(父薄一波・元副首相の葬儀(?)で「国際歌」(インターナショナル?)を歌う薄熙来・重慶市党委書記(中央)と、「赤い貴族」として悪名高いドラ息子の薄瓜瓜(左)“flickr”より By IsaacMao http://www.flickr.com/photos/isaacmao/5858585045/ )
【党大会を前に激化する権力闘争】
中国では、今年秋に開かれる第18回中国共産党大会において、胡錦濤国家主席・温家宝首相の現体制から習近平体制へ権力移譲が行われる予定です。
その権力移譲を前に政府高官の失脚が相次ぎ、水面下で権力闘争が激化していることを窺わせます。
****中国軍幹部、汚職で解任か=党大会前に高官失脚相次ぐ****
香港誌・開放2月号などは、中国軍総後勤部の谷俊山副部長(中将)が規律違反で解任されたと報じた。汚職の疑いが掛けられているとみられる。故劉少奇国家主席の息子で、習近平国家副主席に近いといわれる同部の劉源政治委員(上将)が谷副部長に対する調査を指示したという。
中国では今年に入ってから、汚職疑惑などで共産党広東省委員会統一戦線工作部の周鎮宏部長(次官級)や重慶市の王立軍副市長といった高官が相次いで失脚。秋の第18回党大会を前に権力闘争が激化していることの表れとの見方もある。【2月10日 時事】
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2月6日ブログ「中国 温家宝首相、改めて改革開放の必要性強調 安定維持重視の保守派との路線対立か」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20120206)においても、「習近平国家主席」の誕生に関する、江沢民前国家主席率いる上海閥と胡錦濤現国家主席が代表する中国共産主義青年団(共青団)グループとの確執、温家宝首相が見せている最近の「改革開放」重視の動きなど、中国政権内部の動きを取り上げたところです。
【「打黒英雄」重慶副市長の失脚】
最近の高官失脚のなかでも、特に注目されているのが、重慶市トップである薄熙来党委書記の側近として暴力団撲滅キャンペーンの指揮を執っていた王立軍副市長の件です。
“王氏は、薄氏がかつて省長を務めた遼寧省の錦州市公安局長から重慶市公安局副局長に08年6月に抜てきされた。09年3月に公安局長に就任してからは、黒社会(暴力団)や後ろ盾となっていた市幹部の摘発に尽力。「打黒英雄」と呼ばれ、薄氏の実績づくりに貢献していた。”【2月8日 毎日】
王立軍副市長失脚については、今年秋の共産党大会での最高指導グループ・党政治局常務委員会入りを目指してきた上司である薄熙来氏に対する攻撃との見方のほか、汚職追及が自身に及ぶことを恐れた薄熙来氏が王立軍氏に見切りをつけたとする見方もあるようです。
****中国:重慶副市長、異例の米領事館訪問 市トップを告発?*****
中国外務省は9日夜、重慶市の王立軍副市長(52)が6日に四川省成都の米総領事館を訪れたことを認めた上で、1日間滞在した後に離れたと新華社通信を通じて発表した。直轄市の副市長が外国公館に駆け込む異例の事態に臆測が広がる中、秋の党大会で最高指導部入りを目指す薄熙来・重慶市党委書記(政治局委員)は一層厳しい立場に置かれた形だ。
外務省の報道官は「関係部門が調査を進めている」と説明。香港の人権団体「中国人権民主化運動情報センター」は10日、王氏が北京に連行され、公安省と国家安全省の調べを受けていると伝えた。
崔天凱外務次官は9日に国内外の一部メディアと会見した際、王氏の問題について「個別の事案であり、既に解決している」と述べ、習近平国家副主席の13日からの訪米に対する影響を否定した。しかし、次期最高指導者への就任が確実視される習氏の訪米を前に、米国との間に「余計な案件」(北京の外交筋)を作ってしまったことは、薄氏にとって手痛い失点となることは確実だ。
王氏は公安局長として暴力団撲滅キャンペーンの指揮を執り、薄氏の実績づくりに貢献してきた。しかし、強引とも言える薄氏の政治スタイルには指導部内でも批判が根強く、側近である王氏の汚職追及で薄氏に不利な状況を作り出す動きがあった、と香港メディアは報じている。
一方で、汚職追及が自身に及ぶことを恐れた薄氏が王氏に見切りをつけ、2日に公安局長の職を解いたため、王氏が「薄氏やその家族の腐敗」を告発するために米総領事館を訪れたとの見方も浮上。真偽は不明だが、薄氏を批判する王氏のものとされる公開書簡がネット上に出ていることも、こうした見方が強まる一因となっている。【2月10日 毎日】
