孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

地中海難民船でおきた宗教対立

2015-04-17 22:13:48 | 難民・移民

(2013年10月5日 イタリア・ランペドゥーザ島の空港の格納庫に安置されたアフリカ難民船沈没事故犠牲者のひつぎ 【2013年10月6日 AFP】)

現代世界が対応を迫られている主要な問題のひとつが移民・難民の問題です。
よりよい生活を求めて国境を超える移民、身の安全が脅かされる地域から逃れる難民を生み続ける貧困と紛争・混乱をいかに克服するのか。
これら移民・難民をどのように受け入れるか、受入国側も治安や経済的・文化的軋轢から社会の変質も誘発されます。

高い所から低い所に流れる水のように、制約がなければ多くの人が貧しい国から豊かな国へ移動しますが、それを阻止しようとする「国家」の枠組みをどうのように考えるのかという話にもなります。(水と違って人は「どこで暮らしたいか」という意思もありますが)

もうひとつの大きな問題は宗教的不寛容による対立です。
イスラム社会と西欧社会の間の相互不信感、イスラム教における宗派対立・、イスラム過激派などによる残虐・非人道的行為・・現在起きている紛争の相当部分がこうした宗教的問題をはらんでいます。

この移民・難民の問題と宗教的不寛容という、現代の主要課題が凝縮したような悲惨な事件です。

****難民船でキリスト教徒12人突き落とし殺害か、イスラム教徒15人逮捕****
イタリアの警察は16日、リビアからイタリアを目指していた船の同乗者12人を海に突き落として殺害したとして、同船でシチリア島に到着した15人を逮捕したと発表した。

イスラム教徒の乗船者が、キリスト教徒の乗船者を殺害したとしている。

シチリア島パレルモの警察によると、105人を乗せたゴムボートは14日にリビアを出港。地中海を北へ向けて航行中に、コートジボワールとマリ、セネガルから来たイスラム教徒が、キリスト教徒12人を船から突き落したとされる。
ほかの乗船者も突き落とされそうになったが、「人間の鎖を作って必死に抵抗した」と話しているという。

イタリア海軍艦が同船を発見して乗船者をパナマ船籍の船に乗り換えさせ、同船が15日にパレルモに到着したところで容疑者が逮捕された。

死亡した12人はナイジェリアとガーナの出身だったという。

北アフリカや中東の紛争を逃れ、粗末な船で地中海を渡って欧州を目指す難民は後を絶たない。沿岸警備隊によれば、この1週間足らずの間だけで1万人が到着しているという。

船が転覆して死亡する難民も多く、昨年は少なくとも3200人が死亡した。国際移住機関(IOM)によれば、2000年以来の死者は2万2000人に上っている。【4月17日 CNN】
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難民船という極限状態で何がおきたのか・・・詳細はわかりません。

紛争の悪化や貧困などにより、中東・アフリカから密航船で欧州を目指す不法移民や難民の波は止まらず、地中海で遭難して多数が死亡する例も絶えません。気候が温暖になったこともあって、最近はとみに増加しています。

****イタリア漂着の難民激増 8480人救助、400人不明か****
アフリカや中東から欧州を目指す難民を乗せた船の沈没事故が激増している。

イタリア沿岸警備隊は、10日から13日の間に8480人を救助したことを明らかにした。13日だけで遭難船20隻からの救難信号を受信したという。

子ども支援団体「セーブ・ザ・チルドレン」の広報は14日、アフリカ北部リビアの沿岸から約130キロの地中海上で、550人を乗せた船が沈没し、400人が行方不明になった可能性があると語った。(中略)

地中海を横断してイタリアにたどり着く難民は急増を続け、沿岸警備隊の出動回数も増えている。
国際移住機関(IOM)によれば、今年1~3月にイタリアに漂着した難民は1万人を超え、4月に入っても最初の週末だけで約2000人がシチリア海峡で救助された。

ほとんどの難民は西アフリカ諸国やソマリア、シリアから、リビアを経由して来るという。

今年に入って少なくとも480人が地中海を航行中に、悪天候や密航手引き船の過密状態が原因で命を落とした。船長や船員が船を捨て、乗船者が自分たちだけで航行を強いられることもあるという。【4月15日 CNN】
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****地中海に急増する移民船 昨年は3500人死亡 受け入れに苦慮する欧州各国****
・・・・危険を冒して地中海を渡ってくるアフリカや中東からの不法移民が急増する中、欧州各国は難民の受け入れ対策に苦慮している。(中略)

