(13日から14日にかけて四川省内江市威遠県で行われた、コークス工場から出た異臭に抗議する数千人のデモ 【4月14日 City365】http://city365.ca/van/123497)
【頻発する集団抗議・暴動】
中国では住民による暴動が多発していると言われています。
また、その多くは、公金の横領、恣意的な規制や不公平な建設認可など、官僚の不正、党幹部の腐敗に原因があるとも言われています。
“昨今、中国で発生している暴動は1日平均500件、年間18万件である”【2012年9月7日 宮崎正弘氏 NEWSポストセブン】
“年間18万件”(2011年の数字のようです)という数字の信憑性についてはわかりません。
内容についても、どういうものを含むのか・・・おそらくストライキのような労働争議も含まれるのではないでしょうか。(中国では労働者のストライキ権利を認める明確な法規定はありません。ただ、厳格に禁止されているものでもないようです。)
中国政府の発表で、2000年代には毎年5万件ほどの「集団事件」と呼ばれる官民衝突や集団抗議等が発生しており、2005年には年間8万7000件、発生したと発表されました。その後、政府は暴動件数を発表しなくなっています。
おそらく、あまりの多さと増加傾向に、発表を躊躇するようになったのでしょう。
年間30万件といった数字もネット上では目にします。
正確なところはわかりませんが、国際的に報じられるようなもので見ても、いわゆる“暴動”が日常的に頻発していることは間違いないようです。
****中国で焼却場建設反対の住民1万人が警察署襲撃****
8日付の香港紙・明報によると、中国広東省羅定市で6、7日、ゴミ焼却場の建設計画に反対する住民がデモを行い、警官隊と衝突した。
6日には、集まった住民5000人近くに対し、警官隊が催涙弾や警棒で抑え込み、住民側に多数の負傷者や拘束者が出たという。翌7日には反発した住民1万人近くが、地元政府庁舎を取り囲み、警察署に乱入、警察車両をたたき壊すなどした。同市政府は7日、建設計画の停止を発表した。
中国では近年、ゴミ焼却場の建設に反対する抗議活動が多く、計画が相次ぎ中止に追い込まれている。【4月8日 読売】
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****工場の異臭に数千人抗議=警察と衝突―中国四川省****
中国メディアによると、四川省内江市威遠県で13日から14日にかけ、コークス工場から出た異臭に抗議し、学生や住民ら数千人がデモを行った。
デモ隊は警察車両をひっくり返すなどし、多数の警官と衝突。負傷者が出たほか、十数人が拘束されたとの情報もある。
異臭が出たのは10日。有害物質が漏れ出したとみられ、子供や高齢者が嘔吐(おうと)したり、倒れたりしたほか、工場近くの学校では生徒に発疹症状などが表れた。13日に行政の迅速な対応や工場の生産停止を求める住民が抗議活動を起こし、14日には学生らもデモに加わった。【4月15日 時事】
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暴動ではありませんが、異様な集団抗議も報じられています。
****タクシー運転手30人が服毒騒ぎ=北京の繁華街で不満訴えか―中国****
中国北京市公安局の発表によると、北京市随一の繁華街・王府井で4日午前11時(日本時間同日正午)ごろ、タクシー運転手ら30人以上が地面に倒れているのを警官が発見した。
現場には農薬の入った瓶が転がっており、農薬を飲んで集団自殺を図ったとみられる。病院に運ばれたが、命に別条はない。
倒れていたのは、黒竜江省綏芬河市の運転手らで、タクシーの貸借などをめぐり不満を持ち、陳情のため北京に来たとされる。北京市公安局は黒竜江省の関係当局と連絡を取り、調査を進めている。
北京市では、多くの人が集まる天安門や国家指導者が執務する中南海付近などで、地方から来た陳情者らが集団で農薬を飲んだりする騒ぎが多発している。
多くは土地強制収用や立ち退きといった不満を訴えており、服毒で通行人らの関心を集めるとともに、当局に抗議の意思を表そうとしている。【4月4日 時事】
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【「共産党・政府は社会運動のうねりが広がることを警戒している」】
集団抗議が頻発し、それが治安当局との衝突のような形になりやすいことからは、住民の間で不満が鬱積し、マグマのように噴出しているように思われます。
それだけ、官僚の不正・党幹部の腐敗が蔓延し、経済格差や環境問題などの成長の負の側面が大きくなっているということでしょうが、そうした住民の不満を政治に反映するシステムが共産党一党支配のもとでは機能しいないことが、暴動等の直接行動に人々を駆り立てているようにも思われます。
共産党・政権側の対策としては、著しい経済成長によって国民を豊かにすることで、多少の問題については我慢させる・・・という方策もあるでしょう。