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【「ニューレフト」の旗手として注目される薄熙来・重慶市党委書記】
王立軍副市長の件が注目されるのは、米総領事館への駆け込みといった異例の展開以上に、上司の薄熙来・重慶市党委書記が「ニューレフト」の旗手として非常に注目されている人物であり、薄熙来氏が今秋の党大会で党政治局常務委員会入り出来るかどうかは、今後の中国の基本路線に関わる問題であるからです。
****好対照、2書記の改革 中国指導部候補の地方リーダー*****
■弱者支援「政府が保証」 重慶市・薄氏
9月、重慶市郊外で家具を高層マンションに運びこむ人たちの姿があった。
「薄書記の政策には、庶民への思いやりがある」
運転手の夫と暮らす主婦劉育美さん(50)は手放しの褒めようだった。
重慶市は市場価格の6割の家賃で住める福祉住宅を2010年からの3年間で60万戸以上建設。農村部の農民や出稼ぎ労働者を含む月収3千元(約3万6千円)以下の家庭が対象だ。
モデルルームには視察した中央の指導者の写真が並び、「市場に任せきりにせず政府が保証するやり方は、国情に合った優れた方法だ」(李長春〈リー・チャンチュン〉・政治局常務委員)といった賛辞が掲げられていた。
昨年来、重慶市には次の最高指導者と目される習近平(シー・チンピン)国家副主席、呉邦国(ウー・パンクオ)・全国人民代表大会常務委員長らが訪問。薄氏は毛沢東時代への懐古がにじむ「唱紅歌(革命歌を歌う)」運動も主導、左派勢力を代表するリーダーと印象づけた。
薄一波・元副首相を父に持つ薄氏は、老幹部の子弟グループ「太子党」の代表格。淡い緑のスーツを着こなし英語で取材に応じるなど、華やかな立ち居振る舞いに耳目が集まるが、「実のある仕事をしている」(呉氏)と評される。
融資制度で農民や出稼ぎ労働者の起業を促すなど、薄氏の政策には弱者の底上げという狙いが鮮明だ。
山間部の貧しい地域を抱える重慶は、広大な内陸部の縮図とも言える。薄氏が就任した07年、市内の都市部と農村部の所得格差は全国平均を上回る3.9倍あった。今年7月、市党委員会は「共同富裕の決議」を採択。格差を15年までに2.5倍まで縮めるとした。
「人民が共産党を政権に押し上げたのは、ともに豊かになる世の実現を期待したからだ」。薄氏は採択の際の演説でこう述べ、格差是正は党の支配の正統性に関わる問題だと訴えた。
汪氏と薄氏の政策を研究する中山大学の肖浜教授は「手法は違うが、このままでは行き詰まるという危機感は同じ。次の指導部はこの危機感を基調に針路を模索することになる」と指摘する。【11年11月25日 朝日】
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【毛沢東の過激な平等主義とトウ小平の改革開放路線に続く「社会主義3.0」】
次期国家主席の習近平氏と薄熙来・重慶市党委書記は、共に、党幹部の師弟グループで構成する「太子党」に位置付けられていますが、習近平氏は重慶市共産党委員会書記の薄煕来氏が推し進める「赤い文化」路線に関心を抱いていると言われています。
この薄煕来氏が推し進める「赤い文化」路線は、“毛沢東の過激な平等主義とトウ小平の改革開放路線に続く「社会主義3.0」と呼ぶべきもの”とも見られています。
****改革開放路線が葬り去られる日****
この30年の成長重視の政治に異を唱えて、平等重視の政治への回帰を主張する勢力が台頭
そのニューレフト陣営が論拠とする「重慶モデル」とは
・・・・・だが共産党内部では、中国の社会主義の未来をめぐって活発な論争が繰り広げられてきた。
特に、地方レペルでのさまざまな政治的実験がそういう議論を活性化させている。とりわけ中央の指導部の交代を前に、薄のような新進指導者が上層部の目を引こうと、競うようにして大胆な政策を打ち出し始めた。
薄は現在、共産党政治局委員で、さらに高い地位である政治局常務委員入りを目指している。
重慶での薄の取り組みは、中国の(ニューレフト(新左派)」陣営にとって、党内論争での重要な論拠になっている。ニューレフト論者たちは、市場経済志向の改革開放路線を大幅に修正すべきだと主張。重慶を例に挙げて、国家の役割を再び拡大すれば、経済発展と経済的平等を両立できると訴えている。
