・ゲバラ氏(31)がチリ大使公邸に駆け込んだ。
 
レデスマ氏は、43人が死亡した2014年の連日の抗議デモを主導し、翌年、市長在職中に国家扇動容疑で逮捕され服役。今年8月にも数日間、勾留され自宅軟禁となった。
 
レデスマ氏はAP通信に「家で人質となっているより、ベネズエラの民主主義のため国外に飛ぶ方が役に立つ」と語り、各国を巡り反マドゥロ政権の国際世論を高める考えを示した。治安当局の監視下だった自宅を抜け出し陸路でコロンビアに入ったという。
 
ゲバラ氏は、公安当局に4日、自宅周辺を囲まれ、拘束を恐れて保護を求めたという。4〜7月に抗議デモを率い政権批判を展開。政権側は市民を扇動したとして議員特権剥奪を目指していた。
 
8月には、政権批判を公言して更迭されたオルテガ前検事総長が秘密裏に出国してコロンビアに亡命した。【11月18日 毎日】
********************

野党政治家もやや“腰が引けた”ような対応にも見えますが、政権側の“暴力”に直面しては、それもやむを得ないのでしょう・・・・。

政権は、政府批判封じ込めを更に強化しています。政府批判は“ヘイトクライム”とみなされるようです。

****<ベネズエラ>最長20年服役 ヘイトクライムの法律****
 ◇制憲議会が承認
南米ベネズエラの制憲議会は8日、新聞やテレビ、ソーシャルメディアを通じ、ヘイトクライム(憎悪犯罪)をあおった人を最長20年、服役させる法律を承認した。地元メディアが報じた。
独裁色を強めるマドゥロ大統領が、反対派封じ込めのため新法を利用する可能性がある。(中略)
 
マドゥロ氏は、反政府デモを主導してきた野党連合の指導者について「対立をあおり憎しみを助長している」などと非難してきた。このため、批判勢力に対し新法が乱用される恐れがある。野党連合は10月の知事選をきっかけに亀裂が生じ、分断が進んでいる。【11月9日 毎日】
*****************

迫るデフォルト 支えるロシア・中国
原油価格はこのところ若干上向き加減ですが、資金繰りに行き詰まるベネズエラでは、経済・財政を支える石油生産自体が大きく減少しています。

****OPEC目標下回るベネズエラの産油量、イラクなどが穴埋めへ****
米国による制裁や国営石油会社の資金不足でベネズエラの産油量が石油輸出国機構(OPEC)が定めた生産目標を下回る中、OPEC加盟国であるイラクや他の産油国がその穴埋めに動き始めた。OPEC関係者と業界関係者が明らかにした。

ベネズエラでは、国営石油会社PDVSA[PDVSA.UL]が油井掘削や油田の保守、パイプラインや港湾の操業維持に必要な資金の調達に行き詰まり、10月の原油生産は28年ぶり低水準となった。

OPECへの報告に基づくと、ベネズエラの2017年の産油量は少なくとも日量25万バレル減少する見通し。(後略)【11月20日 ロイター】
*********************

このままでは、借金を返せないデフォルトが現実のものとなります。

***S&P、ベネズエラを「選択的デフォルト」に格下げ****
米格付け大手スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は14日、財政危機に陥っている南米ベネズエラの外貨建て長期国債の格付けを「選択的デフォルト(SD)」に引き下げたと発表した。
 
格下げは、ベネズエラが2件のグローバル債の利払いに必要となる2億ドル(約230億円)を、30日間の支払い猶予期間の最終日だった12日までに支払えなかったことを受けた措置。

S&Pによると、ベネズエラは他の4件の債務4億2000万ドル(約480億円)についても支払い期限を過ぎており、猶予期間に入っている。(中略)
 
選択的デフォルトが1500億ドル(約17兆円)に上る公的債務などにも広がれば、ベネズエラは完全なデフォルト(債務不履行)に陥る恐れがある。
 
同国では、債務返済のための輸入削減により食料や医薬品が不足する事態が発生しており、今回の債務危機は想定外ではない。(後略)【11月15日 AFP】
****************

今のところは、ロシア、そして最大の支援国である中国はベネズエラを支える意思を示していますが、どこまでもつか・・・・。

****ロシアとベネズエラが債務再編合意、中国も支援姿勢****
ロシアとベネズエラは15日、債務再編合意に署名した。ベネズエラが10年間にわたり、ロシアに計31億5000万ドルを返済する。

ロシア財務省が明らかにした。同省によると、合意に伴いベネズエラは今後6年間、ロシアへの支払いを「最小限」に抑え、他の債権者向けに返済しやすくなるという。

これとは別に中国外務省が発表した声明で、ベネズエラは債務問題を「適切に」処理できるとの見解を示し、米国や欧州などが制裁を科しているベネズエラをロシアとともに支えていく姿勢をにじませた。(後略)。【11月16日 ロイター】
*******************

石油権益の確保、反米政権支援の政治的意義、デフォルトしてしまうと自国保有債権が無価値化する・・・・といった理由での支援継続ですが、継続すればするほど傷が深まるという面もあります。

デフォルトになると輸入のための外貨調達ができず、食糧・医薬品不足は更に深刻化します。

“デフォルトになれば輸出原油が差し押さえられる可能性がある。原油輸出は、ベネズエラにとって食料品などの必需品の購入に充てる外貨を得るための唯一の手段だ。また、石油セクターに関連したタンカーや製油所などの重要な資産も債権者の手に渡ることになりかねない。”【2016 年 1 月 22 日 WSJ】

そこまで追い込まれたとき、政権と国民の関係がどうなるか・・・・というところですが、デフォルトの危機は2年以上前から言われており、ある意味では“しぶとく生き残ってきている”とも。今後も・・・どうでしょうか?

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 台湾  中国・中国人への印... | トップ | イスラエル  シオニズムや... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ラテンアメリカ」カテゴリの最新記事