イタリア沿岸警備隊は10日以降、周辺海域で集中的な移民船の捜索作戦を展開し、5日間で約1万人を救助したとしている。

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、2014年に地中海を越えて欧州に渡った移民は前年比3倍超の21万8千人以上にのぼり、航海の途中で約3500人が死亡したとみられる。

英BBC(電子版)によると、欧州に向けて地中海を航海する難民は10年末に始まった「アラブの春」の混乱をきっかけに増加。シリア難民のほか、ソマリアやエリトリアなどアフリカの紛争国の難民も目立つ。

BBCは「欧州では難民受け入れの負担について各国の意見が一致しておらず、貧しい移民の権利を擁護するのは困難な状況だ」と分析している。【4月16日 産経】
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犠牲者の増加、欧州側の移民・難民船を厭う傾向に対し、ローマ法王は昨年11月には「(移民船の遭難が続く)地中海が巨大な墓地になるのは容認できない」と語り、移民の受け入れを促しています。

とは言え、“13日だけで遭難船20隻からの救難信号を受信”とか“5日間で約1万人を救助”とか、欧州側の玄関口ともなっているイタリアは大変です。

現実問題として、欧州各国で移民・難民増加に伴って反移民感情的な排外的雰囲気と政治動向が生じていることは、これまでも再三取り上げてきました。人道とエゴがせめぎあう問題でもあります。

ただ、それも移民・難民を大量に受け入れていることから起因する問題で、日本のように実質的に門を閉ざしている国とは全く事情が異なります。

****地中海での決死の亡命****
・・・・こうした一方で、日本の難民受入数が世界で最低水準であることが世界の複数メディアで報道されています。日本ではほとんど注目されていませんが、昨年の日本の難民申請認定数は5,000人の申請者中で11人しかおらず、トップのドイツの10万人と比較すると大変な格差となっています。

もちろん難民の事情も異なり、就労目的の難民申請が多いということもあって一概に日本の方針が間違いであるとは言えませんが、それでも難民申請の手続きの長期化と複雑化、そして審査基準の透明性については批判を浴びているところです。

難民問題に関しては国連難民高等弁務官事務所が中心となって取り組んでいます。日本は資金拠出で世界第2位と資金拠出の面では協力し、かつて緒方貞子さんが弁務官を務めるなどの貢献も果たしていますが、すでに難民キャンプで生活するなどして難民となっている者を別の国が受け入れる第三国定住プログラムなどをより積極的に行うなどの受入に向けた取組みも必要だと考えます。【4月15日 藤田憲彦氏 BLOGOS】
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移民・難民の受入は多くの問題を抱えることにもなります。実際、欧州各国がそれで苦しんでいます。
しかし、現実に困難に直面した人々が存在するときに門を閉ざしたままでいいのか・・・というのは、別次元の問題であるように思えます。

第三国定住については、日本も2010年~2012年にミャンマー難民約90名を受け入れる試みを行いましたが、2012年には“3家族16人を受け入れる予定であったが、全員来日を辞退”【ウィキペディア】というように、軌道に乗らなかったようです。

難民が日本での暮らしを考えるときに現実的選択肢から日本がはずれてしまうというのは、日本にとっても日本社会の在り方を再考する必要があるのかも。

宗教・宗派対立の方は、世界中で花盛り状態ですが、最近ではアルメニア人虐殺問題でのローマ法王のトルコを非難する発言、それに対する「法王は第一次大戦で死亡したトルコ人、イスラム教徒の悲劇は無視して、キリスト教徒、とりわけアルメニア人の苦しみだけを強調した」というトルコ側の怒りが話題にもなりました。
(4月13日ブログ“ローマ法王 「アルメニア人虐殺」問題に言及 「虐殺」を否定し続けるトルコ”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150413

その後も、トルコのエルドアン大統領は「発言は非常に残念。私は法王を非難し、同じような過ちを繰り返さないように警告する」「私は(法王を)聖職者と呼ばない。あえて政治家と呼ぶ」と、怒りはおさまらないようです。

冒頭の事件での犠牲者もナイジェリア人キリスト教徒のようですが、ナイジェリアを中心にテロ・拉致を続けるボコ・ハラムの問題、先日も取り上げたキリスト教国ケニアで襲撃事件を起こすアル・シャバーブの問題、何よりシリア・イラク・イエメンなど中東全域を巻き込んだスンニ派・シーア派の宗派対立と、サウジアラビア・イランの主導権争い、ISの他宗教・宗派への残虐行為・・・・等々、宗教的不寛容の問題はきりがありません。

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