薄自身は近年の成長路線との決別を高らかに宣言することは避け、慎重な発言を心掛けている。「『赤い文化』は左翼志向の動きだと言う人もいるが、これは人民に奉仕するための取り組みだ。そもそも共産党が設立された目的は、そこにあるのだから」と、09年に演説している。
しかし、ニューレフトは重慶の実験にもっと大きな意味を見いだそうとしている。トウ小平が改革開放に着手して以来、30年間続いた中国政治の基本路線が変わりつつあるということだ。
香港中文大学の王紹光教授(政治学)の表現を借りれば、新しい路線は、毛沢東の過激な平等主義とトウ小平の改革開放路線に続く「社会主義3.0」と呼ぶべきものだろう。
重慶の実験は、中国が「ポスト改革開放」の時代に移行し、平等重視の伝統的な社会主義に回帰し始めた証拠だと、北京大学の浦維教授(政治学)は主張する。浦いわく、近年の成長重視政策により貧富の格差が容認できない水準まで拡大しており、政策を抜本的に見直すべき時期に来ているという。
リベラル派やグローバル志向の近代化推進派は、沿海部の深川や広東省の改革の実例を前面に押し出して、ニューレフトに対抗している。
温家宝首相は10年8月、欧米流の政治改革の実験を行ってきた深川で演説し、政治改革の重要性を強調した。政治局常務委員の座を薄と争う広東省党委員会書記の汪洋は、「幸福広東」をキャッチフレーズに、経済成長のみならず住民の幸福度を総合的に評価する「幸福指数」を公開している。
そんな改革開放路線に背を向ける、ニューレフトが思い描く中国の社会主義の未来像とは、どういうものなのか。ニューレフト論者は何より、資本主義的な要素を減らすべきだと主張する。国有企業を拡大させている重慶の経済成功を見れば、それが不可能でないと分かるという。
重慶には、賃金やコストが高くなった沿海部から工場が続々と移転してきており、その経済生産は年率14%のペースで拡大している。これは中国全体の成長率を大きく上回る。
政府の投資が増えれば民同企業が弱体化して「国進民退」とでも呼ぶべき現象が起きると、市場経済派の経済学者の多くは主張している。しかし、10年に重慶で長期の現地調査を行った清華大学の崔之元教授(政治学)によれば、重慶では「公共部門と市場が共に発展している」という。
香港中文大学の王も同じ見方をしている。重慶で民間の経済活動が公的投資を上回っていることがその証拠だという。「(公的投資が民同部門を衰退させるという説は)理論的な根拠がまったくないばかりか、重慶の実例により、ばかげた主張であることが立証された……重慶では、政府の経済活動が拡大するに伴い、(経済の規模が大きくなり)経済全体に占める公共部門の割合がむしろ小さくなった」と、王は指摘している。
民主主義より毛沢東思想
とはいえ、重慶モデルで最も重視されるのは、民間経済の発展ではなく、あくまでも貧困と格差の解消だ。国有企業が市場で上げた利益は、公共住宅の建設や交通・輸送インフラの整備など、旧来の社会主義的な公共事業に投じられている。
これまでに薄が高い評価を得ている政策の1つは、貧困層向けの公共住宅の整備だ。重慶の3000万の人口の約3分の1に安価な公共住宅を提供することを目指している。
この公共住宅整備政策は全国で注目を集め、中央政府も感心したらしい。中央政府は、昨年スタートした「第12次5ヵ年計画」の一環として同様の政策を全国規模で導入している。
薄は、この政策を経済成長一辺倒の発想の次のステップと位置付けようとしてきた。「重要なのは、高層ビルをいくつ建設したかではない。人民がどれだけ幸せを感じているかだ」と、09年に演説で述べている。
一見すると、「幸福広東」のスローガンと大差ないように感じるかもしれない。しかし、国家の役割を重んじるニューレフトの政策は、市場経済重視のリベラル派の政策とは対極にある。
広東省で最近進められている改革は、欧米の政策担当者の間で主流の考え方に基づいており、都市住民の生活の質を改善することに主眼を置いている。
改革開放路線の牽引役となってきた上海や広州などの都市では、経済成長と引き換えに、大幅な貧富の格差を事実上容認してきた。薄の政策は、そうした沿海部の都市の路線とはっきり一線を画するものだ。
欧米のメディアは概して、温家宝らの政治改革に注目してきたが、民主的モデルを採用しなくても中国の未来を切り開くことは可能だと、重慶モデルの支持者は考えている。この勢力が民主主義の代わりに重んじるのは、毛沢東の政治思想だ。
改革開放路線により経済的に豊かになった結果、指導層が人民との接点を失ったと、ニューレフトは考えてい
る。薄も毛沢東の唱えた「大衆路線」を持ち出して、共産党にはびこり始めたエリート主義を痛烈に批判してきた。指導層は大衆の中で暮らし、大衆の考え方を知るべきだと、毛は考えていた。