しかし、中国経済成長の減速が明らかになり、“新常態”への移行が課題となっている現状では、また、成長によるひずみが大きくなっている現状では、これまでのような効果は期待できません。
当然に、力で抑え込むという対応もあります。
実際、人々の不満・政権への批判を強めることになりかねない新公民運動や人権・民主化要求などに、習近平政権は前政権以上に神経質・強硬な対応をとっています。
****「反セクハラ」で長期拘留=社会運動のうねり警戒―女性活動家釈放要求強まる―中国****
中国の北京、広州(広東省)、杭州(浙江省)で3月6~7日、バス・地下鉄など公共交通機関での痴漢などセクハラ行為を防止する活動を展開しようとした女性活動家5人が一斉に拘束され、「騒動挑発」容疑で刑事拘留処分になって間もなく1カ月が経過する。
内外の反発が高まる中、女性活動家を支援する人権派弁護士は「共産党・政府は社会運動のうねりが広がることを警戒している」と解説した。
今年は1995年に北京で開かれた「世界女性会議」(北京会議)から20周年の節目。当局は4月中旬までに、5人を正式逮捕するかどうか決定する方針だが、逮捕されれば、女性の地位向上を目指した北京会議の精神に反するとして国際社会の中国政府への批判がさらに強まるのは必至だ。
5人は李※(※=女ヘンに亭)※さん、王曼さんら。5人は3月8日の「国際女性デー」に合わせ、セクハラ防止のスローガンを掲げようと計画したが、相次ぎ各地の派出所に連行された。
多くの家族は公安当局から刑事拘留通知を受け取っていないなど「法的手続きを踏んでいない」(担当弁護士)との批判も強まっている。
女性活動家はこれまで、女性トイレが男性に比べて少ないことなどを問題視し、「公共空間の男女平等」を訴えてきた。深刻な社会問題となっている痴漢やセクハラの防止にも取り組んできた。
欧米政府当局者や国際人権団体は女性活動家の早期釈放を求め、3月末までに1100人分を超える署名が北京市公安局や政府系女性団体・中華全国婦女連合会に送られた。これに対して中国政府は「どの国家の誰であろうが、中国に釈放を要求する権利はない」(外務省報道官)と突っぱねた。【4月4日 時事】
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アメリカ大統領選に出馬表明したクリントン前国務長官が4月6日、「許せないことだ」と批判。ケリー国務長官も同10日、「誰もがセクハラや世界中の女性への不当行為に反対する権利があり、これに対する努力を強く支持する」として即時釈放を求めたように、この問題への国際批判が高まったこともあって、当局は一応“釈放”する形をとっています。
****女性活動家5人全員釈放=国際社会も要求、逮捕せず―中国****
中国でセクハラ防止や女性の権利向上を訴えようとし、3月上旬に相次ぎ公安当局に拘束され、「騒動挑発」容疑で刑事拘留処分となった女性活動家5人全員が14日未明までに釈放された。担当する弁護人が明らかにした。
国際社会も含めた早期釈放要求の高まりが、釈放につながったとの見方も出ている。
ただ人権派弁護士らによると、5人は不起訴処分になる正式な釈放ではなく、「取保候審」と呼ばれる条件付きの釈放。公安当局は、今後1年間にわたり監視を続け、5人の活動も制限される。支援者は5人について「罪名は成立しない」として「容疑者」扱いしないよう強く要求している。(後略)【4月14日 時事】
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このように力による封じ込めは、なにかと国際的にも問題になりますし、住民不満を押さえつけるばかりでは国内社会にも険悪な雰囲気が漂い、やがては大きな爆発を起こしかねない・・・ということもあります。
【「トラ退治・ハエ叩き」に「キツネ狩り」】
そこで習近平政権が力を入れているのが、官僚の不正・党幹部の腐敗を一掃しようという綱紀粛正・腐敗撲滅の取り組み「トラ退治・ハエ叩き」です。
住民不満の原因を取り除くということで、しごくまっとうな対応ですし、これをやらないと共産党政権がもたない・・・という危機意識も世間側にあっての取り組みです。
最近は「キツネ狩り」にも力を入れています。
****中国「反腐敗」の照準、国外に 逃亡官僚、昨年は680人摘発****
中国の習近平(シーチンピン)指導部は、官僚の汚職撲滅を目指す「反腐敗」の照準を国外に向け始めた。
国外に逃亡する官僚が後を絶たず、不正に持ち出された資産も膨大な金額に上るとされる。取り締まりをアピールする背景には、政権の求心力アップの狙いもありそうだ。
中国公安省は今月から、「キツネ狩り2015」と称して、国外に逃げた容疑者の捜査強化キャンペーンを始めた。狙いは、公金の着服や収賄などに手を染めた腐敗官僚の摘発だ。
習指導部は昨年7月から年末にも同様のキャンペーンをし、69の国と地域に逃げた680人を摘発した。