薄は重慶の共産党員に対し、それぞれの地区の貧しい住民との「結び付きを取り戻す」よう指示している。例えば、村の党書記たちには、最低でも週に1回、半日以上、村人たちと一緒に過ごすことを義務付けた。その際には、政府の活動を村人に説明し、村人の考えに辛抱強く熱心に耳を傾けることを党員に求めている。
また、村より上の行政区分である県の指導者も少なくとも月1回以上は農村に足を運び、人々の陳情を受け付けるよう、薄は指示している。
人民に「赤い文化」を強制
ただし、薄が道徳の「再生」を要求している対象は、共産党員や役人だけではない。重慶では人民の「精神的健康」を重視し、汚職やギャンブルなど、さまざまな社会問題の解決策として「赤い文化」の振興を目指している。
具体的には、革命歌を歌う「唱紅歌」大会を問いたり、市の1700万人の携帯電話利用者に毛沢東思想を記した文章を1日1回、携帯メールで配信したりしている。
ニューレフトの論者たちは、中国の「国産」政治改革の実例として重慶モデルを絶賛する。つまり、外国を模倣しなくても、中国独自の方法で政治を改革できることが実証されたと考えているのだ。
もっとも薄は、いかにも毛沢東主義者らしいプロフィールの持ち主というわけではない。父親は共産主義革命の指導者の1人である薄一波。父親が毛に疎まれて失脚したこともあり、文化人革命の時代はほとんどを監獄と農村で過ごした。今日は賛沢な暮らしぶりで知られており、息子の薄瓜瓜はイギリスの名門パブリックスクールのハロー校に留学し、卒業後はオックスフォード大学に進んでいる。
薄は共産党幹部の息子として甘やかされて育ったというイメージを抱かれることを非常に恐れていると、香港城市大学の鄭宇碩教授(政治学)は言う。「典型的な太子党(共産党幹部の子弟)だが、今はポピュリスト的な毛沢東流の政策を採用している」
中国の最高指導部が薄をどのように評価しているかは、外部の人間には知る由もない。しかし、薄に注目していることは間違いない。
次期国家主席の習は10年末に重慶を訪ねた際、演説で薄の取り組みを「高潔な政策」と称賛。「赤い文化」路線が「人民の心をしっかりっかんでいる」と評価した。
少なくともはっきりしているのは、薄の重慶での取り組みが中国の社会主義の未来に間する白然した議論に火を付けたということだ。それにより薄が政治局常務委員の椅子を手にできるのかどうかは、秋の共産党大会まで分からないが。ピーター・マーチン(政治コンサルタント) デービッド・コーエン(ジャーナリスト)【2月15日号 Newsweek日本版】
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上記レポートの流れで見れば、2月6日ブログでも取り上げた温家宝首相などの改革開放重視のキャンペーンは、薄煕来氏などのニューレフト路線への対抗と見ることができます。
もっとも、習近平氏が薄煕来氏が推し進める「赤い文化」路線に関心を抱いているのことですが、胡錦濤現国家主席が代表する中国共産主義青年団(共青団)グループが格差是正・社会的公平を重視するのに対し、「太子党」の習近平氏を推した江沢民前国家主席率いる上海閥は経済成長重視路線で、薄煕来氏などのニューレフト路線とは対極にあるようにも見えるのですが・・・。
また、幹部子弟の「太子党」である薄煕来氏が“毛沢東の唱えた「大衆路線」を持ち出して、共産党にはびこり始めたエリート主義を痛烈に批判してきた”というのも、いまひとつピンときません。
文革で苦労した幹部子弟の方が、中国共産主義青年団(共青団)グループのようなエリート集団より一般庶民に近いという認識でしょうか?
薄煕来氏の実績について言えば、過度の市場経済重視が現代中国にもたらした拝金主義的風潮は是正する必要がありますが、“国有企業を拡大させている重慶の経済成功”というのは、あくまでも経済成長の沿岸部から内陸部への波及過程にある現在の状況によるものであり、「国進民退」は招かないという判断は早計ではないでしょうか。
また、「赤い文化」を国民に強制する路線は、欧米・日本的な個人の自由を尊重する価値観と衝突するものがあるように思えます。
認識不足でわからないことが多々ありますが、王立軍副市長失脚事件の薄煕来氏人事への影響が今後の中国の基本路線に大きく影響しそうだ・・・ということは理解できます。
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