腐敗官僚の国外逃亡は1990年代から話題になってきた。中国メディアによると、中国が米国に捜査の協力依頼をした官僚だけで1千人を超え、汚職官僚が国外に不正に持ち出した資産は5千億元(約10兆円)に上るともいわれる。(後略)【4月7日 朝日】
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ただ、薄給の公務員が地位を利用した汚職等でカネを稼ぐというのはこれまで極めてノーマルなことだっただけに、役人の間では「次は自分では・・・」という不安感が募っている、あるいは、「何かすると利権目当て思われたり、目立って摘発されやすくなったりするので、何もしない」という無気力が広まっているという副作用も出ているようです。
****中国の「反腐敗」次官級以上の摘発100人に 地方元公安トップは殺人容疑 「次は自分…」と怯える高官ら****
中国紙「新京報」など複数の中国メディアは22日、内モンゴル自治区政府の諮問機関、政治協商会議の前副主席、趙黎平氏(63)が殺人容疑で公安当局に拘束されたと伝えた。
習近平政権は2012年11月に発足後、「トラもハエもたたく」と宣言し、全国で反腐敗キャンペーンを展開しており、趙氏が失脚した100人目のトラ(次官級以上の幹部)となった。
吹き荒れる腐敗撲滅の嵐は今後も続くとみられ、多くの共産党幹部は「次は自分の番ではないか」と戦々恐々としている。(中略)
中国では最近、知名度の高い幹部が党の規律部門に目を付けられることが多い。15日に失脚した雲南省副書記の仇和氏も「勇気ある改革者」としてよくメディアに取り上げられていた。
党関係者は「知名度が高い幹部は敵が多い。摘発すると、メディアの扱いも大きいから狙われる」と指摘した。そのため、目立つ仕事をすれば捜査対象になる可能性が高いとして、共産党幹部の間では仕事への意欲を失い、怠惰になる傾向が広がっているという。
習政権が僅か2年余の間に100人の高官を摘発したことについて、北京の人権派弁護士は「常識的に考えられない速いペースだ。ずさんな捜査が行われた可能性がある」と指摘する。
また、捜査対象となったのは胡錦濤前主席や江沢民元主席の派閥の関係者が多く、習派の太子党に連なる人脈はほとんどいないことから、「政敵排除だ」といった批判も出ている。【3月22日 産経】
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【今後、軍部の反撃・党内抗争激化も】
それでも習近平政権は「トラ退治・ハエ叩き」に邁進しています。
特に、トラ退治は国民へのアピールにもなりますし、政敵排除の権力闘争手段としても有効です。
胡錦濤前政権で軍制服組の最高位を務め、江沢民元国家主席に近いとされる郭伯雄・前中央軍事委員会副主席(72)の身柄を拘束し、汚職の疑いで取り調べを始めたことが明らかにされています。
郭氏と同じ時期に軍事委副主席を務めた徐才厚氏(今年3月に死亡)は昨年夏にすでに党籍を剥奪されており、前政権を支えた制服組のツートップがともに失脚するという異例の事態になっています。
トラ退治は国民受けはいいですが、敵対勢力との抗争を激化させることにもなります。
****郭伯雄氏失脚 中国の習体制、大きな賭け 胡錦濤時代の軍制服組ツートップを排除し基盤固め 党内抗争の激化は必至****
中国の習近平指導部が昨年夏に党籍剥奪した徐才厚上将に続き、郭伯雄上将をも拘束したのは、軍掌握に向けて大きな賭けに出たといえる。
胡前政権を支えた2人の軍首脳をともに汚職の名目で排除し、胡錦濤時代の10年間の中国人民解放軍のあり方を否定したことで、長老たちが反発して党内抗争が激しくなることが予想される。また、軍内部には郭氏の息がかかった高官が今も数多くおり、今後、粛清の拡大で現場が混乱する可能性もある。(中略)
習指導部はこれまで、30人以上の将官級幹部を汚職容疑などで立件したが、100人以上に拡大するとの見方もある。また、身の危険を感じた軍幹部が結束して反撃に出る可能性もあり、今後の展開は予断を許さない状況だ。
一方、習氏が反腐敗の名目で党や軍の大物を次々と失脚させる強引な手法に対し、江沢民、胡錦濤両氏は不満を募らせているとの情報もある。8月に河北省の避暑地、北戴河での会議で長老と習派が対決する場面が出てくる可能性もある。【4月16日 産経】
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粛清運動で、軍部だけでなく国有企業など広い分野で敵を作っている習近平主席には常に暗殺の危険があり、食事やお茶など口に入るものすべてに毒味役が付いており、また、中南海のどの建物のどの部屋で就寝しているかも秘密にされているそうです。実際にこれまで何度か暗殺計画があったとか。【4月号 選択より】
住民不満対策としては、経済成長、力による封じ込め、腐敗撲滅運動以上に根本的な対策として、住民の声・批判が政治に反映するような政治システムに転換するという方策がありますが、当然ながら党指導部の選択肢には入っていません。
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